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運動器超音波塾【第24回:指関節の観察法2】

2018/10/01
PIP関節の超音波観察法

それでは、PIP関節の超音波観察法です。第3指の背側・掌側・側方から、長軸や短軸で観察していきます。

この観察の場合も準備として手置台やタオルを下に敷くなどして、屈曲・伸展動作がしやすい肢位で観察します。焦点(Focus)を合わせるためには、音響カプラ(ゲルパッド)やゲルを増量して距離を稼ぐなどの工夫をすると、明瞭な画質が得られると共に動態観察が容易となります。最近のプローブは、比較的表在で焦点がつくれるようになっていますが、それでもパッドやゲルを盛って観察した方が画像は鮮明となります。更に、プローブは先端を持ち、小指などを手置台などに添えて、プローブで患部を圧迫する事のないように観察します。懸命に観察していると、気が付かないうちに圧迫しがちですが、過剰なプローブ圧力は患者さんに痛みをもたらすばかりでなく、遅い血流を止めてしまう事でカラードプラ機能での血流の検出感度を低下させ、炎症症状が解らなくなる可能性があります。

図 運動器超音波観察法の基本 プローブは先端を持つ

図 運動器超音波観察法の基本 プローブは先端を持つ

なかなか想うように良質な画像が撮れないと感じている方は、もう一度持ち方からチェックしてみて下さい。

 

PIP関節を背側から観察する場合の患者さんの肢位は、座位、前腕回内位、指伸展位ということになります伸筋腱正中索、終止伸筋腱は指を動かしながら観察すると理解しやすくなります。腱実質は、fibrillar pattern(線状高エコーの層状配列)に観察されますが、手背への直達外力による腱断裂の場合、断裂部のfibrillar patternが認められず、断端が肥大した様子が観察されます。進行した関節リウマチでは長期の炎症により指背腱膜がボタンの穴のように開き、PIP関節が飛び出してくるボタン穴変形をきたします。*6

*6 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

 

図 背側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)

図 背側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)

 

次に、掌側からの超音波画像を観てみます。肢位は、前腕回外位となります。

 

図 掌側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)

図 掌側からのPIP関節の超音波観察法(長軸・短軸)

 

突き指の場合注意を要するのが、掌側板損傷です。多くはPIP関節で起こり、中節骨近位端掌側で小さな剥離骨片を伴っていることもあります。PIP 関節掌側に皮下出血がある場合は、上記の中節骨近位端掌側の骨折を伴っていることが多いとされ、腫脹の位置とともに観察時の注意点となります。

掌側板は線維軟骨のためやや高エコーに描出され、長軸では中節骨基部から基節骨頭掌側に続く三角形に見えます。掌側板損傷の場合、掌側板近位に断裂を示唆する低エコー域を認めます。超音波による観察の場合、損傷部位や損傷した掌側板が指屈伸時に不安定性があるか、裂離骨片は過伸展時に動くかを、動態観察で確認することができます。*6腫脹が屈筋腱にある場合は、骨と屈筋腱の間にある滑膜を囲む脂肪組織と腱実質を動態で観察して区別することも大切です。この時に、滑膜を囲む脂肪組織を滑膜肥大と間違えないよう、注意して観察して下さい。

それでは側方からの観察です。上段が橈側で下段が尺側です。

図 側方からのPIP関節の超音波観察法(橈側・尺側)

図 側方からのPIP関節の超音波観察法(橈側・尺側)

 

関節の横(橈側・尺側)の圧痛が強い場合は側副靭帯の捻挫・断裂・靭帯付着部の裂離骨折などを疑う必要があります。

正常な側副靱帯は長軸でfibrillar pattern(線状高エコーの層状配列)を呈し、基節骨と中節骨の付着部のくぼみに収まっています。損傷すると、靱帯がくぼみからはみ出すように腫脹してfibrillar patternが不明瞭となります。超音波の強みは、靱帯を見ながら側方ストレスをかけて、どの位置が損傷して不安定になっているかを判断できることです。

 

