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酒田塾・酒田達臣先生と小粥博樹整形外科医とのビッグセッション

トピック

シンポジウム

〝プライマリケアの視座から、何が残り、何が変わるべきか?〟をテーマに酒田達臣先生立川病院・小粥博樹整形外科医によるシンポジウムが8月25日(日)、横浜人形の家・多目的室にて開催された。司会進行役の廣瀬良大氏が出す質問に対しお2人が答える問答形式で行われた。

はじめに酒田氏から〝プライマリケアを志すにあたって「意識」を更に深めていただきたい。我々柔整師、鍼灸師はどうしてもドクターに対して構えてしまうところがあり、こんな紹介状を書くと怒られるんじゃないか、馬鹿にされるんじゃないか等紹介状一つを書くにもあると思いますが、やはり患者さん中心の医療を行っている上で医師と連携することはとても大事です。ドクターとの出会いが皆さんの施術家人生にとって1つのターニングポイントになればという願いをこめて開催したい〟と今回のセミナーの目的と趣旨説明を行った。小粥氏からは〝今日は対談形式でフランクに話し合いたいですね〟とあり、早速スタート。

プライマリケアを実践していきたいと思われるようになったきっかけは何ですか?

小粥博樹整形外科医

小粥:
プライマリケアという言葉は幅広い使われ方をしていると思いますが、スペシャリストであり、しかもジェネラリストであることが求められています。様々な疾患をある程度網羅し、重要な疾患をみつけて、適切な医療機関に繋げる役目があります。我々は外来と入院両方の患者さんを診ていますが、外来の場合紹介による患者さんが多く、私は背骨の医者ですが、背骨ばっかり診て見落としてしまう疾患があってはならない。外来で〝貴方は精神性のものです〟と言われて、患者さんは精神科に行く訳ですが、しかし、精神科や心療内科に行っても適切な治療を受けられないケースもあり、自分で診てあげられたらいいな、外来の患者さんに対してプライマリケアをやれたらいいなと思いました。また、入院患者さんにもプライマリケアとして全身を自分で診ていったほうがいいなと思っています。整形外科で背骨を診て、背骨の手術をしていると、当然いろんな合併症がある訳で、例えば手術後、人によっては心不全、肺炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等を起こすことがあります。もし消化管出血なら消化器内科の先生に依頼することで、適切な治療を受けられる訳ですが、最初から自分で診断する目を持っていないと対応が違ってきます。この疾患にはどういう合併症があり得るかを常に頭に入れて対応を進めていくべきだと思うようになりました。背骨ができるからといって、他は診ませんというのでは、患者さんの利益にならないと考えたことがプライマリケアをやろうとした理由です。整形外科って全身管理ができない科だと思われていますが、そういうのができるようになると、入院当初から栄養つけてあげようだとか、肺炎の予防など早めに手をうてるようになるので、やはり自分にジェネラルな知識があることは、患者さんに役立つと思います。

