第7回柔道整復学豊郷台シンポジウムが開催される
平成26年8月10日(日)、帝京大学宇都宮キャンパスにおいて『第7回柔道整復学豊郷台シンポジウム(第6回帝京大学・栃木県柔道整復師会ジョイントシンポジウム)』が開催された。
昨年度より同大学医療技術学部柔道整復学科長に就任された小松明氏による開会宣言の後、帝京大学・冲永佳史学長は〝帝京大学と(公社)栃木県柔道整復師会のジョイントシンポジウムは今年で第6回目、柔道整復学豊郷台シンポジウムは7回目の開催となった。このように毎年シンポジウムを開催できるのは皆様の普段からのご理解・ご協力あってのことであり、改めて感謝申し上げます。帝京大学は専門学校だった当初から、柔道整復師の育成に力を入れてきた歴史がある。柔道整復師が国家資格となって20年以上が経つが、今後柔道整復師がどう活躍していくかを大学として発信していかなければならない。技術を磨き専門性を高め続けていくことが求められる。今回も皆様のご協力の下、盛会となることを期待している〟と挨拶を述べた。
特別講演「アスリートに対する関節鏡手術」
上本スポーツクリニック理事長・帝京大学非常勤講師 上本宗忠氏
まず上本氏は〝スポーツクリニックを立ち上げる前、スポーツ選手から「怪我をしてもどこにかかればいいのかわからない」「治療中にしても良いこととダメなことの判別が出来ない」「いつ試合復帰できるのか不安」などの声が聞かれた。通常、病院や医院での治療は、診断や手術をして社会復帰をするためのリハビリを行なって終わりとなるが、スポーツ選手の場合はスポーツ現場への復帰までのリハビリおよびコンディショニングが必要となる。また、怪我を再発させないためにも患部の機能が回復してきたら全身のコンディションにまで目を向ける必要がある。このような考え方を『アスレチックリハビリテーション』というが、病院・医院では医師に理解してもらえなかったり、スペースや時間の都合で出来なかったりとあまり浸透していないのが現状である。そこで、スポーツ選手を試合復帰までトータルでサポートするためにクリニックを創設した〟と開業に至った経緯を説明した。上本スポーツクリニックはクリニック部門とコンディショニング・センター部門に分かれており、「自分で気づいて、自分で変わる」というコンセプトの下、選手自身がなぜ怪我をしたのか、何がどうしたら良くなるのかという治療のプロセスを理解し自発的に変えていくことができるよう選手をサポートしているという。上本氏は〝身体全体を診てどうしたら再発を防げるのかを考えるトータルケア、選手を試合復帰までサポートするトータルサポート、監督やコーチなどの関係者と連携し選手の情報を共有するトータルネットワークの「3つのトータル」を目指し、選手が一日でも早く競技に復帰できるよう努めている〟と話した。
トータルサポートを完成させるうえで、手術が必要となるケースもある。上本氏は年間平均168件もの関節鏡手術を行なっており、〝スポーツ選手の場合、スポーツを続けるためあるいはパフォーマンスを向上させるためなど、一般患者とは異なる目的を持って手術を受ける場合がある。関節鏡手術は最小限の侵襲で済み、正確な評価・確実な修復が可能であり回復も早いなど、数多くのメリットがある〟として、実際の症例を用い、関節鏡手術の術前・術後の様子を詳しく解説。写真や動画をふんだんに使用し聴講者を惹きつけた。
上本氏は〝どうしたら選手に喜んでもらえるのか、何を望んでいるのかを考えながらサポートしている。「ひとを診る」「全体を診る」「動きを診る」の3つを大切にし、選手と向き合っている。関節鏡手術は様々な関節の疾患に対応できる、患者にとっても負担が少なくメリットの多い治療手段であると知っていただきたい。日常の診療の中で、選択肢として関節鏡手術を知っていれば治療の幅も広がるのではないか〟と講演を締めくくった。
(公社)栃木県柔道整復師会 会員発表
「男体山登拝祭の救護ボランティア活動報告」
(公社)栃木県柔道整復師会 舘佳孝
(公社)栃木県柔道整復師会は例年、8月に催される男体山登拝祭で救護ボランティアを行なっている。近年、登山者は増加傾向にあり、2010年のレジャー白書では年間の登山者数は1230万人とされた。つまり日本人の10人に1人が登山を楽しんでいるということになる。しかしその反面山岳事故も多いため、実態把握および事故予防のために平成14年~24年の負傷者データを統計・分析したので報告する。
「Q-Angleからみる足底挿板療法による膝蓋骨脱臼の改善の一症例」
(公社)栃木県柔道整復師会 片岡弘直
