(公社)日本柔道整復師会第41回東京学術大会開催される
令和5年9月17日(日)、帝京平成大学池袋キャンパスにおいて「公益社団法人日本柔道整復師会第41回東京学術大会」が開催された。
本学会は、(公社)東京都柔道整復師会・渡部理一副会長の開会の辞で幕を開けた。
主催挨拶として登壇した、(公社)日本柔道整復師会・長尾淳彦会長は〝本日は多くの方に参加いただき、多岐にわたる講演と研究発表が行われる。特別講演・市民公開講座では、医療法人社団JSI八王子ひがし整形外科院長の宗田先生にご講演いただく。ぜひ様々なことを学んでいただきたい。我々は柔道整復師として何ができるのか、接骨院で何をしているのかを患者である国民に対して説明できるようにしていかなければならない。それができなければ柔道整復の未来はない。柔道整復業界を次世代に遺すことは我々の責務だと考えている。若い方々に誇りを持って柔道整復師という職に就いてもらえる業界にしていきたい〟と決意を込めて挨拶。
続いて主管挨拶として、(公社)東京都柔道整復師会・瀧澤一裕会長は〝昨年、東京都柔道整復師会では様々なことがあったが、関係各位の先生方のおかげで、このような立派な学会を開かせていただき、誠に有難うございます。当会では信頼回復を第一と考え、組織の強化を図り、若い先生方のために何ができるか、伝統ある柔道整復術を若い先生方にどう紡いでいくかを合言葉に、日々取り組んでいる。学会は交流の場でもある。ぜひ活発に議論し、良い学会にしようではありませんか!〟と溌溂と呼び掛けた。
特別講演・市民公開講座
「圧痛点から探る下肢痛の保存的治療」
東京医科歯科大学名誉教授/医療法人社団JSI 八王子ひがし整形外科 院長 宗田大 氏
<概要>
同じ病名・疾患でも訪れる患者さんの期待するところは異なる。来院する患者さんに合わせた治療の必要性もある。
膝関節では膝蓋骨上が腫れやすい。膝関節の腫れは中身(性質)を知ることが重要。単純に腫れといっても関節水腫もあれば膝蓋下脂肪体の腫れ、腫瘍など様々な原因があり、早期に対応し悪化させないようにする必要がある。熱感や動かしにくさ、どれくらい困っているのかなどもポイントとなる。経験がなくても、様々な手段を活用することで学ぶことはできる。学ぶことに制限を設けたら学べない。画像にも興味を持って、より新しくより深い知識を得ていただきたい。ガングリオンは組織脆弱性・変性を示唆する。疲労によっても様々な痛みや症状が出てくる。
膝の外傷受傷後の腫れは、血腫であるのか水腫であるのか確認しなければならない。確認ができない状態で漫然と治療してはならない。外傷の受けやすさや損傷の程度、受傷後の経過を確認すること。
関節鏡視下手術が勧められる円板状半月板の損傷は、屈伸で外れるようなクリック音が特徴。この場合は形成縫合術が標準である。同じ手術でも、術後の経過も痛みの感じ方も患者によって違う。膝関節の靭帯損傷では、回旋動揺、伸展時動揺性は放置しないこと。膝窩筋損傷は後外側回旋動揺を生じるが1~2年で改善する。どういった外力を受けて受傷したのか、受傷起点やスポーツ損傷、交通事故、病歴聴取、不安感について患者からしっかり話を聞くことが重要。
膝が痛い患者の多くは変形性膝関節症(膝OA)で、障害部位は内側・外側・膝蓋大腿、軟骨の程度は軽度(欠損なし)であれば一度良くなる。中等度(一部欠損)だと繰り返す。広範囲欠損している高度な場合だと誤魔化しにくく、庇うための疲労が大きくなってしまう。50歳以上の膝OA(Kellgren-Lawrence分類でGrade2以上)患者は2400万人に及ぶ。高齢になると膝の痛みがある人が多くなるのは、年齢を重ねるにつれて膝痛を緩和する力が弱くなるから。膝OAでも大腿部の広範囲に圧痛が出る。圧痛点を解剖学的に理解することが大切。筋腱の付着部や筋腱移行部は、大きな負担がかかるため痛みが出やすい。
診断も治療も易しくはないが、個々の症例を大切にして、ワンパターンにならないようにすること。限界も多い。しかし、できることはたくさんある。
公益社団法人日本柔道整復師会 学術教育部講演
「柔道整復師の今と匠の技伝承プロジェクトの意義」
徳山 健司 氏
<概要>
日本柔道整復師会では現在、匠の技伝承プロジェクトを10年計画で行なっている。単なる技術の継承ではなく、しっかりとエビデンスを持って完成させていかなければならない。
