(公社)日本柔道整復師会 第43回北海道学術大会札幌大会 開催
平成26年7月6日(日)、札幌コンベンションセンター(北海道札幌市)において「公益社団法人日本柔道整復師会第43回北海道学術大会札幌大会」が開催された。
開会式
大会会長である(公社)北海道柔道整復師会・萩原正和会長は〝本日は大変お忙しい中、学会会長である工藤鉄男会長を筆頭に、多くの諸先生方をお迎えし、この札幌大会が開催できますことを衷心より感謝申し上げます。本学術大会も回を重ね、第43回となった。この歴史ある学術大会は公益事業も含め、(公社)北海道柔道整復師会会員が常に学術研鑽に努め、柔道整復術をもって社会に貢献するという崇高な理念のもとに開催され続けている。これからもその意志を継ぎ、柔道整復の学を高め業界の発展に寄与し、それを通じて社会や患者さんに貢献できるものと確信している。会員、研修員、学生の皆様にとって意義ある一日であり、この学術大会より何かを習得し、明日からの業務に役立つことができる内容になることをご祈念申し上げます〟と挨拶するとともに、当日の日程等について説明を行った。
(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は、挨拶の中で保険者による照会文書送付について触れ〝真面目に取り組んでいる柔道整復師の人たちにも疑いがかけられているようで、会員の先生方も納得がいかない状況だと思う。これから日本柔道整復師会は公益社団法人として各省庁との関係を作り、協定の見直しを行ない、不適切な請求をしている柔道整復師をなくしていきたい。とても我が業界だけで解決できるものではないので、しっかりと厚生労働省とも話をしていく〟と積極的に問題解消に取り組む姿勢を見せた。さらに〝在宅医療の地域包括ケアだけでなく、スポーツの現場や災害救助の医療班など、まだまだしっかりとした仕組みが作られていない現場で皆さんが新しい職域を広げられるような状況を作り上げる努力をしている。2020年のオリンピックには、団体として政府顧問に入ることになった。海外の人たちに日本で生まれた伝統医療をみんなで発信できるような状況を作るためご協力いただきたい〟と、柔道整復師の活躍の場をさらに広げていこうと呼びかけた。
学会はその後来賓紹介を経て、特別講演へと移った。
特別講演:「地域包括ケアと柔道整復師の役割」
岡山大学客員教授(前厚生労働省老健局長) 宮島 俊彦 氏
はじめに宮島氏は自身と柔道整復師との関わりについて述べた後、〝地域包括ケアという言葉は昭和50年代にひとりの開業医が作った。その医師は一度治療した患者が、病気が再発してまた来院してくることを不審に思い、治療した患者の家を訪問して回ったところ生活環境に様々な問題があった。「これではだめだ」と思い、始めたのが地域包括ケアだった。看護師などに患者を訪問させ、退院後はどういう生活をしたらいいか等の健康指導を行なったり、介護老人保健施設などでリハビリを行なってから自宅に帰らせるなどの対策を行なった。病院だけではなく施設を作り、在宅医療もカバーすることで初めて病院が機能する〟と地域包括ケアが始まった経緯を紹介。
高齢化社会と言われる現状に関して〝人口構造として、2010年には3人で1人の高齢者を支えていたが、2025年には2人で1人、2050年には1人が1人を支えることになる。総人口も2050年では1億人を切る見込みであり、どうやって社会を形成していくかということを今までとは違った発想で考えなければならない。地域包括ケアを見直さなければ超高齢化社会は乗り切れない〟として介護保険や日本の医療体制、行政の方向性などを含めて解説した。
そして高齢者の自立を支援する体制である地域包括ケアシステムについて〝地域の病院同士の役割分担が進み、連携が強化される。発症から退院までの流れがスムーズになり早期の社会復帰が可能となる。医療から介護への移行も円滑になり、どこに住んでいても適切な医療・介護サービスが受けられるようになる。そこに柔道整復師が関わっていくことは十分に考えられる。特に都市部であると施設を建設しにくいこともあり、在宅でのケアがより重要度を増す可能性が出てくる。高齢者ケアはこれまで暮らしてきた生活と断絶せず、継続性をもって暮らすこと、高齢者自身の自己決定を尊重し、周りはこれを支えること、今ある能力に着目して自立を支援することが原則となる〟として地域包括ケアは多職種の連携によって成し遂げられると述べた。
実際に地域包括ケアが行なわれている自治体の事例等も数多く紹介され、高齢者が健康を維持できる住みよい町づくりを行なっていくために柔道整復師はどう取り組むべきか考えさせられる講演であった。
研究発表
柔道整復師とリスクヘッジの一考察 ~ある恐喝事件から学ぶ反社会的勢力対応法 (函館ブロック 藪本 浩司)
近年、実際に起きた暴力団構成員による整骨院経営者脅迫・恐喝事件をもとに暴力団からの不法行為・不当要求行為への対応と対策を検証。
