柔整ホットニュース

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この人に聞く!【大東医学技術専門学校専任講師・稲川郁子氏】

2012/03/16

これまで柔整ホットニュースでは、柔道整復大学で活躍されている教育者にテーマを設け、リレー式でご執筆いただいてきた。しかし、近年の柔整教育は4年制大学と3年制専門学校の2極化が進展していることから、大学と専門学校の差別化が加速すると思われる。そこで柔整ホットニュースでは、〝柔整教育の根幹はなんぞや〟という大きな問いかけをテーマに専門学校の教育者、大学の教育者両者に提言いただくことにした。今回の執筆者は、大東医学技術専門学校専任講師稲川郁子氏である。

 

柔道整復師の「差別化」について~研修のススメ

大東医学技術専門学校 専任講師 稲川郁子

私は、柔整学校での教員歴8年のハナタレです。このような若輩者が柔整の教育について語るなど目も当てられない烏滸の沙汰ですが、先輩諸氏のご批判を仰ぐいい機会だと思い、執筆させていただくことにしました。

私は教員となった当初より専門学校に奉職してきました。今年度は大学でも教壇に立つ機会を得、専門学校と大学の双方で学生と学ぶ中で、折にふれ両者の違いについて考えてきました。たった一年、一校で何がわかるという批判を甘受しつつ、考えたことを述べてみたいと思います。

現在、柔整教育界では、大学と専門学校の「二極化」、さらには「差別化」が進んでいるといわれています。(という前提での原稿のご依頼でした。)しかし、たった一年ですが大学の教壇に立ってみて、少なくとも私は、大学と専門学校の学生の質については、どちらが上とも下とも感じることはありませんでした。「差別化」とは、つまり高等教育機関である大学で教育を受けた者が「上を行く」ということなのだと思いますが、現段階ではそのような状況にはないように思います。大学だからといって数多の傑出した学生がいるわけではなく、専門学校だからといって学生の学問的資質が低いというわけでもありません。一般教養科目があり、柔整だけでなく教員やATをも目指せる、つまり幅広く学べるという点が、現在の柔整大学の最大の特徴だと思います。したがって、4年間学ぶといっても柔整以外の領域について多くの時間を割くことになります。さらに専門学校との比較において、柔整大学の柔整分野の教育レベルが格段に高いかというと、必ずしも全てがそうというわけではないように思います。

私は「差別化」が始まるのは、柔道整復学が他の学問領域、とくに整形外科学に対する相対的独自性を明確に持ち、さらにそれが成熟してから、つまり柔整独自の確固たる研究が確立してからだと思っています。大学教員の使命は、この柔整独自の研究を何かの片手間にではなく推進することだと思います。教員はその過程を学生と共有する。それが大学の価値であると思います。教える側が専門学校と同じ内容を同じレベルで教えているとすれば、大学と専門学校の「差別化」は絶対に起こりません。これは、大学で教えるにあたり、私自身が気をつけてきたことです。

現段階での「差別化」は、大学と専門学校の違いではなく、接骨院や整形外科で「研修」したか否か、またどれだけ良質な「研修」を経験したかに起因しています。卒業直後の段階において、研修している者とそうでない者は、技術やコミュニケーション力などで圧倒的な違いがあることはよく観察されることです。また、この現象は試験の成績との相関関係がなかったりもします。

現段階では、臨床現場でも学問領域でも、柔道整復師の相対的独自性はきわめて不明確です。私は、柔道整復師の相対的独自性は徒手整復、つまり「ほねつぎ」にあると確信し臨床と教壇に立ってきました。ほねつぎの技術は、カン、コツ、さじ加減という、自然科学が最も苦手とする領域のものです。したがって、必ずしも明白な学に裏打ちされていなくとも、技があれば治せる場合があったりします。学はもちろん大切で、追究し続けなければならないことです。しかし、学を深化させる前に、まずは柔道整復師として最低限の技を持っていることが重要であると考えます。 そこで重要になってくるのが「研修」の役割です。本物の、生きたほねつぎの技を見ること。現場にしかない暗黙知や先達の価値観を感じ取り身体化すること。これは高度な学問と同じくらい、またそれ以上に重要なことだと思います。試験が課されるわけではなく、留年があるわけでもない。にもかかわらず、「現場の教育力」には、すさまじいものがあります。私は、大学育ちでも専門学校育ちでも、良質な研修こそが柔道整復師の教育、養成にとって、最も大切なことではないかと思っています。したがって、現在の「研修」を忌避する傾向には、歯止めをかけなければなりません。「骨の接げるほねつぎ」は、間違っても一朝一夕に成ることはありません。

 

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