(公社)日本柔道整復師会第44回北海道学術大会札幌大会開催
平成27年7月5日(日)、札幌コンベンションセンター(札幌市白石区)において公益社団法人日本柔道整復師会第44回北海道学術大会札幌大会が開催され、道内各地より(公社)北海道柔道整復師会会員および柔道整復師専門学校の学生が集まった。
大会長である(公社)北海道柔道整復師会・萩原正和会長は〝今回で44回目となるこの学術大会は、常に学術研鑽に努め地域住民の方々に頼りにされる柔道整復師としての技術を高めることで、社会に貢献し、ひいては公益活動を推進することにもつながっている。本日は多くの先生方にとって研鑽の場としての意識・意義のある一日としてほしい〟と歓迎し、当日のプログラムを紹介した。
学会会長である(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は、〝日本柔道整復師会の会長に就任した約2年前、わが業界は国民に不信感を与えるような保険者による調査や保険の取り扱いなど、多数の問題を抱えていた〟とし、それらの問題点に対して(公社)日本柔道整復師会が行ってきた取り組みや方向性について紹介した。またこれからの方向性として〝少子高齢化に基づく人口変化により社会保障も変化しており、患者さんが「来る」医療から私たちが「訪問する」医療が主たるものとなっていくだろうと思われる。その中で柔道整復師がいかに安心を与える技術を提供するか、社会保障に対応していくかということが大きなテーマとなっている。一丸となって対応をしていかなければならない。パラメディカルとして、医師と連携し安心して生活できる環境を整備することを目標に活動していかなければ、地域医療として残ることはできないだろう〟と、先を見据えて行動を起こしていくよう呼びかけ、団結を求めた。
特別講演『野球肘の診断と治療』
北海道大学大学院医学研究科
機能再生医学講座整形外科学分野 教授 岩崎倫政氏
岩崎氏は北海道にゆかりのあるプロ野球選手として、駒澤大学附属苫小牧高等学校出身であるニューヨーク・ヤンキースの田中将大投手と、日本ハムファイターズで活躍したテキサス・レンジャーズのダルビッシュ有投手を挙げ、〝両者とも肘の内側側副靭帯損傷に見舞われ、治療や手術を受けている。今、日米で肘の投球障害が非常に深刻化している。野球の投球動作は人間の自然な動きに反していて、肘には外反力・牽引力が生じる。野球肘は特殊な力学的環境におかれることにより起こり、異なる障害が混在している。今回は特に多い内側側副靭帯損傷、離断性骨軟骨炎に絞って話していきたい〟と述べ、講演をスタートした。
投球時動作と力学的環境について、岩崎氏は〝投球動作は6つのフェーズに分けられるが、なかでもボールをリリースする直前であるコッキング後期が最も負担がかかる。肘に力が加わると外反力が生じるが、そのうちの54%という靭帯の破断強度に近い力学的負荷がかかっていることが内側側副靭帯損傷の直接的な原因となっている。一方、外側では内側側副靭帯を損傷することよって力が入らなくなり、上腕骨小頭前方への応力がより増大して炎症が起き、離断性骨軟骨炎を発症すると考えられる。つまり、内側側副靭帯を損傷すると離断性骨軟骨炎を発症するリスクが非常に高まると言える〟等述べ、内側側副靭帯損傷、離断性骨軟骨炎のそれぞれについて、発現する症状や診断および治療方法などを写真を多用し詳細に解説を行なった。
最後に、岩崎氏は〝内側側副靭帯損傷においても離断性骨軟骨炎においても、初期は基本的には自然治癒が可能であり、早期に発見できれば手術をしなくても間違いなく治る。そのため我々は発症予防、早期診断のため野球肘健診を行っている。野球肘は治らないというものではない〟とし、症状が進行している人も治療により復帰が十分可能でありしっかりと治療を受けることが大切だと締めくくった。
『2015・柔道整復師と介護保険について』
公益社団法人日本柔道整復師会保険部介護対策課 三谷誉氏
