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第17回日本統合医療学会が華々しく開催!<前篇>

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日本統合医療学会第17回大会が「統合医療の世紀 持続可能な社会における医療:エコ・ヘルスケアの実現」をテーマに昨年12月20日~22日まで、日本赤十字看護大学広尾キャンパスで開催された。今大会は各領域の中でも第一人者といわれる研究者を多数招き、実に中味の濃い内容で転換期の時代を象徴し時代を先取りする学会となった。

12月20日(金)に公開講座が行われ、公開講座Ⅰでは吉備国際大学准教授・京極真氏による『なぜ、医療と福祉は分り合えないのか―「いのち」をめぐる信念対立の克服Ⅰ』と題した講演が行われた。

京極真氏

信念対立は職場での様々なトラブルの総称で、信念対立が起こっている時、この人と話しても無駄だ、人間関係で疲れる、時間を共有できないという感じを抱いた場合、背景に信念対立があると考えて良い。誰しも一回や二回はこういうことを感じたはずで、信念対立は日常の中で頻繁に起きている問題である。信念対立の問題を最初に学問として扱おうとしたのが、フッサールの現象学だと言われており学問間の信念対立を扱おうとした。信念対立解明アプローチは、実際の現実の世界のトラブルに対応できるように応用理論として組み立てなおした。医師と看護師の意見の対立、患者さんと医療従事者の対立、回復リハビリテーションの領域では患者さんの約9割近くが信念対立を体験し、患者さんは我慢している。信念対立でいろいろトラブルが起こるが、その理由は立場によって見えているものが異なる。例えば、病院とか施設で一緒に働いている、同じ現場で働いているけれども体験していることが違うと気づける人は信念対立化しにくい。医療・福祉・保健では体験する世界が違うだろうと言われている。同じ一人の患者さんに関わっていても福祉の観点から関わるのと医療の観点から関わるのか保健の観点から関わるのかによって見えているものが違っている。そのトラブルの源泉にあるのは信念対立という問題である。信念対立とストレスはイコールではない。意見のぶつかりあいを通して人間の成長、社会の発展に役立つような対立のことを弁証法的対立という。信念対立の究極には戦争があると指摘されている。意見の対立、価値観の対立を通して人や組織を成長させていくためにも信念対立は克服したほうが良い。西洋医学の中にも医学・看護学・作業療法学等いろいろあるが「状況・目的・方法」の3つの概念は、専門領域や立場を超えて共通している要素がある。信念対立は立場の違いで生じるため共通のプラットフォームが必要で、出来るだけシンプルなものを作っていく努力を行なう。緩和ケア、整形外科領域、臨床検査、音楽療法、ハーブセラピー、精神医療、いろんな領域における共通の原理として信念対立解明アプローチはもう展開している。状況・目的・方法に応じて解明アプローチを使っていきましょう、と提唱した。

公開講座Ⅰ・対談は『看護と介護、医療と福祉は1つになれるのか』聖隷クリストファー大学社会福祉学部・大学院特任教授・太田貞司氏と日本赤十字看護大学名誉教授・川嶋みどり氏の対談が開かれ、対談の前に2人が約10分程度口頭発表を行った。司会は、日本赤十字看護大学学部長・教授・守田美奈子氏が務めた。

公開講座Ⅰ・対談

太田氏は〝厚労省・政府は地域包括ケアシステムの構築を政策に掲げており、昨年は構築元年ともいわれている。病院完結型から地域完結型へ大きく転換し、介護も地域包括ケアシステムということで転換し始めている。もっとコミュニティの力を引き出そう、住民の力を引き出して地域づくりをしていこうという、大枠はこういう方向で行くのではないか。医療の人材と介護の人材を育てるには、20万人位の都市では7.8千人、将来的には倍確保できるのかが一つの大きな課題で、これらの人材を作れなければ、人口減少社会に対応できなくなってしまう。医療と福祉は原点が違うため隔たりや支援のポイントの違い等あるが様々な実践の積み重ねの中で医療と介護の一体化はできると思っている。日本の介護は特徴があり世界と違うのは福祉職で、それ故に医療との連携がどうしても欠かせない。医療的な知識も欠かせない。地域の中で医療と福祉の統合、病院だけではなく、地域の中で統合していくことが最大の課題と思っている。地域の中で日常生活を営むということが凄く重要だが「日常生活」という言葉は難問で、夫々の地域の日常生活、或いは認知症や要介護者の日常生活が分っているようで分っていない。お互いに共通理解を深めていけばこれからの医療と介護は統合・一体化していく〟等、話した。

