柔整ホットニュース

特集

この人に聞く!【明治国際医療大学教授・中川貴雄氏】

2012/02/01

これまで柔整ホットニュースでは、柔道整復大学で活躍されている教育者にテーマを設け、リレー式でご執筆いただいてきた。しかし、近年の柔整教育は4年制大学と3年制専門学校の2極化が進展していることから、大学と専門学校の差別化が加速すると思われる。そこで柔整ホットニュースでは、〝柔整教育の根幹はなんぞや〟という大きな問いかけをテーマに専門学校の教育者、大学の教育者両者に提言いただくことにした。今回は、明治国際医療大学教授の中川貴雄氏に、自校の教育方針を中心にご提言いただいた。

 

柔道整復師:今後の教育のあり方
柔道整復高等教育の方向性

私は、43年前、柔道整復師の資格を得ました。当時は、柔道整復専門学校の数も14校、養成数も約1000人と少ないため、入学することが難しく、卒業後、開業するにも開業規制があり大変なものでした。しかし、開業すれば、安定した仕事でもありました。現在は、大学を始め、専門学校の数も大幅に増え、100校を超えました。養成数も7000人を超える数になっています。柔道整復だけでなく、鍼灸、理学療法の養成数も大幅に増加しています。
私が柔道整復の専門学校を卒業したときは、まだ柔道整復師はレントゲンを扱うことができ、骨折、脱臼、捻挫を起こせば、「まず、ほねつぎの先生に行く」というのは普通のことでした。ですから、専門学校を卒業後、放射線を勉強するため短大に進学しました。
現在、状況は大きく変化しました。レントゲンは使えません。また骨折、脱臼が起これば、まず整形外科に行く患者がほとんどです。これは、柔道整復の教育機関を卒業し、開業を目指す新しい柔道整復師にとって、大きな問題といえます。

この点に焦点を当てて、これから新しく柔道整復師として仕事をする方にとって何が必要であるか、また教育、特に柔道整復の高等教育に携わっている我々が何をすべきか、考えてみたいと思います。

現在の柔道整復教育に必要なものは、現実に即した教育だと思います。柔道整復の基本である骨折、脱臼の非観血処置の理論および治療技術の習得だけではなく、軟部組織損傷による痛みや機能障害の検査技術および治療技術の習得が必要であると思います。それも、柔道整復師の行うことのできる手技による検査法および治療技術の構築です。新しく柔道整復師になった人が、扱うことがほとんどなくなってきた骨折、脱臼患者だけではなく、より診る機会の多い軟部組織損傷への新しい取り組みです。
一つの提言ですが、これには全国の柔道整復師の先生方からの協力が必要です。様々な軟部組織損傷に関する一般的な検査法および治療技術だけではなく、全国の先生方が行っている特別な検査法および効果のある治療技術を集約し、それをまとめるのです。これによって、新しい分野の柔道整復学を構築することができるのではないかと思っています。
また、あらゆる手技療法を学び、それを取り入れていく柔軟性も必要であると思います。世界の手技療法は、ある特殊な治療法を除けば、よく似た方法がほとんどです。柔道整復の古い操法、鍼灸、日本の整体法、中国整体、カイロプラクティック、オステオパシー、マッサージなどの中に共通した手技が多く見られます。それらのほとんどが、他の分野の手技の長所を取り入れながら、独自の新しい手技を構築しています。柔道整復も、自ら蓄え、培ってきた操法を発掘し、再確認を行っていくべきではないかと思います。それに新しい考え方を加え、柔道整復独自の検査技術、治療技術を構築していくことが大切ではないかと思います。

つぎに必要であるのは、それらの検査法、治療技術の科学的検証です。「やった。」「なおった。」という教育では柔道整復の将来はありません。医療の世界で柔道整復が認められるためには科学的根拠に基づいた医療(EBM: Evidence Based Medicine)の構築が必要です。これは柔道整復の高等教育機関に求められているものであると思います。 これらの研究は、柔道整復学だけではなく、基礎医学、経験を基礎とした臨床技術、その応用分野であるスポーツ柔道整復など、様々な分野で行うべきであると思います。

柔道整復の高等教育は始まったばかりであるため、これらの課題を短期間で解決することができるとは思われません。しかし、これらの課題一つ一つに対して、しっかりと取り組んでいけば、必ず新しい柔道整復を開くことができると思っております。

 

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