冒頭、三谷氏は〝地域包括ケアシステムは新しいサービスを作るという形ではなく、今あるものを活用して住みよいまちづくりをするということ。『医療・介護サービスの提供体制改革後の姿』として政府が公表している資料には、昨年2月に「その他の専門職」として柔道整復師が記載された。我々柔道整復師は骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷に対しアプローチができる専門職であり、それを地域の中でどう活かしていくかという視点が重要だ〟と述べた。
地域包括ケアの概要については〝政府は、病院への入院期間は14日までを目指し、早期に退院させるよう進めている。不安定な状態で退院するため在宅医療の整備が重要となり、そこに柔道整復師が参入する見込みがある。連携というのは情報のやり取りであり、まずは我々柔道整復師に何ができるのかを発信し、チーム医療として、他業種と患者の情報について共有することが大切となる。地域包括ケアシステムは、①医療、②介護、③生活支援、④介護予防、⑤住まいの確保-の5つを柱としている〟と述べた。
介護予防については〝「介護予防日常生活支援総合事業」がキーワードであり、政府は訪問型サービスと通所型サービスの2種類で行うよう提示している〟として、それぞれの特徴について詳細に説明し、柔道整復師の地域包括ケアシステムへの参入について解説した。また、介護予防を行う上で患者個人の興味関心や希望、生活史に沿った提案をすることも大切であり、それができれば継続性も向上するとし、押さえておくべきポイント等を解説した。
『草原に架かる虹を追って
―公益社団法人日本柔道整復師会モンゴルでの記録―』
公益社団法人日本柔道整復師会国際部員 本間琢英氏・金井英樹氏
初めに金井氏は、モンゴル国や国民行事であるナーダム祭の概要について説明し、〝モンゴル国と国際交流を行うようになったのは、日本で治療を受けていた朝青龍関が治療実績をモンゴルオリンピック協会に紹介し、財団を通じて招へいされたことがきっかけだった。2005年にはスポーツメディスンシンポジウム、学会発表やナーダム祭の傷害調査、2006年にはモンゴル国オリンピック協会、体育協会、モンゴル国立医療科学大学と調印締結し、地方医師への卒後研修が始まった〟と経緯を述べた。
モンゴルの医療システムについて〝一次医療として地方の村を担当するバグ(村)医師は、手術以外のほとんどの医療処置を行うほか、出産にもかかわる重要な役割を担っている。バグ医師で対処できない患者はソム(都)医師が担当する。ソム病院には小規模な入院設備もある。そこでも対処できない場合、大規模な入院設備があり、おもに重症患者を扱うアイマグ(県)の病院に搬送される〟として、受傷の原因となる事例や地方医療の問題点について紹介した。加えて〝医療インフラが整備されていない現状では、一次医療のバグ医師が適切な治療が施せるようになることが大切で、高度な医療機器を必要としない柔道整復術はモンゴルの医療にとって大きな効果がもたらせるのではないか〟とした。
本間氏は、プロジェクトについて〝日本柔道整復師会ではモンゴル国立医療科学大学およびその付属大学をカウンターパートとして事業を行ってきた。JICAの事業として、モンゴル国と日本国政府の契約に基づいて、モンゴルには柔道整復術が必要だということを両国が認めたから行われている。様々な機関と連携を取っており、特に地方のバグ医師とはネットワークを作り、データを吸い上げて効果を測定している〟とし、現地医師に対し行ったアンケート結果や柔道整復術指導者候補生の活動内容等を紹介した。
また、モンゴル国准医師であるエンフタイワン・トゥブシンバヤル氏は『モンゴル国における柔道整復術の普及活動報告』と題し、プロジェクトにおける柔道整復術指導者候補生の活動内容について詳細に報告した。
これらの他、各ブロック研究論文発表12題、附属北海道柔道整復専門学校学生発表4題、実技発表6例、「物理理学療法の実際と実技」3題が発表された。
最後に発表者の表彰が行なわれ、本学術大会は盛会裏に幕を閉じた。
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