次に川嶋氏は、〝現場で働く医療職と介護職が一つになれるかなれないのかがあり、ひとまとめに言うことは大変困難で今日は時間の関係で「看護と介護」に絞って話したい。被災地の支援にあたって地域の人たちのニーズにあったいろんなことを行おうとした際、行政の人が貴方たちがやろうとしていることは、医療ですか?福祉ですか?ハッキリしてと言われた。医療を必要としている在宅の高齢者もおり、ここから先が医療、ここから先が介護と明確に分れるものではない。その人らしく生きる、生活と生活向上のための支援が必要で、重要なことは、他人が変わってやることは出来ない。看護と介護はケアという共通語で繋がる、現場レベルで繋がる、そのシステムを作ること、既成の概念や制度を超えた発想が必要。利用者さんの状況に応じてトリアージする必要がある。行政は分れていても一つになれるのではないか〟等、簡潔に述べた。

対談では、太田氏が〝日本の社会的ケアでは医療と看護を中心に介護士が生まれたがどういう風に広めるかというのはいろんな議論がある。特に認知症の専門的なケア、基本的な見守りとか社会参加を含めて看護とどういう風に連携するか。そこで暮らすという価値というのはまだまだ未熟で、所謂生活を支援するというところではそんなに固まってはいない。みんなぶつかる〟。川嶋氏は〝今要支援が切り捨てられようとしている状況とかいろいろあるが、家事援助サービスがもうちょっと制度化してくれると高齢者の自立動作が高まると思われる〟。太田氏〝いま在宅、訪問介護では身体介護が中心になっている。制度的にしばりがあって、先がみえない。先生がおっしゃるように生活を支援するという価値をどのように定着させるか〟。川嶋氏〝本当に成熟したコミュニティを作っていく意味でも、この人がどう生きてどう暮らしていくか、その辺のところを取り組んでいく必要がある〟。太田氏〝医療と看護も介護も福祉も変わって、みんなでつくっていくことが大事である〟など話し合った。

公開講座Ⅱは統合医療女性の会、『乳がん治療のリアル』と題し、聖路加国際病院乳腺外科ブレストセンター部長・ブレストセンター長の山内英子氏が講演。

山内英子氏

司会を統合医療女性の会代表・渥美英子氏が務めた。はじめに渥美英子氏が〝日本統合医療学会・女性の会の公開講座です。女性の会は統合医療学会として医療関係者ばかりでなく命を育む女性の目線で多くの方々に参加していただけるようにと、今年の暑かった夏に立ち上げました。強く賢く美しくをテーマにして今の時代にふさわしい医療の在り方をみんなで考えていこうということで、一回目は賢く丁寧に食べるで「食」を取り上げました。今回は女性の「クライシス」です〟など挨拶、演者の紹介を行った。

BRCA1遺伝子/BRCA2遺伝子のどちらかに病的変異がある場合に、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」と診断される。遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の特徴は、若年(40歳未満)で乳がんを発症する、両方の乳房にがんを発症する、片方の乳房に複数回乳がんを発症する、乳がんと卵巣がんの両方を発症する、男性で乳がんを発症する、膵臓や前立腺にがんを発症することがある、家族の中に乳がんや卵巣がんの人がいる、これらである。がんと診断された時からその生を全うするまでの過程を、いかにその人らしく生き抜いたかを重視した考え方、「がん患者らしく」ではなく、がんという病気と向き合いながら最後まで「自分らしく」生き抜くことである。2次性発がんの問題、妊娠・出産の問題、治療による様々な身体的問題、がんに対する不安・再発の恐怖・鬱状態・否認やいかり・孤独感など心理的問題に対応する。治療と職業生活の両立に向け医療経済などを用いた働き盛りのがん対策の一助としてのアウトカム評価など、がん拠点病院における介入モデルを紹介。Consumerism患者主権主義についても解説した。