柔道整復師と介護支援専門員 (旭川ブロック 五十嵐 勉)
柔道整復師が介護事業に携わろうとする場合、介護保険に関する基礎的知識を学ぶのに介護支援専門員の試験を受けることがよいと考える。
介護リハビリ分野における柔道整復師の有意性と介護事業参入の為の根拠と背景について (北見ブロック 葛西 誠志)
第6期介護保険事業計画の中での柔道整復師の明確な位置付けを獲得する為の取り組みが行われている。自治体との交渉において、柔道整復師の介護事業参入の有用性を証明することができると思われる様々な要素を検討し、それを紹介。
成長期の治癒期間長期化の背景 (釧路ブロック 菅野 義尚)
当院で負傷例の多い肘関節内側上顆炎の症例を報告し、成長期の治癒期間長期化の背景を検証。
股関節周囲の鑑別診断 (札幌ブロック 唐牛 拓郎)
股関節周囲で疑われる疾患や症状を考えながら実際の症例でどのような症状があり、整形外科医をはじめ各メディカルとの連携を取りながらどう治療していったかをまとめた。
私の考える腰痛の分類 (札幌ブロック 江ノ上 高之)
整骨院の業務の中で割合の多い腰痛をしっかりと分類して、腰痛の治療をスムーズに出来るようにするため腰痛を分類。
腰痛体操について (日胆ブロック 中田 哲也)
腰痛の原因が主に不良姿勢や不良動作である腰痛患者に対し、腰痛体操による骨盤後傾運動、腹筋・背筋強化運動、更には腰部・下肢のストレッチなどを加えた運動療法について数多く出されている腰痛体操関連の論文を参考に観察と検証。
変形性股関節症患者に発生した外傷性脱臼の治療例
(小樽ブロック 川口 善也)
以前より右臼蓋形成不全の後遺症で整形外科に通院中の女性に発生した外傷性脱臼のREPOからリハビリテーションまでを発表。
股関節疾患に伴う疼痛緩和と身体の調整
(旭川ブロック 鈴木 誠)
股関節に障害が生じると動きが制限され、筋肉にかかる負荷も増え痛みが出る。自身の経験をもとに負担がかかる筋肉へのアプローチ、骨盤や下肢の荷重する軸を整えることで下肢の痛みを軽減させ経過を報告。
指PIP関節捻挫における掌側板損傷の一考察
(札幌ブロック 信田 千洋)
当院では、外傷性の損傷に対して超音波観察装置を用いて外傷を観察しているが、その中で指PIP関節の捻挫において興味深い症例があったので報告。
下腿部筋・筋膜性疼痛と深部静脈血栓症との鑑別診断の重要性
(十勝ブロック 小川 進)
筋・筋膜等軟部組織の疼痛を主訴とした患者の施術に際し、類似した症状を持つ他の疾患との鑑別は重要。当院において鑑別診断の重要性を再認識する症例を経験したので報告。
アキレス腱断裂術後から、競技へ早期復帰を果たした一例
~足底腱膜へのアプローチの重要性~ (函館ブロック 宮澤 速人)
術後の装具による尖足位固定により、足底腱膜が弛暖しアーチは降下する。アーチ降下が足関節底屈力の低下に関与し、競技復帰に影響を及ぼすと考えた。今回、術後3週より足底腱膜の働きに着目し施術を行った。
スポーツ選手の試合間近の足関節捻挫の治療法とテーピング
(名寄ブロック 山下 徹)
自分が柔道の選手だった時に何度か捻挫して、安静にしているより、バンテージ等を利用し、稽古した方が早く回復した経験を基に、ギプス等の固定ではなくテーピングを使用して疼痛を軽減し歩行することにより、腫れを引かせるようにした。
実技発表
- 足関節のテーピングについて(十勝ブロック 森 浩之)
- 小児肘内障(滝川ブロック 真鍋 裕二)
- 足関節拘縮に対する運動療法(岩見沢ブロック 吉澤 弘泰)
- 肩鎖関節脱臼の整復と固定(北見ブロック 石崎 徹)
- 頚椎捻挫の検査法と治療法(日胆ブロック 岡田 隆志)
- 筋バランスについて(札幌ブロック 飛野一路志)
専門分科会
- メーカーが考えるコルセットの基本特性とその選び方について(ダイヤ工業株式会社 研究部門 門脇 章人)
- 「超音波で考える」という使い方(株式会社エス・エス・ビー 柳澤 昭一)
ポスター発表 (付属北海道柔道整復専門学校 学生)
- 投球動作におけるキネシオテープの有効性(2年昼間部 代表 小倉 惇)
- ラジオ体操がハムストリングスに与える影響(2年夜間部 代表 木戸 竜也)
- 包帯圧迫による鎮痛効果の可能性について(3年昼間部 代表 萩原和香奈)
- 笑いと筋力の関係について(3年昼間部 代表 鶴野 真也)
- テーピングによる運動パフォーマンス向上作用(3年夜間部 代表 武田 和樹)
本学会はこの他にも(公社)日本柔道整復師会保険部による『「2014・柔道整復師と介護保険について」-生活目標を達成する運動とは?-』、国際部による『「草原に架かる虹を追って」-公益社団法人 日本柔道整復師会 モンゴルでの記録-』と題した講演や大規模な医療機器等の展示が行われるなど、バラエティに富んだ内容となった。
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