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第18回日本統合医療学会 開催

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平成26年12月20日・21日の2日間に亘り、パシフィコ横浜において「統合医療の世紀―健康長寿社会の実現―」をテーマに、第18回日本統合医療学会が第17回日本アロマセラピー学会学術大会と合同で開催された。

第18回日本統合医療学会

開会に先立って行われた日本統合医療学会大会長・理事長講演では、今大会の大会長を務めた昭和大学医学部顕微解剖学講座教授・塩田清二氏が『2014年度日本統合医療学会・日本アロマセラピー学会合同大会開催の意義』として趣旨説明を行なった。

塩田氏

塩田氏は〝日本アロマセラピー学会は「香りの魅力を探る」、日本統合医療学会は「統合医療の世紀―健康長寿社会の実現―」とそれぞれテーマを掲げている。私が第18回日本統合医療学会大会長をお引き受けしたときに、日本アロマセラピー学会とは互いの学会を構成している方々に共通点も多いことから、情報交換を兼ねて相互理解を深めてはどうかと日本アロマセラピー学会の今大会長である荒川秀俊先生に提案させていただいた〟と初の合同開催に至った経緯を説明した。

そのうえで〝日本は高齢化しつつあり、認知症患者、要介護者の増加が社会的問題となっている。平均寿命と健康寿命には10年程度の差があることが知られているが、統合医療とアロマセラピーでその差を縮めることができれば、我々の社会的使命を果たせるのではないか。統合医療は患者中心の医療であり、西洋医学に伝統的な医学を加え統合することによって、生まれてから死ぬまでの包括的なケアを行う。補完代替医療を患者のニーズに応じて使うことで、患者のQOLを向上させ医療費を削減することもできる。多くのメリットがある一方でデメリットもあり、それらを如何に克服していくかが課題だ。効果の有無が立証されていないものも多く存在し、これらを確定させ、医学的な根拠を知ったうえで個別の患者に適用していくことが大切である〟と統合医療についてわかりやすく解説を行った。

日本アロマセラピー学会大会長講演では、大会長である昭和大学薬学部物性解析薬学講座教授・荒川秀俊氏がアロマの信頼性と効果・効能について講演を行なった。

荒川氏

荒川氏は〝医薬品は信頼性を確保するために日本薬局方による規制があるが、一方で精油は雑貨扱いで規制はなく自主規制が必要となる。消費者が安心・安全に使用するには、精油が一定以上の品質に保たれていなければならない。市販10社の精油成分を比べたところ各成分の含有量にばらつきがあり、精油の品質を管理するために精油精度を認定する制度を作成し、精油それぞれに基準となる分析法を制定する必要があるとして、日本アロマセラピー学会は2010年に精油精度委員会を設立した。自然の物質であるアロマは医薬品のように成分量の基準値を設けることも難しいが、品質の維持・向上を図るために、委員会ではモデルとなる分析法の提示とそのガイドラインの設定、その方法で求めた成分値を表示することを求めている〟等述べ、実際の申請に関する項目を説明した。

精油の効果については〝植物は常に自然環境からの脅威にさらされており、それらから身を守るために植物は抗菌物質として過酸化水素を生成しているという前提のもとで研究を開始した。オキシドールを医薬品としても使われているため、過酸化水素も抗菌物質として関係しているのではないかと考えたためだ。木に害虫が付くとできる五倍子は生薬として使われているが、主成分はタンニンでありここから過酸化水素を出している。五倍子と同じくらい濃度を上げた過酸化水素を用いるとがん細胞も死んでしまう〟と過酸化水素の効果に関する多くの検証結果を示し、〝分析をすることは品質管理において非常に大切だ〟と強調した。

合同大会特別企画「癒しの空間「森の香りと住まい」」では、『森からみる未来』C.W.ニコル氏(作家)、『森の香りの可能性』稲本正氏(正プラス社)、『環境と対話する建築』隈研吾氏(建築家)の3題の講演が行われ、好評を博した。

『森からみる未来』CW.ニコル

ニコル氏

ニコル氏ははじめに‶日本の多様性は素晴らしい。北に流氷、南にサンゴ礁がある国は他にない。しかし日本人はどんどん森から離れ、日本の森林面積は国土の60%以上だが、原生林は3%以下になってしまっている。森が泣いているように感じた〟と失われつつある日本の豊かな森への想いを語った。ニコル氏が住む長野県黒姫にも「幽霊森」と呼ばれた荒れ果てた森があり、豊かな森林として甦らせるために‶荒れた雑木林を伐採し、充分に養分と陽の光が当たるようにした。以前は地下水の流れが止まっていたため水路や池も作った。光や水を通すことで花が咲き、山菜も芽を出し、昆虫や鳥たちも戻ってきた〟と自身の取り組みについて述べた。

