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運動器超音波塾【第12回:肘関節の観察法 5】

2016/10/01

株式会社エス・エス・ビー
超音波営業部マネージャー
柳澤 昭一

近年、デジタル技術により画像の分解能が飛躍的に向上した超音波は、表在用の高周波プローブの登場により、運動器領域で十分使える機器となりました。この超音波を使って、柔道整復師分野でどのように活用できるのかを、超音波の基礎からわかりやすくお話してまいります。

 

第十二回 「東京オリンピック・パラリンピックも楽しみだ」の巻
―上肢編 肘関節の観察法について 5―

リオデジャネイロでのオリンピックも終わり、続いてパラリンピックが開催されています(執筆時)。さまざまな競技でアスリートの研鑽された技が観られる、夢のような時間を楽しんでいます。各々が自国で一番のアスリート達が、その時代の頂点、世界で一番を競う。人類は果たしてどこまで記録を伸ばせるのか、新しい技を創造できるのか、想うだけでわくわくしてきます。

以前、大学病院で運動器の超音波の症例データ収集をお手伝いしていた時に、義肢装具士の方と話す機会がありました。控室の片隅に作業スペースがあって、装具の適合を調整されていました。その作業も神業で、どれだけ装着される方への思いやりと自分の技術への研鑽が詰まれているのかが、ひしひしと感じられました。また、運動器を映し出した超音波の動画像への質問も熱気があって、運動器の知識や動態解剖への探求心がにじみ出て、頭が下がる想いでした。パラリンピックを観ていると、さまざまな装具や車いす、その競技の為の機材に眼がいきます。あの日に出会った義肢装具士の方のように、熱い気持ちで自身の職人としてのプライドをかけて生み出されたであろうそれらの道具は、やはり美しい。身体のコンディショニングを診ている医師や柔道整復師、理学療法士やトレーナーの方、更には義肢装具士の方、さまざまな分野のいろいろな職種の方がアスリートの人達を支え、見守っているのだなあと想いながら、神々の競演を観戦しています。

陸上競技用/2007年ボストンマラソン優勝者 副島 正純さんと車いす

陸上競技用/2007年ボストンマラソン優勝者 副島 正純さんと車いす

*1Paul Keleher from Massachusetts, US - Crop of Boston Marathon 2009 Masazumi Soejima of Japan in the 2009 Boston Marathon, at the halfway point coming up to the intersection of Route 16 and 128. ウィキペディアより https://ja.wikipedia.org/wiki/車椅子

今回の「運動器の超音波観察法」の話は「肘関節の観察法」として、肘関節外側の解剖と超音波での外側アプローチについて考えてみたいと思います。

 

肘関節外側の解剖学的構造

肘関節外側の安定化機構としては、外側側副靭帯複合体(LCL、LCLC)があります。外側側副靭帯複合体は、外側橈骨側副靭帯(RCL)と外側尺骨側副靭帯(LUCL)で構成され、外側橈骨側副靭帯は上腕骨外側上顆から橈骨輪状靭帯へと付着し、外側尺骨側副靭帯は上腕骨外側上顆から橈骨輪状靭帯、回外筋稜へと付着しています。

上腕骨外側に付着する靭帯群

図 上腕骨外側に付着する靭帯群

 

これについて関等は、肘関節外側靭帯複合体の安定化機構について、輪状靭帯が一体になったY型構造が全体として機能するとしています。*2

図 肘部管と尺骨神経

図 肘部管と尺骨神経

*2 Seki A, Olsen BS, Jensen SL, Eygendaal D, Sojbjerg JO. Functional anatomy of the lateral collateral ligament complex of the elbow: configuration of Y and its role J Shoulder Elbow Surg 2002; 11(1): 53-9.

超音波もプローブの幅という制約の為に、近視眼的に一つ一つの靭帯を検討しがちですが、更に、複合的に検討する事の重要性に改めて気づかされます。 さて、解剖学的特徴として外側橈骨側副靭帯の屈伸に伴う変化を観てみると、中間線維Bは一定の長さを保ち、前方線維Aは伸展、後方線維Cは屈曲で緊張します。*3

図 外側橈骨側副靭帯の屈伸に伴う変化

図 外側橈骨側副靭帯の屈伸に伴う変化

*3 飛騨 進,内西兼一郎,他:肘関節の軟部支持組織と機能解剖.Journal of Joint Surgery,1990; 9: 39-45.

 

上腕骨外側上顆に起始する筋群

上腕骨外側上顆は肘の外側にある隆起部分で、長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋、総指伸筋、肘筋、小指伸筋、回外筋、尺側手根伸筋の、7つの筋肉が付着しています。手首を返す筋肉群(伸筋群)が主で、特に短橈側手根伸筋(ECRB)が障害されるといわれています。(長橈側手根伸筋(ECRL)は、正確には外側上顆にいたる外側顆上稜とすべきでしょうか)

図 上腕骨外側上顆に付着する伸筋群

図 上腕骨外側上顆に付着する伸筋群

短橈側手根伸筋ECRBは、近位でECRL、EDCの深層を走行しています。起始部は幅の狭い扁平な起始腱膜(幅10mm,厚さ1mm)で,この部分に単位面積当たり強い力が集中することで生体力学的弱点となって障害されるという説があります。*4

以上の事から、肘関節外側の障害を観察する場合に最初に考慮すべきポイントは、短橈側手根伸筋ECRBの付着部という事になります。

図 ECRBは外側上顆から橈骨頭付近まで腱性の組織

図 ECRBは外側上顆から橈骨頭付近まで腱性の組織

 

では、短橈側手根伸筋ECRBはどのような構造か。
短橈側手根伸筋ECRBの解剖学的特徴は、下記の点となります。

  • ECRBは外側上顆から橈骨頭付近まで腱性の組織であるのに対して、EDCは外側上顆付着部付近まで筋成分を有する特徴がある
  • ECRBは近位でECRL、EDCの深層を走行し、ECRBの膜状の腱はEDCと共同腱を作っている*5

上図のように、付着部の位置はEDC/EDMと隣併せにあるのも注意すべき点です。

*4 日本整形外科学会診療ガイドライン 南江堂

*5 参考資料 皆川洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

 

 
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