(公社)日本柔道整復師会 第43回九州学術大会佐賀大会 開催
公益法人日本柔道整復師会第43回九州学術大会佐賀大会が開催され、開会式が7月20日夕刻、唐津シーサイドホテルで盛大に開かれた。
学術大会会長で(公社)日本柔道整復師会会長・工藤鉄男氏は〝いよいよアベノミクスの最終段階、経済成長戦略の中で混合診療の解禁を次の国会で提出・仕上げていこうということでありますが、今後の混合診療でどういう影響があるのか、この辺を日本中の柔道整復師会はしっかりと研究をしてその準備をしていかなければいけないのではないか。47都道府県が国民のため患者さんの健康に貢献、地域の活性化に繋げようと公益社団になった訳で、公益法人を目指したように協定の見直しを進めています。毎年5千名もの柔道整復師が出てきていることへの対応と今後の在宅医療に向けて学術の研讃を積み重ねていくことで国民に医療者としての説明責任を果たしていく。また6月25日には厚労省から機能訓練指導員は柔道整復師という名称で参画できるという文書を出して頂いたところで皆さん自信をもってこれから始まろうとする在宅医療の中で大病院・中病院から地元に帰ってきた患者さん達が寝た切りにならないように運動指導をしていく流れを作っていることを認識されてそのために努力して頂きたい。私は2020年度の東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「顧問会議」の正式メンバーに就任しました〟等、日整の会長になってから約1年が経過したことを踏まえ、19名の理事と共に一丸となってその重責を果たしていくと力強く表明。
次に大会実行委員長で(公社)佐賀県柔道整復師会会長・富永敬二氏が〝伝統ある本学術大会が第43回を迎えました。平成23年より(公社)日本柔道整復師会主管の公益事業として形態は変わりましたが〝九州は一つ〟を合言葉に九州各県の会員が年に一度集う大会である基本理念に変わりありません。特別講演は佐賀大学医学部整形外科学主任教授の馬渡正明先生に「股関節の機能解剖及び股関節疾患に対する手術の現状」と題して明日ご講演頂きます。貴重な講演を多くの方々に聴講頂きたい。本学術大会は参加された皆様が更なる質の向上を図ることで地域住民の保健向上に繋がると期待しています〟と歓迎の挨拶をキリッと述べた。
続いて行われた来賓の挨拶で、佐賀県知事・古川康氏は〝7月14日~16日まで唐津シーサイドホテルのこの部屋で全国知事会議が開かれ42人の知事が参加しました。主なテーマは人口問題で、ご承知のように我が国はこれから人口が減っていきます。何もしなければ100年後の我が国の人口は5千万人を切るだろうと言われています。必要なことは夫々国民一人一人がなんとかしなければならないという思いに立ってもらうことであり、全国に広げていこうという結論でした。柔道整復師の皆様達には様々な場面でお世話になり、毎年7月に行われている「さが桜マラソン」に支援を頂き、もう1つは佐賀県主催の総合防災訓練に毎年参加頂き応急手当のご指導等、存在感をアピールして頂いています。資源は多様であったほうが良いと思います。様々な資源を上手く組み合わせて多くの方々のニーズに応えていく社会を作っていくことが私たちが目指す姿であろうと思っています〟等述べ、古川知事が消防庁に勤務していた時代に消防法の改正作業に関わり消防法29条に書かれている救急業務の定義は、柔道整復師法を参考にしたことや佐賀県北高校野球部のトレーナーをしている方の経緯などを紹介し〝私どもは目立たないが、しっかりサポートして頂いている方々のお仕事を応援していきたいと思っております〟と結んだ。
