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柚木脩氏、超音波装置使用法について講演
研究の進め方
次に、柚木氏は専門家というものを『高度な医科学的知識に裏付けられた特殊な技能を、特殊な教育または訓練によって習得し、特定の患者さんたちの具体的要求に応じて具体的技能活動(エコー検査や医療技術)を行い、その結果として社会全体の利益の為に尽くすことが出来る知的な専門的職業。さらにその成果として報酬を得ることが出来る職業』と定義し、〝エコーをやる以上は、本当に治ったのか治っていないのかということ、自分たちが行ったことを専門家として成果を公表する、あるいは公表される義務がある。
超音波検査を用いた場合、研究方法の選択が必須となる。縦断的研究、前向き研究、そして介入研究が選択肢として挙げられる。そしてランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)が理想。データの偏りを軽減するために、複数の験者が被験者をランダムに抽出して任意の一群と比較対照群に分けて評価を行う試験で、これが今、一番求められている。医療の標準化の為に、研究の流れとしてはまず関心領域を決定する。そして介入試験、その中でも絞り込み臨床試験から開始する。たくさんの人がそれぞれ症例を持ち寄って、その中で結論を導いていく。最終的には臨床評価が求められる。これができれば超音波画像診断の価値が高まるだろう〟として、具体的に症例を用いながら研究デザイン作成について解説を行なった。
〝関心領域を捻挫で一番多い足関節の内反捻挫とした場合、専門家としては足首の外側の靱帯の治療に対する研究デザインを作成する。そこで研究対象の条件設定が大事になる。捻挫は幅広いため、靱帯損傷の程度をⅠ度(mild)、Ⅱ度(moderate)、Ⅲ度(severe)と分類する。Ⅰ度は筋が伸びた程度、Ⅲ度は完全断裂とする。また条件設定として、損傷タイプというものを学生に教えている。損傷タイプには靱帯実質損傷と界面剥離がある。界面剥離は片方が骨で片方が靱帯で、それが表面ではがれているので保存的治療で治すのは非常に難しい。だから保存的治療を行ったデータということになると靱帯実質損傷に絞ることになる。実質的損傷であればギプス等をあてて運動を禁止して靱帯が治ったことを確認してからスポーツを行うという根治的治療もあるが、保護しながら治療していく姑息的治療でも治癒の可能性がある。
条件を設定したらそこから絞り込み臨床試験で、エコーで証明したものについて研究する。例えばエコー検査で確認できた保存的治療100例について形態的治癒過程の検証をする場合、RCTを組むとしたら任意の一群として20施設から5例ずつを半年くらいに区切って出す。比較対照群としては放置群や手術群から100例を出す。評価方法は任意の一群であれば、初診時、初期治療の数日後、受傷3週間後、8週間後位にエコーを撮る。放置群であれば、初診時と8週間後に撮ること〟として、実際の症例検証結果から外観的に見た靱帯断裂の形態的治癒は8週間でかなり完成すると示しながら、〝形態を見る場合と部分断裂等で線維を見る、或いは治癒過程を見る場合ではエコーのテクニックが違う。力学的強度の再獲得、固有感覚の再獲得が得られているのかという臨床評価はまた別のアプローチが必要と思うが、臨床評価としてスポーツ選手が全く不安なくプレーを出来るようになるには半年くらいかかるのではないか。ただそれを客観的にどう評価するかというのは別の研究デザインが要る〟と述べた。
最後に〝20症例でもきちんとした学会に出すことが出来る。研究の価値も高まるし、学会の価値も高まる。私はエコー習得は特殊な教育だと考えている。ワンタッチで誰にでも写せるものの、どんな画像を撮るのか、撮ってどう読むのか、どう説明するのか、そして治療にどう活かすかという研究デザインの作成が重要だと思う。どうしてもレントゲンを撮らなければならないということもあるかもしれないが、国によっては第一選択はエコーというところもあり、日本は撮り過ぎる嫌いがある。今は放射線も随分と問題になっているので、エコー検査を今後どのように展開していくかというのが突き付けられた課題だと思う。柔整の施術の判断の参考にするために超音波検査を使うことは差し支えないのだから、患者さんにとって価値のあるエコーの使い方をこれからいくらでも出来るだろう。私も手術ばかりする医者だったが、スポーツ選手をたくさん診て保存的治療にも多く携わってきた。今は保存的治療が楽しくて仕方がない〟とエコーの有用性や可能性について語り、さらに活用していこうと呼びかけた。
続いて「橈骨下端骨折のエコー画像」について4人の会員から症例発表およびパネルディスカッションが行われた。
骨癒合のリモデリングに関しては、患者がリモデリングが盛んな成長期の子供である場合は整復の必要があるか否かという議論が交わされ、パネリストとして参加した柚木氏は痛みが楽になるということで迷いながらも整復をすると回答。しかしその一方で〝折れた場所にもよるが、発育急進期よりも前であれば半年くらいで相当自家矯正されるのではないか。むやみに整復をする必要はない〟と意見を述べ、判断の難しさをうかがわせた。
また、初診時には上手く整復出来たと感じていたが、1カ月後にレントゲンを撮ったところ初診時と変わらないような状況になっていたとの報告については、柚木氏は〝時間が経つと筋肉の痙攣が起きてずれてしまう可能性があるので、初診時から24時間経過後に再度レントゲンを撮るのが鉄則〟として、施術をすることとそれを維持することは別であると注意を喚起した。
超音波装置を導入することにより判断の精度も上がり、治療の幅も広がると思われる。また言葉だけではなく画像を用いて説明することで患者も自分の症状を理解しやすくなり、より良い信頼関係を構築することが可能となる。柔整師過多と言われるこの時代だからこそ、向上心を持って研究し学んでいく必要があると大いに感じられる講演だった。