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日本柔道整復接骨医学会社会医療分科会・日本社会医療学会東京部会合同研究会が開催!

2012/03/16

医療は社会生活と共に発展してきた。社会から隔絶された医療は存在しないのである。なぜならば、もともと人間は、様々な疾病に悩まされ、誰しも医療を必要とする可能性を持ちながら生活してきたからである。医療は脆弱な存在である人間を前提として成立し、さらにその社会化を推し進めてきたという経験を持ち、良かれ悪しかれ社会との緊密な相互関係を持ってきたのである。従って、現代の医療は、その様々な面において現代社会を反映したものとなっている。

現代医療の問題に直面しているという点からいえば、欧米と日本との医療を巡る「生命倫理」のあり方に本質的な違いはあまりないかもしれない。ただ、欧米社会は、この問題に対応するにあたって、医療の基本的理念と構造を根底から変容させてきた点において、日本とはその様相を異にしている。

なぜ、そのような医療革命とも呼べるほどの一大転換が可能であったのか。

大きな論点の1つは、患者の人権への配慮とその尊重の気運の高まりである。1947年に患者(この場合は、主として医療実権の際に不可欠な被験者)の人権の尊重を提唱したニュールンベルク倫理綱領として結実した。この医療従事者による根底的な自己批判と反省は、その後開催される世界医師会議ごとに表明される宣言の基調を成している。ここに医師中心の倫理観から「患者中心の医療」に基づく倫理へと大きな進展が図られるのである。1963年のケネディ政権の誕生により、ケネディらが起した「人権の尊重」即ち「いわれなき差別の撤廃」の気運は、やがて公民憲法の制定に結実したそして公民憲法の理念には、人種差別ばかりでなく、女性差別、子どもの人権など様々な差別意識を変容させる内容を含んでいた。この差別意識を変容させる内容を含んだ公民憲法の理念は、前述した医療における「医師→患者」の権威主義的・家父長的関係についても、弱者の人権を尊重する立場から、当然のごとく「患者の人権」として見直されることになったのである。このように「患者の人権」、「インフォームド・コンセント」から「患者の自己決定権」といった生命倫理をめぐる基本理念の一つが形成され、その後の日本の生命倫理学にも大きな影響を与えることになる。そして医師だけではなく、すべての医療従事者が「患者中心の医療」としての「生命倫理」には関わるという認識が生まれることになった。

生命倫理の概念が及ぶ範囲は広範なものだが、その中でも中心課題の1つであるインフォームド・コンセントが積極的に検討されだしたのは1970年代からである。インフォームド・コンセントの必要性については、1975年の第29回世界医師会議ヘルシンキ宣言東京修正において明言されている。このことは、現代の医療の抱える問題に対して、従来の医師の自己規律を中核とする古典的な医療倫理では十分に対応できず、個人の人権の尊重と保護、とくに患者の自己決定権を基本とする生命倫理への認識が、医療関係者側からも提起されたものといえる。

日本においては1980年代までは医師の説明義務から患者の人権を見据えた進化形との見方から脱却しておらず、医師以外の医療従事者全体が、臨床の場で医療を行う上でのインフォームド・コンセントを必須なものと認識するには1990年代を待たなければならなかった。1997年(平成9年)の医療法改正によって、医療者は適切な説明を行って、医療を受ける者の理解を得るよう努力する義務が初めて明記され、インフォームド・コンセントの文言は条文に使用されておらずとも、その概念が医療の中心法規に創出されたとする認識が多くの医療従事者の中に生まれた。現在では、どの医療機関、すべての医療職種においてもその必要性は理解されるようになっている。それは医療従事者としての生命倫理実践の一歩目である。

しかし、知識として理解することと実践するのは同様ではない。未だ医師の診療上の領域に属し、他のコ・メディカルにとっては必要に応じた一部にその実践が求められるに過ぎないと考える医療従事者も多い。

医師同様に開業権を持つ薬剤師、柔道整復師や鍼灸師もその範疇を抜け出してはいないといわれる。これらの職種は、医師が患者を問診し、患者に説明の上で同意を経て治療を開始することと、業務形態は違っても同じプロセスを通じて調剤や施術を行ってきたはずである。

なぜ、生命倫理の中心課題の1つであるインフォームド・コンセントが調剤・服薬指導や施術を行うにあたり、必要なものだとして認識し実践に至るのが遅れてしまったのか。

もちろん医師も始めから実践することを必須としていたわけではない。医学部での教育、医療現場での研修を通して認識し実践して行ったことは間違いがないものである。そして幾分遅れながらも看護師や薬剤師も同様に「医療倫理学」や「生命倫理学」などをその教育の中に取り入れ、現場での研究等において、ようやく実践へと一歩踏み出していったのである。やはり開業権を持ち、自らの判断で施術等を行える医療専門職者の教育であるなら、特に「医療倫理学」や「生命倫理学」といった単独科目として専門教育を行うべきであろう。なぜなら、それだけの期待と責任を患者に対して持ちえる専門職だからである。