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この人に聞く!【前橋東洋医学専門学校校長・北澤正人氏】

2011/09/16
「伝統柔整術の継承」について

柔道整復学の構築プロジェクトリーダー信原克哉先生が結語で「どんな立派な『学の構築』という題目を揚げても、それが国民医療の中で効果を挙げなくては何の意味もない。『学』に励む柔整師が、施術の中でその効果を挙げ、患者に感謝されることを望んでいる。
巷間、“何のために学を構築するのか”という縁なき衆生の声が聞こえてくる。また“学の習得によって、保険点数があがるのか”との現世利益を求める主張もよく耳にする。しかし、学ぶことは患者に福音をもたらし、その効果は施術の中に生かされてくるはずである。学ぶ人にはそれらの戯言が気にならない。」この言葉も素晴らしい教材として利用させていただいています。

それと「竹岡式接骨術全」との出会いです。接骨大家竹岡宇三郎先生の門人である前田勘太夫先生が大正10年4月に実地口授した書物に於いての教育です。前田先生の序文の中に「患者を苦しめずに治癒を迅速にし、術後の機能の不良、障害等を残さないということは早くから医学諸大家が認めて称賛するところです。特に先生は性格が温厚で博愛、すでに数百の門下生を教育しました。先生は『君たちはこの接骨術を学んで、他人の苦痛や障害や不具合等を救おうとすれば、当然その触診の方法に精通すべきであり、その技術の上達を図るべきである』と常におっしゃっています。そして、門下生等が診識触鑑によって、施術の一つ一つの動作に至るまでの奥義を悟らなければ悟るまで飽きることなく教え続けました。また、接骨術に従事するものが来て質問することがあれば、懇切丁寧に奥義を説き示して、しいて秘密にしておくことをしませんでしたので、教えを必要としたものはだれでもその徳を尊敬しないものはありませんでした。・・・・・略」と書いてあります。私が30年前に研修させていただいた接骨院の恩師も竹岡先生同様の先生でした。その研修時代の経験や修得した実技を学生にはできるだけ解りやすく伝承しています。固定法においては安価な材料で的確な固定ができるようにしています。

「柔整実技療法の理論と実技」星松一著 この1冊においても若き柔整師に対しての伝承教育に適したものです。まえがきの中に「後療手技は日本の接骨医療発祥以来立派なものがあり、現在も継承され(昭和56年)、各々の柔整師の手中には存在していながら、技術的で文章表現が至難の上に、古来徒弟制度だったため、図書としてではなく、実地即ち家伝として一子相伝、又流派として、師から子弟へと伝授され、公開されず、系統だった学理論として引き継がれておらず、柔整の手技療法としての体系ができていない。その状態で昭和23年法改正で養成施設学校教育に移行した。接骨のウルトラシー(特技)として最も大切な筈の治療手技の教授が養成施設においてもほとんど教授されていない現状である。故に柔整師にして手技療法の何たるかも、偉効も全く知らないものが多くなった。柔整発足以来約60年、このまま経過するならば、柔道整復術の内容の大半を占める『手技療法』の存在が消滅してしまう。厚生省の『柔道整復師学校養成施設指導要綱』は、養成校の憲法であり昔流でいうならば基本的教育勅語である。その最も中心をなす授業科目の柔道整復理論の3.療法の項に(1)整復法(2)固定法(3)後療法のア、手技療法イ、運動療法ウ、物理療法と条項が明記されている。当然学校で教えなければならない義務がある。しかし、先年、日本柔整学校協会会長の米田一平先生のお話では柔整の手技療法の体系は出来ていないといわれる。理論や体系ができていないから、殆どの学校では学生に教えていない。手技療法を全く知らない柔整師がつぎつぎに社会に出てくる。・・・・・・略」この星先生が願われた手技療法についての教育も大切なものと考えています。臨床実習の実技指導を実施の際にこの本の下記の『実技概論』を参考に行っています。

1.
疼痛や障害の根元を把握する。
2.
常に考えながら治療する。
3.
自信を持って治してやる「気」と、患者の治してもらえる「気」の一致。
4.
必要な医療。柔整師でなければ治しえないという自負と、学問的理論的に自ら納得のいく治療。
5.
古書の接骨では漢方も主力におかれていたが、理学的な手技、電療等で効果がある。
6.
目的に応じ、症状に応じ、部位に応じ、年齢体質に応じた手技の選択、力量度、手技時間を適正処方する。
7.
術者の体位と患者の体位。
8.
全身の力を利用して施術する。
9
適度の力量度を把握する。
10.
創傷部の動揺を避けると共に全体の動揺を避ける。
11.
暴力で二次的損傷や症状の悪化を起こさぬように効を急いではならない。
12.
時間的な長さを失しないように。
13.
無駄な手技は体力と時間の浪費で省くべきです。
14.
治癒までには日数を要する場合もあるが、1回の施術で即座に症状の軽快(腫脹の減退、疼痛、鎮静、機能軽快等)をみる手技でなければならない。即ち施術前と施術後の比較。
15.
4-5日で効果を見ない症状固定の場合は処方の変更を考える。
16.
手技療法の限界を知る。
17.
柔整施術はけがに対する医療である。禁忌は避ける。

以上を基本にして教育しています。伝統柔整術に関しては学生がとても興味深く聞いていることは特筆すべき事と思います。
加えて、稲川郁子先生による「柔道整復師の専門性獲得過程にみられる正統的周辺参加」の論文もとても参考になり共感もするので3年生の授業時には必ず紹介をしています。