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(社)日本医学協会主催 第2回医療問題懇談会開催!

2011/10/16

放射線の健康影響には2つのタイプがある。1つは、ICRPが発足した1928年~1950年くらいまでは、症状や兆候が臨床的にわかるような身体的障害を避けることが放射線防護の目的であり、現在でいう確定的影響である。確定的影響というのは臨床的に確認できる症状で、症状ごとに「しきい線量」があり、その線量以下に被ばくを抑えれば、症状は出ない。「しきい値」はほぼ1グレイ、1000ミリグレイ或いは1000 mSv以下では、臨床的に確認できる症状は出ないとされている。もう1つは、1950年後半になると確率的影響が問題になり、1955年に放射線影響研究所で原爆被爆者の中で白血病が増えるということが報告され、発がんのリスクがあり、被ばくをしてから速くても5年、多くは10年経ってから発症、「しきい値」があるのか、ないのかの議論が多くあったが、結果的には「しきい値」は無いという考えで確率的影響といわれるようになった。防護の目的では、100 mSv以下の低線量でも線量に比例してリスクが増加すると仮定している。原爆被爆者の健康調査・寿命調査では150 mSv-0でやっと有意の差が出てくる。100 mSvでは有意の差が出てこないということから、100 mSv以下は発生率があったとしても極めて少ない。しかしどんなに線量が少なくてもリスクは多少高まるという考えのもとに防護体系というのは出来ている。

(中略)

現在問題になっている福島原発から出た環境に溶出したセシウム、ヨウ素はもうなくなっているが、セシウム137は物理的な半減期が30年で、まだ殆ど出た時と同じ位ある。長い期間にわたって被爆をゆっくりと受けた場合の影響は少なくなると分かっている。急性被爆で100 mSv、将来癌になるリスクが1000 mSvで10%位増えるということになる。低線量率で長い期間浴びた場合、0.5%位のリスクである。
将来の癌の死亡リスクは、3人に1人位は癌になると今言われているが、いろいろな食生活等によって地域差10%位の地域変動があるので、100 mSv以下の放射線の影響は、そういった変動の中に隠れてしまって仮にあったとしても識別できないものと思われる。
低線量の放射線の影響は疫学的な情報、或いは動物実験からは中々分からないと考えられていたが、最近では分子生物学的な手法を使った放射線の影響の解明が進んでいる。しかしまだ細胞組織レベルでの治験であり、放射線防護の基準に取り組むほど確立したものではないが、そういう基礎的な研究が進むことによって放射線影響のメカニズムが解ってくると低線量影響についても非常に確かなことがいえるのではないかと期待されている。
小児・胎児の影響についても大変関心がもたれているがICRPでは小児と胎児の発癌に対する影響はあまり変わらないとしており、放射線防護を考える場合には胎児も妊婦も含めておよそ成人の2倍ないし3倍、最大でも3倍くらい小児は影響が大きいと考え、十分に注意をしようということになっている。胎児被爆の確定的影響として重度の精神遅滞、原爆被爆者の場合には小頭症が増えているが、100 mSv以下の線量では殆ど胎児への影響はなく、精神遅滞が起こるのも「しきい値」が300 mSvぐらいと言われており、一般的に100 mSv以下であれば妊婦が線量を受けて胎児の線量を十分に検討して100mSvを超えていない場合には、放射線を受けたからという理由だけで健康流産をするのは合理的ではないとしている。
世界で環境保全に対する関心が高まっている中、2007年勧告から、放射線の防護も人以外の生物種も防護する必要があるという考えに変わっている。放射線の防護活動は、どういう風にしてやるのか。線源があって、その線源から環境が汚染をする、その環境或いは線源から直接人が被爆してしまう。できるだけ実際的で効率の良い防護活動をして人への被爆を防護していこうというのが基本的な考えである。社会的経済的な要因も考慮した上で、合意的に達成可能な限り、放射線被ばくは少なくしよう、ごく僅かな線量を減らすのに膨大な費用とか労力を使うということは勿論避けなければならないという考えである。