HOME トピック 『第33回日本老年学会総会』が開催

『第33回日本老年学会総会』が開催

トピック

令和5年6月16~18日の3日間にわたり、パシフィコ横浜ノース・アネックスにおいて『第33回日本老年学会総会』が開催された。本学会は、第65回日本老年医学会学術集会、第65回日本老年社会科学学会大会、第46回日本基礎老化学会大会、第38回日本老年精神医学会、日本老年歯科医学会第34回学術大会、日本ケアマネジメント学会第22回研究大会、日本老年看護学会第28回学術大会の7学会が合同で開催された。

第33回日本老年学会総会

会長講演
『私の考える日本の老年学の課題と展望』

大内尉義氏(国家公務員共済組合連合会虎の門病院)

大内尉義氏(国家公務員共済組合連合会虎の門病院)

老年医学の歴史として、アメリカでは1942年に老年医学会が創設、3年後の1945年に老年学会が創設された。1950年には現在の国際老年学会が組織されている。日本における老年学も世界と比べて決して遅れているわけではなく、1906年には日本で初めての老人医療専門書と言われる「老人病学」(入沢達吉著)が出版されている。1928年には尼子富士郎により「浴風会調査研究紀要-老年者の生理及び病理研究」刊行が開始された。太平洋戦争の影響もあったが、1956年には日本老年医学会、日本老年社会科学会が創設され、両学会が合同で開催した日本老年学会は、現在では7分科会体制となり2万人を超える会員数を誇る大きな組織となった。

日本は言わずと知れた超高齢社会だが、これに対応するために高齢者の医療・医学をどう発展させるか、高齢者の生活機能をどのように守るか、超高齢社会に対応する社会の仕組みをどのように作るか、少子化で進む生産人口の減少をどう抑えるか等、様々な課題がある。諸問題解決のためには、ひとつの限定された分野だけで対応するのではなく学際的な連携が必要となる。老年学の社会的役割をさらに進めるために、今後、日本老年学会は何を進めていくべきか。

WHO定義である高齢者「65歳以上」は時代に合わなくなってきている。高齢者、特に前期高齢者はまだまだ若く活動的であり、病気にもかかりにくくなってきた。高齢者扱いされることに躊躇することもある。高齢者の若返り現象は今も進んでおり、通常歩行速度、握力は男女ともに数値が上昇してきている。認知機能も改善されてきており、身体的フレイルも減っている。こうしたことから高齢者の定義について、2017年に日本老年学会・日本老年医学会は65~74歳を「准高齢者」、75~89歳を「高齢者」、90歳以上を「超高齢者」として区分することを提言した。この提言以降も75歳以上を高齢者とする定義は一般的にはなっていないが、『暦年齢を物事の判断基準にしない』という意識が世の中に広まった。その例として、2018年に内閣府が出した「高齢社会対策大綱」、自由民主党が打ち出した「人生100年時代戦略」は暦年齢にとらわれないエイジフリー社会を目指す方向に大きく舵が切られており、日本老年学会・日本老年医学会の提言がそのきっかけをつくったと考えている。今後はエイジフリー社会をどのように構築するか、具体的な施策を提言することが必要となる。

私が発起人を務めるスマートウエルネスコミュニティ協議会は、健康長寿を達成するために産官学協働で社会の仕組みを変えていくことを目的として活動している。健康・医療に関するアプローチだけでなくまちづくりやスポーツなど、多様な要因に着目して課題解決に取り組んでいる。まちづくりが人々の健康増進に寄与した典型的な例として、ドイツのフライベルクの試みがある。1970年当時は町の中心地には教会があり車の往来も多い場所だったが、町の中心部への車の乗り入れを禁止し路面電車を敷いた。さらにショッピングモールを建設したことで歩きたくなる街づくりに成功している。歩くことが習慣化され、健康増進に役立ち医療費が削減できただけでなく商店街の売り上げがアップし町の活性化につながった。このように、我々もアカデミアで得られた研究成果を社会実装していかなければならない。

各国の高齢化率の推移をみると日本は急激に高齢化したが、それを追うように韓国、シンガポール、香港、中国やインドなどの高齢化も進んでいる。特に中国やインドは人口が多いためインパクトも大きい。日本老年学会がその手本となるべきだが、世界に情報発信できているかというと必ずしもそうでもない。世界最長寿国として得られた科学的知見や実践を世界に発信していく、あるいは発信力を高める必要があり、そのためにも日本政府や関係機関と協働して進めていかなければならない。

シンポジウム『地域包括ケアにおける在宅看護の役割と展開』

1. 地域包括ケアにおけるケアマネジメントの役割と展開

服部万里子氏(渋谷介護サポートセンター)

服部万里子氏(渋谷介護サポートセンター)

ケアマネジメントを行うケアマネジャー(介護支援専門員)という資格は、2000 年の介護保険制度導入に伴って創設された。要介護認定を受けるためには自己申請が必要であり、主治医の意見書と市町村による認定調査の結果をもって介護認定審査が行われる。一人ひとりが受けるサービスの量については、ケアマネジャーがニーズや地域の資源に応じてコーディネートしている。ケアマネジャーになるには保健医療・福祉で5年以上の実務経験がある者が介護支援専門員実務研修受講試験に合格する必要があり、さらに6年ごとに資格更新を行わなければならない。現在、居宅介護支援事業所には、管理者として主任介護支援専門員を置くことが義務化されている。