国民皆保険制度についてはご存知の通り、「いつでも・どこでも・誰でも」という公平性を担保していなければならない。そのため医師が行う治療にはガイドラインがある。保険診療で受けることのできる治療は科学的根拠に基づいた最良の医療であり、研究の積み重ねでできたもの。では柔道整復はどうか。養成校を卒業したての施術者とベテランの施術者では技術の差があったり、自分にしかできないという施術があったりとばらつきが見られる。技術を平準化していくためにも、施術ガイドラインを作成する必要がある。
エビデンスとは実験・調査などの研究結果から導かれた科学的な裏付けのことを言う。エビデンスのありかは論文であるが、世界の主要医学系雑誌に掲載された論文・記事を検索できるサイト「PubMed」には、柔道整復に関する論文はたったの8本しかなく、鍼灸や理学療法分野と比べても圧倒的に少ない。柔道整復は2002年にWHOに認知されたものの、認知度が向上しているとは言い難い。柔道整復術を未来に繋げるために、確かな知識と技術を継承し、データを蓄積して再現性を担保すること、後世に伝承できる教育制度を確立することが重要となる。施術ガイドラインはエビデンスに基づいた最適な治療を提示する文書であり、エビデンスの蓄積がない限り、ガイドライン作成や施術の平準化に繋がらない。次世代の柔道整復師のために業界を残していくためにも、熟練者の触圧変化や目の動き等の数値化・定量化など施術の「見える化」を行い、柔道整復術を【アート】のように自分なりのやり方を伝えていくものから、論理的な分析により成立する【サイエンス】へと変えていかなければならない。
エビデンスを構築してこそ、この「匠の技伝承」プロジェクトは完成する。これからも皆様のご協力をお願いしたい。
「エコーを柔道整復師の手に」
篠 弘樹 氏
<概要>
現在、臨床整形外科では、エコーは診療の際の第一選択肢とされ、新規開業する先生の殆どはエコーを使用している。普及率は2014年に41パーセント、2021年には61パーセントとも言われている。
ここで考えていただきたいのは、柔道整復師もエコーを使うことができるということだ。 厚生労働省から施術の補助として超音波観察が許可されているのは周知の事実であり、学校教育でも医用画像としてカリキュラムに組み込まれ、国家試験でも出題されている。これからの柔道整復師にはエコーが必須であると言える。 それにもかかわらず、柔道整復におけるエコーの普及率は未だ数%という寂しい結果だ。我々柔道整復師は、整形外科医をはじめとするその他の医療従事者たちと意思の疎通が取れるこの共通言語を放棄してしまっていいのか。
エコーは使ってみないことには何も始まらない。エコーは骨折箇所や骨折線の方向も観察でき、慣れてくると軟部組織損傷も非常によくわかるようになる。治癒の経過観察にも有効だ。今まで我々柔道整復師が扱える物理療法機器は数多くあったが、検査機器は全くなかった。損傷の状態や治癒の状態を可視化することができるツールを獲得するには、今が絶好のチャンスだ。
この他、神奈川学術交流研究発表1題、一般口頭発表12題、ワークショップ2題が行われた。
全発表終了後、発表者・ボランティア等の表彰が行われ、本学会は盛会裏に幕を閉じた。
神奈川学術交流研究発表
- 内側野球肘における尺骨神経障害について考察公益社団法人神奈川県柔道整復師会横浜中支部 渡部彰朗
(敬称略)
一般発表
- 左大腿骨頚部骨折を見逃した一症例台東支部 千葉接骨院 千葉拓也
- 超音波画像装置を用いて経過観察を行った内側楔状骨単独骨折について練馬支部 山口接骨院 山口雄一郎
- 高齢者に発生した尺骨単独骨折の2症例練馬支部 樽本接骨院 田原悠史
- 高電圧刺激療法ハイボルテージ電流について墨田支部 鈴木貴司
- 手指の蓄積性疼痛及び機能障害への考察荒川支部 岸秀和
- 帝京短期大学における客観的臨床能力試験の試み第4報
―実践的な臨床能力の構築を目指して―帝京短期大学 甲斐範光 - バレーボール救護活動における傷病統計と救護活動を行う際の注意点世田谷支部 沼宮内有司
- 足関節外側靭帯損傷に対する治療成績医療法人社団宏友会栗原整形外科 峯岸優
- 小児による背・腰部痛の原因と症例日本柔道整復接骨医学会物理療法分科会 板橋支部 藤原智也
- 外側上顆炎の自己経過観察中に肘外側側副靱帯を損傷した5例北多摩支部 ふかさわ接骨院 東京医療専門学校 深澤晃盛
- 肩関節脱臼Hippocrates法の歴史的伝承について
―成書からその伝承を探る―東京有明医療大学大学院 Batdulam Battulga - 新型コロナウイルスが私達に残した教訓日本柔道整復接骨医学会物理療法分科会 板橋支部 藤原祥了
(敬称略)
PR
PR