国分寺社会保障推進協議会主催 介護保険学習会を開催!
これからどうなる介護保険制度!
―必要な人がいつでも利用できる介護保険に―
7月22日(土)午後2時から、ホームヘルパー全国連絡会事務局長の森永伊紀氏が本多公民館(東京都国分寺市本多1丁目7-1)で講演した。司会は国分寺社会保障推進協議会事務局長の中山幸子氏が務めた。
最初に森永氏は、〝私が介護の仕事に関わったのは、35歳の時です。それまでは、精神障害者等の作業所に居ましたが、世田谷区役所にホームヘルパーとして採用され、高齢者の方や障害者の方、難病の方、精神障害の方等を訪問しています。当時、介護保険と障害サービスの事業所を直接区役所が行っていましたので、事業者として訪問していました。今は介護サービスが契約になっていますので、契約に繋がらない人が結構沢山います。例えば、虐待の疑いがあって、ご家族がサービスを受けさせようとしない方や「ゴミ屋敷」と言われているような家に住んでいて、放置すれば死んでしまうかもしれないような方を訪問、手伝う仕事をしています。職場では、現在ケースワーカー保健師とチームを作り、必要に応じて生活保護のケースワーカー、地域包括支援センター・警察や消防等の方とも一緒に仕事をしています。今それほど訪問の仕事は多くありませんので、普段は介護保険の認定調査を兼務しております〟等、自己紹介をした。
- 介護は、これまでの生き方・価値観・活動・家族のあり方が問われます
- これは助かる!介護保険で利用できるサービスの一例
- 介護サービス利用のポイントと利用例
- 介護保険は要介護認定を受けケアマネジャーと契約することで利用できます
- 介護保険制度は限界・さらに改悪を検討中
- 当面の取り組みの提案について
介護は、これまでの生き方・価値観・活動・家族の在り方が問われる
私が世田谷の地域で活動をしていて、よく耳にする言葉は、「ボケたらおしまいだ」「あの人脳卒中で倒れて車椅子になっちゃったらしいよ、上手くしゃべれないようになったから、もうおしまいだな」という仲間同士のお話です。皆さんの人生は、これまで一緒に活動してきたお仲間との関係は、介護が必要になったら終わりなんでしょうか?ボケたらおしまいだ、介護が必要になったらおしまいだ、そうなったら身を引くしかない。私たち自身がそう思っている以上、そういう社会しか作れません。介護が必要になっても仲間で居続けられる、活動を続けられる、そういう地域や組織の活動を作らなければ、実際に私たちの生活を変えることは出来ません。社会を変えるということは自分自身も変わるということです。世田谷区は人口92万人ですが、65歳以上の方だけで年間約400人が孤立死しています。誰にも看取られずに死んでいくんです。その中で区役所と地域包括支援センターが毎年把握しているケースは、約80件。この80件の内、6割以上の方が人の世話にはなりたくない。もしくは介護保険のサービスも福祉のサービスも利用せず亡くなられていった方です。つまり、このような自立感が残っている限り、介護保険も利用せず、孤立死していく人たちはなくならないことになります。どんなに介護保険の制度が良くなったとしても、サービスを使いたくない人達が多ければ、誰もが安心して暮らせる社会にはならないということです。
今どういう社会になってきたかというと、「認知症と共に生きる」「病や障害と共に生きる」時代になってきています。世田谷区でも「認知症とともに生き生き希望条例」というのが、世界の流れの中で作られました。認知症にはなりたくないと思っている人が多いと思います。誰だってなりたくないんです。介護保険の認定者は世田谷区では4万2千人いらっしゃいますが、その内の約半分弱の方は日常生活になんらかの支障、介護が必要なもの忘れがあるということが介護保険の認定調査の集計結果で分かっています。今は生きている時間が長くなりましたから、何か1つくらいは病気になる。病気や障害になっても自分らしく生きられるかどうか、病と共に生きていく、もの忘れがあっても共に生きていくという地域や社会にしていかなければならない時代になっています。認知症や障害があっても、その人達がその自治体の政策に参加することが今や条件になっています。障害の施策を当事者抜きで決めてはいけないということがこれまで進められてきましたし、認知症の施策についても当事者抜きでは決めないと世田谷区でも決まっています。これは障害者の方達の運動で、世界の流れとして、〝私たちのことを私たち抜きで決めないで〟というのが大きな運動になり、病や障害があっても自分らしく生きる、参加している団体や地域の仲間で居られるという考え方や活動が求められています。もの忘れがあっても周囲のフォローがあれば活動できますし、車椅子でも利用できる会場があれば参加できます。耳が遠くなったら、補聴器をつけて参加すれば良いのです。世田谷区では私たちの陳情が採択されて来年の4月から補聴器について助成が受けられることになりました。
