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この人に聞く!【了徳寺大学・伊藤 譲 准教授】

2011/04/16

1.求められている柔道整復師

教育機関には,アドミッション・ポリシー,カリキュラム・ポリシー,ディプロマ(グラデュエーション)・ポリシーの3つのポリシーがあります.アドミッション・ポリシーは入学者受け入れ方針(教育機関が求める人材),カリキュラム・ポリシーは教育課程編成・実施の方針(人材育成のための教育プログラム),ディプロマ(グラデュエーション)・ポリシーは卒業認定・学位授与に関する方針(教育の目的)です.これらの前提には教育機関の建学の精神や教育理念があり,さらにその前に,設置の趣旨があります.設置の趣旨には社会のニーズに応えるという一面があります.これらを加味して,柔道整復師が養成される過程を整理すると,「社会のニーズ」→「養成施設設置」→「入学試験」→「教育プログラム実施」→「卒業判定」→「国家試験合格」→「生涯教育」となります.既設の養成施設では,上記の「入学試験」から「国家試験合格」までに意識が集中し,特に「社会のニーズ」への意識が薄れていると思われます.接骨院は院長先生のパーソナリティーが強く,臨床的技術は接骨院で獲得するという側面があります.それ故,臨床現場での指導者的立場の柔道整復師の資質が求められますが,それがあるという前提で,免許取得間もない新米柔道整復師に,どの程度の知識と臨床的技量を求めているのか,具体的に調査し,検証する必要があると思います.一方,接骨院に来院する患者さんは,柔道整復師に何をどの程度求めているのでしょうか.これには様々な意見があるでしょう.しかし,患者さんが求めているものを含む社会のニーズが柔道整復師の存在意義を示し,高めるものであることは間違いありません.「社会のニーズ」は養成施設の設置の趣旨に書かれています.国家試験における高い合格率も養成施設における不可欠な命題です.同時に「社会のニーズ」を満たす柔道整復師の養成にもこれまで以上に注力すべきであると思います.「社会のニーズ」を明らかにし,それに応じたカリキュラム・ポリシーを確立しなければなりません.

 

2.教員の資質

学生の皆さんに講義をしていて,単に自分の持っている専門的知識・技術・経験を伝えるだけで終わっていないか,自らに問いかけています.これまで,講義では自分が学んだ知識や技術,経験したことを講義や実技で伝えてきました.しかし,これだけではダメだと思うようになりました.当初,講義をすることで私が得たものは,講義のために一生懸命準備をして,講義をして,話をし,実演したという自己満足にすぎない達成感でした.現在は,講義はどのような柔道整復師を養成するかというディプロマ・ポリシーに従って,講義を受けた学生さんに,「わかった!」という実感を与え,「できる!」ようになるために自ら勉強する気を起こさせることが大切だと思っています.教員に成り立ての頃は自分の興味や疑問点は学生さんとも類似しますが,教員歴を重ねると必ずしも一致せず,隔たりができてしまうことがあります.不幸にもこの隔たりに気付かず講義をしていれば,当然学生さんからみれば興味をそそらない講義になってしまいます.教員は単なる知識や技術の伝道師ではなく,柔道整復師としてプロであり,そして教えることのプロでなければなりません.では,教員の資質を高めるためには具体的にどのようなことが必要なのでしょうか.個々人が教育技法を修得し,教育技術を向上させることとそれを支える研修システムが必要です.全国柔道整復学校協会が行う教員研修会は,その内容は年々向上していると聞いています.私自身はこれまで,何らかの予定の重複で残念ながら参加できていませんが,是非参加したいと思っています.また,日本柔道整復接骨医学会においては学術大会委員会で委員長を務めさせていただいていることから,学会発表のカテゴリーとして柔整教育を3年前から設置しました.発表数は回を増すにつれて増加しており,柔道整復の教育への関心が高まりつつあることも示されています.しかし,これだけでは不十分で,最も必要なものは,どこかの組織を母体とするか,あるいは単独の組織であるかはともかく,専門学校も大学も含むすべての養成施設の教員が参加する教員組織が必要であろうと思います.そして,研修制度を充実させて教員の資質向上を図ることにより,柔道整復師の質を担保することに繋げます.さらに,学術団体(学会)は本来機能として,学術研究報告が集まるわけですから,それらを根拠に各協会や団体に提言することが責務であり,それは教育においても例外ではありません.学術団体(学会)がこのような機能を果たす日が来ることを切望します.