立教大学現代心理学部教授・精神科医・作家の香山リカ氏と医療法人財団帯津三敬会帯津三敬塾クリニック理事長・板村論子氏による『中年期女性の喪失感』と題した公開対談。

公開対談

いま注目の2人の女性が、中年期における女性の身体的問題や心の問題、価値観などさまざまに話し合った。

大会初日・12月21日(土)朝8時35分から大会会長講演が行われた。

『第17回大会の意義と方向性』
「統合医療の世紀-持続可能な社会における医療:エコ・ヘルスケアの実現」
公益財団法人医療機器センター理事長・菊地眞氏

菊地眞氏

近代科学、医療技術なくして現代の医療はなさない。11月に新しい薬事法が成立し、今後1年以内に施行令の詳細が決まり実施されることで医療機器業界も注目している。2011年に国民皆保険制度50年を迎え、ランセットの編集長が日本に来て今後の日本の在り方を世界が注目するとした大シンポジウムを開催した。12月5日には社会保障改革法が成立。まさに医療の問題だけではなく、社会保障制度全体をインフォートするような問題の渦中に我々が置かれている。「超高齢社会への処方箋」をテーマに国際シンポジウムが開かれ、社会保険診療報酬支払基金理事長で内閣官房社会保障改革担当室長の中村秀一氏は〝社会保障費(109.5兆円から2025年は148.9兆円)医療費は1.54倍、介護費は2.34倍〟と述べ、国立長寿医療研究センター理事長・総長の大島伸一氏は〝「治す医療」から「生活を支える医療」への転換が必要〟。厚生労働省保健局医療課長・宇都宮啓氏は〝「治すこと、救うこと」だけでなく、「癒すこと、時には看取ること」が求められる〟。日本慢性期医療協会会長・武久洋三氏は〝慢性疾患への良質な医療提供がポイント〟。国際医療福祉大学総長・矢崎義雄氏は〝「治す医療」から「支える医療」へのパラダイム・シフト〟等、各氏の意見を紹介。高齢社会ということで、ヘルスケアと経済をいかに科学をとおして回そうというのが問題でありセルフメディケアの構築と実施が喫緊の課題である。これまでの医療経済の制度では給付或いは措置という考えが根強く、それに期待する部分が多すぎたのではないか。今後、セルフケメディケアは個人の自立を目指すことからも、経済的に応分な負担をしていただいてもいいのではないかというのが経済産業省の健康サービス産業の基本的な考え方で、近代西洋医学だけにすがって我々は生き延びることが出来るのだろうかを示唆しており、そのためにも統合医療を考える必要があると思われる等、近年の経済的な背景と今後統合医療が求められているバックグラウンドを説明。また、内閣府総合科学技術会議・ライフイノベーション戦略協議会委員を務められ日本版NIHの「医療分野の開発に関する専門調査会」委員である演者は、わが国の健康・医療戦略の司令塔機能を果たす「日本版NIH」併設が実現される運びとなったことを報告。今後のわが国における健康・医療の進め方に関して科学的根拠に基づく近代西洋医学的アプローチと伝統医学、相補・代替等とを統合させた統合医療をさらに深化させ未来医療にまで発展させる道のりと可能性について考察した。

基調講演:『統合医療の意味-人口減少社会という希望-』
千葉大学法経学部教授・広井良典氏

広井良典氏

ジャパンシンドロームと称される高齢化と人口減少、特に高齢化は日本が世界の先頭に立って直面していくことになるため、日本がどう対応していくかが世界が注目しており、世界にとって意味のあるテーマである。我が国はいわば拡大成長という道を歩んできた。物質的な豊かさも得られてきた中で、失ってきたものも沢山あるだろう。少しこの歩くスピードを緩めて本当の意味の豊かさ・幸福といったものを見つけ出していく、実現していく一つの転換期、そういう時代になっていると思われる。最近、幸福についての研究が非常に活発になり、日本は世界で相当低いランクである。自然環境との関わり、精神的、広い意味での宗教的な心などが重要になり、これらはいずれも統合医療と非常に深い関係がある。環境の質が健康に深くかかわる。ソーシャルキャピタル、人と人との繋がりがしっかりしている処とそうでない処との健康度が非常に深く相関している。医療とエコロジーは重要な視点の1つになっていくと考えている。ソーシャルキャピタルや関係性という視点が非常に重要で、また健康・病気に関するエコロジカルモデルは重要である。先端的な方向性と統合医療の視点とがクロスする形、科学の在り方そのものをより発展的なものにしていく、そういう流れと呼応しているという視点が重要ではないか。また、2006年から病院で亡くなる人の割合が初めて減少に転じた。人口減少社会・成熟社会の1つのベクトルとして死生観が重要で死生観を深めていく状況になっていくのではないか。自然との関わりで生と死というものを捉えることが大事な視点になっていく。 日本古来の鎮守の森が全国に8万か所位神社とお寺がある。鎮守の森セラピーという試み、コミュニテイと一体となった日本の伝統的な自然観というものを再評価していくべきではないか。先進国と途上国を繋げるポジションで動いて行く、そういった意味でまさに統合医療にふさわしいポジションである。人口減少社会をポジティブで新しい形で発展させていくと提唱。