介護を受けて自分らしく生きるという事例です。
世田谷区には養護学校があり、重度脳性麻痺の方など、障がいの重い方が沢山暮らしています。そういう方達を介助してくれるボランティアを探して介護サービスを受けて、自分の仕事を見つけて地域で活動しています。この方達は介護が必要になったらお終いだなんて考えていません。例えば24時間介護が必要な方が地域で一人暮らしをするには、約70人~80人の介助者が必要で、そういう仲間を集めて地域で暮らしている、それで働いている人も居ますし、地域の活動に参加しています。だから障害が重くなったらお終いだとか、介護が必要になったらお終いだという考えは、その人達が生まれてこなければ良いのにと言っているのと同じになります。偏見の特長というのは、自分が偏見を持っていることに気が付かないことにあります。キチンと自分たちを点検しない限り、自分たちが人を差別、偏見を持っていることに気づくことが出来ません。
私がヘルパーになりたての頃、20代男性で一人暮らしをしている障害者の方のお宅に訪問したことがあります。重度の脳性麻痺で手も足も自分の意志では動かせない。会話はボードに指を当てながら読んだりします。オムツは使わないので、普通のパンツに便失禁をしてしまいます。私の仕事は汚れたパンツを洗うというのがとても大きな仕事でした。お母さんがやってきて、私を見て話しかけてくれました。〝息子も人に迷惑をかけられるようになって自立した〟と仰るんです。話を聞くと〝息子は自分だけでは一歩も外に出られない、介助がなければ生活することも、生きていくことも出来ない。息子は自分らしく生きるために他人に介助をお願いする勇気を持つことが出来た、息子にとっての自立とは、そういうことです〟と話してくれました。他人に迷惑をかけないことが大事だとこれまで私たちは教わってきましたが、そうではなく、迷惑を引き受けてくれる仲間を探す、その人達を増やすことで自分は自分らしく生きていける、それが生きることだったんです。
去年の12月、区議会に介護の陳情をし、福祉保健常任委員会で意見陳述をしました。陳述者の女性は97歳で車椅子、補聴器を付けていますが、区議会で介護を受けている自分の経験を区議会議員の方達に訴えてくれました。私は立派だなと思いました。主権者には定年は無いんです。主権者として生き続けるという姿、そこに偉さを感じます。
これは助かる!介護保険で利用できるサービスの一例
訪問介護・訪問看護・介護予防訪問介護・訪問リハビリテーション・介護予防訪問リハビリテーションについてと介護サービス利用のポイントと利用例、介護保険の審査会、認定はどういうものかについて事例を多数あげて解説した。
介護保険制度は限界・さらに改悪を検討中
まず1番目は、現在の介護保険制度は限界と言うことです。区分支給限度額が低すぎて必要な介護サービスが利用できません。要介護5の方が在宅で暮らそうとすると、ホームヘルパーが1日3回、食事や排せつの介助等で上限です。1日朝昼晩のオムツ交換。要介護5だと自分で食事を作って食べられませんから食事を介助します。歯磨きをしないと口の中に苔がはえて肺炎になってしまいます。これを1時間で行う。1日3回で支給限度額いっぱいです。世田谷区で75歳以上の方の2人に1人は一人暮らしです。65歳以上の人は7割の人が一人暮らしか年取った連れ合いと暮らしています。介護は出来ない、介護者が居ないのが現状です。介護してくれる家族が居なかったら、1日3回のヘルパー訪問時間以外は誰も助けてくれません。夕方6時以降から朝8時までの間に頼もうとすると割り増し料金になります。デイサービスであれば、毎日デイサービスに行って、食事・入浴・排泄の介助を受けられます。朝出て夕方戻ってきますが、夕方から次の日の朝までは、何もないということになります。これでは生活できません。介護保険で要介護5、月額41万円のサービスでもたったそれだけです。だから介護をする家族が居ない限り、経済的な余裕が無い限り、在宅で生活を続けたり、人間らしいサービスを受けるのは困難と言えます。
