(公社)日本柔道整復師会 第35回東北学術大会岩手大会 開催
平成26年7月13日(日)、いわて県民情報交流センターアイーナ(岩手県盛岡市)にて公益社団法人日本柔道整復師会第35回東北学術大会岩手大会が開催された。
本学会は(公社)岩手県柔道整復師会・大河原孝副会長の開会の辞で幕を開けた。
岩手大会会長である(公社)岩手県柔道整復師会・及川磨会長は〝公益社団法人日本柔道整復師会第35回東北学術大会をこの岩手県で開催することとなりました。東日本大震災で被災し2年間開催を休止しましたが、昨年の宮城大会から再開し、今日多くの皆さんに参加をいただいたことに心から御礼申し上げます。今、日本柔道整復師会の各都道府県の大部分が公益社団法人に移行しました。これは社会・公共の倫理を優先し、「柔道整復業を通じて地域に貢献する」という志を高く持って取り組む組織に変わったということです。制度改革のために行政にも掛け合っていますが、働く場を広げようとしても我々にその技量がなければミスマッチになってしまいます。どうかともにしっかり研鑽し明日からの糧にしていただきたいと思います〟と会場の参加者を激励した。
学術大会会長の(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝会員の皆さんに多くお集まりいただきありがとうございます。また、この準備のために大変な努力をしていただいた岩手県の及川会長以下役員の方々に心から感謝申し上げます〟と御礼を述べた後、〝日本柔道整復師会では11ブロックで学術大会を行ない、会員の皆さんは地域の方々に一生懸命頑張っている姿を見せていますが、厚生労働省等にそれを理解してもらえていないように感じています。これは我々が行なっていることや我々の意志が上手く伝わっていないからではないかと考えています。今、柔道整復業界は厳しい局面にあります。不正を行なう柔道整復師が真面目に業務を行なっている柔道整復師に多大な害を与えており、どのように適正化していくかが日本柔道整復師会に課せられた大きな宿題です〟と述べ、不正・不当な請求を業界から根絶する固い決意を示した。
特別講演:『陸前高田市の今、そして復興へ』
陸前高田市長 戸羽太氏
戸羽氏は〝東日本大震災が起こってから既に3年4ヶ月が経過しており、だんだんメディアも遠ざかり人々の記憶も薄れていっていると感じている。今日は是非被災地の現状をご理解いただきたい〟と講演をスタート。戸羽氏は東日本大震災が起こった当時について〝陸前高田市は震災が起こる前から常に地震や津波に備えていた。それでも2万4000人の人口のうち、市内では1556体の遺体が発見され、215名が依然として行方不明になっている。準備をしていたにも関わらず、何故これほど甚大な被害を受けたのか。大きな原因となったのが「情報」だ。テレビやラジオ、インターネットなど様々な情報が飛び交っているが、情報元がしっかりしたものであればある程信用してしまう。震災前、宮城県沖地震について気象庁や国土交通省は、津波は陸前高田市役所前で路面から50cm、満潮時で1m程という具体的な予測情報を発信しており、それに基づき岩手県はハザードマップを作成し各家庭に配布するなどの対策を行なっていた。しかし実際に街を襲った津波は予測を遥かに上回る規模で、3階建ての建物が沈んでしまう程だった。情報を鵜呑みにしたために、想定外のものが来てしまった時に対応できず被害が大きくなってしまった。自然災害は際限なく、とんでもないものが来る可能性があるのだと思い知らされた〟と被害の状況を生々しく話した。
被災地の現状は〝仮設住宅がまだまだ解消できない状態〟と述べ、法律や憲法など本来国民を守るべきものであるはずのルールが障害となる等、思うように復興が進まない苦悩を吐露した。今後のまちづくりとして〝東日本大震災で、我々被災地の人間は社会的弱者という立場を経験した。水や食料を自分で手に入れることが出来ず、人に支えられて有難みを感じることができた。そこで今進めている「まちづくり」は、困っている人たちが本当の意味で笑顔になれる、あるいは自分の人生を楽しむことができる地域を作ることが我々の責任と考えている。偏見がなく「ノーマライゼーション」という言葉が必要のない街にすることが目標〟と飾り気のない口調で語った。
