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第14回日本スポーツ整復療法学会が開催される
2日目の特別講演では、社団JB日本接骨師会最高顧問弁護士である本多清二氏により「スポーツを取り巻く法律・保険問題」と題した講演が行われた。
本多氏はまず法律家の観点から、スポーツ大会における怪我と法律の係りについて解説した。日本では大会中に怪我をした時の責任所在がしばしば裁判で争われるが、アメリカには「危険接近論」というものがあり、自主的に大会に参加した場合、自ら危険に接近したとみなされ事故の責任は自身が負うという事がベースになる。そこからルール上の問題が無かったか、参加者がルールを認識していたか等を細かく分析し、どの程度の問題が起こったら加害者や主催者側に責任が及ぶのかという観点で議論がなされると説明。〝日本では問題が起こった時には原因を探すのではなく責任者を探してしまう傾向がある。そうではなく当事者に責任を負わせないという条件の下で原因を調査し、再度同じような事が起きないようにする方がずっと生産的ではないか〟と、責任所在を探すより事故が起こった本当の原因を知る方が将来のスポーツの発展に繋がるのではないかと述べた。
続いて本多氏は自身が40年近く携わってきている柔道整復師の制度について触れ、レントゲン、診断権、受領委任払い制度、養成校等の現在柔道整復師業界が抱えている様々な問題について話を進めた。
受領委任払い制度については、一部の保険者などから挙がっている受領委任払い制度を廃止すべきという声に対し、〝廃止した場合にどのような事が起こるかという議論が必要である〟とし、制度を利用している患者さんに高齢者が多いことから「償還払いにした時に患者さんが対応できるのか?」「対応できない患者さんをどうするつもりなのか?」「この制度を廃止することにより、ファクタリング等の新しいビジネスが出てきてしまうのではないか?」と受領委任払い制度を廃止する事により起こりうる弊害について言及。さらに今までは柔道整復師を通すことによりある程度の形が出来ていた療養費の請求も、患者が直接行なう事で逆に保険者の事務が煩雑になりコストも嵩むと指摘した。〝受領委任払いという制度は柔道整復師の為だけにあるものではなく保険者の為にもなっている〟とし、受領委任払い制度の利害関係について考え、どのようなバランスの中で制度が運用されているかという現状を分析するべきではないかと投げかけた。
最後に本多氏はこれからの柔道整復師の方向性について触れ、〝まずは本来の柔道整復師の整復療法とは一体何なのかという根本的な事をもう一度きちんと見直す必要がある。それを確認した上で、どの範囲までが柔道整復師の世界として妥当性があるのかという議論を展開していくことが、今後この業界には望まれる〟とし、日本スポーツ整復療法学会でも将来を見据えて、是非そのような事も話し合ってもらいたいと要望して講演を終了させた。
講演時間は1時間半と決して長い時間ではなかったが、柔道整復に係る人間にとっては非常に内容の濃い講演となった。
その後は昼食休憩をはさんで、明治国際医療大学・岡本武昌教授により「生涯介護不要の生活をするためにはどうしたらいいの?」と題した市民公開講座が開催された。
冒頭、岡本氏は2011年の厚生労働省の調査では、日本人の平均寿命は男性79.4歳、女性85.9歳と世界トップクラスであるが、自立して健康的な生活を送れる健康寿命となると男性70.4歳、女性73.6歳とぐっと短くなり約10年は介護を受ける期間となってしまうという問題を指摘。〝何処まで役に立つか分かりませんが、元気に長生きしていただくために少しお話させて頂きたいと思います。アクティブ80、ポックリ90で寿命を全うできるように一緒に自己健康管理について考えてみましょう〟と挨拶し、講演をスタートさせた。
岡本氏は健康的な生活を送るためにはまず認知症にならない、骨粗鬆症にならない、筋力を低下させない努力が大切であるとし、その為にはどのような事に気を付けるか、どのような日常生活を送ればいいのかを解説。認知症予防に関しては〝「教養のある人」「教育のある人」の二つの要素が絶対に必要〟だと話し、会場に集まった受講者達を不安にさせた後「教養のある人」とは「今日用のある人」、「教育のある人」とは「今日行く所のある人」だと付け加えて笑いを誘うなど、ユーモアを交えながら活発に用事を作る事、行く所を作る事の大切さを訴えた。
続けて岡本氏は食事、睡眠時間、喫煙、飲酒、運動等の日々の生活が、自分の健康に与える影響についてデータを見せながら分かりやすく説明を始め、特に日々の運動に関しては運動することにより死亡率が下がり、癌や成人病予防にも効果的であるとし、さらに体調面だけでなく精神面にも良い効果を与えると説明。
しかしながら、一部の筋力だけをアップさせるような筋力トレーニングや、行なっていてつらいと思うような運動は却って逆効果であるとし、少し疲れを感じる程度の運動をするように促した。バランスのとれた筋力アップの方法として、相撲取りがやる四股踏みや両手を軽く上げて片足で立つダイナミックフラミンゴ体操等が良いと説いた。
その他にも呼吸法、声を出して笑う、椅子に腰かけて足踏みをしながら動物や野菜の名前を次々と発する等の様々なトレーニング法を紹介。特に今まで行儀が悪いとされてきた貧乏ゆすりは実は非常に良い運動であり、エコノミー症候群や変形性関節炎が改善したという例を挙げ、是非とも推奨して欲しいと語った。
講演の後半にはひとりで簡単にできるストレッチを披露。腰のケアとしてトイレに行った時に行なう背反らし、肩こりの緩和に亀のように首をすくめる運動、寝ながら楽にできる大腿ストレッチ等を会場にいる全員で実践した。
その後、岡本氏が受講者からの健康管理に対する質問に答え講演が終了となった。
市民公開講座という事で、受講者を飽きさせない配慮が随所に感じられた素晴らしい講演であった。時折会場から上がる笑い声や受講者の笑顔が非常に印象的であった。