また、‶森林は癒しの場だと信じられてきた。昔は東京でも子どもたちが雑木林で遊んでいたが、現在は森で遊ぶ子どもは少なくなっている。そこで5年前から、障害や心的外傷を抱えた子どもたちを森に招く“five sense project”という取り組みを行なっている。子どもたちは森に入る前は目も合わせてくれないが、森に入って1日、2日で無邪気に笑えるようになった〟と写真を交えて紹介し、次第に変化していく子どもたちの表情に聴講者も胸を打たれている様子だった。

『森の香りの可能性』稲本正

稲本氏

稲本氏は‶「森の惑星」という本を執筆する際に英国のキューガーデンの元園長に相談したところ、アマゾンの生態系について調べるよう助言された。調査を進めると、アマゾンではローズウッドが絶滅しつつあり、その成分は日本に生息するクロモジの成分と構成がほとんど同じであることがわかった〟として、クロモジの成分を調査し始めたきっかけを紹介。‶クロモジブレンドの人体への影響をライフ顕微鏡を用いて調査すると、睡眠が改善、イライラも減少するうえに副作用も少ないと判明した〟という。

森の香りと医療のかかわりとして、‶認知症患者は今、450~500万人いる。また、東京都において長期療養を取っている人の約7割がうつ病である。そのような精神的ストレスから病気になる人をケアするために、アロマセラピーや統合医療などで初期のうちに見つけて対処していかなければならない。アロマへの反応には個人差があるものの、研究をしていけばある程度このように処方すればいいというものが見えてくる〟と、アロマを地域医療に上手く取り入れていくべきと提言した。

『環境と対話する建築』隈研吾

隈氏

隈氏は‶木の香りに非常に惹かれる。建築家は形をデザインするものと思われているが、私は香りや感触なども大切な要素だと考えている。東日本大震災は、コンクリートと鉄の近代建築の限界を教えてくれたような気がしている。いくら丈夫な建物を作っても自然という圧倒的な力の前では何者でもない。自然に対する敬意、尊敬、愛情を失ってはならない〟と建築においても環境を考慮すべきとし、自身の手掛けた作品をその背景を含めて紹介した。

‶イタリアで行なわれたゴッホ展では、ゴッホの絵画をイメージし干し草のカーペットを敷き詰めた。すると会場は干し草の匂いでいっぱいになり、来場者に「ゴッホの空間だ」と喜ばれた。那珂川町の広重美術館の場合は、美術館の裏手にあたる里山に神社がある。そこにも人が訪れるような建物にしたいと思い、真ん中に大きな穴を開け、神社を見てから入れるようにした〟等、地域の特色や素材を生かし、そこに溶け込みながらも斬新で五感を刺激するような建築の数々に会場からも感嘆の声が漏れた。

IMJシンポジウム1「在宅ケアにおける統合医療~地域包括ケアを目指して~」では、沼田裕樹氏(町田市介護人材開発センター)、鶴岡浩樹氏(日本社会事業大学教授・つるかめ診療所所長)、小木曽義典氏(あけぼの歯科医院院長)、宮崎和加子氏(一般社団法人全国訪問看護事業協会事務局長)がそれぞれの立場から、日頃実践している取り組みを含め地域包括ケアにおける統合医療に対する考えを論じた。

『地域包括ケアとは?』沼田裕樹

沼田氏

日本は高齢化が進行しており、高齢者、要介護認定者の人口は急速に増加している。介護保険制度が導入された2000年には在宅福祉重視、地域福祉を増進させてゆく方向性が提唱された。2006年の介護保険制度改正以降、地域包括支援センターが設置され、各区市町村内を30分程度で動ける範囲の“圏域”に分けて“圏域”ごとに介護保険サービスを充実させ「地域包括ケア」という考え方が進められた。各々の会議や地域、施設との関わりを続けた中で、住民とともに課題を検討することが住民の参画・モチベーションとなり、高齢者等のハンデのある方を地域で支えてゆくことに有効であると感じている。


『在宅医療と統合医療』鶴岡浩樹

鶴岡氏

在宅医療とは病院や診療所に通院できないが治療を必要としている患者宅に、医師が定期的に訪問し診療を行うことである。治らない病気の方々を対象としていることもあり、サプリメントや民間療法等の補完代替医療を目にすることが多い。患者宅を訪れることは生活の場に入り込むことであり、在宅医はこれらのエビデンスだけではなく、患者のナラティブも認識しながら診療を行う。統合医療の基本はプライマリ・ケアにある。人間を「丸ごと」見ようという試みであり、患者を中心として視野を広げ、様々な専門職と協働しながら考えていく必要がある。