こうしたなかで今年2月に総合確保方針の改正案が出され、全世代型社会保障、持続可能な社会保障制度を作るため「地域完結型」の医療・介護体制の構築が進められている。地域医療構想の中で病院の機能分化と在宅のかかりつけ医との連携の強化、人材確保には「介護助手」の活用など専門以外の活用が求められている。地域包括ケアにおいては介護サービスだけではなく、住まい・生活・医療・認知症施策を一体的に進める。人生の最終段階という局面で、利用者がどう生きるか?ということに関して、利用者本人だけでなく関係する家族や医療職・看護職を含めて何度も話し合いながら本人の希望を実現しようという方向になっている。今年4月からはケアプランデータ連携システムが導入され、今まで郵送で行っていたケアプランのやり取りや国保への報酬請求などがデータで管理できることになる。

しかしデータ管理以上に、その人のニーズの変化や家族との関係などといった個別的な部分まで明確にすることが重要と考える。介護サービス利用者の75%が在宅だが、介護が必要になる原因のトップが認知症であり、独居も多い。こういった方々に対する利用者自己決定支援が課題である。地域あるいはケアマネジャーが個々の利用者のニーズを引き出して、希望する生き方・生活を支援していくために専門多職種の連携、介護保険以外の地域の多様な支援体制を構築することが必要である。

2. 地域包括ケアにおける看護の役割と展開
-急性期病院から住み慣れた暮らしの場への移行支援-

石橋みゆき氏(千葉大学大学院看護学研究院)

石橋みゆき氏(千葉大学大学院看護学研究院)

地域包括ケアシステムを構成する医療・介護・予防の場には必ず看護職が存在している。地域包括ケアにおける看護の役割としては、ケアの継続を見据えて高齢者の心身の機能をアセスメントし、多職種と協働して高齢者の機能回復・維持のために最適な療養環境を整えることであると考える。特に医療と介護をつなぐ役割として、医療の継続と生活支援を視野に入れた退院支援をどのように推進していくかが課題となる。

転換期として平成18年に行われた医療制度改革が挙げられる。患者の視点に立った安心安全で質の高い医療が受けられる体制の構築が政府の方針として示された。切れ目のない医療を提供するために、医療の連携をもって在宅を支援していくためには生活面もセットで支援しなければならない。

急性期病院における退院支援のためのアセスメント視点として、本人の病状と今後の見通しが非常に重要となる。急性期病院では看護師が入院中に本人と家族に対して、疾患や障害の種類別に、退院後の食事・服薬・運動・日常生活の過ごし方などを、個別に教育指導する退院指導を行う。高齢者の場合は急性期病院から退院しても施設等に移行する例が多い。このような場面で、今現在のことだけではなく今までどうしていたか、今後どうしていきたいかを考えると次の療養の場の選択ができる。現在の高齢者を理解するには入院前のその人の生活や状態を考える必要がある。独居の方も増えているため、ケアマネジャーが入院前状態をしっかり把握されていて助けられた例もある。

退院支援に係る一連の看護技術の体系化を試みたところ、全国の18病院48名の看護師へのインタビュー調査により、合計21の退院支援に係る看護技術が見いだされた。ソーシャルワーカーや理学療法士もこの21の技術を用いて退院支援を実施していることが明らかとなってきている。

高齢者が可能な限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、すべての看護職者は医療と介護の連携推進、医療モデルと生活モデルをつなぐ役割があることを認識し、どこにいても協働する多職種とともにつなぐケアを実践することが重要となる。

3. 地域包括ケアにおける在宅医療の役割と展開

山中崇氏(東京大学大学院医学系研究科在宅医療学講座)

山中崇氏(東京大学大学院医学系研究科在宅医療学講座)

生活をしていれば人の数だけ生活があり、それは支援が必要になった場合も同様である。医師は医療の専門家ではあるが、社会とのかかわりを持ちながら家庭の中で生活している人を捉えるうえで、病気を診るだけでは問題は解決しない。関わりのある人たちと連携して支えていく必要がある。最終的に、一人ひとりの生き方に寄り添うことが究極の目標であるように思う。地域包括ケアはこの全体像を表しているのではないか。在宅医療には医学・看護学をはじめ、社会学、人文学等、様々な視点が必要となるが、これらをすべて統合するのがケアマネジメントだと考えている。

在宅医療や訪問診療を受ける人の大半が75歳以上だが、現在80~90歳で在宅医療を受ける人が増えている。特に女性のほうが訪問診療を受ける割合が高い。在宅医療には自宅で受ける場合と施設で受ける場合に大きく分けられるが、施設の割合が増えてきている。これから5年、10年先を考えると、85歳以上の女性で施設でケアを受ける人が非常に増えてくるのではないかと予測している。

一言で在宅医療といっても、持っている疾患や介護のニーズの程度等によってアプローチの仕方は異なる。高齢者は複数の疾患を抱えている場合が多いため、長期的(6か月以上)に在宅ケアを受けることが見込まれる高齢者を追跡し研究を進めている。そこで在宅医療開始に最も関係があった疾患は認知症であった。次いで心不全、循環器疾患、脳血管疾患などが続くが、診断名に認知症が入っている人が半数近くいる。認知症の可能性がある方を含めると92%を超える。つまり長期的に在宅医療を受ける高齢者の多くが認知機能が低下していると捉えて支援しなければならない。一方で85歳未満の場合は疾患により在宅医療が必要になっており、病気の管理が重要な集団となる。

在宅医療を受ける人は、医療的支援が必要であるのは勿論のこと、同時に生活を支えなければならないという側面もあるため、医療者だけで成立させようとしても不可能である。医療だけでも介護だけでもなく、その2つをつなぐケアマネジメントが重要となる。多職種が連携して支えていく必要がある。

3講演の後、会場からの質問等に対して演者がそれぞれの想いや考えを述べ、活発な意見交換が行われた。

座長は、株式会社フジケア/日本ケアマネジメント学会・白木裕子氏と、演者でもある千葉大学大学院看護学研究院・石橋みゆき氏が務めた。

Visited 31 times, 1 visit(s) today