HOME トピック 『核兵器のない地球のつくり方』~戦争ではなく平和の準備を~

『核兵器のない地球のつくり方』~戦争ではなく平和の準備を~

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去る8月26日午後1時30分からあきる野ルピア ルピアホールにて川崎哲氏の講演が行われた。主催は、あきる野市中央公民館・市民企画講座、企画は「もうひとつの平和の会」のコラボで行われた。

ピースボート共同代表・ICAN国際運営委員 川崎哲氏
ピースボート共同代表・ICAN国際運営委員 川崎哲氏

川崎氏は、〝私は、平和の問題に長く取り組んで参りましたが、核兵器をめぐるこれまでの状況や今の状況についてお話しします。「核兵器のない地球のつくり方」と書いてありますが、結論的にいいますと、私は核兵器をなくすことも戦争をなくすこともできると確信しています。理由は簡単で、核兵器も戦争もまるで合理的ではないからです。問題を解決するためにということで戦争を行うが、問題の解決にはならないので全く非合理的で間違っています。最低限の軍備が必要だと主張をする方がいるかもしれませんが、核兵器は全人類を皆殺しにする兵器で、核兵器の合理性はどこにもありません。それを持ち続けることが誤っていますし、失くせないだろうと思っていること自体が誤りです。世の中、合理的な方向に良くなってきた訳です。核兵器禁止条約が出来ても核兵器を持っている国があれば、意味がないという人もいますが、例えば歩きタバコ禁止条例もできています。悪いことだからと禁止する、禁止条例を作ることによって、これは迷惑だと思った人が、辞めてくださいと言えるようになる。核兵器という過ち、或いは戦争という誤った行為を仕方がないものだとして受入れなさいという様々な仕掛けや圧力がありますが、私はそういったものに一人一人がそれを拒絶していくことで世の中は自然により良い合理的な方向に動いていくだろうと思っています。

今年のG7サミットについて触れておきます。多くの報道がされ世界に響いたということには意味があったと思いますが、しかしそこで出された「広島ビジョン」とよばれる文書について、ICANは厳しく内容を検証しました。

核兵器のない世界を理想と表現したが、理想と書いてあるけれども、そもそも核兵器を廃絶するというのは国際法の義務です。その義務を達成するためにどういう行動をとるかという約束がここになかった訳で、且つ今ロシアがウクライナに行っているような核兵器の脅しを批判し、ロシアに核兵器を使用させてはならないというメッセージは強かったが、自分たちの核兵器については武力行使の抑止であるから正当であるという言い方をした訳で×をつけなければいけなかったということです。ロシアの核はダメだけど、自分たちの核は大丈夫というようなことでは、広島に落とされた核兵器の被害災害というものをきちっと認識した上でのことだとは言えないのではないか。

今でも世界には12500の核兵器があると、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)のHPにも数字が出ています。その9割はアメリカとロシアの核で大体半数ずつ持っています。それ以外の7カ国、イギリス・フランス・中国・インド・パキスタン・イスラエル、一番切実に感じるのは北朝鮮と日本の皆さんは思うかもしれませんが、全体としては12500あり、その9割がアメリカとロシアにあるということを押さえていなければならない。中学2年生の時に私は初めて父親に連れられて広島に行きましたが、丁度この頃が世界で核が一番多かった1980年代半ばで、7万を超えていました。何故かというと、1945年に第二次世界大戦が終わってからアメリカとソ連が核の軍拡競争をずっと続けてきたために7万発になってしまった。これはいくらなんでも多すぎる、核戦争が始まったら大変なことになってしまうとアメリカとソ連の指導者たちが気付いて、軍縮を進めなければいけないとなり、1989年に東西冷戦が終わったことで90年代前半に核軍縮が劇的に進みました。