研究発表
○いわゆる“筋硬結”の病態について
―理学所見と超音波画像診断装置を用いての症例観察から―
青森県 新井田 一吏
いわゆる“筋硬結”について自分なりに施術を行ない良い結果が得られていたが、超音波画像診断装置で観察する機会を得たので、これまでの理解を確認するとともに他に器質的変化など詳細な病態が得られないかと思い、改めて考察を試みた。
○大腿骨頭すべり症の臨床所見、予後についての文献調査及び
一症例との比較検討
秋田県 佐藤 祐樹
大腿骨頭すべり症は思春期の男児に多く発症する。主訴の部位や臨床所見によっては見逃されることが多く、大腿骨頭壊死、軟骨融解、変形性股関節症を引き起こすことがある。既に報告されている医科の症例を基に主訴の部位や臨床所見、予後について文献的考察を含め調査した。
○膝半月板損傷の診断率向上に関する文献的考察
山形県 丹 学
切れ味の良い治療成績を残すには、知識と技術のマッチングが必要であり、その為には保存療法の適応と限界を見極める必要がある。半月板損傷と診断されれば手術療法が選択されることがほとんどであるが、今回は半月板損傷の診断について画像検査以外で柔道整復師が知る必要のある事項を調査した。
○介護予防二次予防事業による転倒不安と体力評価の関連についての考察
福島県 内藤 良博
急速な高齢化に伴い要介護状態の高齢者が年々増加しているため、要介護状態の発生予防、或いは状態の維持・改善を目的とした介護予防が重視されている。今回、二次予防事業利用者にアンケート調査を行ない、事業終了後の結果と照合して転倒に対する不安の軽減についての関連性を調査した。
○分類困難な傷病の解釈に関するアンケート結果と考察
宮城県「柔道整復学」構築研究委員会
委員:田村 博、委員長:岩佐 和之、委員:早坂 建
「骨折・脱臼・捻挫・打撲・挫傷」の5症のうち、骨折・脱臼以外の軟部組織損傷を扱う度合いは年々増加している。しかし臨床現場において軟部組織損傷の傷病名に対し共通解釈がなされていない。規則性を見出すためにそれらの傷病に関しアンケートを行ない、その分類の理由を調査した。
○PIP関節脱臼骨折の一例 ―症例報告―
岩手県 佐々木 航
PIP関節脱臼骨折は日常臨床上、さほど頻度が高いものではない。しかし正確な関節面の整復や強固な内固定ができず、時に重篤な可動域制限を残すなど、変形性関節症の発生を招くことがある。今回は環指PIP関節背側脱臼骨折を経験したのでX線画像、echo画像とともに報告する。
その他、(公社)日本柔道整復師会保険部介護対策課による『柔道整復と介護保険について』と題したセミナーや会員による実技発表が行なわれた。会場からは積極的に質問や意見が上がるなど参加者の熱心な姿勢が印象的であった。
全発表終了後、(公社)日本柔道整復師会・松岡保学術部長が講評を行ない、発表者一人ひとりに対し労いの言葉をかけつつ、期待を込めて今後の課題を示すなどした。
その後、発表者の表彰が行なわれ、(公社)岩手県柔道整復師会・阿部納副会長の閉会の辞により閉幕した。
尚、実技発表は以下6題が行なわれた。
実技発表
- 陳旧性足関節内反捻挫を有する患者におけるテーピング法青森県 谷川弘
- 舟状骨骨折の固定法秋田県 三浦雅志
- 即、その場で痛みを取るキネシオテーピング法山形県 奥山治朗
- 肩部痛への筋ミルキングと相反抑制に依る可動域制限福島県 太田賢一郎
- 指節関節、軟部組織損傷後に発生した瘢痕組織に対する軟質ウレタンフォームを用いた圧迫テーピング法宮城県 岩佐和之
- 距腿関節部の不安定性に対する整復・固定法岩手県 佐藤大介
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