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『公益社団法人日本柔道整復師会第44回関東学術大会神奈川大会』開催

トピック

2024年3月3日(日)、川崎市スポーツ・文化総合センターにおいて、「公益社団法人日本柔道整復師会第44回関東学術大会神奈川大会」が開催された。

第44回関東学術大会神奈川大会
第44回関東学術大会神奈川大会

本大会を主催する公益社団法人日本柔道整復師会・長尾淳彦会長は〝本大会は全国11ブロックで行われる今年度最後の学術大会となる。新型コロナウイルスの影響によって、3年間にわたり対面での各種大会開催が難しい状況が続いていたが、こうして一堂に会することができるようになった。柔道整復業界はこれまで「柔道整復師には何ができるのか」「接骨院はどんなところで、どう患者の痛みを取るのか」といったことを、国民に対し積極的に発信してこなかった。これからの世代の柔道整復師のためにも、来年度は柔道整復の可能性を世に知らしめ、職域を拡大していきたい。本日は明日からの施術、治療に役立つ学会にしていただきたい〟と挨拶。

第44回関東学術大会神奈川大会

続いて、菅義秀前内閣総理大臣から〝皆様には地域医療の発展と国民の健康維持・増進にご尽力をいただいており、心より敬意を表する。昨年、新型コロナ対策も1つの節目を迎え、 かつての日常が戻ってきている。そうした中で、次なる成長を作り出していくと同時に、いかに持続可能な社会保障制度を確立していくかが重要であり、まさに地域医療の担い手である皆様のご協力が不可欠だ。日本の伝統医療として今日までに築き上げてきた信頼を礎に、柔道整復師ならではの専門性をさらに高められ、これからも良質な治療の提供、国民の健やかな暮らしにご尽力いただくことを期待している〟とのビデオメッセージが紹介された。

特別講演『腰痛のある人が腰痛のない人になるためのいい話』
JA神奈川県厚生連伊勢原協同病院病院長 鎌田修博氏

<概要>

第44回関東学術大会神奈川大会

日本整形外科学会が以前、腰痛の有病率を調査したところ、各年代で30パーセント前後腰痛を持っている方がいるということがわかった。2022年国民生活基礎調査でも、男女ともに1番症状として頻度が高いのはやはり腰痛だった。腰痛は急性・慢性に大別され、急性の腰痛は全体の4割ほどでぎっくり腰、腰椎椎間板ヘルニア、圧迫骨折などがある。一方で慢性腰痛は6割ほどで、脊柱管狭窄症、変形性脊椎症などがある。急性と慢性では治療法も異なる。急性腰痛は痛みがあるから曲がっている、慢性腰痛は曲がっているから痛い。また腰痛の治療は客観的なデータだけではなく、主観的・自覚的な部分も大いにある。

慢性腰痛は「3ヵ月以上継続する腰痛」と定義されているが、3ヶ月程度痛みが継続してしまうと、脳内においてセロトニンやノルアドレナリンなどの下行性疼痛抑制系と呼ばれる痛みをコントロールする物質の働きが低下し、わずかな痛み刺激に対しても痛みを強く感じてしまう。たいていの腰痛は1ヵ月もすると治るが、残念なことに6割の患者さんが1年後もまだ痛みが残っており慢性化してしまうという研究データもある。慢性化してしまうと日常生活にも障害が出てきてしまうため、3ヵ月以内に治すことが非常に重要である。

脊柱管狭窄症は、腰部の脊柱管や椎間孔が狭小となり、馬尾あるいは神経根の絞扼性障害をきたして症状が発現したものをいう。椎間板ヘルニアはバウムクーヘンのような形状の繊維輪に亀裂が生じることで腰に痛みが出る。さらに線維輪の中央にある髄核が漏れ出してくると、それが神経にあたり神経痛が生じる。ヘルニアは時間が経つと縮小することもあるため、急いで手術することはない。ものを持ち上げる動作で痛みが生じる場合や立位より座位が痛いという場合は椎間板、起床時や立ち上がる時に痛む場合は椎間関節に原因があると考えられる。坐骨神経痛の有無も大事なポイントであり、坐骨神経痛があれば腰椎椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症であることが多い。坐骨神経痛がない場合は変形性脊椎症、腰部椎間症、圧迫骨折などが疑われる。椎間板ヘルニアの原因としては、労働や喫煙などの環境因子、また近年は遺伝的要因の関与も指摘されている。

子どもに腰痛が出た場合は、過度なスポーツ原因で起こる腰椎分離症が疑われる。腰椎を疲労骨折した際に安静とコルセットによって治癒するが、安静にせずにいると腰椎分離症となり、さらに加齢変化によって腰椎分離すべり症となってしまう。腰椎分離症やすべり症になってしまうと手術するしかないため、腰痛が出たらしっかり安静にするよう指導し、早期に治療することが重要だ。