教育講演1:『病院の世紀』は終ったか?
一橋大学大学院社会学研究科教授・猪飼周平氏

猪飼周平氏

今、ケアの世界で起きていることは何かというと、一言でいうと「生活のモデル化」です。生活のモデル化というのは、従来の医療と何が違うのか、生活モデルといわれる考え方に2つ特徴があり、脳卒中でいえば病気が治るのであれば治せばいい。治らなければリハビリテーション、それも上手くいかなければ字が書けるようなトレーニングをしたり、様々な人たちの支えによってQOLを挙げていけば良いというのが生活モデルの考え方の原型で、QOLか患者の救命かの違いがあるが、もう1つは通常我々が原因を考える時に、究極の原因は存在しない。結果があって原因があるが、結果を引き起こす原因になるような現象もその原因を窺うことが出来て原因の原因も窺え無数の原因があることを前提に、無数の対策があるということが生活モデルの考え方の基本である。20世紀においては医学モデルが圧倒的に優勢だったが、既に生活モデルがこの社会全体に浸透しまっている。2011年の震災の時に、日本医学会のシンポジウムで、医学会の重鎮5人の方の意見と私の意見がそれ程違わなかった。医学の世界で何が起きつつあるかということをかなり分っていて、それに向けて動きだしている。QOLと地域ケアは密接に結びついているが、QOLを求める声が上がっている地域は、実は都市部であり、高齢化率の高い過疎で農山村の人々は病院が大事でQOL重視の声は上がっていない。高齢化が進み病気の性質が変わるということは単純に生活モデルを求めていくということとは繋がらない。医療の生活モデル化というのは、医療の福祉化で、生活モデル化によってチェンジしてしまった医療の世界において、何が起こるのか。1つは、地域包括ケア化であるが、地域包括化と地域ケア化とを分けていく。包括ケア化が出来るのであれば望ましい。実は20世紀の初頭から包括ケア化の重要性を医学の内部でもずっと言われていた。その典型的な言葉が全人的な医療で統合的に支援しなければいけない。それをつきつめると必ず包括的な医療になる。おおよそ100年ぶり位に包括化のチャンスで元々包括化したほうが効率がいいということが分っていた。重要なことは今新しく流動的なシステムが動いている時にこの大きな地図の中で誰が誰をどの場所で行うかというのは未だ全然決まっていない。どういう形で人々の健康、或いはQOLに貢献するかということを、みんなが探し求めている。その時に凄く重要なことは自分たちにしかできないことは何かということを探してはいけない。スペシャリティとは何かという方向で自分たちの仕事を探していくのでではなく、自分たちで積極的にどういう公共性を担うかということを探していく。そのことが重要ではないか。

教育講演2:コミュニティーと健康増進 ―ソーシャルキャピタルとスマートウエルネスシティ―
『今なぜ歩いて暮らせるまちづくりが求められるのか
-健幸社会の構築を目指すSmart Wellness City-』
筑波大学体育系教授・久野譜也氏

