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運動器超音波塾【第14回:肘関節の観察法 7】

2017/02/01
肘関節後面の解剖学的構造

肘関節後面の超音波観察法は、肘頭窩、肘頭、上腕骨小頭の観察があり、肘関節屈曲位での観察が有効です。上腕骨小頭の観察法は野球肘の章で説明しましたので、今回はそれ以外の解説をしていきます。 肘関節後面での疼痛や伸展制限を考察する上で重要なのは、肘関節後方脂肪体とそのインピンジメントと言われています。*6

肘関節後方脂肪体は、関節包の内側で滑膜外にある組織です。
肘終末伸展(30°屈曲位からの終末伸展運動)に伴う後方部痛は、関節内骨折後の整復不良例や肘頭に発生した骨棘や遊離体が原因となる骨性インピンジメントを除けば、後方関節包の周辺組織の瘢痕や関節包内に存在する脂肪体に何らかの原因があると考えられる訳です。林先生等は、後方脂肪体は、肘の伸展に伴い肘頭に押し出されるように機能的に形態を変形させながら、より背側、近位へ移動するとして、この脂肪体の移動は併せて関節包を背側近位へと押し出す結果となり、後方関節包のインピンジメントを回避していると考えられるとしています。*7

*6 運動器超音波機能解剖 林典雄 文光堂

*7 肘関節伸展運動における肘後方脂肪体の超音波動態観察よりみた後方インピンジメントの病態考察. 林 典雄. 日本理学療法学術大会 2010(0), CaOI1021-CaOI1021, 2011

 

図 肘頭窩の解剖

図 肘頭窩の解剖

 

肘後方にある脂肪体は、肘頭窩を埋めるように存在しており、関節包の内面、滑膜の外面に存在しています。終末伸展運動における後方脂肪体の動態は、肘頭の肘頭窩への侵入とともに背側近位へと移動し、挟み込みを回避しています。*8

*8 林 典雄 第28 回東海北陸理学療法学術大会/三重

 

図 肘関節周囲の滑液包

図 肘関節周囲の滑液包

 

第12回でも説明しましたが、後面には肘頭付近に関節包があります。臨床上よく遭遇する肘関節周囲の滑液包に発生する障害は、肘頭皮下包の炎症による肘頭滑液包炎が知られています。超音波による観察では、腫脹部が嚢腫性病変か腫瘍性病変か簡単に確認することができ、有用と言えます。

 

肘関節後面の観察法

肢位は基本的に座位にて、肘関節屈曲位での後方アプローチにより観察をします。必要に応じて屈曲・伸展動作を併用し、動態を解剖学的に観察することが重要です。
この場合プローブの持ち方は、示指を伸ばした状態で上腕に沿うように接触させてパームグリップのように保持すると、安定した画像を得る事ができます。その都度、肢位に併せて持ち方も工夫していく事が大切です。

 

図 肘関節後方の超音波観察

図 肘関節後方の超音波観察

 

図 肘関節伸展運動による後方脂肪体の移動

図 肘関節伸展運動による後方脂肪体の移動

 

伸展運動による後方脂肪体の動きを観察すると、上腕三頭筋を押し上げながら近位方向へ移動してくる様子を観ることができます。この時に、上腕三頭筋の一部は、後方関節包を近位に引いて、脂肪体の近位方向への移動を促しているのが観察されます。この脂肪体の移動が妨げられると、肘頭と肘頭窩に脂肪体が挟まれ、痛みが誘発される事を示唆する画像です。

 

肘関節後面の観察ポイントとして

肘関節後面の観察時のチェックポイントを整理すると、

  • 関節内骨折と遊離体、疲労骨折
  • 骨棘形成、橈骨頭の肥大、軟骨下骨の硬化の有無など変形性肘関節症
  • 関節包周囲の瘢痕化
  • 関節包内の脂肪体の線維化と癒着
  • 脂肪体の動きを制限する上腕三頭筋の癒着や硬さ
  • 関節内の水腫・血腫
  • 嚢腫・腫瘍の有無
  • 関節リウマチによる滑膜増生
  • 投球動作などによる肘頭先端部障害(骨端核の分離・分節、骨融解)

