柔整ホットニュース

特集

この人に聞く!
【帝京平成大学大学院健康科学研究科講師・小林直行氏】

2012/06/16

これまで柔整ホットニュースでは、柔道整復大学で活躍されている教育者にテーマを設け、リレー式でご執筆いただいてきた。しかし、近年の柔整教育は4年制大学と3年制専門学校の2極化が進展していることから、大学と専門学校の差別化が加速すると思われる。そこで柔整ホットニュースでは、〝柔整教育の根幹はなんぞや〟という大きな問いかけをテーマに専門学校の教育者、大学の教育者両者に提言いただくことにした。今回の執筆者は、帝京平成大学大学院 健康科学研究科 講師小林直行氏である。

 

柔道整復学のすすむべき道

帝京平成大学大学院 健康科学研究科 講師 小林直行

この春、柔道整復学専攻の大学院が2専攻開設されました。柔道整復業界にとってとても嬉しく、明るいニュースであります。これまで短期大学、大学の開校にご尽力された方々がいらっしゃったことで大学院が開設されました。未来の柔道整復師のためにご尽力頂いた諸先輩方に厚く御礼を申し上げたいと思います。

大学院の設置で他の医療職と同様の環境になり、これまでの解剖学やスポーツ医科学の観点から柔道整復を研究するだけでなく、柔道整復学専攻で研究を行う若い熱意を持った柔道整復師が増加し、今後は柔道整復に関する研究が進んでいくでしょう。しかしながら我々以下の年代では、柔道整復学とは何ですかと聞かれた際に答えを出せずにいる者も少なくありません。地域に整形外科クリニックが増加した今日、今一度、柔道整復学あるいは柔道整復術とは何であるか原点に立ち戻り考えてみる必要があると思います。

肩関節脱臼の整復法として、全国柔道整復学校協会監修の柔道整復学では、コッヘル法やヒポクラテス法が記載されております。また、認定実技審査要領においてもコッヘル法やヒポクラテス法が標準の整復法とされております。この2つの整復法を得意とされる柔道整復師の先生方もおられると思いますが、標準整形外科にも記載されているこの2つの整復法を柔道整復術(学)ですることは難しいのではないかと思われます。肩関節脱臼を例に出しましたが、ほかの骨折・脱臼の治療法としても他国の古典的医学の方法が、そのまま柔道整復学の教科書に記載されており、多くのカタカナ表記の整復法や固定法を柔道整復学と言ってしまうのであれば、整形外科との違いが明確に成り得ず、学としての独自性が存在しえません。また、神中整形外科や片山整形外科に記載されている整復法も同様だと思います。

このようなことから、私はこれまで柔道整復の専門性を研究結果として表現するには固定法がいいのではないかと思い、綿包帯を用いてその効果の研究を行ってきましたが、固定法だけではこれまで先達の方々が築き上げてきた『ほねつぎ』という学際的な学問は当然証明できません。

柔道整復の専門性は何か、多くの柔道整復師が一度は考えたかと思われるこのとてつもなく大きな難題の要因は、子弟制度にあったと考えています。肩関節脱臼の整復法においても、実際はこれ以外の独自の整復法を行っている接骨院や整骨院は多々あると思われます。mallet fingerに対する整形外科で行われる石黒法は現在有名な固定法になりましたが、論文として発表することで批判的検証を受け、さらに新しい固定法へと時代は進化していきます。柔道整復では、論文発表を行い医学の世界で闘いをしてこなかったため、よい治療法や整復法、固定法があっても社会に認められずに今日まできたのだと思います。これまで門外不出であった独自の本当の意味での柔道整復の整復法や固定法を今この世に発表し、evidenceを確立するために医学的な批判的検証を受けなければ本来の柔道整復術は衰退していくと思われます。我々、大学、大学院に勤務する教員に与えられた命題は大きく、多くの臨床で活躍される先生方とタッグを組み、共に研究を進め柔道整復の独自性を証明し、専門性を確立していかなければいけないと思っています。

今後、柔道整復がすすむべき道はと考えた際に、WHOがまとめる統合医療や伝統医療といった中に柔道整復を含めることができれば生き残れるかと言えば、私はNoであると思います。国際社会に認知されたとして医学は進歩しますので、その独自性が将来にわたって有益でなければいけません。まず、Judo therapyとしてこれまでのほねつぎの技術を世界に発信していく必要性がありますが、業務範囲という言葉に自分たちの世界を閉じ込め骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷だけを対象としているようでは、今後社会から生き残ることは難しいのではないかと思います。時代の変化とともに関節鏡やMRI、CTなどの診断技術が発達してきた今日では、捻挫は○○靱帯損傷などと傷病名も変化してきました。膝では膝内障などの病名も無くなり、現在は骨挫傷や半月板損傷、関節軟骨損傷などMRI、CTで細かな評価が行えるようになってきています。海外では、医師に準じて活躍をしているさまざまなセラピストがいますが、私は骨折、脱臼、打撲、捻挫、挫傷などの外傷性だけを扱うのではなく、柔道整復師とは聞かれた際に『運動器疾患の保存療法のスペシャリスト』と述べられるようになる方が現代の医療に適しているのではないかと思っています。世界的に認知されている理学療法との違いも明確にしなければなりません。それにはいくつかの問題点があると思います。

私が考える現在の問題点として1つ目は、整形外科などの関連業種と用語が統一できていないことです。そのために同じ土俵に立てず、自ら柔道整復師の地位を下げているように感じます。医療は日進月歩であり、その変化についていかなければ遅れてしまいます。例えば国家試験に出題される疾患としてモンテギア骨折やガレアジ骨折がありますが、整形外科領域での用語ではMonteggia脱臼骨折、Galeaggi脱臼骨折となっています。また、運動に関しても肘関節直角位などの記述もみられますが、肘関節は90°屈曲位が正しい表現でしょう。分類に関しても今日の医療にそぐわないものや、整形外科では使われなくなった分類がそのまま用いられているものも少なくありません。大腿骨頚部骨折では内側骨折、外側骨折にわけられていますが、整形外科ではこの分類は現在使用されず、それぞれ大腿骨頚部骨折、大腿骨転子部骨折なっています。柔道整復独自の分類で、保存療法を行うにあたり有効であるのであればそのままでもいいのかもしれませんが、そのような分類は多くないのではないかと思います。国家試験に出題されているような分類は、他の医療業種と話をする際に本当に有用な分類であるのかどうか、また、世界的にみて正しい用語・分類であるのか今後検討をしていく必要があるでしょう。それには日本柔道整復接骨医学会が主導になり、用語検討委員会を立ち上げ、用語を規定する必要があるでしょう。

 

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