久野譜也氏

高齢化が抱えている問題は一律ではなく、特徴をもって考えていかなくてはならない。75歳以上が増えると自動車を運転できなくなる人が社会に増えていく、地方では基本的に車がないと生活が出来ない、歩いていける場所にお店がないと生活できない人が増えるが、日本の町の状態がそうなっていないという問題がある。病院で死ぬことが出来無い時代がやってくる中でどういう地域社会を構築できるかを考えていく必要がある。我々の研究グループ(筑波大学・㈱つくばウエルネスリサーチ)は、科学的根拠による個別処方を基礎とした運動と食事による健康サービスをICTによりシステム化し、全国の約50自治体に提供して生活習慣病の予防効果、加えて一定の医療費の抑制効果を得た(年間1人約10万円)。全国の自治体がこの方向に舵を切る成功例づくりが求められる。これに応えるために我々は、地域における健康づくりを従来型の健康政策のみではなく、機能の集約化、住居環境及び公共交通網の整備など、街づくりの視点も加えた総合的な施策の構築を目指している。これを実現するために、自治体の首長と大学の研究者等が中心となって「Smart Wellness City 首長研究会(SWC)」を2009年に筑波大学が事務局機能を担う形で全国の8名の市長により発足した(会長:久住時男新潟県見附市長)。ソーシャルキャピタルや地域コミュニテイを作りなおしていく再編のためにも基本的には歩いて暮らせる町づくりということが健康な人を増やしていくことに貢献できるのではないかと確信をもっている。昨年、日本で初めて国保と社保のデータの一元化に成功。市によって若干違うが住民の7~8割位のデータをカバーできる。科学技術が発達して豊かな生活が可能になったが、今後はそれをベースに健康になれるようなライフスタイルに変えていく社会の技術を研究者が開発していくことが求められているだろう。

12月21日(土)第2会場シンポジウム1 災害と統合医療 ―持続可能な医療システムとしての統合医療― 

『東日本大震災から今日までの被災支援活動を通して』
日本赤十字看護大学名誉教授・川嶋みどり氏

川嶋みどり氏

すさまじい光景を目の当たりにして、被災地を新しい医療と介護の地にしなければならないと感じた。医療の概念を問いなおし、キュアからケアへ、治すから治るへ、機械からの脱皮、脱病院、「東日本これからのケア」ということで看護と介護の支援実践の統合と構築、一時的なボランティアではなく、中・長期を目指しケアニーズにそった実践可能な基盤づくりをしなければならない。深部静脈血栓症・ロコモティブシンドローム、アルコール依存症、最近ではパチンコ依存症が問題になっている。刻々と心が変化している。その心の変化をとらえなければならない。看護師にエールを送ろうということで〝クリミアを超えよう!東北の看護師たち!〟と呼びかけた。顔の見える関係づくり、優しいコミュニティづくり、衣食住全体とりわけ住環境にしっかりとした視点をもち手を使いながらいろんなことをしていく。東松島市に地域完結型のピンピンキラリと美しく、介護保険先延ばし塾をつくった。創(はじ)めなければ始まらない。

『災害被災者支援とマインドフルネス』
関西学院大学人間福祉学部社会福祉科教授・池埜聡氏

池埜聡氏

災害は、人々の生活を一変させ、重層的かつ持続的なトラウマ体験を強いる。〝被災さえなければ〟という過去への悔恨。〝この先どうしていけばいいのか〟という未来への不安。被災者は生きる「足場」を失い、人生の連続性を奪われたような無力感に陥ることも少なくない。マインドフルネスの目的は、過去、未来でもなく「今、この瞬間を生きる」ことの修練による自己の再獲得にある。アメリカで多くのテークアンドケアに応用されているマインドフルネスが今大変注目されているところである。マインドフルネス学会の定義、「今この瞬間」がキーワードで、具体的には瞑想・メディケーションが大きな柱である。瞑想は悟りをしようということではなく、呼吸に注目して身体変化を築いていく。具体的な臨床方法も開発・確立され依存症の治療にも応用されている。地域に根差したプログラムをマインドフルネスを含めて再構成することが求められている。

『災害時における統合医療の可能性―プレホスピタルの適正化からdisaster resilienceへ―』
広島国際大学保健医療学部准教授・諌山憲司氏

諌山憲司氏

消防官を19年間勤め、救助隊員・救急救命士として多くの災害現場を経験してきた。アメリカ・イスラエルを調査、アジアにおける災害発生の状況や国際協力の必要性、免疫に関する研究や災害医療に関する調査研究を行ってきた。他にJPRという現役の消防官、看護師・医師が中心となったNPOでカンボジア・インドネシアに救急救助の技術支援を行っている。昨年、宮城県・岩手県を訪問し大震災後のヘルスセンターの調査研究を行った。東日本大震災における医療支援の課題として、急性期における救援チームの調整、亜急性期以降の保健・福祉・公衆衛生を含めた調整不足。ネクストクライシスや多くの救援物資が集まることを予測するとコーディネート機能をより充実させる必要がある。被災者は仮設住宅での居住を強いられ身体的・精神的に厳しい状況となって災害関連死を招く可能性が高くなる。折角助かった命をなんとしてでも災害関連死・災害関連健康被害を減らす必要がある。災害発生前後におけるシームレスな救援活動を行う。プレホスピタルの適正化とは病院前医療においてだれがどの分野において責任を担うのかが重要であり、地域包括センターとの連携を密にすることが重要で将来このようなネットワークの構築が必要である。私自身としては救急と老人福祉との連携を強化したい。