しかしながら2000年代半ばから、核兵器を持つ国々は減らすのを遅くして、今横ばいになっていますが、このままいくとまた増え始めるのではないか、核軍拡に戻るんじゃないかという意見もあります。いずれにしても7万発~12500に核は減ったけれども、1万以上ある訳です。今の核兵器は当時の核兵器に比べると数十倍から100倍以上の威力があります。それが使われる可能性が高まっている。しかも私たちが今直面しているのは、核を持っている国のリーダーが信用できないということです。ロシアのプーチン大統領をみてください。或いはアメリカのトランプ前大統領は、議会の襲撃をそそのかして刑事告訴されている人です。その人が次の選挙でもう1回返り咲くかもしれないと言われているような状況で、こういう人達が、核兵器のボタンを持っているというのが今の世界の現状であり、核が使われるリスクが高まっているという判断に繋がります。核兵器の使用を現実のものにさせないで、核兵器をきちんとコントロールしてなくしていくための取組みは様々なテーマで行われています。

NPT核不拡散条約が1970年に発効となり、その中で米・ロ・英・仏・中の5カ国は核兵器国として定められ、それ以外の圧倒的多数の186カ国は非核兵器国として核兵器を持ってはいけない。つまり核兵器を持つ国をこれ以上増やさないということがこの核不拡散条約の一番の主眼ですが、核兵器を持っている国は核軍縮を行う義務があるということも定められています。このNPTは、いま持っている5か国にずっと持っていて良いと言っている訳では全くない。むしろこのNPTという条約の下で、5年毎に開かれる再検討会議の中で、核兵器を究極的にはなくすという約束、或いは核兵器を廃絶するのを達成するという明確な文言が1990年代、2000年代に核兵器保有国も含めてなされています。2000年度にそういった約束がなされたにも関わらず、5年毎の見直しでは、合意がゼロになるという状況になってしまった。このままではいけないということで、2010年に核兵器が使われた場合の非人道的な結末への深い憂慮として核兵器禁止条約に留意しましょうという合意がなされました。2010年の合意が起点になり、新しい「核兵器禁止条約」が作られました。

2007年に出来たICAN核廃絶キャンペーンは、110カ国から650の団体と11の執行部が運営を決めており、実際に核の非人道的に関する議論を活性化したり、話し合いを前に進めてきました。世界で核兵器の非人道性が重要なキーワードになっている時に、私たちは日本で同じ人間なのに被爆者になった非人道性という言葉の中身をきちんと伝えようとしてきた訳です。こうした被爆者達の声が、核兵器と禁止条約の成立の背景にあります。実は核兵器を持つ9つの国と核兵器保有国の傘下にある国々は、殆どがこの条約交渉をボイコットしました。第1条に、核兵器を全面的に完全に禁止すると書いてあり、全面禁止というのは、核兵器を作ることも持つことも使うことも、使うと言って脅すこともそれらに協力することも、いかなる場合も禁止する。第4条には、核兵器を持っている国が今後この条約に入ってきたら、どういう段取りで核兵器をなくしてもらうかについて。第6条には、核兵器の使用、主に核実験の被害者への援助。これらが核禁止条約の一番のポイントです。

これを作ることに貢献したということで、この年にICANがノーベル平和賞を受賞し、ノルウェーのオスロで行われた式典にICANの中心的なスタッフやメンバー達が参加し、私も参加しました。(中略)

いつ終わりになるんですか?というのは、ある意味で私たち次第です。私たちがどれくらい一生懸命にやりたいのかということだと思います。例えば核兵器禁止条約にアメリカは入っていません。日本も入っていません。しかしアメリカの銀行も日本の銀行も入っています。具体的に核兵器は非人道的だという批判が起きると、非人道的な核兵器を作っている企業を非人道的な行為と評価するのと同じです。化石燃料を殆ど使用しているような会社には投資できない。むしろ再生可能なエネルギーで行っているような会社に投資する。こういう一連の社会的責任を考えた投資、或いはSDGsを考えた投資等、世界的にそういう状況になっています。何が言いたいかというと、禁止条約の効果は出てきています。

