『公益社団法人日本柔道整復師会 第43回関東学術大会山梨大会』開催
2023年3月19日(日)、富士五湖文化センター(山梨県富士吉田市)において、『公益社団法人日本柔道整復師会 第43回関東学術大会山梨大会』が開催された。
主催者である(公社)日本柔道整復師会・伊藤述史会長は、今年2月に発生したトルコ・シリア大地震の被災地における救護活動について〝JICAの医療救護チームの一員として、当会会員の先生が救護に携わっている。骨折・脱臼をした患者に対して整復・固定を行っているが、固定材料もないため段ボールなどで代用しているという。施術を受けた被災者は、涙を流しながら日本の技術は素晴らしいと喜んでくれたと報告があった。JICAの担当者には「WHOのリハビリセクションに柔道整復術を登録したい」と言っていただき、そのために準備を進めている〟と報告した。そのうえで〝我々が一番大事にしなければならない無血療法、骨折・脱臼の整復をしっかり行って地域医療に貢献していただきたい。夢のある柔整業界を作っていくためにも、学術研鑽を積んでいただきたい〟と挨拶した。
続いて学術部からのお知らせとして、(公社)日本柔道整復師会・森川伸治学術教育部長は〝昨年3月現在、柔道整復師の登録者数は12万人を超えている。しかし就業柔道整復師としては7万5千人程度であり、約4割が柔道整復師として就業していない。施術所数も数年間ほぼ横ばい状態であり、業界の厳しい状況が伺える。日本柔道整復師会では一昨年から「匠の技 伝承」プロジェクトを立ち上げ、柔道整復術を次の100年にどう繫いでいくかを検討している。現在、捻挫・打撲・挫傷が業務における大半を占めているが、応急処置といえども骨折・脱臼の整復・固定ができるのは医師以外では我々柔道整復師だけである。今一度、我々は「ほねつぎ」であるということを再認識していただきたい〟と述べ、「匠の技 伝承」プロジェクトの詳細と日本柔道整復師会主催の学術大会の在り方について説明した。〝我々日本柔道整復師会は、運動器の骨折・脱臼に関して最新の専門的知識と高度の整復・固定技術を有する優れた柔道整復師を養成し、全国的に広く配置されることで骨折・脱臼治療の質の向上と平準化を図り、その結果として柔道整復施術を望まれる国民の負託に応えることを目的としているということを、今一度ご理解いただきたい。今後、業務範囲を拡大し、運動器の痛みと機能回復全てに関われる仕組みつくりをしていくためにも、学術的考察と研究・立証が必要だろうと考えている〟とし、各方面からの協力を求めた。
特別講演『痛みとストレスの関係』
大室産業医事務所代表・大室正志氏
特別講演者として登壇した大室産業医事務所代表・大室正志氏は〝産業医をしていると「何科ですか?」と聞かれることがよくある。産業医は50人以上の事業所で配置義務があり、健康管理や職場の安全衛生全般のアドバイザーの役割を担っている。臓器別の専門に分化している臨床医とはコンセプトが異なる〟とし、自身の経歴や活動について紹介したうえで講演を開始。
脳と神経
神経は脊椎を通る中枢神経、そこから枝葉のように伸びる末梢神経に二分される。さらに末梢神経は体性神経(運動神経・知覚神経)、自律神経(交感神経・副交感神経)に分かれるが、この自律神経がストレスに関与している。ストレスを感じると瞳孔が散大、皮膚の血管は収縮、心臓がドキドキし発汗する。この緊張状態を交感神経優位という。通常は朝から日中にだんだんと交感神経が活動的になり、夜になるにつれて副交感神経優位(リラックス状態)になるが、現代人の多くは寝る直前までスマートフォンを見ていたり仕事をしていたり、交感神経優位になりがちで自律神経が乱れやすい。すると動悸や食欲不振、下痢、頭痛、不眠など、様々な身体症状が現れる。解剖学的には人類は20万年前からほぼ変わっていないが、文明が進化し人類を取り巻く環境は変わってきている。高年齢者雇用安定法により労働期間はどんどん長期化している。厚生労働省の労働者健康状況調査によると、職場でのストレス要因は職場の人間関係や業務の内容、量などの割合が高い。仕事の要求度が高いにもかかわらず裁量権や報酬が少ない場合、特にストレスが多くなりがちである。
