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運動器超音波塾【第15回:前腕と手関節の観察法1】

2017/04/01
橈骨遠位端骨折の超音波観察法

では、橈骨遠位端骨折の超音波観察です。
まず大切なことは、ゲルを多めに塗布してプローブを接触させないことです。
そうする事で、無用に痛みを増悪させることなく観察することができます。
走査する方向は長軸走査と短軸走査で、それぞれ、背側、橈側、掌側と3方向から観察して、転移の状態や骨折線の入り方、腫瘍性病変による骨融解の有無等に注意をすることが重要です。
この時、「保存的治療を行った橈骨遠位端骨折126例で尺骨茎状突起骨折83例(65.9%)の合併を認めた*5」との報告も有り、併せて尺骨茎状突起など関係する周囲の観察が必要と言えます。
超音波による観察の場合、整復時や整復後の骨の軸がどの程度合わせられたのかも、被爆することなく安全に確認することができます。
これについては、「エコーガイド下整復法は、従来の透視下整復法と同様にリアルタイムに骨折部の評価および整復の評価が可能で、被爆も回避でき有用である*6」との報告がなされています。

*5 南野光彦,白井康正,中山義人ほか:橈骨遠位端骨折における転位と臨床成績との相関 X線学的指標の患健側差の分析.日手会誌 2000;17:16-20

*6 児玉成人,今井晋二,松末吉隆 ほか.橈骨遠位端骨折に対し超音波検査を用いた整復法の検討.骨折 2006;28(4):652-6.

 

図 橈骨遠位端骨折の超音波観察法

図 橈骨遠位端骨折の超音波観察法

 

ゲルを多めに塗布して浮かせて撮るか、音響カプラ(水袋)を装着すると、無用に痛みを増悪させることなく観察することが可能です。

 

写真 市川善章,超音波観察法とその臨床的有用性,関東学術大会,2002より

写真 市川善章,超音波観察法とその臨床的有用性,関東学術大会,2002より

 

超音波による評価を併用した超音波観察下整復法

どの程度骨の軸を合わせられたかを評価しながらの超音波観察下整復法(研究当初より勝手にそう呼んでいます)は、X線透視下整復法のようにリアルタイムに画像で確認ができ、しかも被爆もなく安全に評価が可能となります。この整復法は、柔道整復学に限らず運動器分野で重要な整復法になると考えています。

 

図 橈骨遠位端骨折のX線写真と健側との比較観察

図 橈骨遠位端骨折のX線写真と健側との比較観察

 

図 成長期の橈骨遠位端と若木骨折

図 成長期の橈骨遠位端と若木骨折

 

成長期の子供の観察の場合には、骨端線が閉鎖していない状態や、骨端線損傷の場合もあり、注意を要します。初見時は必ず健側との比較観察をする事、ドプラ機能を併用して血流情報を参考にする事も大切です。

 

図 若木骨折の注意点

図 若木骨折の注意点

*8 超音波でわかる運陶器疾患 皆川洋至 メジカルビュー社

また、後療時の観察の場合には、仮骨形成の状態を経時的に観察する事ができます。併せてドプラ機能を使って、炎症を示す毛細血管の拡張の様子や、修復に伴う血管新生の状態を観察していきます。血管新生の観察時には、必ず血流の行先をしっかり確認します。

 

図 尺骨骨折の経過観察画像

図 尺骨骨折の経過観察画像*9

*9 市川 善章,超音波観察法とその臨床的有用性,関東学術大会,2002より

骨折の形状が、覆われた仮骨によって最初は膜状に見えていたものが、徐々に観えなくなっていくのが解ります。これは、より正常な骨に近い、超音波を反射しやすい状態に変わってきている事を意味しています。つまり、再生された部分の、質的な変化を観察できるわけです。

 

図 炎症と血管新生の観察例

図 炎症と血管新生の観察例

 

橈骨遠位端骨折と回外制限

一般的に回外制限は、大きく分けて骨性と軟部組織性の2つの要因によるタイプがあります。骨性は、外傷後の変形や先天的な変形によるもので、機能の改善には観血的な対処が主となります。一方、軟部組織性の場合は、筋、TFCC(三角線維軟骨複合体)、骨間膜、輪状靱帯、皮膚などに因るものがあり、基本的には保存療法が第一選択となっています。
筋としては、円回内筋や方形回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋など、前腕近位内側から遠位外側へ走行する全ての筋が回外制限に関与し、靭帯では、輪状靱帯や三角靱帯が主な制限因子となります。骨間膜には筋が付着しており、その筋の損傷に伴い線維化が起こっている場合には、制限因子として加わるわけです。
橈骨遠位端骨折後などに生じる回外制限は、骨の変形以外は、軟部組織の損傷による柔軟性低下、癒着や滑走不良によるものということになります。尺骨の回外に伴う正常なふるまいを観察してみると、回外に伴い尺骨の掌側への移動が必要であり、尺骨の掌側移動のfirst defenseとなる方形回内筋(PQ)の尺側部の柔軟性は必須であるとした報告があります。*10
橈骨遠位端骨折の後療時の観察の場合、併せて観察する部位として、まずは方形回内筋の観察が必要ということになります。