非人道に関する国際会議では、被爆者の発言のみならず、被爆三世の方が話をしています。被爆者の平均年齢はいま非常に高くなっており、直接自分の言葉でお話ができる時間は本当に限られています。若い二世や三世の役割というのは、国際的にも注目されている訳です。この会議に日本政府は、条約契約会議には参加しないという立場を表明していたので、日本の学生たちがおかしいじゃないか参加してくれという署名を集めて日本政府の代表に詰め寄っていることも報道されました。この非人道的に関する国際会議では、オーストリアが議長を務めました。議長のまとめとして、ロシアによる核の威嚇は核保有国による戦争開始を後押ししている、よって核抑止に基づく安全保障というのは、持続可能じゃないということを結論付けており、まとめとしてとても重要です。その翌日、核兵器禁止条約の第1回締約国会議が開催され、この冒頭で世界の核被害者を代表して発言したのはカザフスタンの男性です。カザフスタンは、過去400回以上の核実験の放射能の影響で、多くの人達が健康上の被害を被りました。カザフスタンはこの条約にいち早く署名し批准しました。日本は、唯一の被爆国という言い方をしますが、これは正確ではありません。日本は戦争の時に核兵器を受けたということで言えば唯一の被爆国ですが、戦争以外で核兵器は物凄い数、2000回の核実験が世界では行われてきている訳で、そのことによって被爆者が出ているのです。つまり、この歴史的な核兵器禁止条約の第1回締約国会議のオープニングで発言したのは日本ではなく、カザフスタンの核のヒバクシャだったということは、私たちはよく知っておくべきだろうと思います。

約80カ国以上から約1000人の参加、この中にはオブザーバーも含まれています。オブザーバー参加の主要な国としては、ノルウェー、ドイツ、オランダ、ベルギーで、この4カ国は北太平洋条約機構(NATO)の加盟国ですから、アメリカの核の傘下にあり、日本と同様に二国間の条約の中でアメリカと同盟関係を結んでいます。それ以外では、スペイン・フィンランド等もオブザーバー参加をしています。残念なことに広島選出の岸田首相は核兵器の廃絶を目指すと言っていますが、ここにオブザーバー参加すらしなかった。一方、市民は多く参加し、若い世代がこのウィーンの会議に多数参加をして、SNS等を駆使して世界に発信するということも行っていました。この会議では、最後に宣言が採択されました。直ぐには難しいけれども、核兵器を廃絶するまで前に進むんだという、とても力強い言葉が含まれています。この宣言が出たということだけではなく、具体的で様々な行動が始まっていることも強調しておきたい。例えば、今年の11月末から1週間の間、ニューヨークで開かれる第2回の締約国会議に向けて、条約の普遍化、核被害者援助と環境回復、核兵器の廃棄の検証といった具体的なワーキンググループが立ち上がって会議を進めています。また核兵器とジェンダーの関係について、核兵器禁止条約の中で議論が始まっています。放射能による被害は、医学的な見地からいっても社会的差別等の見地からいっても女性に非常に偏っているにも関わらず核兵器に関する政策の意思決定等は殆ど男性が支配するような会議であり、それを変えていかなければなりません。

まとめ

核抑止力という考え方が抜けない人はたくさんいます。核抑止力は現実的には仕方ないんだという人のために、私は次のことを考えてくださいと申し上げたい。

1つ目は、道徳性、核兵器を本気で使うという判断ができるはずがないということ。広島や長崎に何が起きたかということを知っている私たちが、そのあやまちを繰り返すことはそもそも道徳的に許されない。2つ目は、実効性。事故が起きる可能性もありますし、核兵器が発射された、ミサイルの燃料が漏れて爆破したがたまたま爆破しなかった、ということも報告されています。3つ目は伝染性。核兵器を持っていたら安全となれば、「我も我も」と核兵器を持つ国が増え、かえって危険度が上がります。4つ目は結果責任。間違って核抑止が破れてしまって戦争になり核戦争になってしまったら、いったい誰が結果責任を取れるんですか?誰も取れないんです。