佐賀労働局局長・田窪丈明氏の祝辞挨拶があり、次に唐津市長・坂井俊之氏は〝今思い返せば1年以上前、富永会長が幾度となく市役所の私の所にお訪ねされ、開催に向けての熱い思いを伝えて頂いた1年でした。誠実・熱心な志をもった富永会長に心から敬意を表し、また準備にあたられた佐賀県柔道整復師会の皆様方に心から感謝申し上げたい〟と述べた後、国士舘剣道部に所属していた学生時代のエピソードを披露、今日元気にしているのも国士舘剣道部時代にお世話になった柔道整復師の先生のお蔭であると話し〝柔道整復師の皆様方は地域に根ざした医療人です。是非これからもその技術が地域の活力になって頂くことを心から願う次第〟と挨拶。
その後、衆議院議員・今村雅弘氏、衆議院議員・岩田和親氏、参議院議員・山下雄平氏の祝辞が続き、一般社団法人佐賀県医師会長・池田秀夫氏は〝本大会を主催された日本柔道整復師会は柔道整復師の振作高楊はもとより、医学的研究及び資質向上、養成及び指導など幅広く活動され、こうした活動が実を結び平成14年にはWHO(世界保健機関)において柔道整復術が日本の伝統医療の一つ柔道セラピーとして紹介されたことは柔道整復術が世界に認められた証ではないか。佐賀県では県民の健康を守り、人間尊重の福祉社会を作ることを目的に佐賀県医療関係団体連合会を組織、発足当初から佐賀県柔道整復師会は医師会と共に医政活動など様々な活動を続けて参りました。これからも地域医療の団体として手を携えて佐賀県の医療の発展充実に繋げ引き続き地域医療の一翼を担って頂きたい〟と激励した。
来賓祝辞最後に一般社団法人日本柔道整復接骨医学会会長・櫻井康司氏は〝今まさに厳しい環境の中で柔道整復師が如何に個別自衛権を発揮するか、また集団としての集団的自衛権を発揮しないと厳しい環境になるという実感を持っている方が多いと思われます。学会が発信基地として機能していくことが大きな仕事です。各ブロックの学術大会の中からピックアップをして接骨医学会の査読等の中で更にレベルアップをしていくことが柔道整復師の環境を守ることになると思います。柔道整復師の仕事は一人一人の仕事であり、医師会や病院協会という大きな組織がない中で如何に質を高めていくか。各ブロックで研究テーマを決めてそれらを集積し分母を大きくしていくことが日本全国で起こってくれば何よりです。接骨医学会の会員に一人でも多くなって頂くことを心から祈念します〟と述べた。
佐賀県理事・小嶋利博氏が閉会の辞を述べ、引き続き前夜祭が賑やかに行われた。
特別講演「股関節の機能解剖及び股関節疾患に対する手術の現状」
佐賀大学医学部整形外科学 主任教授・馬渡正明氏
馬渡氏は〝富永会長は私の高校の先輩で、毎年講演させて頂いています〟と挨拶、本題に入った。
股関節は、骨盤と下肢を連結し、寛骨臼と大腿骨骨頭により形成され、それを関節包が包み、外側の筋肉で関節を安定させている。股関節は荷重関節で形状は丸く、大きな可動域が特徴で、構造上まん丸で深く骨盤に包まれている。大腿骨は、頸部と大腿骨の骨軸盤は正常で135度の角度をもって頸部骨頭と繋がり、角度が大きければ外反股、小さければ内反股と言う。成長過程で大から小さい角度に徐々に変わる。内反股骨切り術、外反股骨切り術などバイオメカニクス上、夫々の症例で角度を変える手術がある。大腿骨頭は横から見た時、前に捻れ(前捻角)、正常で15度~20度位、前捻角が強い場合があり後ろは後捻と言う。大腿骨を上から見ると、膝のラインに対して骨頭の部分が20度~15度位前のほうに傾くのが正常な形で、変形性股関節症になると爪先を外側に向けて外旋位歩行になることが多い。大腿骨の捻れの大きさで足の爪先の角度は変わる。関節の安定化は骨だけでなく関節包が重要で切れると非常に不安定になる。手術時に切らざるを得ない場合に最小限にとどめている。
股関節屈曲筋で大きいのは腸骨筋、大腿腰筋の一部の縫工筋、外転や内転筋群は4つ位大きな筋肉があり、外旋筋は梨状筋、内・外閉鎖筋等であるが内旋筋は無い。伸展筋群はハムストリングで、大腿二頭筋、腸腰筋、大腿骨筋膜張筋が連結して骨盤と股関節、大腿骨を繋いでいる。股関節の骨表面に2~3ミリの関節軟骨組織があり、つるつるした滑らかな軟骨が表面を覆いスムーズに動く。関節軟骨中には軟骨細胞があり周囲の器質を作る。器質は体重がかかる方向にコラーゲン繊維、プロティオフリカン、コンドロイチンがあり、体重を受ける構造になっている。軟骨組織には血管と神経が無いのが特徴、など股関節を解剖生理学的に解説。
