「匠の技 伝承」プロジェクト第4回指導者養成講習会開催される
令和4年2月20日(日)、日本柔道整復師会会館(東京都台東区)において、『「匠の技 伝承」プロジェクト第4回指導者養成講習会』が開催された。今回は整復・固定施術については顎関節前方脱臼の整復・固定、超音波観察については膝関節周囲の観察をテーマとして講習が行われた。
公益社団法人日本柔道整復師会・長尾淳彦学術教育部長は〝柔道整復術公認100周年を記念して、2020年より10年計画としてこの「匠の技 伝承」プロジェクトを立ち上げました。新型コロナウイルス感染拡大によりリモートで講習を行うようになりましたが、今回で2021年度の講習も最後となりました。今後も全国11ブロックで開催される学術大会や講習会等で、柔道整復師のアイデンティティとして骨折・脱臼の整復・固定や超音波観察装置取り扱いの技術を伝承していきます。来年度はリモートでの講習に加え、対面での講習も予定しております。講習を受ける指導者候補の皆さんには各地区で講師として活躍できるよう、講習の進め方などにも着目して受講していただきたい〟と挨拶を行った。
整復・固定施術技術実習
講師:篠弘樹 氏
篠氏は〝はじめにディスポーザブル手袋を装着し、手指消毒を行う。患者はベッドで長座位とし、背部と後頭部を支えるように愛護的に仰臥位にする。患者の後頭部を術者の大腿部の上に乗せ、頚部が後屈しないように術者の大腿部で高さを調整する。脱臼骨頭を確認したら、下顎角に両母指球を当て、他の四指は下顎体部をしっかりと把持する。そのまま力を緩めずに下顎体が滑らないようゆっくりと下方に押圧し、頤部を挙上して整復が完了となります。患者に軽く口を開閉してもらい、弾発性固定があるかどうかを確認することも重要。問題なければ患者にゆっくり起き上がっていただき、投石帯を装着する。投石帯の中央に空けた切込みを頤部に当て、上方の包帯を耳垂の下を通って外後頭隆起の下でクロスさせ、耳介の上を通って前額部で結ぶ。下方の包帯は耳介の前方を通って頭頂部で結ぶ。投石帯は患者による脱着が困難であるため固定用装具も装着します。〟と丁寧に解説した。
続いて各都道府県指導者候補による整復・固定実技に移り、篠氏は押圧する際の角度や装具固定時のバランスなどの技術面の指導のみならず、〝顎関節脱臼は各パーツがとても小さいため、一つ一つの動作を丁寧に説明しながらゆっくり行い。最大のポイントは患者に痛みを感じさせないということであり、そのためにも患者をリラックスさせるように指導できると良い〟等、今後受講者が講師として活動することを念頭に置いた実践的なアドバイスも行った。
超音波観察装置・操作技術編
講師:佐藤和伸 氏
佐藤氏は〝今回は膝関節の大腿四頭筋から大腿四頭筋腱が膝蓋骨に付着する部位、そして膝蓋骨から膝蓋腱、内側側副靭帯の描出を長軸操作で行う。向かって左が中枢、右が末梢となる。膝蓋骨は線状高エコーで描出される。膝蓋骨から中枢に向かって長軸で追っていくと、層状の線状高エコー(fibrillar pattern)が出てきてその下は無エコー域となる。これが関節上嚢であり、一番下には大腿骨がある。関節上嚢は見えない人もいる。また膝関節は関節拘縮が起こりやすいため、等尺性運動を行って膝蓋上嚢が動いているかを観察する。膝蓋骨から末梢に移動すると、向かって左が膝蓋骨下端となり、層状の膝蓋腱が描出される。臨床上注意したい点として、下の脂肪体が高輝度にあるのか、あるいは炎症を起こして低エコーになっているのかを確認する。内側側副靭帯を観察する際は、まず大腿骨内顆を描出すると、その上に低エコーで側副靭帯が見えてくる。大腿骨の側副靭帯は、内顆より後方に厚みを持つが、ランドマークは内顆とします。そこから末梢に移動すると内側側副靭帯が描出され、その遠位が脛骨の内側に付着している様子が観察できる〟とわかりやすく説明した。
各都道府県参加者による実技では、佐藤氏は〝膝の疾患は一度観察を行うだけでも様々なことがわかって非常に興味深い。また、膝関節は伸展位ではなく軽度屈曲とすると描出しやすい〟として、各受講者が描出するエコー画像を確認しながら、より鮮明に描出できるよう関節の角度や入射角等について細かく指導した。
今後の展望として、長尾学術教育部長は〝橈骨遠位端骨折や肩甲上腕関節脱臼は既にリモートで講習を行った内容ではありますが、皆さんに指導者として各地区で活躍していただくためにも、来年度は対面での講習を行いたいと考えています。日本全国津々浦々で骨折・脱臼の患者が診られるように、またコンプライアンスを守りながら超音波観察装置を施術の必須機器となるようにしていきたい〟と述べた。
最後に、公益社団法人日本柔道整復師会・工藤鉄男会長が〝10年をかけた取り組みである「匠の技 伝承」プロジェクトだが、昨年は新型コロナウイルスの影響もある中でリモートという新しい形での開催となりましたが、各々が研鑽を積むきっかけとなったのではないかと嬉しく思います。このプロジェクトは「骨折や脱臼、軟部組織損傷なら接骨院」だと、社会に認知されるようになるための要であると考えています。指導者となる皆さんはその責任を感じながら、地域の施術者にその技術を伝えていってもらいたい。技術の伝承がこの業界の発展につながると信じている。これからも日本柔道整復師会は、より社会に貢献できる仕組みを作るために活動していきたい〟と熱く呼びかけ、閉会となった。
PR
PR