2019年、ローマ教皇が長崎・広島に来られた時に〝核兵器の使用も保有も倫理に反する〟と世界に言ったのです。使用は勿論のこと、保有もいけないということを2回繰り返しています。

2年前にピースボートとICANの共催で核被害者フォーラムというオンラインのフォーラムを行いました。日本だけでなく全世界の核の被害者の証言を集めたオンラインの国際会議でした。核を使用しなければ保有はしていても良いという抑止論に立てば、こういった被害者は一斉無視されてしまうのです。保有をするために核実験を行うのですから。アメリカでも国内で核実験は行われており、アメリカにも核の被害者は存在するのです。更に2022年夏のNPTの会議で、18歳のウクライナの女性が語ったことは、ロシアの核の威嚇によって我々は犠牲になっているということでした。ロシアはウクライナに対して核兵器を使っていませんが、核兵器を使うと脅しながら戦争を続けているために、彼女の家族や同胞たちは傷つけられていると力強く訴えたのです。つまり、核兵器を使用していないけれども威嚇の犠牲者であると。核を抑止のために保有しておくという考え方は、全ての犠牲者を無視することによって成り立っているのです。私はそういう抑止論を認めることはできないと考えます。

そして、国連は様々な課題を扱っており、その中で一番重要なことは、紛争は国家間で平和的に解決しなければならないということですが、いま戦争が続く中で、国連の国際法の役割自体を軽んじてしまうような議論が増えており、大変良くないことだと思っています。核兵器禁止条約は、核兵器を一瞬にしてなくせる訳ではない、国連は戦争を一瞬にして全部無くす訳ではない。それは現実です。しかし、そういった決まりごとがなくなってしまったら、世界はより混沌としておかしくなります。やはり国連には国際法があり、この国際社会で何が許されるのか、何が許されないのかということをきちんと条約や、権利で明らかにすることが、この世界の秩序を形作るのです。日本も今は、アメリカの核の傘の下にあるけれども、それを乗り越えて朝鮮半島の南北共に、中国や極東アジア、またアメリカも協力する形で非核化への道を地道に目指して頂きたい。モンゴルの市民団体をモンゴル政府が後押ししています。モンゴルという国は、核を保有するロシアと中国に挟まれています。しかし自分たちは持たないということを宣言し、しかも韓国や北朝鮮とも対等に外交関係を結んでいます。

最後に核兵器禁止条約に日本に参加してもらうには、具体的にはどうすれば良いのか。

日本はいかなる場合にも核兵器の保有に援助や協力はしないということを宣言をすることが大事です。日本は核兵器について、我が国はNATOの進行は出来ませんと通告すれば良いだけです。冷静な判断を日本の政治家が言わなければいけないということです。日本の政治家たちの禁止条約の賛同はどのくらいあるのかということをサイトで見られるようにしていますから是非ご覧になって頂きたい。この禁止条約に参加してもらうために、本格的なサイトを来年に立ち上げようと準備をしておりますし、クラウドファンディングもやっております。ご協力いただければと思っております。〟と述べ、終了した。

(この後のディスカッション部分は省略)

核兵器をなくすための「日本キャンペーン」を始めます。
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川崎哲(あきら)氏

ピースボート共同代表。2017年にノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の国際運営委員兼会長(2012~14年同共同代表、14年から国際運営委員、21年から会長兼任)。核兵器廃絶日本NGO連絡会の共同代表として、NGO間の連携および政府との対話促進に尽力してきた。ピースボートでは、地球大学プログラムや「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」をコーディネート。2009~2010年、日豪両政府主導の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」でNGOアドバイザーをつとめた。恵泉女学園大学、立教大学などで非常勤講師。日本平和学会理事。著書に『核兵器 禁止から廃絶へ』(岩波ブックレット、2021)、『核兵器はなくせる』(岩波ジュニア新書、2018)、『僕の仕事は、世界を平和にすること。』(旬報社、2023)など。2021年、第33回谷本清平和賞受賞。

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