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日本超音波骨軟組織学会第12回学術総会
平成24年10月14日(日)、大阪市の富士通関西システムラボラトリ4階大会議室に於いて、日本超音波骨軟組織学会第12回学術総会(全国大会)が行われた。
田中和夫学会副会長から開会の辞が述べられた後、山田直樹学会長から〝超音波は柔道整復師にとって武器になるツールです。問診・視診・触診が基本となりますが、その精度を上げるための手段として超音波検査を活用していただきたいと考えています。柔道整復師が大半を占めている当学会に於いて、技術を研鑽して日頃の診療に役立ててもらいたい〟と挨拶があり、学術総会がスタートした。
本学術総会では基調講演として2題、研究発表としては7題が発表された。
「運動器の血管内治療
~血管を減らすことで痛みを和らげる、全く新しい治療法~」
江戸川病院整形外科、慶応義塾大学医学部総合医科学研究センター
奥野 祐次 先生
冒頭で奥野氏は〝血管内治療という言葉を聞きなれない人もいると思いますので、どういうものかデモンストレーションとしてお見せしたいと思います〟として、大腿動脈の中をカテーテルやワイヤーを挿入して造影剤を使って撮影する方法を動画を用いて説明し、〝本来、腱や軟骨、靭帯、付着部は能動的に血管を寄せ付けないような構造・働きかけをしていますが、炎症、組織の損傷、年齢的な変化により血管が侵入してしまうということが観察されています。通常、組織の損傷で増えた血管は日数が経つと減っていきますが、不要な血管が残っている場合があります。このような血管をチエナムという塞栓物質を使って減らす治療を行なっています〟と述べた。
手の関節リウマチの患者の橈骨動脈のレントゲン画像を正常なものと比較すると、関節リウマチの場合は黒くべったりと染まったような場所がいくつか見られる。これはほとんど患者が痛みを訴えている箇所と一致して見られ、滑膜の部分に血管が増えているということを表している。また血液の流れが親指、人差し指、中指と均一に分配されるのではなく、特定部位だけに集中しているという不均衡な状態がある。肩の場合、健常者と比べて関節リウマチの患者は滑液胞に一致して血管が増えている。このような病気の時に出来る血管と出生時に出来る血管では質が全く異なり、病気の時に質の悪い血管が出来ることを病的血管新生と呼んでいる。糖尿病性網膜症やがんなどでも病的な血管が多く出てきてしまうことが知られており、何故このような病的血管が出来てしまうのか、抑えることは出来ないのかということを研究し、正常な血管には影響しないで病的な血管だけ減らすことに成功した。これを将来、糖尿病やリウマチなどの治療に繋げていければと考えている。 として、足底腱膜炎の75歳の女性の治療例を挙げ、炎症が起きているであろう足底腱膜の付着部の部分に認められた異常な血管を塞栓し、痛みもかなり緩和されたと説明した。
繰り返し塞栓を行うと、病的な血管に関しては非常に詰まりやすく再開通しないが正常な血管に関しては時間が経つと血液の流れが再開するという特徴がある。治療後は痛みの評価も非常に良くなるが、塞栓すると痛みが和らぐというのは一体どういうことなのか、痛みと血管がどうしてこれだけ関係しているのかは未だわかっていない。ただ血流を止めることで痛みが減っていくということは間違いなく観察されている。
血管内治療は日帰りで行っており、まず足の治療をするときは大腿部の足の付け根、肘や肩の治療をするときには手首からカテーテルを挿入し、ターゲットとなる血管に近づいて病変を確認し、異常な血管を塞栓する。その後カテーテルを抜いて圧迫して、安静時間は1時間、抗凝固剤内服の場合は4時間安静にするという流れで行う。
海外ではスウェーデンの研究者が10年近く臨床研究を行っており、慢性的な腱炎を主な対象としている。エコーのドップラーを用いて血流を確認しながら注射で硬化剤を血管内に注入して血管を固めてしまう治療法で、この治療をした後にはドップラー信号はある程度きれいに減る。治療後2年経つと、肥厚度合いも腱構造も非常に良くなっているという報告もある。3~4回程治療して半数位の人が良くなるという治療成績だが、この方法では細かな血管は見られないためやり残しもあるだろうと推測される。
血管内治療の対象疾患としては、アキレス腱の炎症やジャンパー膝、シンスプリント、慢性的に痛みが続いている疲労骨折などが挙げられる。また、手術は必要ではないレベルの変形性膝関節症や鵞足炎、半月板損傷、テニス肘も経験しており、そういった血管に起因する痛みは治療対象と考えている。
として、実際の治療前後の写真を比較しながら解りやすく症例を解説した。