痛みとストレス
痛みは「感覚もしくは情動の不快な体験(損傷がない場合もある)」と定義され、3ヶ月以上が慢性疼痛とされる。長く続く痛みはストレス等に関連している可能性があり、非常に複雑な状態であると考えられている。高ストレス者の6~8割は肩こりや腰痛、頭痛などの身体愁訴を抱えている。慢性疼痛は睡眠障害や日常生活活動の制限をもたらし、抑うつなどのメンタル不調等とも合併する。発症してから3ヶ月以内では約7割が自然治癒するが、組織の異常があまりない状態で慢性化する慢性疼痛が問題となりやすい。痛みの種類には、侵害受容性疼痛(身体組織損傷等により起きる)、神経障害性疼痛(神経の病変や損傷で起きる)、痛覚変調性疼痛(痛みの発生に関わる脳の神経回路の変化で起き、体の組織や神経に損傷がなくても生じる)がある。痛覚変調性疼痛は慢性化して改善しにくく、メンタル不調と合併することが多い。不安や恐怖があると痛みが慢性化しやすく、ネガティブな悪循環に陥りやすい。慢性疼痛の評価・対策としてはストレスなどの心理的側面を評価することが重要となる。
ワークショップ:超音波実技講習
(公社)日本柔道整復師会・佐藤和伸氏
ワークショップでは(公社)日本柔道整復師会・佐藤和伸氏による超音波観察の実技講習が行われた。佐藤氏は〝現在、整形外科のエコー普及率が上がってきている。これは患者の「非侵襲であるエコーで診てもらいたい」というニーズが高まっている表れであると思う。柔道整復でもエコーの扱い方を改めて考えていきたい〟と述べ、膝関節の軟部組織損傷の観察法を多数のエコー画像を用いて説明。
〝大腿骨の内果を撮影すると脛骨、内側側副靭帯が見えてくる。内側側副靭帯は浅層と深層に分かれている状態も確認することができる。外側側副靭帯は内側側副靭帯に比べて薄く細いため描出しにくいが、ランドマークとしてはじめに腓骨を撮影すると良い。そこからプローブを回転させると線状高エコーが描出できる。鵞足部では縫工筋、薄筋、半腱様筋が腱の終末として付着するが描出が難しいため、内側側副靭帯を描出してからその上の鵞足部に付着する筋腱を観察すると良い。膝蓋靭帯は膝蓋骨から脛骨粗面にいく層状の線状高エコーだが、膝前部痛ではこの脂肪体(fibrillar pattern)の観察が非常に有用だとされている。膝蓋上嚢は膝を屈伸すると無エコー域が動くことで観察できる。エコーでは硬いものは白く、やわらかいものは黒く映るという考えで良い〟とし、変形性膝関節症、内側側副靭帯損傷について、エコー観察のポイントを解説した。
その後、内側側副靭帯、前距腓靭帯、内側側副靭帯および前距腓靭帯のストレステストについて実技指導を行った。佐藤氏は単なる画像の見方だけではなく、臨床現場における具体的なエコー活用イメージも交えながら丁寧に指導した。
全発表終了後、研究発表者表彰が行われ、本学会は盛会裏に幕を閉じた。
研究発表
- 「固定バンドを使用した鎖骨遠位端骨折の治験例」千葉県 池畑啓作
- 「スポーツ現場における競技復帰へのテーピング」群馬県 平井克弥
- 「急性腰痛における『テコの原理』を応用した持続牽引法」
~12年間の研究報告~栃木県 鈴木勝仁 - 「急性腰痛症に対する当院の取り組み」
―キャスト材による腰部の固定―埼玉県 松林章博 - 「スポーツ選手に発症した第一肋骨疲労骨折の症例」
スポーツ選手の肩甲骨周囲痛はまず第一肋骨疲労骨折を疑う神奈川県 渡部真弘 - 急性腰痛に対する電気刺激による疼痛抑制について茨城県 竹藤憲司
- シリコンを用いた補助具の作製山梨県 上田昭仁
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