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特集

日本超音波骨軟組織学会第28回東日本支部学術集会開催

2012/10/16
筋膜の役割

皮膚の下にみられる浅筋膜は全身を覆っている皮下組織であるが、その厚さには微妙に違いがあり、足背では非常に薄い。それに対して腹部や臀部では厚くなっている。浅筋膜には保温効果があるとともに、皮神経や皮静脈の通路となりその位置を保つ役割も果たしている。さらにクッション役ともなり、外力から筋肉を保護する。浅筋膜の下の伸筋支帯は腱が浮き上がるのを押さえる役割がある。浅筋膜(皮下組織)がありその下に深筋膜がある。深筋膜も全身の筋を隈なく覆っている。深筋膜の役割は、筋の過可動性の抑制、隣り合う筋同士の摩擦の防止などがある。

 

足関節周囲の靭帯の解剖

前距腓靭帯は外果前縁から伸び距骨頚に付着している。足関節が90度の時の前距腓靭帯の走行は、下腿骨に対してほぼ直角に前内側に向かっている。底屈してみると角度が生じる。底屈位では前距腓靭帯が緊張し、踵腓靭帯は弛緩する。反対に背屈位の状態では靭帯の付着部が近づいていることになるため、前距腓靭帯が弛緩し、踵腓靭帯は緊張する。

足関節は内反捻挫が非常に多い。前距腓靭帯を損傷しやすい理由としては、外果よりも内果が短いことによる不安定性、内返しの状態では前距腓靭帯が緊張しているということ、前距腓靭帯が踵腓靭帯と比べて強度が弱いということが挙げられている。ではなぜ前距腓靭帯の損傷が多発するにもかかわらずその強度は小さいのか。言い換えるなら、なぜ踵腓靭帯は前距腓靭帯より強度が大きい必要性があったのかを考える。

靭帯の強度としては、前距腓靭帯や前脛距靭帯は破断しやすく、踵腓靭帯や脛踵靭帯などは破断しにくい。脛踵靭帯は三角靭帯の一部で内果から後ろ側に向かって走行している。後脛距靭帯、踵腓靭帯、後距腓靭帯も後ろ側に向いている。つまり下腿骨に対して、踵骨や距骨を後ろに移動させない作用を持っているのが破断しにくい靭帯であるということになる。次に破断しやすい前脛距靭帯や前距腓靭帯は下腿骨に対して距骨や踵骨を前に行かせない構造になっている。総合すると、強度の大きい二対の靭帯が後方移動を抑制している一方で、強度の小さい一対の靭帯が距骨の前方移動を抑制しているという対照的な結果となる。脛骨や距骨の構造から考えても距骨の後方への動きを制限する形になっている。脛骨の後ろには後脛骨筋と長指屈筋、また腓骨の後ろには長腓骨筋と短腓骨筋があり、さらに距骨の後ろには長母指屈筋が存在している。筋・腱が後ろに配列することによって靭帯を補強する意味がある。歩行の観点から見ていくと、足関節には地面を蹴って推進力がかかる時に一番負担がかかる。これは踵を持ち上げて前に進もうとする力が発生している時である。人が移動する際には、この推進力に対抗する力が足部に加わらなければならない。この対抗する力を発揮しているのは下腿三頭筋、下腿屈筋群であり、これらの強い筋力を発揮することで足部が後方へ移動しないようにするために支えとなる構造が必要であったと言える。この支えがあるからこそ、前に踏み出す力が有効に働く。

したがって、なぜ前距腓靭帯の強度は小さいのか、踵腓靭帯や後距腓靭帯はなぜ前距腓靭帯より強度が大きい必要があるのかという疑問の解答例として、人が移動する際に常にかかる足部の後方移動を抑制する必要があるためではないか。さらに説明するならば、前距腓靭帯が強いと底屈が制限されて下腿屈筋群がその力を十分に発揮できなくなり、人の移動能力が低下するのではないかということが推測される。

 

足関節捻挫において前距腓靭帯損傷が起きやすい理由について、構造を詳細に観察することでわかりやすく解説した講演であった。

 

午後の部では、セミナー講演①「音響工学の基礎とエコーの上手な使い方」(曽山良之輔氏)、セミナー講演②「“運動器のエコー観察”足関節の基本走査法」(坂本哲也氏)、パネルディスカッション「足部外傷の超音波画像例」が行われ、報告された症例に対し、会場の参加者からは活発に質問が投げかけられた。

最後に竹市勝理事により〝本日は足関節を中心に、基本的な解剖から音響工学まで集中して勉強ができたと思います。学会の行事も今年度は10月14日に開催される全国大会を残すのみとなりました。他にはセミナーも数回開催されますが、次のステップを目指して努力していただきたいと思います〟と挨拶が述べられ閉会した。

 

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