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アスリートからみる柔整業界【国士舘大学・中島タケシ 教授】
―武道の世界的な広がりについてお聞かせください。
世界に武道が広まったのは、1867年明治維新後、西洋文明が導入された時に、国家として日本に西洋文明を指導するために来日した、雇われ外国人教師(技師)たちが、在日中日本伝統の武術を学び、契約後自国に持ち帰ったと推察。それと同時期に、世界に渡った日本の武士たちが外国で文明を習得する際に、我が国の武道(柔術)を教えることによりコミュニケーションの手段として、また異種格闘を興業的に行った事などが大きな普及要因ではないでしょうか。さらに追いうちとして日清戦争(M27)・日露戦争(M38)の二つの戦において、大国中国およびロシアに対して、東洋の知られざる小国日本がどうして勝てたのか?それは武士道精神、いわゆる武道精神によるところが大きいと彼らは考えとのではないでしょうか?
そして老若男女、子ども達には、礼儀・作法・道徳的および身体的運動として武道が高く評価され、また上流社会の貴婦人には護身術として広く普及されました。
東京オリンピック時は27カ国であった国際柔道連盟加盟国数は、現在201カ国であります。
―最近、柔道中の死亡事故が多発しており、海外では皆無であるのに本家本元の日本だけが死亡者が多いことに関して、どのように考えていらっしゃいますか?
1964年に開催された東京オリンピック以降、柔道は、①伝統・文化的柔道(Traditional Judo)と、②近代的スポーツ・オリンピック柔道(Modern Judo)として二分化されたと考えられ、Modern Judoのみが世界に注目を浴び普及・発展したと考えます。
「文化」とは不変性があり変えてはならない伝統である。「文明」とは科学のように日進月歩、毎日変化し発展するものです。
それを柔道に置き換えれば、Traditional Judo は変えてはならない柔道であり、Modern Judoは技術においても審判制度においても、常に国際的に変わるものであると考える。
諸外国、特に欧州地域では導入当時の伝統的柔道指導法を忠実に守っているような感じがします。しかし、当の日本の柔道は1964年以後、世界の柔道に追いつけ・追い越せムードが先行して、十分に基本を指導しないまま競技柔道本位になってしまったのが、死亡事故が多い原因ではないかと推察されます。特に、指導者・保護者・マスメディアの方々が勝利至上主義に走り過ぎている傾向にあるように思われます。要するに、1964年以前は、統一体であった柔道①+②が、後には二分化①&②され、②のみが注目を浴びている現状である。(要注意)
これらが、大きな原因の一つではないかと推察されます。
―来年の4月から中学校の武道必修化が始まったことに対し、一部から不安の声が上がっているとお聞きしました。柔道教育について警鐘を鳴らしていただきたい。
先に申し上げましたように、全ての柔道家(特に中・高・大の指導者)は嘉納師範の原点に戻り、師範が理想とした柔道原理に帰するべきだと考えます。
現在の柔道整復師とは?
明治維新後、西洋医学の導入により、1881年漢方医学の廃止によってこれまでの接骨術が省みられなくなりました。その後、柔道の創始者嘉納治五郎等の尽力で、1920年に内務省に基づく国家試験制度が確立された。
柔道(柔術)を専門とする柔道家は、柔道を専門とする傍ら、整復術を副業としていました。そこで嘉納師範は、柔道家が柔道整復師として生計を立てるべくこの制度が確立できたのではないかと推察しております。しかし現在、柔道整復専門学校が乱立した為に、柔道が先なのか、整復術が先なのかが不明確になってきているのが現実であると思います。
新聞等で取り沙汰されている柔道整復師の不正行為なども、これらの影響があるのではないでしょうか。(全て、原点に帰すべし)
(文責:中島たけし)
●プロフィール
中島 豸木 (なかじま たけし)
生年月日:昭和18年4月16日 生(1943年) 68歳
現職:国士舘大学武道徳育研究所(所長・教授)
武道連盟・団体における役職:
日本武道学会理事・世田谷柔道会理事
世界柔道研究者協会理事
一般社団法人「障害者武道協会」設立・代表理事
略 歴(主な活動歴・指導歴など)
昭和43年 国士舘大学体育学部体育学科卒業
昭和46年 大阪市立鶴橋中学校教諭
昭和46年 ニュージーランド単身渡航(クラストチャーチ)柔道協会指導
昭和47年 オーストラリア(シドニィー・メルボルン・タスマニア)柔道協会指導
昭和48年 オーストラリア・タスマニア州警察学校勤務(11年間海外指導)
昭和56年 帰国・国士舘大学勤務(現在に至る)
国際学会発表
Ⅰ.オリンピック科学研究会 (5回)
スペイン(1992)・アメリカ(1996)・オーストラリア(2000)・ギリシャ
(2004)中国(2008) Ⅱ.アメリカ柔道科学研究会 1995~1998(4回)
Ⅲ.アジア・スポーツ科学研究会(6回)
中国(1990)広島(1994)・福岡(1995)・タイ(1998)・大韓民国
(2001,2002)
Ⅳ.世界柔道科学研究会 4回
イギリス(1999)・ドイツ(2001)・日本(2003)・ブラジル(2007)・
オランダ(2009)
国内研究会発表
日本武道学会 20回
日本体育学会 2回
日本応用心理学会 7回
国士舘大学国士研究会 10回