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特集

第2回日本認知症予防学会学術集会

2012/11/01

「認知症予防」を要約すると一次予防とは、健康づくりや認知症の発症そのものの予防。二次予防とは、認知症の早期発見・早期対応。三次予防とは、認知症の治療、重度化予防、認知症の周辺症状(徘徊など)の予防というように分類することができます。平成24年3月に改定された介護予防マニュアルの中にも、介護予防として予防の段階を一次~三次予防と3つに分類定義し、医療とは違い介護予防のマニュアルであるため「治療」という言葉は出てきません。このことは、高齢社会となり病気を治すことより,医療も介護も「ケア」を重視しQOLやQOD(Quality  of  Death)を高めることへ、パラダイムシフトしつつあるのではないかと個人的には考えています。

前置きが長くなりましたが、ここからは「高齢者のために啓発できる」本学会で講演された認知症予防のホットトピックスについて報告したいと思います。認知症には、その発症原因となる三大疾患「アルツハイマー病」「脳血管障害」「レビー小体」があり、発症原因によって特有の症状があるため、病態を正しく理解し常に状態変化を把握しながら適切なケアを行う事は認知症状を悪化させないためにも重要なことです。そして、認知症の発症病因を大別すると脳血管の障害に起因する脳血管障害性認知症、脳神経の変性に起因する変性性認知症のアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症等に分類されます。これまでの研究で認知症予防には、赤ワイン(レスベラトロール)や青背魚(IPA、DHA)などが予防に効果的だと報告がありました。これは生活習慣病を予防することで、結果として脳血管性認知症(脳梗塞・脳出血由来)が予防できるという報告です。一方、神経変性性疾患であるアルツハイマー病は、βアミロイドの沈着に起因するアミロイドカスケード説では、アルツハイマー病は不可逆的でありアルツハイマー病は改善しないということがこれまでの定説とされてきました。そして、アルツハイマー病の発症までのプロセスは、50歳頃からβアミロイドの沈着が始まり、65歳頃から神経原線維変化が起こり、70歳頃からMCIが現れ80歳頃には臨床症状としてアルツハイマー型認知症を発症するという経過を辿るとされています。

昨年の第一回日本認知症予防学会では、脳神経には可塑性があるということがすでに定説であるため、脳の変性性疾患でも改善の可能性が示唆され、現在研究が盛んに行われているということがホットトピックスとして紹介がありました。この段階では変性性疾患に改善の可能性があると聞いただけで凄いと感じていましたが、第二回日本認知症予防学会では更なる興味深い研究報告がありました。本邦における認知症の50%以上を占めるアルツハイマー型認知症について、早期からの介入があればβアミロイドは消失し改善できるという報告です。このことは、薬剤だけではなく音楽療法や鍼灸治療などにも当然可能性がありますし、認知刺激、認知トレーニング、認知リハビリなどこれまで現場で実施されていたものの中にも、実は有効な方法が含まれている可能性があることになります。

その他の教育講演では、最近の認知症予防の潮流として、2011年本邦ではこれまでの1剤に加え、新しい坑認知症薬3剤が発売され、対症療法にも一定の効果が期待できるようになりました。しかし、薬剤を用いた治療の選択肢は増えましたが、現在の坑認知症薬は根治療法ではありません。唯一認知症の予防に有効であるというエビデンスレベルの高いものは、実は"ウォーキング”などの軽い身体活動で改善の可能性が高いことが明らかになってきたという報告です。このことについて田中宏暁先生(福岡大学スポーツ科学部)の研究では、動物を用いた研究でランニングにより脳のニューロン新生、シナプス新生、血管新生が起こることが明らかになっていることから、アルツハイマーモデルマウスにランニングを行うとアルツハイマー神経原線維変化を抑制できる。また、征矢英昭先生(筑波大学体育系運動生化学)の研究では、健常者における中強度運動は、10分程度の短時間でも前頭前野の活動を活性化し、実行機能が向上するという報告がありました。高齢者では脳の活動に老化による機能低下に伴う左右差が認められるが、運動を20~30分行うと脳の機能低下を代償し支援する働きが出現し、記憶の中枢である海馬が活性化し神経が新生する。有酸素運動効果としては、実行機能と空間認知機能が向上し、灰白質・白質の体積が増大するという脳の可塑性を肯定する研究報告を聞けたことは大変有意義でした。

この他には、血圧の日内変動が激しいと認知症状にも変化があるが、降圧剤等で150mmHg未満(収縮期圧)にコントロールできれば、認知症状が安定するなどの教育講演もあり、介護保険制度で仕事をしている者としては興味深いことを学ぶことができました。現在認知症の症状を発症する疾患は約70あるとされ、認知症はまだまだ症状を改善することが難しい状況です。そのため、世界中の研究者が様々な視点で認知症について研究が行われ、認知症の発症を予防することも認知症医療では潮流になりつつあると言えます。

このように認知症予防への取り組みが重要視されるには理由があります。その一つの理由として、介護保険制度はあるが全国的に介護職員の慢性的な人手不足のため、認知症に対して適切なケアができていないことは大きな要因といえるでしょう。介護を理由に離職する人は年々増加傾向にあり、その離職者数はパートを含め年間5~10万人という統計もあります。そして、企業では40~50歳代の介護離職者を食い止めることが、マネジメント上のリスク要因になっています。現状ではまだ認知症の根治薬がないため、当然医師のみで対応できるものではありません。これは国の施策の課題でもありますが、実質は地域課題であるため多職種が連携して地域で対応する必要性があります。介護保険制度上で機能訓練指導員に位置づけられている柔道整復師も、当然連携していかなければならないそれぞれの地域課題だと私は思っています。