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運動器超音波塾【第21回:前腕と手関節の観察法7】

2018/04/01
母指CM関節の超音波観察法

第1中手骨の中枢よりには、母指CM関節(carpometacarpal joint)があります。母指の付け根が痛くなる母指CM関節症は、高齢化に伴い変性疾患として増加しています。この母指CM関節は鞍関節(saddle joint)と呼ばれ、母指対立運動を可能とするため靭帯の緩みを有しています。そのため、他の指にはできないローリング動作が可能で、自由度が高いわけです。肩関節が自由度と引き換えに他の関節よりも脱臼が多いのと同様に、逆に言えば母指CM関節も生理的緩みが不安定性となり、日常動作でよく使うことや加齢に伴って変性しやすい構造、ということになります。疫学でもDIPのへバーデン結節の次に多い関節炎とされています。この傷病についても、早期発見が重要となります。

観察時の目印としては、母指の爪があります。母指を上から見ると爪の幅の面に垂直方向に屈伸の軸があり、長母指屈筋腱(FPL)が走行しています。長母指屈筋腱(FPL)を確認後、やや橈側、近位方向にプローブを移動すると、第一中手骨基底部からは前斜靭帯AOL(或いはbeak靭帯)が大菱形骨隆起部の尺側に帯状に付着しているのが観察されます。この靭帯は、母指CM関節の重要な安定機構といわれており、浅層と深層の2層構造を持つとされています。外転・内転動作を行い観察すると、このbeak靭帯が緊張・弛緩する状態を観ることができます。この位置で骨棘や関節の狭小、剥離骨片や靭帯断裂の有無にも注意をして観察していきます。更にはドブプラ機能で、毛細血管の拡張の有無(炎症所見)も観察することが大切です。

また、最近の研究によると、母指CM関節の背橈側にある背橈側靭帯(Dorsoradial ligament DRL)も安定性に重要ということで、外転では前斜靭帯AOL、内転・屈曲では背橈側靭帯DRLが最も緊張するとの報告があり、併せて観察することが大切です。*12

*12 Halilaj, E., Rainbow, M.J., Moore, D.C. et al, In vivo recruitment patterns in the anterior oblique and dorsoradial ligaments of the first carpometacarpal joint. J Biomech. 2015;48:1893–1898.

図 母指CM関節 掌側からの超音波観察法

図 母指CM関節 掌側からの超音波観察法

 

母指CM関節の背橈側にある背橈側靭帯(Dorsoradial ligament DRL)は、大菱形骨結節のほぼ反対側に位置しています。

図 母指CM関節 背橈側からの超音波観察法

図 母指CM関節 背橈側からの超音波観察法

 

これは私の手ですが、大菱形骨の遠位に骨棘が形成されているようです。

 

母指球筋(thenar muscles)と長母指屈筋腱(FPL)の超音波観察法

母指球筋(thenar muscles)には長母指屈筋腱(FPL)が走行しており、プローブの傾きを調整すると高エコーに描出されることから目印になります。母指に直交させる形で母指球にプローブを置くと、第1中手骨と長母指屈筋腱(FPL)が比較的簡単に描出されます。長母指屈筋腱(FPL)の断面は卵円形で、この時、プローブの角度を長母指屈筋腱(FPL)に垂直に合わせると高エコーに腱の実質が描出されます。更に母指を屈伸させると、周囲の筋組織と長母指屈筋腱(FPL)が動作するのが観察されます。

短母指外転筋(APB)は母指球の浅層、短母指屈筋(FPB)の橈側にあるために、比較的理解しやすい位置にあります。母指対立筋(OPP)は短母指外転筋(APB)と短母指屈筋(FPB)の深層にあります。母指内転筋(ADP)も深層筋でやや内側にあり、尺側種子骨から広がる様子が解ります。*13

いずれの筋も走行に対して垂直にプローブを微調整すると、高エコーに筋内腱などが描出され理解しやすくなります。ただし母指球筋を構成する筋肉は筋膜による境界を有せず、各々の筋の走行が違うことで、必ずしも1画面で全ての筋肉が高エコーに描出されることはありません。さらに筋相互の位置関係にも個体差があり、どうやら解剖の教科書通りにはいかないようです。*14
つまり、実際に滑走する様子で境界を理解するようにして、それぞれの筋を緊張・弛緩させながらの動態観察をすることがポイントとなるわけです。

次に長母指屈筋腱(FPL)を画面中心にして、プローブを90°回しながら長軸像を観察していきます。この場合、母指を先端から観察して爪の幅の垂直方向にプローブが入射するように母指球に対して約60°寝かせるようにします。長母指屈筋腱(FPL)の長軸が捉えられたら、画面上の腱の走行が平行になるようにプローブを調整すると、高エコーに一様な線維の模様を観ることができます。同様に母指を屈伸させると、母指球の中を滑走する長母指屈筋腱(FPL)の様子が解ります。

*13 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

*14 野田和恵.ヒト母指対立筋の 肉眼解剖学的観察. 神大医保健紀要 第15巻,55-58.1999.