骨粗鬆症は骨量が減って脆くなり、骨折しやすくなる病気であるが、ただ骨が脆くなっただけでは症状はなく、骨折して初めてわかる。骨粗鬆症になると大腿骨頚部、脊椎、上腕骨頚部、橈骨遠位端などを骨折しやすい。椎体骨折は既存骨折数が多ければ多いほど、発生率も高くなる。また大腿骨を骨折すると、骨折後は50%が歩けなくなり、25%が施設に入所、20%が1年以内に死亡するというデータもある。骨折してもすぐに死亡するわけではないが、骨粗鬆症患者への注意喚起は重要となる。また骨折・転倒は介護の原因となることが多いため、最初の骨折が起きないように予防することが肝要である。

公益社団法人日本柔道整復師会学術教育部講演(ワークショップ)

「匠の技 伝承」プロジェクトについて

公益社団法人日本柔道整復師会 徳山健司学術教育部長

<概要>

第44回関東学術大会神奈川大会

国民皆保険制度の目的は、「いつでも」「どこでも」「誰でも」医療が受けられる公平性を担保するものであり、保険診療で受けることができる治療は科学的根拠(エビデンス)に基づいた最良の医療である。エビデンスとは治療との因果関係を考えるために実験や調査などの研究結果から導かれた科学的な裏付けであるが、柔道整復の分野ではエビデンスレベルの高い論文が殆ど存在しない。世界の主要医学系雑誌に掲載された記事を検索することができるデータベース「PubMed」にも、掲載されている柔道整復師の論文は僅か8本のみとなっている。2002年にWHOに柔道整復術が認知されたにも関わらず20年経っても認知度が全く上がっていないのは、エビデンスとなる論文が極めて少ないことも要因のひとつと考えられる。

柔道整復師が保険による施術を継続していくためには、確かな知識と技術を継承し再現性のある柔道整復術の実現と、後世に伝承できるような教育制度の確立が重要となる。基礎研究や臨床研究などでエビデンスを蓄積していかなければ、柔整施術の平準化を進めることができない。10年計画で始動した「匠の技伝承」プロジェクトも開始して約5年が経過したが、すべての柔道整復師が平準化した技術を身に付けて治療ができるようになることで、確実な統計データを収集・蓄積することができると考えている。我々が経験に基づいて行っている施術も悪いわけではないが、科学的根拠がある施術に向かっていかなければならない。

柔道整復を後世に伝えていくために、柔道整復業界への発信だけではなく異業種あるいは世界へ発信する実力をつけることが必要だ。

エコーを柔整師の手に

公益社団法人日本柔道整復師会 小野博道会員

<概要>

第44回関東学術大会神奈川大会

柔道整復師のエコーの使用については、平成15年に厚生労働省医政局医事課長通知にて「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査については、柔道整復の業務の中で行われることもある」、さらに平成22年には「柔道整復師が施術に関わる判断の参考とする超音波検査は施術所で実施しても関係法令に反するものではない」と通知されている。これを受けて平成29年に日本柔道整復師会は「柔道整復師のエコー装置使用時のガイドライン」を発信している。「患者安全」「医療安全」のためにも、柔道整復施術においてもエコーを普及させる必要がある。しかし柔道整復施術所におけるエコー導入率は10%程度にとどまっている。

柔道整復師は患者を診るうえで「視診」「問診」「触診」の三診を行っているが、ここに「エコーで診る」ことを加えることで、患者に対し病態を可視化して説明ができるようになり、患者も理解しやすくなる。また、三診から病態評価するには経験が必要なため、若い柔道整復師にとっては確信を得られないなど困難であることも多いと思われるが、エコーで診ることにより経験不足を補い、自信を持って施術に当たることができる。

エコーは骨・靭帯・筋・腱・軟部組織の観察に優れている。整復前に損傷のイメージが明確にわかり、正確な整復を行うことができるだけでなく、患側と健側を対比することで患者さんへわかりやすいインフォームドコンセントが提供できる。また、昨今は整形外科においてもエコーを導入する院が増えており、エコー画像を共通言語として患者の情報をやり取りすることもできる。ぜひ実際にエコーを手に取り、その有用性を感じていただきたい。

ワークショップでは、山口登一郎会員による整復実技講習および小野博道会員による超音波実技講習が行われた。

全発表終了後、研究発表者表彰が行われ、本学会は盛会裏に幕を閉じた。

会員発表

  • 鎖骨骨折からのbike life復帰群馬県 樋口弘紀会員
  • 水疱形成を呈した踵骨骨折の一症例茨城県 青木竜也会員
  • 足関節捻挫の腫脹に対する厚紙副子と合成樹脂副子の優位性の検証栃木県 長秀和会員
  • 肩関節脱臼骨折における施術経験と考察について埼玉県 青木実会員
  • 微弱振動治療についての考察山梨県 大竹駿会員
  • エコー画像と身体所見から考察する学童期の投球における肘障害リスクについて千葉県 石橋翔太会員
  • 第5中足骨基部骨折(Jones骨折)1症例のエコー画像とレントゲン画像から見た治癒過程の検討神奈川県 小野博道会員
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