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日本柔道整復接骨医学会会長に就任された
櫻井康司氏に直撃インタビュー

2012/12/16

―現在の柔道整復の置かれた状況について、櫻井会長のお考えをお聞かせください。

今は柔整が危機的な状況にあるというのは、どなたも感じていることです。一人一人の収入がドーンと下がってきているのは事実で、少なくとも30人位の患者さんをみている人がなんとかこの世界で生活ができて自分の子どももこの業界の人間として育てようという思いに至るだけの安定した基盤になれば良いと思うんですが、残念ながら下がり続けています。その原因については、組織の問題、西高東低という問題、背景の問題もあり、周辺問題等さまざまがある中で柔整師会が一つに纏まりきれない。以前は喫緊の問題や中長期的な問題について財団・学会・学校協会・業界団体とで4者協議が行われていましたが、途絶えており開かれておりません。近年柔整業界は非常に危機的な状況におかれていて、柔整師が沈んでいけばどの組織も成立しなくなっていく訳です。ということは、この道に進む若者たちが減るということにもなる訳ですから、共通の問題であると思います。この共通の問題を夫々の立場で視点を変えてディスカッションをすることが、いま本当に必要だと思います。柔整が今の状態から脱却するためには、夫々の抱えている問題点を共通認識としてお互いが共有するようにしなくては、悪化の一途は避けられないでしょう。いっぱい知恵を持った人たちは居りますから、その知恵を持った人たちを集めてディスカッションをして、其処で得たコンセンサスを一つのコアとして、全体が共有しないといけない時代であると思いますし、今本当にそれをしなければいけないという危機感を私自身が感じています。リンカーンの「人民の、人民による、人民のための政治を地上から絶滅させない」という演説にもあるように〝柔整師の、柔整師による、柔整師のための〟とした自らの手による改革を今始めないとダメなんじゃないかなとそんな気がします。

医療を取り巻く環境の厳しいなか、柔整が明日への展望を描きにくいなかですが、社会に対する責任として大学という高等教育機関で、教育と研究・臨床を行っているというメッセージを発信することが喫緊の課題であると思います。私は花田学園で長い間教育に携わり、この世界で生かされてきた人間として、社会に対するアピールを含めて、このメッセージをしっかり持つべきだろうと思います。自分たちがこれまで歩んできた道、これから歩んでいく道、いずれにしても自分たちが今歩んでいる道を胸を張って生きていきたいと思います。今はもう何かにすりよるという時代ではないと思います。自分たちの歩んできた道を背景にしながら、責任を持った団体としてしっかりとスタンスをとって、しかも正当な主張は行っていくことが大事な時代になっていると思います。霞ヶ関との信頼関係は一朝一夕にはできないものですが、やはり霞ヶ関との信頼関係はとても大切で、解決できることはいくらでもあると思います。

 

―今年初めて、社会保障審議会医療保険部会に柔整専門検討委員会が設置され、その第1回が10月19日に開催され、今後も検討されていくことになっております。これまで柔整にはエビデンスが無いと言われ続けてきました。やはり学問的な裏付けをとること、あるいは、保険診療に関して言えば一定以上の治療内容の必要があり、その確保にはガイドラインの作成が必要であるという意見を伺ったことがあります。また他に柔道整復業界では、さまざまな問題があると思いますが、そうした時、他の学会ではガイドラインを示す事例が見受けられます。柔道整復業界では、接骨医学会が今後ガイドラインや、柔道整復の社会的役割を示すという重要な役割をもつ組織だと思いますが、そうした取り組み、方向性についてお考えをお聞かせください。

各診療ごとに標準ガイドラインを作られておられますように標準的なガイドラインについて、そういった流れがあると思います。ただ柔整の仕事というのはある種オーダーメイドの部分もありますし、患者さん個々の年齢の違い、その他においても各々異なる訳ですが、一定のガイドラインを示すことは可能であると思います。例えば、骨折治療についてはこういう整復方法で、治癒に至るまでほぼ何週間ですという風に。やはりこれについてはエビデンスが求められると思います。また、柔整の場合は、いろいろ制限があります。特にX線写真を撮ることはできませんので、視診や触診等の観察を入念に行い、誤診等に繋がらないように慎重を期すことは、開業している柔道整復師としては当然の義務であり、権利でもあります。経過観察が必要ですので、施術回数が増えますが、それでも医療費の算定と比べると、柔整の療養費には、大きな格差があります。命を削りながら治療にあたっている多くの柔道整復師にとっての対価としては極めて少ないと思います。ケアをしながら治療をしていくという柔整独特の世界、これは堅持していかなければなりません。ガイドラインについては、コンセンサスを得る必要がありますが、スタンダードなものが出来上がれば整合性をはかることが可能と思います。簡単ではありませんが、標準治療ガイドラインを作ることを考えていく必要はあると思います。

 

―統合医療学会とはどんな風に連携されていくお考えでしょうか。

世界的に西洋医学とその他の医療とのジョイントが少しずつ始まっておりますので、将来的には統合医療の流れであると考えています。やはり患者さんのためには、何が良いのかというところでの議論はもっとしっかり行うべきだと思いますし、夫々の職域のエゴを超えた部分で患者さんのために21世紀を展望した考え方というのはあって良いと私自身はそう考えています。ただし、統合医療について柔整の中で何が出来るのか、その辺の議論もしっかり行った上で、統合医療に参加していくことについて、決して先送りではなく、検討を続けていくべきではないかと思っています。中でも災害医療に対し、柔整は貢献をする特有の技術を持っておりますので、総ての柔道整復師がそういった技術を有する集団にならなければいけないと思っています。

骨折や脱臼の比率が下がり、純粋な外傷性の患者数が減ってきているのは事実で、だからといって柔整が骨折の研究や外傷性の治療技術を研究することを止めてしまえば、それは自分たちの首を絞めることになります。やはり、災害医学を含めて柔整が貢献できる世界、これは未だ沢山あると思います。いま柔整師会も海外に向かっていろいろなことで動き始めています。私も去年モンゴルに行って、今年もモンゴルの健康科学大学の70周年という大きなイベントに呼ばれて行きましたけれども、モンゴルは大草原が広がり病院が日本のように整備されていない地域がいくらでもありますので、そういう場所で柔整が持っている技術を伝えていく必要性は高く、世界に拡大していくことによって、存在感を示すことが出来ると思います。そのための努力は着実に行っていくべきであると思っております。

(文責・編集部)

 

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