図 母指球筋(thenar muscles)と長母指屈筋腱(FPL)の超音波観察法

図 母指球筋(thenar muscles)と長母指屈筋腱(FPL)の超音波観察法

 

小指球筋(hypothenar muscles)の超音波観察法

小指球筋(hypothenar muscles)の超音波観察法の場合、掌側からの短軸画像で解剖学的に観ていくと理解しやすくなります。この場合の目印とするのは第5中手骨と尺骨神経、尺骨動脈です。皮下から観ていくと、表層に短掌筋(palmaris brevis)、次に尺側に小指外転筋(abductor digiti minimi)と、尺骨神経の深枝が通る短小指屈筋(flexor digiti minimi brevis)、深層に小指対立筋(opponens digiti minimi)が走行しています。

図 小指球筋(hypothenar muscles)と小指外転筋(abductor digiti minimi)の超音波観察法

図 小指球筋(hypothenar muscles)と小指外転筋(abductor digiti minimi)の超音波観察法

 

この位置での注意事項として、肘部管症候群、ギヨン管症候群、手掌部尺骨神経障害があります。手掌部尺骨神経障害はガングリオンや腫瘍、血管障害、破格筋、豆鉤靭帯での絞扼性ニューロパチー(小指外転筋は豆状骨および豆鉤靭帯に起始しています)、外傷や小指球への持続的圧迫などが原因とされ、障害部位も症状も多岐にわたるとさています。*15.16

*15 Uriburu IJ, Morchio FJ, Marin JC. Compression syndrome of the deep motor branch of the ulnar nerve (piso-hamate hiatus syndrome). J Bone Joint Surg Am 1976;58:145–7

*16 Christiaanse EC, Jager T, Vanhoenacker FM, et al. Piso-hamate hiatus syndrome. JBR-BTR 2010;93:34.

 

動画 小指外転筋の動態観察(長軸走査)異常収縮の様子

では、小指外転筋(abductor digiti minimi)の動画です。

この画像も私の手ですが、いわゆる「指がつった状態(痙攣)」で、外転動作を繰り返し実験している最中での出来事でした。筋組織が異常収縮を起こしている様子が良く解ります。

 

それでは、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

虫様筋は屈筋腱を伸筋腱に接続するという意味での特異な筋肉と考えられ、個体差も多く、解剖研究によると、時には前腕部または中手骨から、または深指屈筋腱の代わりに表面から出現し、第3および第4虫様筋は2つではなく1つの腱から由来している場合がある
虫様筋は筋紡錘の密度が高いことで、感覚フィードバックとして重要な役割を果たしている
母指の付け根が痛くなる母指CM関節症は、高齢化に伴い変性疾患として増加しており、DIPのへバーデン結節の次に多い関節炎とされている
母指CM関節の観察時の目印として母指の爪があり、母指を上から見ると爪の幅の面に垂直方向に屈伸の軸があり、長母指屈筋腱(FPL)が走行している
長母指屈筋腱(FPL)を確認後、やや橈側、近位方向にプローブを移動すると、第一中手骨基底部からは前斜靭帯AOL(或いはbeak靭帯)が大菱形骨隆起部の尺側に帯状に付着しているのが観察される
母指CM関節の背橈側にある背橈側靭帯(Dorsoradial ligament DRL)も安定性に重要で、外転では前斜靭帯AOL(或いはbeak靭帯)、内転・屈曲では背橈側靭帯DRLが最も緊張するとの報告があり、併せて観察することが大切である
背橈側靭帯(Dorsoradial ligament DRL)は、大菱形骨結節のほぼ反対側に位置している
母指CM関節症の観察では、滲出液、滑膜肥厚、びらん、骨棘、関節軟骨欠損、脱臼、または骨の変位の状態に注意をする
母指球(thenar muscles)の観察は、第1中手骨と長母指屈筋腱(FPL)が目印となる
母指球筋を構成する筋肉は筋膜による境界を有せず、各々の筋の走行が違うことで、必ずしも1画面で全ての筋肉が高エコーに描出されることはない
母指球筋相互の位置関係にも個体差があり、実際に滑走する様子で境界を理解するようにして、それぞれの筋を緊張・弛緩させながらの動態観察をすることがポイントとなる
長母指屈筋腱(FPL)の長軸の観察法は、母指球に対してプローブを約60°寝かせるように傾けると線維が高エコーに描出される
小指球筋(hypothenar muscles)の超音波観察法は、掌側からの短軸画像で解剖学的に観ていくと理解しやすくなり、目印とするのは第5中手骨と尺骨神経、尺骨動脈となる
小指球筋(hypothenar muscles)の注意事項として、肘部管症候群、ギヨン管症候群、手掌部尺骨神経障害があり、手掌部尺骨神経障害はガングリオンや腫瘍、血管障害、破格筋、豆鉤靭帯での絞扼性ニューロパチー(小指外転筋は豆状骨および豆鉤靭帯に起始している)、外傷や小指球への持続的圧迫などが原因とされ、障害部位も症状も多岐にわたるとさている

 

次回は「上肢編 前腕・手関節の観察法」の続きとして、虫様筋・骨間筋、MP関節に基づいて考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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