柔整ホットニュース

特集

シリーズ第9弾  
国保中央会5項目の提言について業界内外の論客に意見を伺う!

2010/11/16

3.全国決済制度について

全国決済制度は医療費においてすでに導入されている制度なので、療養費に対しての導入もシステム的にはハードルの高いものではないだろう。ただ、現物給付と現金給付に纏わる法的解釈の違いにより、我々には計り知れない問題点が存在するのかもしれない。

田中氏のインタビューにも記載されているように、国保中央会と各都道府県国保連合会との間で生じる事務処理が簡素化されるのであれば、組織自体のスリム化を図ることも可能なのではないか。もし、スリム化から経済的効果が発生するのであれば、国民の健康のために有効に運用されることを願う。

他方、全国決済制度の導入により、所属団体の郵送費用をはじめとする経費軽減をメリットに挙げる先生方も多く、私が所属する団体にも同様のことが言える。また、各業界団体に経費軽減が発生するということは、何れの団体にも所属しない個人契約の柔道整復師においてもメリットが発生する。個人契約者が団体に加入しない理由の一つに、団体加入時の入会金や月会費と個人契約者が毎月受け持つ郵送費用の比較がある。現存する個人契約者の多くは、団体加入時と個人契約時のランニングコストを比較し、個人契約を選択しているようである。改定毎に縮減される柔道整復師の算定基準に不安を感じ、個人事業主として将来を見据えコストを削減する姿勢を責めることはできない。
しかし、私が懸念するのは、個人契約者のメリット増加に伴い個人契約者数自体も増加することである。現在においても、その差額はそれほど多いものではないと考えるが、複数の県境が隣接する地域で開業している個人契約者などにおいては切実な問題なのかもしれない。

与党内柔道整復師小委員会が機能している現在、業界に関する情報発信は、永田町に召集される業界団体であれば、以前にも増して風通しの良いものとなっている。しかし、前述の如く通知行政で成り立っている我々の業界において、何れの団体にも所属しない個人契約者まで同様の情報が伝わっているのか甚だ疑問である。「情報収集力を犠牲にランニングコストを選択した」と同じ柔道整復師である個人契約者を切り捨てても良いのだろうか。
今回の料金改定においても、厚生労働省はそのホームページに改定内容やFAQを掲載し通知もおこなった。業界団体加入者であれば、その存在や内容の告知を所属団体が注意喚起するだろう。本来、個人契約者は団体加入者より業界関連の情報について敏感になって然るべきである。しかし、どれほどの個人契約者がそのような姿勢を維持できているのだろうか。全国決済制度の導入により予想される個人契約者の増加は、情報不足から発生する不幸な柔道整復師を増加させるデメリットも孕んでおり、業界全体の信用低下に繋がる可能性もある。

先の改定に伴い、厚生労働省は受領委任取扱いの改正内容の同意として、協定・契約の如何に関わらず、『柔道整復術療養費の受領委任の取扱いに係る届け出・もしくは申し出』をもって開設者の登録を含めた再登録を義務付けた。通知行政の温存を前提として考える時、厚生労働省は情報不足による不幸な柔道整復師を減らすために、個人契約者には先の登録をもって業界団体加入者と等しい情報発信をおこなうべきであろうが、施術所が乱立する現在ではその作業は困難を極める。与党内柔道整復師小委員会から、個人契約者に対して何れかの団体に所属するよう勧める趣旨の発言を耳にしたが、これまで認められてきた個人契約に対してどれほどの強制力を持つのか疑問が残る。

 

4.疑義対策について

療養費支給申請に関する疑義については、柔道整復師と各保険者との間に共通の認識を持つことから始めなくてはならない。これは、先に記したように全ての健康保険者によって権限が委譲された統一審査会の制定により解決が導かれることだろう。統一審査会の制定は同時に統一審査基準の制定に繋がる。

統一審査基準制定においては、不正請求・不適切請求・そして時代に則した請求方法が議論され、それぞれの定義が明確に定められるべきである。我々の不正領域に対する認識は日数や部位の水増しであるが、保険者のそれは傷病に対する健康保険適用範囲を含む。

私は養成校で非常勤講師として教鞭をとっているが、平成21年に出版された柔道整復理論(改定第5版)には不全骨折の分類にbone bruise(骨挫傷)が加わった。bone bruiseはMRIの普及により発生した概念であり、単純X線像での描出は不可能である。我々が本症の後療を医科から受け、脛骨や大腿骨の不全骨折の後療で請求した場合、保険者の判断はどのようなものになるだろうか。医科から提出される診療報酬請求明細書の病名には骨挫傷と記され、我々の療養費支給申請書には不全骨折と記されているのである。はたして、医療従事者ではない保険者にこの整合性のある請求に対して正しい判断が下せるのだろうか。また、不全骨折の概念についても戸惑いを隠せない。医科においては、骨折も不全骨折も全て骨折なのである。我々の業界では請求上の理由もあり、不全骨折という概念が根強く残る。しかし、医療のスタンダードに不全骨折という考え方は存在しない。

昭和45年に定められた柔道整復師法以前より存在する我々の業務範囲は、医学の進歩と共にその内容や定義自体に大きな変化を遂げており、まさに制度疲労の極みである。
制定が期待される統一審査基準は、日数や部位の水増し請求に議論の余地はないが、保険者のいう不正請求・不適切請求と、我々の認識が学術的にも経済的にも矛盾のないものを目指さなければならない。そして、時代の流れと共に定期的な見直しがおこなわれることを期待する。