『支援する側にも、適切な支援が必要』
習志野市役所危機管理監・太田清彦氏

太田清彦氏

災害が発生するとどうしても被災者のほうに目が向きます。ただし、持続可能な被災者支援を考えるならば支援する側に対してもある程度の支援が必要です。そうしないと持続可能な支援が出来ない。被災者支援をトータルで考えないと、〝sustainability〟は確保できない。習志野市の人口は約16万人、面積は22平方キロ。東日本大震災で、怪我人の被害はなかったが浦和市と同じ液状化現象が発生、3つの駅で約2000名の帰宅困難者が発生した。市の庁舎も被害を受け、情報も入ってこない発信もできない。指揮も混乱した。昨年度から新しい防災対策に取り組んでいる。防災計画を立てる時に極めて重要になるのは、何を前例として、何を想定するかです。大災害時には3万人以上の避難者が出ると予測されているが2万5千人しか収容できない。収容施設は、28か所。市内で1時間以内に徒歩で来れる職員に限定したため編成に苦労した。各学校にも地域にも名前を公表して、この人が来るということを理解してもらう。ケアを専門にする職員、伝達を専門にする職員、合せると150名位の職員が私の指揮で市内全下に散ることになっている。避難所待機職員は苦情・要望・ストレスのはけ口になる。大きな災害になると避難所待機職員も被災していて家族を置いてこの仕事にきている、それを考えると避難所待機職員や派遣された職員の負担は非常に大きい。もう1つは拘束時間の長さで、市役所の職員というのは、平常時の組織の中で仕事をする職員であり自衛隊や消防のように非常時に活動する職員ではないので意識もメンタリティも違う。疲弊した職員を如何に回復させるか。休める時間はほんの短期間、その短期間で回復してもらわなければいけない。支援する側への支援も必要である。

その後のシンポジウムで、平成17年第5次イラク派遣部隊指揮官であった太田氏は〝緊張した状態というのはずっと続かない、笑いという要素を重視します。又リーダーになるものの教育に凄く時間をかけて、信頼できるリーダーをいかに作り上げていくかということが大切で遠回しのようであるが、実際にはそれが一番効果があるというのが私の経験からくる考え〟等、話した。

教育講演3:進化医学―人類の進化が生み出した病―『進化生態医学から考えるこれからの疾病観』
日本医科大学名誉教授・飯野靖彦氏

飯野靖彦氏

長谷川敏彦先生が50代は思秋期だと言われている。これからの高齢社会は医療と福祉は同じで医療と福祉の統合である。どんな患者さんが病気になるのかが重要で環境因子が重要である。現在生き残っている種というのは、0.1%以下で、99.9%の種は絶滅してしまった。生き残っている種は環境に合わせて遺伝子を変えている。遺伝子が変わるのは1000年や1万年かかると言われていてちょっとやそっとでは遺伝子は変わらないから進化という概念が出てくる。思いっきり美味しいものが食べられるようになったのは、まだ100年で、100年では遺伝子変わらない。飢餓遺伝子がある状態で飽食の時代になり、病になっても当然で疾病は環境と遺伝子の関数であるということが言える。重要なのは食物でファーストフード店が多いところは脳卒中が多い。社会的取り組みが必要で、コーラやピザを1ドル値上げするとエネルギー消費量が下がる、体重も減ってくる。透析患者は今30万人を超えて一人にかかる医療費は400万から500万、何兆円というお金がかかっている。慢性の腎臓病を防ぐためにガイドラインを作った。日本は初めての超高齢化社会に入り今までのような政策は通用しない。進化生態医療からのアプローチが必要で個別の疾患を診るのではなく、透析などの医療よりも全人的な医療が必要。ドラスティックな医療システムの改革が必要である。

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