膝蓋骨脱臼は一般的に反復性膝蓋骨脱臼に移行しやすい。その原因として、膝蓋骨の外側脱臼防止に重要な役割を果たしている内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)の損傷・弛緩が挙げられる。MPFLが損傷し弛緩した状態で治癒すると、2回目以降は比較的軽微な外力で脱臼しやすくなってしまう。そこで今回は足底挿板を用いてQ-Angleの改善を試み、良好な結果が得られたので報告する。
帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻 学生発表
「社会人サッカー選手に関するハムストリングスの肉離れ予防とスポーツパフォーマンスについての一考察」
帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻2年 北村悠貴
ハムストリングスの肉離れの発生機序には伸張性収縮が深く関与しており、筋に強い張力が働くことにより発生すると考えられている。本研究では社会人サッカー選手にハムストリングスの伸張性収縮だけではなく、短縮性収縮を伴う運動を加えて実施した介入トレーニングが肉離れ予防やスポーツパフォーマンスにどのように影響するのかを検討した。
「アフリカツメガエル初期胚に対する乳酸ストレス、そしてそれから…」
帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻2年 熊倉悟
柔道整復学に携わっていくうえで、動物組織の持つ生理学的な基本構造を研究し深く理解していることが不可欠だろうと考えている。本研究ではテーマを2つに分け、第1部では乳酸処理が細胞にもたらす細胞生物学あるいは発生生物学的な効果に注目し、アフリカツメガエル胚をモデルとして実験を行なった。第2部では実際のヒトの関節の軟骨細胞の形成・分化機構に焦点を当てて研究を試みた。
「肩関節に発生する力の大きさと方向の自動計測・表示・記録装置の開発」
帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻2年 治面地学
先行研究として三角筋各線維の作用を詳細に調査し報告したが、この研究で用いた力計測装置は構造上、360°すべての方向における力を計測することが出来ない、多方向へ分散した力を計測することができない等の問題点があった。そのため、肩関節の様々な肢位において等尺性運動で生じる力の大きさ、力を出している方向を同時計測できる2次元力計測装置を開発した。
「足底部内側ウェッジが歩行時の足底圧と足部動的アライメントに及ぼす影響」
帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻2年 星勇人
一般的に「扁平足」と言われる足部内側縦アーチの低下に伴う足部の障害に対して足底挿板の内側ウェッジはしばしば用いられているが、治療効果については不明な点も多い。そこで今回、一足の全荷重分布を前・中・後足部からさらに内・外側を加えた計6分割に細分化するプログラムを作成し、内側ウェッジ装着の効果を足底圧および動的LHAを同時に記録し、詳細に調査したので報告する。
帝京大学医療技術学部柔道整復学科 教員発表
「臨床応用を目指した非侵襲的測定による骨格筋酸素動態評価法」
帝京大学医療技術学部柔道整復学科准教授 白石聖
接骨院で行なう物理療法・手技療法・運動療法は代謝・血流の促進を目的としているにもかかわらず、それらを客観的に捉える方法はほとんどない。近年、スポーツ医科学分野においては非侵襲的測定法による筋代謝、筋酸素動態、筋血流に関する研究が広く行われるようになった。そこで今回は柔道整復の臨床に関連が深いと考えられる研究について研究成果を含め発表する。
「投球動作(ワインドアップ期)における軸足の荷重と球速について―三次元動作解析装置による検討―」
帝京大学医療技術学部柔道整復学科講師 田口大輔
投球動作は、全身の運動エネルギーをボールに効率よく伝達させることが必要となる。投球動作は4つの投球相に分類することができ、第1期のワインドアップ期においては一般的に投球障害症状を訴えることが少なく軽視されやすい。しかし、この相の破綻は以後の投球相の破綻につながる。そこでワインドアップ期での軸足の床反力とステップ脚の高さに着目し、球速との関連性を調査し報告した。
当日は台風の影響により悪天候の中での開催となったにもかかわらず、会場は多くの学生・柔道整復師で埋め尽くされた。特に、講演中に学生が熱心にメモを取る姿が印象的であった。現役の柔道整復師や柔道整復教育者とともに、学生が日頃の研究成果を発表し意見を交わすことができるこのシンポジウムは、将来を担う若い世代にとって貴重な機会となっている。是非さらなる研究を重ね、「柔道整復学」の構築と発展のために大きな役割を果たしていってほしい。
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