酒田達臣先生

酒田:
最大のきっかけを除くと、4回あります。1回目は、柔整学校卒業後、初めて患者さんを診察した時で、患者さんを目の前にして、私は頭が真っ白になって、何からどう診ていけばいいのかわからなくなり「外顆炎」の診断ができなかった。大変な衝撃で、「これは診察を一から自分で勉強し直さないとだめだ」と気付きました。2回目は、その1年後のことで、私が勤めていた整形外科医院に当時川崎中央病院整形外科部長だった三谷先生が外来診察に来てくれており、上腕部が酷く腫脹した患者さんがいて、三谷先生は当初腫瘍を疑ってCT等の検査をされていましたが、私は初めから「肩手症候群」を疑っていました。先生が外来に来られた時、思い切って聞いてみましたら、〝酒田君、よく見つけたね。君が正しい。僕が誤診していたんだ〟と、患者さんの前でニコニコ言ってくれました。私は凄く感動して〝ああ、こうやっていけばいいんだ、我々にもできるんだ〟と、この時は本当に励まされました。3回目は、開業して少し経ったところで、○○さんという80代の女性患者さんとの出会いです。僕はその人を診察させてもらった結果、頸髄障害があると判断したんです。ところが首については前から個人の総合病院で診てもらっていて、そこでずっと牽引治療を受けているとのことでした。牽引は逆に危ないんじゃないかなと思ったんですが、当時私はまだドクターに紹介状もあまり書いてなかったし、専門医がする治療に口をはさむ立場じゃないと思っていたので、首は触らず腰痛などその他の症状に対する施術だけを行うことにしました。でも、その人はどんどん脊髄症状が悪化していったんです。〝別のところでも診てもらったらどうですか〟ということは時々伝えましたが、主治医の頭を飛び越えて柔整師の私が他の病院に紹介状を書くなんてことをしてはいけないと考えていました。しかしある時その病院に代診で来ていた大学病院の医師が診察して〝これはすぐに手術しないと寝たきりになってしまう〟ということで、高齢でしたが大学病院ですぐに手術が行われました。でも、進行は防げたものの酷い歩行障害と巧緻障害は治りませんでした。この時私は、自分が脊髄障害が疑わしいと思ったら、どこで治療を受けていようが、少なくともMRIを撮ってきちんと確定診断のできる施設の専門医に必ず紹介しようと誓いました。4回目は、以降ドクターに紹介状を書きまくり始めた頃、ある総合病院のドクターから〝いつもご紹介、本当にありがとうございます。感謝しています〟という返信をもらった時で、ドクターから感謝していますと言ってもらえるとは思ってもいなかったので、大変励みになりました。

そして最大のきっかけは、「患者さんが亡くなったこと」です。何度も、患者さんがお亡くなりになるということに直面しました。そしてその度に強く誓ってきました。「助けてあげられなくて本当にごめんなさい。あなたと同じ病態の人が来たら、もう絶対に見落としませんから、どうか、力を貸してください」と。

抽象的な質問ですが、未来の医療というものを考えた時、「何が変わり、何が残る」と思いますか?プライマリケアを推進していこうとされているお二人の視点から、お答えいただけますか?

小粥:
国民の健康・福祉に明らかにプラスとなる面がエビデンスとして出てくる医療が残ると思います。厚生労働省から、例えば我々慶応大学医学部に「腰痛」に対して、代替医療、医業類似行為全て含めて、どういう医療が効果あるかという調査を依頼され、かなりの人数にアンケート調査を行いました。そういった調査を厚生労働省は毎年様々な医療機関に頼んで腰痛に限らずいろんな疾患に対してデータを集めている訳で、結局コストとアウトカムにおいてエビデンスのあるしっかりした医療が望まれています。やはりプライマリケアを担われている柔整においてもエビデンスが求められている。数値を出していくことをしないと、アウトカムが得られない。我々整形外科も同じですが、選別されてしまうと思います。我々医者のほうには専門医制度がありました。最近ちょっと難しくなっています。昔はある程度の経験、症例を提出して、筆記試験に通ればなんとかなりましたが、それが本当に医療レベルを保証しているのかとして専門医制度自体に対して疑いの目が強くなり、今は専門医制度を認定する別の委員会、全ての科の専門医の質をある程度一定にしようとして合同の委員会を立ち上げ統一基準を作ろうとしています。医療の質を担保するということで、今まではレベルの格差が大分ありましたが、レベルが担保されるような専門医制度を立ち上げようと随分動いてきています。今後はナースにしても、アメリカみたいに例えば麻酔の補助、簡単な麻酔はナースが行える仕組み、これはプラクティショナーナースといって専門性が高まる。理学療法士さんも脳血管専門の理学療法士、認定理学療法士というように、柔整師さんのほうでも今後多分質を確実に担保することが行われていくのではないか。それに乗れない人たちはどこかで切られていくか、恐らく厚生労働省では認定がついている人とついてない人で診療報酬に差をつけるなどしてくるでしょう。取っても取らなくても同じであれば誰もモチベーション上がらないですから。そういう構造に医者がなっていますので他の医療業界も全部なっていくと思っています。

酒田:
結局、治療効果をちゃんと出せる人が残って行く、当たり前の話です。同時に、やはりプライマリケアをしっかり行える人間が残っていく。自分の専門外の疾患も見抜く目を持ち、専門医につなげられる人間が医療人として残ると思います。

研修医を指導される立場にあると思いますが、どういうタイプの人に真のプライマリケア実践者としての素質が認められると考えですか?