『在宅歯科医療と統合医療 午後から地域へ』小木曽義典

小木曽氏

健康かつ長寿でありたいと誰もが願うが、現実には高齢で介護の必要な方が数多く存在している。あけぼの歯科医院では1979年に長期入院患者の義歯による潰瘍の治療で初めて訪問診療を行った。続けていくうちに在宅医療の必要性を感じるようになった。現在は患者の3分の1は在宅の患者で、毎日午後は居宅や老人福祉施設などに往診している。在宅歯科医療の目的は、①食の自立への支援、②安心の社会・地域作りへの貢献、③医療・介護等多職種の連携構築への貢献、④死生観の深まりの一助、と考えている。あまり知られていない在宅歯科医療のありのままの姿を紹介した。


『地域包括ケア時代の統合医療~訪問看護の立場から~』宮崎和加子

宮崎氏

団塊の世代が超高齢になる2025年に向けて日本の社会保障制度のあり方が大きく変わろうとしている。健康で豊かな超高齢社会の実現に向けて、「住まい」「生活援助」「予防」「医療」「介護」を一体的に整備し地域全体でケア提供を行い、医療施設ではなく介護施設や在宅、高齢者住宅など生活の場で自分らしく生ききることが重要となる。地域全体を視野に入れて、多職種で「生活」「生きがい」「穏やかな看取り」などをキーワードとして本来の看護の力を発揮する時代である。

IMJワークショップ4「『社会(生活)モデルとしての統合医療』に必要な視点」では、長谷川敏彦氏(文部科学省科学技術・学術政策研究所客員研究官)、和田雄志氏(公益社団法人未来工学研究所理事)、山本竜隆氏(WELLNESS UNION/朝霧高原診療所・富士山靜養園・日月倶楽部)、諌山憲司氏(広島国際大学保健医療学部准教授)をパネリストに迎え、意見交換がなされた。

IMJワークショップ4

『21世紀型社会の新医療は地域で生活の自律を支える!…そのためにまず進化生態医学でつなぐ概念と理論の構築を』長谷川敏彦

2060年以降、50歳以上の人口が全人口の60%を占める安定した「21世紀型の社会」に遷移すると予測されており、医療の目的は「疾病の治癒や救命」から「生活を支えより良き死を迎える」ことに転換する。今日の世界の医療は「経験医学」「伝統医学」「西洋医学」の実践の混合から成っているが、それらは平均寿命が50歳以下の世界で成立し今日とは異なる疾病を主たる対象としてきた。今、新たな概念と理論の創造が必要である。

『コミニティービジネスと地域経済活性化の視点からの統合医療』和田雄志

日本が超高齢社会に入った今、統合医療あるいは医療全般における固定観念を塗り替える必要がある。医療は患者という一人の「生活者」の生活・人生の一部にすぎない、超高齢化を雇用機会や産業創出の絶好の機会と考える、ケアされる側として捉えられていた高齢者を新たなサービスの担い手と考える、など超高齢社会を「魅力ある成熟社会」にする発想の転換が求められている。

『環境とグローカルの視点から Think globally, but act locally で統合医療を実践する ―社会や経済、そして地域性、自然環境なども考慮して―』山本竜隆

世界保健機関は「健康を“支える”生活環境が必要である」とし、「地域の将来像を明確にする場を多く持ち、コンセンサスを得ていくこと」が地域の健康増進に寄与するとも言及している。朝霧高原では、Think globally, but act locally の視点で活動している。グリーンツーリズム、ヘルスツーリズムを含むインバウンドツーリズム実践を目指した活動を報告した。

『社会(生活)モデルとしての統合医療(災害対策の視点) ―新たな概念“救災”の提言―』諌山憲司

南海トラフ地震や首都直下型地震等の大規模災害の発生が予測されている。災害リスクの高い世界の都市として、東京や横浜、神戸、大阪、名古屋が挙げられており、国民の生命・財産を守るために、強くしなやかな国をつくる「国土強靭化計画」が内閣府を中心に図られている。未曽有の災害が危惧されている中、平時から統合医療を活用した“救災”の概念を持ち、災害に備えることが大切である。

これらの他、統合医療学会女性の会の企画プログラムや教育講演、シンポジウム、ランチョンセッション、一般口演、ポスター発表等多種多様な発表が行われた。

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