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この人に聞く!
【森ノ宮医療学園専門学校柔道整復学科専科教員・外林大輔氏】

2012/08/16

これまで柔整ホットニュースでは、柔道整復大学で活躍されている教育者にテーマを設け、リレー式でご執筆いただいてきた。しかし、近年の柔整教育は4年制大学と3年制専門学校の2極化が進展していることから、大学と専門学校の差別化が加速すると思われる。そこで柔整ホットニュースでは、〝柔整教育の根幹はなんぞや〟という大きな問いかけをテーマに専門学校の教育者、大学の教育者両者に提言いただくことにした。今回の執筆者は、森ノ宮医療学園専門学校 柔道整復学科 専科教員外林大輔氏である。

 

柔道整復師における基礎研究の必要性とその展望

森ノ宮医療学園専門学校 柔道整復学科 専科教員 外林大輔

現在私は、柔道整復師として柔道整復師養成学校の専科教員および大学理学療法学科の非常勤講師をしております。しかし、教員歴としては7年、臨床経験も教員になる前に医療機関と接骨院で数年務めていた程度ですので、まだまだ半人前でこのような場で執筆するには到底及ばない未熟者です。そんな私ですが、研究というものに携わることができる環境と機会があり、今では森ノ宮医療大学において研究員という立場で所属し、普段の業務の合間を見つけ、実験を実施しております。そこで、今回この場をお借りし、柔道整復師における基礎研究の必要性とその展望について述べさせていただきます。

 

はじめに、私が研究というものに足を踏み入れたきっかけは、自身これまで接骨院、整形外科での勤務、専門学校教員を通じて、数は少ないですが様々な体験をしてきました。しかし、このことは単に体験を積み重ねていただけに過ぎず、次に活かすためのフィードバックが上手く出来ずにいました。そこで、「新しい情報を得たい」「自分の基盤となる学問を習得したい」という気持ちが生まれ、もともと興味があった運動生理学の世界へ足を踏み入れました。そこでは、研究が未知の世界であった私にとって新鮮なものばかりで、実験デザインの組立て方、実験機器の使用法、データの処理と解析の方法、そして論文を作成するにあたっての文献検索や英語論文の読解など・・・その当時はいわゆる研究を実施するにあたっての基本的かつ初歩的なノウハウを身に付けることで精一杯でした。また、周りに柔道整復師がいるわけでもなく、研究内容を直接柔道整復学に結びつけることがなかなか難しく、その先のことを考えることができずに過ごしていました。しかし、振り返るとそこで現在の私の研究に対する考え方や継続して取り組んでいくための根性など、研究を進めていくのに必要なベースが築かれたと思います。

 

次に私は、研究内容をどうにか柔道整復学に、臨床現場にいつかフィードバックしたいという思いから、分子生物学の分野に飛び込みました。ここでは現在も行っている、「関節拘縮」について分子生物学的な手法を用いて、そのメカニズムの解明を目的とし研究を進めています。では、何故分子生物学だったのかについてですが、学生時代に学んだ柔道整復学の教科書には骨折、脱臼および軟部組織損傷に対する治療法が記載されておりますが、実際に臨床の場に立ったときに、その治療法を生かせず使えないでいました。その理由として柔道整復師が用いているそれぞれの治療法は科学的な検証が行われておらず、まだまだ手付かずであるものが多く、教科書にも記載されている方法ですら、この検証が必要なことに気付かされました。近年、医科学の分野における“全ての疾患の原因は遺伝子にある”とする革新的な概念が、疾患と遺伝子との関連性を次々と解明してきております。これらのことは運動器においても例外ではありません。すなわち、それぞれの疾患における病態の変化は、さまざまな遺伝子の発現状況に大きな変化をもたらし、また、それが修復および治癒していく過程で他の関連する分子、細胞の動態に影響を与えることになります。そこでその過程における遺伝子の発現などを知ることで、どのタイミングでどんな治療や手技を介入していけばよいのかを実証し、経験的に行われてきた治療法の正当性や新たな展開を検討していくことができるのではないかと考えております。

 

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