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運動器超音波塾【第8回:肘関節の観察法 1】

2016/02/01
肘関節前方の超音波画像と解剖学的構造

プローブの位置は、最初上腕骨に短軸に当て、上腕骨と滑車の位置をしっかりと同定します。上腕骨遠位の関節構造が把握できたら、上腕骨小頭をほぼ画面の中央にして、長軸方向に上腕骨に平行になるようプローブを回して、上腕骨小頭と橈骨頭を描出します。関節裂隙を画面の中心にするよう少し調整すると、よりわかりやすくなります。場所が同定できたら、前腕を回内、回外に運動させながら観察します。橈骨頭の回転する様子と、輪状靭帯の位置が、理解できます。

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 上腕骨遠位端 短軸画像

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 上腕骨遠位端 短軸画像

X線では描出できない関節軟骨は、その組成の約80%が水分の為、超音波画像では低エコーに描出されます。これにより超音波では、成長過程の肘関節の様子を安全に検査する事が可能で、野球健診にも活用されています。

 

上腕骨遠位端を短軸に観察すると、外側に隆起する小頭と、内側にやや陥凹した滑車が観察できます。また、その両者を低エコー域に描出された関節軟骨が覆っており、肘関節の変形の状態や骨棘の有無も観察することができます。その前方には、上腕筋、上腕二頭筋、腕橈骨筋などの筋組織の断面構造が観察され、上腕筋と腕橈骨筋との間には、橈骨動静脈と橈骨神経の運動枝、知覚枝、上腕二頭筋の内側には、上腕動脈と正中神経が、それぞれ観察されます。*2

*2 参考資料 皆川 洋至 超音波でわかる運動器疾患 メジカルビュー社

図 上腕骨小頭の関節面は楕円形状

図 上腕骨小頭の関節面は楕円形状

上腕骨小頭は、前後径に比べ左右径が短く楕円形状の関節面であることによって、前腕両骨の接触を回避しながら回旋が可能となり、また橈骨回旋軸を外側へ移動することで、車軸運動における関節可動域も確保する仕組みがあります。

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 長軸画像

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 長軸画像

プローブ位置を腕橈関節の長軸に当てて観察(正中より外側にアプローチ)すると、中枢側(近位)に隆起する半円形の小頭と、末梢側(遠位)に橈骨頭が観察できます。小頭、橈骨頭とも、低エコー域に描出される軟骨と高エコーの関節包に覆われており、間隙にはその間を埋めるように滑膜ひだが存在しています。さらに、橈骨頭の低エコー域を覆うように、やや高エコーな輪状靭帯を観察することができます。この時に、前腕を回内、回外に動作させながら観察すると、橈骨頭が回転し、輪状靭帯が締ったり緩んだりする様子を見る事ができます。

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 長軸画像 やや近位

図 肘関節の観察法 前方アプローチ 長軸画像 やや近位

プローブを中枢側(近位方向)に移動してくると、橈骨窩とその前に脂肪体の存在を観察する事ができます。この位置では、橈骨窩と脂肪体の間に低エコーに描出される関節水腫や、野球肘などで見られる関節内遊離体(高エコーで骨成分により音響陰影を示す)を観察する事がある為、十分に注意します。

それでは、肘関節の腕橈関節位置で、伸展動作をしながら動態観察をしてみます。プローブは、正中よりやや外側の位置で長軸走査です。

肘関節前面の超音波画像 伸展動作の動態観察

 

上腕骨小頭レベルで長軸に観察すると、伸展動作の終末で小頭が前方に突出して、腕橈関節の関節包はその動きを許容するように伸張するのが観察できます。この事で解るように、関節包にはある程度の柔軟性があり、拘縮が進んだ症例では、十分な伸張が出来ていないという事です。*6

つまり、腕橈関節では、早期からECRL(長橈側手根伸筋)の収縮を反復する事によって、腕橈関節の関節包の柔軟性維持に努めること、すでに拘縮が進んだ症例では、関節包とECRLの接合部へ選択的伸張を加える運動療法が必要だということが、ひとつの答えとして導き出せるわけです。超音波の観察から考察していくと、必要な治療方針まで導き出せる良い例です。

超音波による動態解剖学の視点での考察をしていけば、まだまだ様々な事が解りそうで、楽しみです。

*6 参考資料 中部学院大学リハビリテーション学部 林 典雄  JPTA IN GIFU

 

日本整形外科学会によると、肘関節の周辺の病気として、下記の病名を挙げています。

  • 肘部管症候群
  • テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
  • 肘内障
  • 上腕骨顆上骨折
  • 野球肘
  • 変形性肘関節症
  • 前骨間神経麻痺・後骨間神経麻痺
  • 尺骨神経麻痺

この章では、これらの病態にも触れながら、超音波による観察法の解説を進めていこうと考えています。

 

さて、まとめです。今回の観察法でポイントとなる事項をまとめると、下記のようになります。

肘関節前方アプローチの基本肢位は、座位で行う
第一指の向きを意識しながら、前腕の回内、回外運動、手関節の掌屈、背屈による変化にも注意して観察する
上腕骨と滑車の位置をしっかりと同定し、上腕骨遠位端での短軸の観察と、腕橈関節の長軸で、上腕骨小頭と橈骨頭、関節包などを描出する
関節内水腫、関節内遊離体、関節包の拘縮、癒着などに注意する
肘関節の伸展動作を動態観察し、伸展終末での関節包の柔軟性を観察する
次回は「上肢編 肘関節の観察法」の続きとして、内側アプローチについて、考えてみたいと思います。

 

情報提供:(株)エス・エス・ビー

 
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