続いて、手綱靭帯(Check rein ligament)の観察です。

図 手綱靭帯の超音波観察法

図 手綱靭帯の超音波観察法

 

手綱靭帯(Check rein ligament)の観察は、プローブを中心軸より少し橈側、尺側にスライド(平行移動)させて其々観察します。指過伸展に静かにストレスをかけると、靭帯が緊張する様子を観ることができます。手綱靭帯は基節骨の骨膜に付着しており、柔軟な組織で屈曲位では撓んでいきます。掌側板は互い違いのコラーゲン線維の方向を持つ線維軟骨で、3層で構成されているとされています。*7

*7 Williams EH, McCarthy E, Bickel KD. The histologic anatomy of the volar plate. J Hand Surg Am. 1998 Sep;23(5):805-10.

 

関節リウマチ(RA)に関しては、以前の骨への浸食、関節破壊の検出から、滑膜炎の段階での早期検出に移行しつつあり、早期に抗リウマチ薬を開始すると高い改善度をもたらすとされています。*8

関節リウマチ(RA)の初期症状としての滑膜炎の場合、DIP関節よりPIP関節に多く見出せるとの報告があります。*9 更に、MP関節では伸筋側で滑膜肥厚の80%が検出されるのに対して、PIP関節の観察の場合、掌側と背側両方に滑膜炎を呈しているのはわずか1/3で、大多数において滑膜炎は1つまたは他の区画に限定され、43%が手掌に限定され、2%は伸筋側に限定されていたとの報告もあり、多角的に観察することが重要であることが解ります。*10

観察時には、滑液貯留と滑膜肥厚、骨棘形成や骨びらん、パワードプラ機能による滑膜への異常血流シグナルの状態などに注意して、疑いがあれば直ちに医科へ対診して血液検査をして頂くなど医接連携が大切となります。骨びらんの有無が骨破壊の予測因子であるとの報告もあり*11、超音波観察はこれらの関節リウマチ(RA)の初期段階での発見が可能ということで、患者さんのQOLの向上のためにも、必ず考慮すべきポイントです。

関節リウマチ(RA)については、改めて別の回で、詳細に考察してみたいと思います。

*8 van der Heide A, Jacobs JW, Bijlsma JW, Heurkens AH, Booma-Frankfort C , van der Veen MJ, et al. The effectiveness of early treatment with “second-line” antirheumatic drugs. A randomized, controlled trial. Ann Intern Med1996;124:699–707.

*9 Scheel AK, Hermann KG, Kahler E, et al. A novel ultrasonographic synovitis scoring system suitable for analyzing finger joint inflammation in rheumatoid arthritis. Arthritis Rheum 2005; 52: 733–743.

*10 Ostergaard M, Szkudlarek M. Ultrasonography: a valid method for assessing rheumatoid arthritis? Arthritis Rheum 2005; 52: 681–686.

*11 Funck-Brentano T, et al : Prediction of Radiographic Damage in Early Arthritis by Sonographic Erosions and Power Doppler Signal : A Longitudinal Observational Study. Arthritis Care Res 65 : 896-902, 2013.

 

では、動画です。PIP関節位置での屈曲・伸展の画像を長軸走査で観察してみます。

動画 PIP関節の屈曲・伸展による掌側板の動態観察

PIP関節の屈曲・伸展に伴い、掌側板が近位遠位方向に移動するのが観察されます。
PIP関節の屈曲に伴い、中節骨舌部との間隙をたどりながら掌側方向に上昇し、中節骨舌部は背側方向に回転するとの報告があります。また、この時の掌側上昇は、屈筋腱の緊張がA3を介して伝達され能動的に起きる可能性が示唆されたとしています。つまり掌側板の掌側上昇は能動的に生じ、その後の中節骨舌部の回転を誘導して円滑な関節運動を提供していると考察しています。*12

MP関節にはPIP関節のような手綱靭帯がないために、過伸展が可能となっています。
PIP関節の掌側板が剥がれるのは6~21kgの力が必要で(MPでは5~6kg)、これが過伸展をMP関節よりも強力に制動している理由であるとされています。*13

