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第14回日本スポーツ整復療法学会が開催される
続いて行われたシンポジウムでは「トップアスリートの怪我と予防」をテーマに、3名のシンポジストにより講演が行われた。
ロンドンオリンピック カヌースプリントチームトレーナー
杉山 ちなみ 氏
カヌーは単調な動作を繰り返す競技であるため外傷はさほど多くないものの、パドルを入水させた瞬間に自家筋力によって肩脱臼を起こす場合もある。また不安定な水の上でバランスを取りながら最大筋力を発揮しなければならず、筋肉に大きくストレスがかかり腰背部の肉離れを起こす選手もいる。障害としては筋筋膜性腰痛症、椎間板ヘルニア、肋骨疲労骨折、肘痛などがみられる。
アスレティックトレーナーは選手のコンディショニングの手助けをし、怪我を予防することを第一に心がける。まずセルフケアとしてアイシングとストレッチングの指導を行なう。アイシングは怪我の応急処置として炎症を抑えるために施すのが一般的であるが、消炎・鎮痛と同時に乳酸を除去し血行を促進させる効果がある。ストレッチは可動域の改善・維持、筋肉の柔軟性の獲得、広げた可動域の筋活動を高めることを目的としている。これらは怪我の予防と同時にパフォーマンスの向上にもつながる。トレーニングに関しては筋力増強も勿論大切だが、体幹の安定性を身につけ左右対称な身体をつくり、正しい姿勢を意識させることが不可欠である。また飛行機やバスでの移動や開会式の待ち時間など、選手にとって非日常的な行動によって整えたコンディションが崩れてしまう虞があり、そういった部分にも気を配る必要がある。姿勢を改善することが怪我を予防する第一歩であり、最も重要な事項である。
専修大学経営学部准教授/社会体育研究所/専修大学剣道部副部長
齋藤 実 氏
剣道の実践現場では、道場で上衣を着用しない、水分補給をしない、裸足であることが大切であり、またクーリングダウンやアイシング等の自分のケアよりも付き人のように先生の身の回りの世話をすることを優先するなど礼節を重んじる。さらに自己完結を良しとするスポーツであるためテーピングやマッサージも排除されるなど、スポーツ医・科学サポートとの不一致も見られる。
剣道の特徴のひとつとして、右半身の構えであることが挙げられる。右足前、左足が後ろの姿勢で踏み切って打突する上に、相手と正対しながら移動するため左足は制動足ともなり、結果として怪我の発症には左右差が生じる。下腿三頭筋やアキレス腱障害は左足に頻発し、足関節捻挫は右足に多く見られる。また剣道は裸足で行われるため、足部への衝撃が緩和できず荷重が直接的になり、足裏の裂傷が起こる。シューズを履いていないためソールによるアライメント矯正や足関節の固定・保護、テーピングの固定もできない。
特に怪我の起こりやすい左下腿部の怪我の予防と対策として、足関節の動的不安定性を有する場合には、テーピングを工夫することで効果を高めることができる。打突後のターン方法によっても左下腿部への負荷に差が出てくるが、パフォーマンスへの影響や打突時間への影響を検証し、負荷を軽減する方法を指導できる。足裏裂傷は専用テーピングを作ることで対策を講じることができる。
専修大学陸上競技部コーチ
近藤 孝志 氏
長距離選手は使いすぎによる怪我が多い。鍼灸マッサージ、カイロプラクティックなどの施術を受けている選手も多いが、怪我をしてからではなく予防として施術を受けるように指導している。セルフケアとしてトレーニング前のウォーミングアップやストレッチ、トレーニング後のアイシングやマッサージなどを行ない、常に自分の身体の状態を把握することが必要とされる。また練習・休養・食事のバランスを保つことも、怪我を予防する上で重要となる。
陸上選手に見られる疾患は、足底の炎症、筋膜炎、シンスプリント、鵞足炎、腸脛靭帯炎、足関節捻挫などで、疲労性による場合や他部位の疾患をかばって負傷する場合が多い。足の着き方や蹴り方に癖があり怪我をしやすい選手もいるが、本人にも予め注意喚起して意識させておけば、ケアによってある程度軽減できると思われる。状態に即したペース配分で走らせることも、怪我を未然に防ぐポイントである。怪我をした場合は、各個人の自然治癒力の手助けとして、練習の前後に症状に応じた鍼灸マッサージの治療を行なう。故障部位は休ませ、上体などを強化することで心肺機能の低下を防ぎながら、栄養バランスにも気を配り、治癒後にスムーズに競技に復帰できるように対処する。身体の変化を察知し、状態に合ったケアをすることが大切だと言える。
シンポジストによる講演の後、活発に質疑応答や意見交換が行われ会場は大いに盛り上がった。