小粥:
今何かと患者密着型の医療と言われているように、〝患者サイドに立つ〟こと。ありふれた言葉ですが〝優しさ〟なんですね。これは持って生れたものではなく経験とともに人間は優しくなれる。そして失敗したことを次に生かす人が伸びる。

酒田:
やはり素直さ、謙虚さですね。間違いや失敗があった時に素直に振り返ることは結構重要です。

プライマリケアを実践している中で何かポリシーのようなものは?

小粥:
患者さんの痛みに対し、心因性のものと簡単に決めつけずに、何か器質的な原因があるだろうということで、検査をするなりその訴えを聞いてあげて、本当の原因をみつけてあげるということをプライマリケアでは重要視しています。これには時間がかかる、そこが問題です。プライマリケアに一番大事なことは患者さんに寄り添って、時間をかけて診察して話を聞いてあげること。話を聞いてあげるだけで、初めてこんなに聞いてくれた医者がいたということで、良くなっていく人もいます。だからプライマリケアでは時間をかけることはかなり必要なことです。

酒田:
プライマリケアを行っていく上での僕のポリシーは、常に〝自分の行いの中心軸は何か〟という点に立ち戻ることですね。

ロックオン(正確な疾患推測に至る)するのに必要なものとして、「直観力」や「診察技術」などがあるかと思いますが、そのなかで「直観力」に関してはどのようにお考えですか?〝何か変だな?と気づくこと〟そういった直観力を向上させるにはどうすればいいのでしょうか?

小粥:
直観力というのは、経験です。習うより馴れろ、患者さんを多く診る。そして診断がどうだったか自分でフィードバックしなければ。例えば我々の整形外科では、すぐに明確な診断に至れない時は患者さんに血液検査をしてもらいます。患者さんは結果を知りたいから後で病院に来てくれる。時間が経つといろんな症候が顕著に表れてくることが多いので、それを診るためにはちょっと分らなさそうな患者さんは、血液検査をして、申し訳ないがまた来てもらう。痛みがとれると来なかったりしますから。要するに自分でフィードバックがかからないと直観力を養えない。データベースを増やすことで直観力を養うことは必要でしょうね。正しい経験を蓄積していく必要があります。

「診察技術」を向上させていくためには、「医学書から知識を得ていくこと」も大切かと思いますが、その辺りはどのようにお考えですか?

小粥:
間違いなく大切です。体の成り立ち、構造、生理学、解剖学等、当然あったほうが診断に役立ちますし、あとは特徴的な検査方法というのは、先人がいろいろ開発してきている訳で、一番有名なのはバビンスキー検査ですね。それも教科書に出ています。つまりそういった知識があれば異常な兆候に対しても別にMRIをやらなくても診断がつく場合もあります。一方、学問、知識としてだけ知っていても、ちゃんと実践しなければ意味がないし、経験だけ積んでも勉強しなければその経験が活かされない。両方がある程度平行して上がっていくと良いと思います。

酒田:
そうですね、医学書から知識を得ることも、患者さんに触れる経験を積んでいくことも、どちらも大切で、もう一つ挙げれば、〝まだ遭遇したことのない疾患も想定できる力を付けること〟、これは僕たちのような施術者にとってはとても重要になってくると思います。既にものすごい量の医学知識を持っている医師と違って、我々には医学知識、知っている疾患名自体が少ない。だから、〝この症状から考えると、病態生理学的にはこのカテゴリーの疾患があり得るのではないか、例えば、何か腫瘍性の病変があるのではないか、何か感染症を起こしているのではないか〟、そういった推理をして、自分で医学書を調べて、疾患を見つけ出す、そういう科学的論理的推理能力を磨いていくことが、実はとても大事だと思っています。

