柔整ホットニュース

特集

日本超音波骨軟組織学会第12回学術総会

2012/11/01
骨格筋の可塑性:個人差と部位差に着目して

早稲田大学スポーツ科学学術院
若原 卓 先生

はじめに若原氏は〝本日は、体肢筋厚の個人差とその部位差、レジスタンストレーニングによる筋肥大の部位差及び個人差、トレーニング後の筋肥大における同一筋内の部位差とその要因の3点についてお話をさせて頂きます〟と述べ、本論に入った。

筋力は筋肉の大きさにほぼ依存して決まる。筋力と断面積に相関があるからこそMRIや超音波を用いて筋肉の大きさを求めるという事に意味が出てくる。筋肉は可塑性に富む組織で、レジスタンストレーニングを行なえば肥大し、筋力が増大する。一方、ベッドで寝ている、あるいはギプスで固定する等の不活動の状態では筋肉が委縮して筋力は低下する。勿論、遺伝的な影響もあると思われるが、普段のトレーニング習慣や日常生活における筋の活動量を反映した形で筋肉の大きさには個人差が表れる。

そこで我々は若齢男性600名以上を対象とし、エコーを用いて上腕前部・後部、大腿前・後部、下腿前部・後部の6部位について筋厚の平均値、標準偏差、最小値、最大値、変動係数を測定した。中でも最も個人差を表すのは変動係数と考えられるが、この数値が一番高かったのが上腕後部、一番低かったのが下腿前部と下腿後部であった。この差はトレーニングを実施した場合の筋の肥大のしやすさに、筋間差があることを示唆している。

個人差の現れ方が筋によって異なる理由のひとつとして考えられるのは、筋が含む遅筋線維と速筋線維の割合の違いである。前述の6つの部位について速筋線維の割合を推計したところ、変動係数が高い上腕三頭筋は速筋線維の割合が高く、変動係数が低い下腿の筋群は速筋線維の割合も低い。つまり速筋線維を含む割合が高い筋ほど個人差が大きく、速筋線維をあまり含まない筋は個人差が小さいと思われる。もう1つの要因として、日常生活における筋活動の差が挙げられる。筋によって日常生活中の活動パターンは異なり、その活動の差が筋厚の個人差における筋間差を示していると考えられる。

実際に、上腕三頭筋と大腿四頭筋を対象に12週間のレジスタンストレーニングを実施し、筋間に肥大率の差があるのかどうかを検証した。トレーニングの前後にMRIを連続的に撮り、各筋の横断面積を計測し筋体積の変化率を算出したところ、上腕三頭筋では平均で33%増加、大腿四頭筋は13%増加という結果が得られ、部位間の差が認められた。

加えて上腕三頭筋の筋横断面積について、同一筋内においても肩に近いところは肘に近いところに比べて筋肉の肥大率、横断面積の変化率が高いという部位差が観察された。そこでトレーニング前後のT2強調MRIを撮り、そのT2の変化から上腕三頭筋の筋活動の部位差を検証した。T2変化により求めた筋活動は、肘に近いところで低く、肩に近いところで著しいという結果が得られた。これは12週間トレーニングを実行した時の筋横断面積の変化率と類似した傾向が見られ、長期のトレーニングによる筋肥大率と1回のトレーニングセッションにおけるT2増加は、いずれも肘に近い方よりも肩に近いほうが顕著であった。さらに筋活動の部位差のパターンを変えるため、トレーニング方法を単関節運動から多関節運動に変更して筋横断面積の変化率を算出すると、肩に近い部位は変化率が低く、真ん中から肘に近いところにかけては変化率が高いという結果となった。これらの結果から、トレーニングセッション中の筋活動の部位差が、その後のトレーニングによる筋肥大の部位差を生み出すことを強く示唆していると考えられる。部位差のパターンが動作により異なったのは、部位によって三頭の構成が異なるためであると思われる。例えば肘に近いところを主に構成する内側頭は単関節筋であり肘関節しか跨いでいないが、肩に近いところを主に構成する長頭は二関節筋で肩を跨いでいる。長頭は単関節運動ではよく活動し多関節運動ではあまり活動しないということから、トレーニング動作による部位差のパターンの違いは、長頭の筋活動の差を主に反映していたのではないかと考えられる。

最後に若原氏は講演のまとめとして〝体肢筋厚のばらつきは部位によって異なり、特に上腕三頭筋は個人差が非常に大きく、下腿の前後の筋はばらつきが小さいことがわかりました。2点目にトレーニングによる筋肥大は部位によって異なることが示され、今回対象とした上腕三頭筋と大腿四頭筋では、上腕三頭筋のほうが大腿四頭筋よりも筋肉の肥大が起こりやすいという結果でした。最後に3点目として、トレーニングによる筋肥大の同一筋内の部位差はその筋の筋活動の部位差に起因し、またトレーニング動作によって筋肥大の部位差のパターンが異なると示されました〟と締めくくった。

 

最後に川上泰雄学会副会長から〝今後の学会の発展のためにも活発な研究が必要です。学会誌にもどんどん投稿して、論文という形でエビデンスを残す努力をしていっていただきたい〟と閉会の辞が述べられ、本学術総会は運動器の客観的評価の手段としての超音波エコーの有用性を改めて確認し、常に情報を共有し合うことの必要性を再認識する形で閉会となった。