もう1つは、介護職員の賃金が低すぎて深刻な人材不足です。その内の1つは、ホームヘルパーです。安すぎて人がきません。一方、人気が無いので介護職員の養成校は次々と閉鎖、定員は半分位しかいません。いま介護施設は利用者3人に対して、職員1人の配置基準です。人手が足りないので、実際にはパート・非常勤も含めて利用者2人に職員1人を配置しています。介護施設の7割が1日2交替の16時間連日勤務で職員はヘトヘトです。こんな職員16時間連続勤務でヘトヘトの所に安心して入れるかということです。夜は、20数名をたった1人でみなければなりません。夜間の一人配置は大変危険です。虐待に繋がる可能性が高いからです。ところが、政府はロボットだとか、ITを利用して本人の動きを観察できるので、人員配置基準を今の利用者3人に対して職員1人から4人に対して1人に減らせると言って、有料老人ホームでのモデル事業が始まっています。結局、ロボットは知らせることは出来ますが介護は出来ませんので、人は減らせないと私たちは考えています。
史上最悪の介護保険制度改定7項目は、実は去年の年末に結論が出る筈でした。多くの国民が反対したことと、ウクライナの戦争が始まって43兆円の防衛費をつけるとした、その直後に社会保障費を減らすというのは、内閣の支持率がこれ以上落ちないようにと延期になり、今年の年末までに結論を出すことになっています。子どもたちのため、少子化対策の財源確保のために社会保障の在り方全体を見直すというのが理由です。政府の理由の中に防衛予算の確保は一言も出てきません。
また7つの項目の1つには、2割負担の人を増やすということです。いま介護保険で2割負担の人は高齢者の所得の高い2割以上の人を対象にしていますが、介護保険で認定された人の一部が介護保険を利用していますので、2割負担の人が4.6%、3割負担の人が3.6%で、9割以上の人が1割負担です。政府の示している案は、後期高齢者医療と同じような基準にしたいということです。後期高齢者医療は、高齢者の上位所得の30%以上になっていますが、例えば要介護1の区分支給限度額で上限までサービスを利用している人は1割負担で年間で約23万円です。これが2割負担になれば、年間45万円の自己負担になります。要介護2以上の方は高額介護費という制度で、あまり高くなると払い戻されますが、それでも年間で53万円位になる仕組みです。いま特別養護老人ホームは、部屋代を払っています。前は無料だったんですが、大部屋で1か月約2万5千円(4段階 住民税課税世帯)この部屋代を現在無料の老人保健施設・介護医療院でも徴収するという案です。いま国の保険料は9段階ですが、所得の高い人から保険料を高く取って、その分を所得の低い人の保険料引き下げに使うといった一見良い案です。既に世田谷区は国のいう所得の高い人から保険料を頂くために17段階にしています。すでに多くの自治体で同様の施策が実施されています。これには隠れた目的があり、消費税10%引き上げの際、福祉に使うという約束でしたので、低所得者の保険料引き下げのため、約1500億円の税を投入しています。改正に合わせて、これをこっそりなくしてしまうのが目的です。
もう1つ、介護保険では、ケアマネジャーのお金は無料です。本来は公務員のケースワーカーが行う仕事を民間のケアマネジャーに資格を取ってやってもらっている公平中立な仕事ですので、お金を取ると違ってきます。また要介護1・2の人を市町村がやっている総合事業に移そうということです。今でも要支援1・2は介護保険の財源は使っていますが、全国一律の介護保険サービスではありません。何が変わるかというと、介護保険というのは必要な分だけサービスを利用して、後で保険料を上げたり下げたりする仕組みです。自治体の行う総合事業というのは、元々財源が決まっており、全国一律の介護保険より安く収まる仕組みになっています。そのためサービスの利用料を高くするか、利用時間を短くするか、利用日数を制限することになります。要介護1,2の認定者は要介護1から5の認定者の半分になります。必要な人が対象から外されて自治体のサービスに移って、これまでのような十分なサービスが利用できないということになってしまいます。介護保険の制度改悪を許さない運動と同時に、そもそも限界にきている支給限度額の引き上げだとか、保険料の引き下げ、介護労働者の賃上げだとか、16時間連続勤務のようなことがないような介護施設の人員配置基準の引き上げ等、当面する介護保険の制度改正も併せて運動していかなければいけません。介護保険の動向については、コロナで良くなったことが1つあります。それは、ズームで全国の学習会や集会が見られるようになったことです。中央社会保障推進協議会のHPを見れば全国の学習会が無料でズーム参加で見られるものが沢山あります。学習の機会はいっぱいありますので、まず学習しましょうということです。地域では、自治体に対していろんな陳情や要求を出すことが出来ます。全国どこでも、地域から出来ることをやることが出来ます。ズームで国会集会にも参加できますし、自治体に陳情を出すことも出来ます、等話して講演を終了した。
※世田谷区の例を陳情の資料として配布。レジュメの4番と会場からの質問は省略しました。
PR
PR