例えば、肩関節周辺の痛み、というケースを想像してみてください。考えられるものは、五十肩、腱板断裂、石灰沈着性腱板炎、上腕二頭筋長頭腱炎、肩鎖関節脱臼、頸椎症性神経根症、胸郭出口症候群、その他にも、結核性関節炎、偽痛風、慢性関節リウマチ、リウマチ性多発筋痛症、心筋梗塞、肝臓胆嚢疾患などなど、挙げればきりがないでしょう。

しかしこういうケースがありました。76歳女性患者さんの例です。

15年前から整形外科で五十肩と言われて治療を受け続けているというその人は、いつも体を斜めにして、右肩を後ろに引いていました。ポンと右肩を軽くたたかれるだけで、うずくまるくらいのものすごい痛みが走るというのです。この人の原因疾患は何だと思いますか?

私は身体所見の結果、肩関節の運動痛のないその人の痛みの原因は、肩にできた神経鞘腫だとロックオンしました。この方のロックオンに至るのに、部位ごとの疾患をまとめた教科書的な知識や、疾患のスクリーニングの技術はあまり役に立ちません。「肩関節疾患」という項目をいくら調べても、「神経鞘腫」は決して記載されていないのです。

問診視診触診といった、ほんとにベタなことが必要なんです。服を脱がせて、実際に目で見て小さなふくらみを確認して、触ってみて激痛の誘発をみること、それでしか正確な診断には行きつけない。

これには、①科学的論理的思考、②俯瞰的観察意識、③共鳴感覚、この3つと、医療の基本、すなわち①問診、②視診、③触診、④運動学的検査、⑤神経学的検査といったプライマリーな診察の基本が、大変重要になってきます。

これらをフル活用しながら患者さんを経験していかないと、ただ患者さんの数だけ経験しているだけでは、診察技術は向上しないのであって、ここでも自らのスペシャリティだけにこだわらない、プライマリケア意識というもの、この「意識」をいかにしっかりと持ち続けるか、ということがとても重要だと思います。

多くの質問が残されていたが、休憩に入り、後半は小粥ドクターによる、70歳女性の頸の痛み(1か月前くらいから頸の痛み、ちょっと歩きにくいという設定)を想定し、モデルを使って実技講習が行われた。

〝背骨の一般的診察ということで、まず診察室に入ってきてもらいます。そして腰かけるまでの歩き方を見ます。例えば問診表を見てこの人は頸部痛という場合、歩行障害すなわち歩き方が非常に大事なので、この場合イスに腰かけるまででは短いので診察室の中を歩いてもらいます。緊張して歩くといけないので普通に歩いてもらう。もし頸に脊髄症があれば、左右の足の間隔が広くなる。パーキンソンの人は症状が進行してくると顔がこわばるので分ることがあります。歩行は、中枢神経から末梢神経、そして筋肉まで総てが統合されて働くことによりなめらかな動きを作りだすので、歩いてもらうだけでも非常に多くの兆候がわかります。次に診察台に座ってもらいます。頸に劇的な異常、筋骨格系の異常がないかを診るために動かしてもらいます。神経根障害がある人は強く押すと凄く痛くなって恨まれてしまいますし、基本的には押すと陽性率が高くなるので押さないほうが良い。ジャクソンよりもスパーリングで頸を傾けたほうが神経根痛は強く出やすい。患者さんに自分で頸を傾けてもらうだけにして、痛いかどうかを聞いて、痛みがあるとなればスパーリングは陽性と記録する。ヘルニアの時は下を向いても上を向いても痛い時がありますし、髄膜炎という頚椎の炎症性疾患であれば全ての動きは阻害されます。70歳で高齢者になるとリウマチ性多発筋痛症というのもあって、これは歩行障害はあまり出ないが、たまに出る。リウマチ性多発筋痛症は甲状腺疾患と同じく結構高齢者に多く、体幹性の痛みが出やすいのでそれを念頭に置いて診る。また基本的には血液検査で陽性に出ることが多く、体温が上がっていることも多い。だから来た患者さん殆どに体温を計ってもらうのが良い。〟その他実際に整形外科の診察室で行われているいろいろな検査法を実演、実技指導を行った。

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