*10 笠野 由布子,林 典雄. 前腕回外運動に伴う尺骨遠位部の動態分析 超音波を用いた観察 第25回東海北陸理学療法学術大会O-18

 

では実際に、方形回内筋と尺骨の動きを、中間位から回外位へ動かしながら観察してみます。

 

図 肘関節後方での伸展運動によるふるまい(短軸による観察)

 

動画 中間位から回外位での方形回内筋と尺骨の動き

方形回内筋の繊維方向にプローブを調整して(長軸走査)、中間位からゆっくり回外位へ手首を回旋していきます。動画で観ると、回外動作に伴って、方形回内筋を巻き取るようにしながら、尺骨が画面上方(掌側)に動く様子を観察することができます。この点について林先生は、方形回内筋の尺側には深指屈筋が走行して、環指・小指へと向かっており、この二つの指の過伸展動作が癒着の防止に役立つとし、さらに三角骨に対しても尺骨が掌側に移動していることから、掌側尺骨手根靭帯の肥厚や瘢痕化も考慮すべきと指摘しています。*11

つまり、方形回内筋と掌側尺骨手根靭帯への選択的な伸張により、柔軟性の改善と癒着などの剥離、尺骨の掌側方向への移動の改善を目指すことが治療へのヒントとなるわけです。

この観察も、超音波による動態解剖学の視点での考察をしていけば、治療に対する情報や、今後の注意点も検討することができる良い例です。

*11運動器超音波機能解剖 林典雄 文光堂

 

さて、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

手指の伸筋腱6区画を観察する場合には、手関節背側の橈骨茎状突起と尺側茎状突起、Lister結節を骨性の目印として触診をしながら観察する
橈骨遠位端骨折は、年代的には、男性の場合10歳代が多く、女性の場合は閉経後の50歳代後半以降に多いとの報告がある
橈骨遠位端骨折の超音波観察で大切なことは、ゲルを多めに塗布してプローブを直接に接触させないことである
橈骨遠位端骨折の走査方向は、長軸走査と短軸走査で、それぞれ、背側、橈側、掌側と3方向から観察をして、転移の状態や骨折線の入り方、腫瘍性病変による骨融解の有無等に注意をすることが重要となる
橈骨遠位端骨折の観察では、併せて尺骨茎状突起など関係する周囲の観察も必要である
どの程度骨の軸を合わせられたかを評価しながらの超音波観察下整復法は、X線透視下整復法のようにリアルタイムに画像で確認ができる上、被爆が無く安全に評価が可能である
橈骨遠位端骨折の超音波観察は、骨折線だけではなく、軟部損傷や皮膚表面から骨までの距離の違いも判り、腫脹の状態が観察できる
成長期の子供の若木骨折などの観察の場合には、骨端線が閉鎖していない状態や、骨端線損傷の場合もあり、注意を要する
受傷直後の若木骨折はX線で骨折を確認できないこともあり、骨折線が現れず弯曲する急性塑性変形、また骨折に関節脱臼を伴う場合もあり、注意を要する
骨端軟骨や関節内の骨折では診断が難しいため、骨折が疑われる側だけでなく多方向から撮り、積極的にドプラ機能でも観察をする
後療時の観察の場合には、仮骨形成の状態を経時的に観察し、併せてドプラ機能を使って、炎症を示す毛細血管の拡張の様子や、修復に伴う血管新生の状態を観察していく
血管新生の観察時には、必ず血流の行先をしっかり確認する
橈骨遠位端骨折後などに生じる回外制限では、方形回内筋の尺側部の柔軟性に注意して観察する
回外時の尺骨の動きは、三角骨に対しても掌側に移動している
方形回内筋と掌側尺骨手根靭帯への選択的な伸張により、柔軟性の改善と癒着などの剥離、尺骨の掌側方向への移動の改善を目指すことが治療へのヒントとなる

 

次回も「上肢編 前腕・手関節の観察法」の続きとして、その他の回外制限と手根管について、考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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