*12 齊藤晋. 動的超音波法による近位指節間 関節の掌側板の運動生理に対する研究.京都大学学位論文,2012

*13 池田和夫. 生体をもっと知ろう 義肢装具士のための生体機構学 手・上肢筋の機能解剖. 日本義肢装具学会誌15号,204-212,1999

 

超音波による観察は、掌側板の安定性や浮腫の軽減の評価などに有用で、保存治療時の経時的な拘縮の可動域獲得の評価も客観的に行えます。腱鞘の腫脹、関節内の滲出液や滑膜の増殖、腱の直接浸潤など、リウマチの特徴的な変化も読み取ることができます。
運動器の超音波観察法は、これから益々その評価や経過観察の方法などが体系化され、運動器分野では「身体所見を取りながら超音波」が当たり前の時代になるだろうと考えています。

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

PIP関節が、比較的大きな回旋許容角度を持つとの報告がある
PIP関節の安定性を保ち、脱臼を防ぐ支持機構としては、側副靭帯(collateral ligament)・副靭帯(accessory collateral ligament)・掌側板(volar plate)・その他の支持組織があり、側副靭帯は基節骨頭側方の陥凹部と背側中央から、中節骨基部掌側に向かって広範囲に走行している
側副靭帯は、屈曲時には緊張する事でPIP関節の外転・内転を抑制し、より精密な把持とグリップを可能にしている
PIP関節の特徴としては、掌側板近位縁から連なる2本の手綱靭帯(Check rein ligament)があり主にPIP関節の過伸展を抑制する
掌側板は手綱靭帯で基節骨掌側に固定されていることで、屈曲・伸展に伴い近位・遠位方向にスライドして動く
上記の構造により、PIP関節を屈曲位で固定すると、手綱靭帯が短縮した状態になり、屈曲拘縮が起きやすいと言われている
エンテーシス(enthesis)とは、線維組織層、非石灰化線維軟骨層、石灰化線維軟骨層、骨層と複数の層に分かれた構造で、徐々に腱や靭帯実質の柔らかい構造物から硬い構造物へと移行して骨に付く
エンテーシス(enthesis)は柔らかい部分と硬い部分の境目で、繰り返される張力により力学的ストレスが発生し、微小外傷が生じ、その外傷と修復のバランスが崩れることで症状が引き起こされる
変形性関節症を病理学的にみると、骨膜の線維軟骨において生じ得るとことや、靭帯の障害が骨経路を介して関節軟骨に影響するという報告がある
表在の観察の場合、音響カプラ(ゲルパッド)やゲルを増量して距離を稼ぐ工夫と、プローブで患部を圧迫しないように注意する
運動器の超音波観察では、プローブは先端を持つ
PIP関節を屈曲・伸展動作をしていくと、正中伸腱、終止伸筋腱が滑走する様子が解り、併せて腱の連続性、骨の形状、滑膜増生、増殖滑膜(pannus)などに注意して観察する
突き指の場合、掌側板の損傷による肥厚と伴に、近位側の血腫、中節骨近位端掌側の裂離骨折に注意し、その場合、過伸展で骨片の不安定性も動態観察する
滑膜を囲む脂肪組織を、滑膜肥大と間違えないように注意する
PIP関節捻挫で断裂を疑う場合には、必ず健側と比較して、腫脹の程度を観る
側方からの観察の場合、基節骨と中節骨の付着部のくぼみに収まる側副靭帯のfibrillar pattern(線状高エコーの層状配列)に注意する
手綱靭帯(Check rein ligament)の観察は、プローブを中心軸より少し橈側、尺側にスライド(平行移動)させて其々観察する
関節リウマチ(RA)は、滑液貯留と滑膜肥厚、骨棘形成や骨びらん、パワードプラ機能による滑膜への異常血流シグナルの状態などに注意して、疑いがあれば直ちに医科へ対診して血液検査をして頂くなど医接連携が大切である
屈曲時の掌側板の掌側上昇は能動的に生じ、その後の中節骨舌部の回転を誘導して円滑な関節運動を提供している

 

次回は「上肢編 指の観察法」として、DIP関節について考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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