等が挙げられます。肘頭先端部障害については、併せて、圧痛・肘関節伸展時の後方部痛と外反ストレス痛を確認する必要があります。また、肘頭窩と脂肪体の間に低エコー域が観察される場合は、水腫の存在であり、何らかの関節内病変が疑われます。高エコーが存在する場合は、骨折に伴う血腫(脂肪滴の流入)や増殖した滑膜の存在が示唆され、対流が見られる場合は血腫を疑うとされています。*9
これらの観察時にもドブラ機能を併用する事で、増生した滑膜への旺盛な血流の様子などを観察することができます。

*9 超音波でわかる運陶器疾患 皆川洋至 メジカルビュー社

 

それでは上記の肘関節後方での伸展運動によるふるまいを、短軸で観てみます。

 

図 肘関節後方での伸展運動によるふるまい(短軸による観察)

 

動画で観ると、肘関節の伸展運動に伴って後方脂肪体が上腕三頭筋を押し上げ、関節包を緊張させながら肘頭窩より上腕骨の内側・外側の坂を上って行くのが観察されます。また、上腕三頭筋の一部は、後方関節包を近位に引っ張っており、脂肪体の近位移動を促しているのが観察されます。この時にまず大切なのは、上腕三頭筋の硬さや癒着の有無で、この事で後方脂肪体の移動が制限されると、後方インピンジメントが発生する事となります。つまり、上腕三頭筋の柔軟性の改善と癒着などの剥離、関節包を含めた近位方向への移動の改善を目指すことが治療へのヒントとなるわけです。*10

動画 肘関節後方での伸展運動によるふるまい(短軸による観察)

この観察も、超音波による動態解剖学の視点での考察をしていけば、治療に対する情報や、今後の注意点も検討することができる良い例です。

*10運動器超音波機能解剖 林典雄 文光堂

 

さて、まとめです。
今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

肘内障(Pulled elbow)は、回外筋、滑膜ヒダが輪状靭帯と共に腕橈関節内へ引き込まれて発症する
輪状靭帯の消失、滑膜ヒダの巨大化、回外筋の腕橈関節内への引き込み(Jサイン)は、肘内障の特徴的所見である
肘内障の超音波観察法は、クリック音を触知する指の位置にプローブを置くと、整復動作を行いながらの観察が可能
肘内障の整復後も回外筋は高エコー像化するので、自然整復例も捕捉できる
肘内障(Pulled elbow)の超音波観察法は、クリック音を触知する指の位置にプローブを置き観察する
この時にプローブは先端を持ち、薬指・小指などで肘との支点を作って保持すれば、整復動作を行いながらの観察も可能となる
患児を親御さんに抱っこして頂いた状態でアプローチするなど、観察しやすい肢位の工夫も大切
肘関節後面での疼痛や伸展制限を考察する上で重要なのは、肘関節後方脂肪体とそのインピンジメントと言われている
後方脂肪体は、肘頭窩を埋めるように、関節包の内面、滑膜の外面に存在している
後方脂肪体は、肘頭の肘頭窩への侵入とともに背側近位へと移動し、挟み込みを回避している
伸展動作での上腕三頭筋の一部は、後方関節包を近位に引いて、脂肪体の近位方向への移動を促している
上腕三頭筋の硬さや癒着で後方脂肪体の移動が制限されると、後方インピンジメントが発生する
肘頭先端部障害については、併せて、圧痛・肘関節伸展時の後方部痛と外反ストレス痛を確認する
肘頭窩と脂肪体の間に低エコー域が観察される場合は、水腫の存在であり、何らかの関節内病変が疑われる
肘頭窩と脂肪体の間に高エコーが存在する場合は、骨折に伴う血腫(脂肪滴の流入)や増殖した滑膜の存在が示唆され、対流が見られる場合は血腫を疑う
ドブラ機能を併用する事で、関節リュウマチによる増生した滑膜への旺盛な血流の様子などを観察することができる
後方インピンジメントは、上腕三頭筋の柔軟性の改善と癒着などの剥離、関節包を含めた近位方向への移動の改善を目指すことが治療へのヒントとなる

 

次回は「上肢編 前腕・手関節の観察法」として、前腕遠位アプローチについて考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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