変形性股関節症について。整形外科のバイブル「神中整形外科学」に〝股関節は荷重関節で、先天性・後天性の原因で骨の構造に僅かな欠陥が生じても変形性股関節症に進む〟と記載されているが、一つは軟骨が肥満など大きな負荷で変成する。他の1つは、生まれつき軟骨が弱い場合である。痛みは、関連痛として特に子供の場合、膝の痛みを訴える場合がある。股関節の障害がある子が膝痛を訴えることは多く、膝痛の子供は股関節の動きを診るべきで、診察では、大転子の斜め上方周辺部に痛みがあるかどうかを診る。トーマステストで〝股関節の伸展をみる時には反対側の股関節をしっかりフルプレクションさせて股関節が伸びるかどうかをみる。もし股関節の伸展制限があれば股関節の疾患を疑う。もう1つはパトリックテストで股関節の動きが悪く拘縮があれば陽性である。
変形性股関節症は総称であり、原因が分らないものを一次性、原因がはっきりしているものを二次性といい、二次性の代表的なものが発育性股関節形成不全(DDH)で、日本で一番多く9割位がDDHとされている。大腿骨頭壊死症、高齢者にみられる急速破壊型股関節症は、一年以内に股関節が急に壊れる病気で骨粗鬆症との関係が言われている。他にペルテス病、すべり症、関節性軟節炎等がある。発育性股関節形成不全DDHは、屋根部が小さく骨頭がはみ出ている。屋根が浅いので部分的に体重をかけ軟骨が痛む。屋根が小さいので骨頭が徐々に脱臼していくのでシェントン線が狂う。骨盤の形成不全が変形性関節症の大きな理由である。ペルテス病は子供の骨頭壊死で治ってもいびつな骨頭で成長するため60代位になると徐々に関節が悪くなる。
今は関節鏡での骨切り術、人工関節で、最近関節固定術は全く行われていない。我々の得意技は骨切り術で、股関節形成不全の場合に寛骨臼を大きくするために行なったり、骨頭壊死の場合、骨頭の全てではなく残っている一部分を体重がかかるところに持ってくるために行なっている。
私は九州大学出身で、先々代の西尾教授、先代の西岡教授の薫陶を得て今もこういう手術を行っており、骨切り術の発展に果たした九州大学の役割は非常に大きかった。人工関節は痛んだ関節を取るため確実ではあるが最終手段でもある。手術は技術的な進歩、人工関節の進歩で期待ができる等話し、手術例を画像で紹介しながら詳しく解説。人工関節は日本では5万例位、アメリカでは人口は2倍位であるが、手術症例は6倍位ある。手術自体は高額であるが、20年~30年使うことが出来ればコストパフォーマンス的に優れた手術といえる。大学ではモーションキャンプチャーを導入し〝どう歩いているか〟〝股関節・肩・腰の動き〟を解析、術前術後の動きを調べダイナミックに評価している。当大学病院は、今7500位の症例数、基本的にはセメントレスという人工関節を行っているのが特徴である。1200例位の手術を行っている内600位が股関節で、他には膝・手足・脊椎等である。去年の股関節手術は大体600例位を行っている等、股関節を網羅する講演内容であった。
特別講演Ⅱでは、日本柔道整復師会国際部の本間琢英氏と根來信也氏が『草原に架かる虹を追って』と題した講演と日整保険部の川口貴弘氏と三谷誉氏による『柔道整復師と介護保険について―生活目標を達成する運動とは―』の2つの講演が行われ、好評を博した。
また早朝より熱心に行われた会員研究発表は「伸縮性・非伸縮性テーピング固定による治癒過程の比較分析」佐賀県・大庭輝人氏、「橈骨遠位端骨折二症例の比較分析」佐賀県・平野弘道氏、「呼吸法を利用した独自の手技による頚部へのアプローチ」宮崎県・田川雅敏氏ら9題の発表があった。
閉会の辞を、沖縄県柔道整復師会学術部長の渡慶次克紀氏が述べ、来年へ夢と期待を繋ぎ終了した。
PR
PR