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この人に聞く!【了徳寺大学・伊藤 譲 准教授】
3.医療の一翼を担うために
国民から信頼される医療として認められるために重要なことの一つとして,一定以上の医療水準(柔道整復師による医療の質)があります.これはとても重要なことだと思っています.まずは,卒後教育について述べます.先ほど,接骨院は院長先生のパーソナリティーが強いと述べましたが,残念ながら現状では,開業している接骨院の医療の質を評価する仕組みはなく,患者さんの多さが評価として代用されています.もちろん,患者さんが多いということは,患者さんに支持されているわけですから,それはそれで良いことですが,全ての柔道整復師に必須とされるような研修制度や専門制度はありません.すなわち,私たち柔道整復師には現代医療に即した形の医療水準を示す手立てがないということです.全ての柔道整復師の所属を原則とする組織や学術団体等による研修制度や認定制度を制定し,専門制度も確立して保険請求とも関連付けられれば,柔道整復師による医療の質は向上すると思います.次に,卒前教育ですが,現状では各学校単位で様々な取り組みがなされています.これは,日本柔道整復接骨医学会学術大会の教育カテゴリーの発表内容からも見て取れます.しかし,ここでも問題点は同様です.全国柔道整復学校協会という,養成施設をまとめる全国「的」な団体がありますが,これに属さない専門学校や属せない大学があります.各養成施設で教育目標を定め,教育プログラムを開発し実践していくことはとても重要なことですが,一方で,柔道整復師の質を担保するための基準を示す団体の存在は不可欠です.OSCE(Objective Structured Clinical Examination;客観的臨床能力試験)の導入については,評価者の質の問題,模擬患者の確保や養成の問題,OSCEに取り組む組織体制の問題など,そのハードルは極めて高いといえます.しかし,まずは社会のニーズを捉える業界団体,ニーズに応じて客観的根拠を発信する学術団体,ニーズに応じた人材を養成する養成施設という各々の役割を果たしながら協調して仕組み作りに取り組み,機をみてOSCE実施を必須にすべきであると思います.やはり,現代医療に即した形で柔道整復師の質を担保する,各養成施設が共通して用いる評価基準を可能な限り早期に導入することが必要と考えます.2004年以降悲願であった柔道整復師養成施設として大学ができ,今も徐々に増えています.大学には柔道整復師の社会的地位を高めるという使命があります.各々の大学の取り組みや学学連携も推進すべきであると思います. 柔道整復師を取り巻く環境はますます厳しくなるといわれているなか,接骨院においてはライバルの接骨院と競うこと,養成施設においては学生募集や国家試験合格率でライバル校と競うことはもちろん重要ですが,柔道整復師の地位を高め業界を発展させるという観点からは,一丸となるべき時がきたのではないでしょうか.
●プロフィール
伊藤 譲
1969年、大阪府生まれ。
1995年、明治鍼灸大学大学院修士課程修了(鍼灸学修士)。 伊藤整形外科リハビリテーション科勤務。
1998年、新協和病院リハビリテーション科勤務。
2001年、明治東洋医学院専門学校柔道整復学科卒業。 明治鍼灸大学リハビリテーション科学教室助手。
2002年、明治鍼灸大学医療技術短期大学部柔道整復学教室助手。
2004年、明治鍼灸大学医療技術短期大学部基礎柔道整復学教室講師。 大阪医科大学大学院 医学研究科(博士課程)入学。
2005年、明治鍼灸大学保健医療学部基礎柔道整復学教室講師。 柔道整復師専科教員。
2008年、大阪医科大学大学院医学研究科(博士課程)修了(医学博士)。 大阪医科大学基盤医学Ⅰ講座生理学教室・非常勤教員、 了徳寺大学健康科学部整復医療トレーナー学科・准教授(現在に至る)。
2009年、大阪医科大学生命科学講座生理学教室・非常勤教員(現在に至る)
【資格】
柔道整復師、はり師、きゅう師
【所属学会】
日本体力医学会・評議員、日本バイオメカニクス学会、日本臨床バイオメカニクス学会、臨床歩行分析研究会、日本医学教育学会、日本温泉気候物理医学会、日本柔道整復接骨医学会 評議員、学術大会委員会・委員長、日本超音波骨軟組織学会
【主な著書】
1)伊藤 譲(編著):柔道整復外傷学ハンドブック【下肢の骨折・脱臼】.医道の日本,神奈川,2011.
2)伊藤 譲(編著):柔道整復外傷学ハンドブック【上肢の骨折・脱臼】.医道の日本,神奈川,2010.
3)伊藤 譲(編著):柔道整復外傷学ハンドブック【総論】.医道の日本,神奈川,2010.
4)平澤泰介(編),伊藤 譲(分担):整形外科Update運動器の疾患と外傷,Ⅱ部 運動器の疾患と外傷(p.36-212)
5)平澤泰介,田島文博(編集),伊藤 譲(分担):リハビリテーション医療,慢性疼痛とリハビリテーション-複合性局所疼痛症候群を中心に-(p.242-250).金芳堂,京都,2007.
6)勝見泰和(監修),伊藤 譲,荒木誠一:柔道整復師国家試験対策 臨床実地問題から学ぶ柔道整復理論.医道の日本,神奈川,2005.