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【森ノ宮医療学園専門学校柔道整復学科専科教員・外林大輔氏】
先日、基礎医科学研究を行っている柔道整復師が一同に会する場があり、それぞれの研究内容と柔整教育と柔整研究の在り方について考えると題したシンポジウムが繰り広げられました。私もシンポジストの1人として発表する機会をいただいたのですが、そのなかで“柔道整復師が今後どうあるべきか”の問いに私自身明確な回答ができませんでした。柔道整復師たるもの“ほねつぎ”であるべきということは、揺るぎない回答です。一方でこの理想と実際の現実を見渡すと、大きく乖離しているという現状があることも誰しもが認識していることと思います。これまで骨を接ぐ研修が行われてきた臨床施設においても診療保険点数の改定に伴い、そのシステムも衰退の一途をたどっております。柔道整復師がほねつぎと言いたいが言えない現実があり、将来に不安を感じているのは私だけではないはずです。これが私が明確に答えられなかった理由のひとつかもしれません。しかし、何も派手な転位の高度な骨折を整復することだけが柔道整復術ではないはずです。小児の不全骨折や裂離骨折などをしっかり鑑別し、修復、治癒に向けた環境を管理し治療することがどれだけできるかが大切であり、この辺りの検証をさらに重ね、現在使用されている柔整教育における教科書にも詳細に記載していく必要があるのではないでしょうか。とりわけ、この検証には柔道整復師による柔道整復師のための“運動療法”と“物理療法”の研究を進め、柔道整復の独自性を実証していくことが急務であると考えます。運動療法と物理療法に関しては、多くの柔道整復師が臨床施設や接骨院などで、施術のなかに取り入れている治療方法であります。しかしながら、どれだけ科学的検証に基づき利用されているかは疑問が残ります。特に物理療法においては経験的に、あるいは何となく効く気がする。患者が要求するからなどの目的で使用しているケースも少なくないはずです。物理療法の機器は生体に対して使用する以上、さらに特性や生体に与える影響などのメカニズムを熟知しておくことはいうまでもありません。さらに、その可能性と将来性を模索していく必要があるのではないかと思います。例えば、私が行っている研究のひとつに、低出力超音波パルス(Low-intensity Pulsed Ultrasound:LIPUS)を使用したものがあります。これまでLIPUSは骨折修復を促進することや軟部組織損傷に対し使用しその損傷部位の強度が増すことが証明されてきていますが、関節拘縮モデルにおいて、この機器を介入し治療したところ関節可動域制限を抑制し、関節拘縮に関わる分子の発現上昇も抑制しました。つまり、既存の使用方法に加え新たな可能性を見出したわけです。本研究に関しては、柔道整復師としての視点で基礎臨床融合研究を行うことに理解を示してくださる社団法人兵庫県柔道整復師会より研究助成をいただいております。ただし、まだまだ証明するべき事項は多くありますし、何よりも動物実験レベルですので、実際の人への使用については検証を重ねていかなければなりません。今後、臨床現場で活躍されている柔道整復師の先生方と協力し、専門性を確立していかなければならないと思っております。
最後に柔道整復師がどのような研究をおこなっていかなければならないのかについて述べさせていただきます。世界では多くの研究が行われておりますが、研究を進めれば進めるほど、内的妥当性は高いが一般化可能性が低い研究が多いことに気付かされました。すなわち、研究のための研究になっているということです。そこで私は、内的妥当性も一般化可能性も高い、つまり研究のための研究にならないよう、最終的には柔道整復師の臨床現場にフィードバックできるよう、EBJ(Evidence Based Judo-Therapy)の確立に向け、柔道整復師ならではのOriginality(独創性)、Impact(重要性)、Validity of methodology(妥当性)を常に心掛けながら、柔道整復師が行ってきた、また今後行っていく施術における技術や考え方の正当性を導き出していくことを目指しています。これには研究を行っていく研究機関やマンパワーも必要ですが、何よりも臨床現場の柔道整復師やそれを取りまとめる組織や団体、そして将来の柔道整復師を養成する大学や専門学校などの教育機関、この三角関係における相互協力をこれまで以上に理解を深める必要があります。これこそが今後の柔道整復の道筋を正当化し、柔道整復師全体の底上げを成してこそ患者に対して、あるいは社会に向けての真の貢献であると考えます。
プロフィール
外林 大輔
【学 歴】
【職 歴】
【研究歴】
【所属学会】
日本柔道整復接骨医学会、日本体力医学会、日本臨床スポーツ医学会