(公社)日本柔道整復師会第36回東北学術大会青森大会開催
平成27年7月19日(日)、ホテルナクアシティ弘前において、公益社団法人日本柔道整復師会第36回東北学術大会青森大会が開催された。
今大会の主管である公益社団法人青森県柔道整復師会の佐藤金一会長は歓迎の辞を述べた後、〝東日本大震災から4年が経過した。学術大会は2年間開催中止を余儀なくされ、今回青森での開催は8年振りとなる。ここ弘前には桜、リンゴ、白神山地などの「日本一」があるが、残念ながら青森県は日本一の短命県でもある。今回、特別講演として『私たちにできる短命県返上』と題し弘前大学大学院の中路教授にご登壇いただく。生活習慣病の予防と健康な身体づくりのための食生活改善など、心して拝聴したい〟等、当日のプログラムの紹介を行なった。
(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝今、柔道整復業界には課題が山積している。皆さんも日常の施術に対し不安を抱いているのではないか。現在、日本柔道整復師会は諸問題を解決するために厚生労働省と勉強会を重ねている。今秋の柔道整復師法改正も視野に入れ、協定をしっかり見直す。保険関連の問題については、保険者と厚生労働省と日本医師会との連携の中で、新しい仕組みを作るべく活動している。少子高齢化による人口の変化で社会保障にも影響が出てくるが、皆様が専門職として医師会等と連携を取り、地域住民が健康で生き生きと過ごせるようにと、日本柔道整復師会は活動している〟とし、国民のためにも研鑽を積み、それらを還元していくことの重要性を説いた。
その後、来賓挨拶および紹介ののち、一般公開の特別講演へと移った。
特別講演『私たちにできる短命県返上』
弘前大学大学院医学研究科長・医学部長
教授 中路重之氏
中路氏は〝各都道府県の平均寿命ランキングを分析していくと健康とは何なのか、健康づくりとはどうすればいいのかを俯瞰することができる。青森県の平均寿命は男女ともに低く、沖縄県・長野県は高い。その差は一体どこから生まれるのか?〟として講演を開始した。
〝平成22年調査時の青森・長野・沖縄の年代別死亡率ランキング(男性・10万人当たり)では、40歳以上の各年代の死亡率において、長野県の1.5倍以上という結果が出ている。つまり最終的な死亡年齢だけに差があるのではなく、若い年代での死亡率が高いということ。一方で沖縄県と比較すると、30代・40代・50代の死亡率においては青森に続いて高い。これは昭和47年にアメリカから施政権が返還されたと同時に欧米の食文化が急激に流入したこと、飲酒量が他県に比べ多いこと等が要因となり、肥満率が上昇したことが影響していると思われる〟等、死亡率と健康関連指標を比較しながら分析し、平均寿命を延ばすための対策として〝若死にを減らすこと、高齢者が生き生きと暮らすこと、生活習慣改善、適切に健診・病院を受診すること、通院・治療を行なうことが重要だ〟とした。その後、成功例として長野県の取り組みを紹介し、そこから青森県との違いを導き、長寿の秘訣と健康づくりの方法について解説を行なった。
介護セミナー(ランチョンセミナー)
『2015・柔道整復師と介護保険について―柔道整復師として地域連携を考える―』
公益社団法人日本柔道整復師会保険部介護対策課
講演を行なった三谷誉氏は〝平成26年6月18日介護保険法改正法が成立して、平成27年4月から順次施行されている。今回の改正では施設を含めた様々な形態の住まいを整備したうえで、医療の充実、医療・介護の連携による効果的なサービス提供、様々なニーズに対応する生活支援サービスを確保した形での新しい街づくり、すなわち地域包括ケアシステムの構築を行なっていくことになっている。地域包括ケアシステムという概念や方向性は統一されているが、その内容は全国一律ではなく市町村ごとに違う取り組みがなされている〟とし、地域包括ケアとは何か、地域包括ケアは接骨院・整骨院にどのような影響を与えるのかを解説した。また、柔道整復師はどのように地域包括ケアに参入していくべきかについて〝在宅医療の中で骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷など軟部組織損傷の専門職種として、あるいは介護予防・日常生活支援総合事業の中で参入のチャンスがある。地域包括ケアシステムは新しい考え方なので学術大会に積極的に参加して学んでいただきたい〟として、厚生労働省が示している具体案を紹介、解説した。
研究発表
- TFCC損傷(三角繊維軟骨複合体損傷)に対する固定とテーピング法の一例秋田県 高橋亘
スポーツ外傷において手関節尺側部の痛みで来院されるケースが多く見受けられる。今回、TFCC損傷の症状のうち最大可動域での疼痛や軸圧痛、不安感を訴える選手への治療として、可動域を完全に制限せずに症状の軽減に有効であった固定法とテーピング法を競技別統計、症例を含め報告する。
- 体幹前屈肢位を呈した腰痛患者に対する治療法の文献研究山形県 丹学
2012年12月に日本整形外科学会・日本腰痛学会は『85%の腰痛は原因不明』と発表した。原因が明らかでない腰痛は手術で治すことはなく保存療法が選択される。今回、腰痛が主訴で体幹前屈肢位を呈した患者に対して腸腰筋の治療を行い、1度の治療でも患者満足度が高いと考え報告する。
- 腹部引き込み動作を利用した体幹深層筋の効果的な訓練方法の検討福島県 大内佳奈江
2006年のSystematic review において体幹筋エクササイズが慢性非特異的腰痛に対して有効であり、特に四肢の運動時に体幹深層筋が先行して収縮し支持する働きがあるとされている。また、深層筋活動を促す運動の一つとして腹部引き込み動作が有効であるとの報告があり、腹部を引き込む深さを3~5段階に変え、その深さと体幹筋活動量との関係性を調査した。
- 病態を基にした傷病分類の提案(続報)宮城県「柔道整復学」構築研究委員会 委員 田村博
「柔道整復学・理論編」に掲載されている軟部組織損傷のうち、柔整5傷に当てはめることが困難で分類の判断が分かれるものが存在する。平成26年6月に分類の一例を提案しひとつの結論としたが、宮城県柔道整復師会の方法を引用し(公社)大阪府柔道整復師会においても調査が実施されたため、その結果を踏まえて新たな見解を報告する。
- みかけの脚長差が起因となった腰痛発生の調査解析について ―大腰筋(腰神経叢)が腰痛に及ぼす影響―岩手県 間橋淑宏
平成12年の日本柔道整復師会東北学会宮城大会において腰痛を主訴とした患者の98%に脚長差が見られたと報告された。今回は「見かけの脚長差と腰痛の関係性」についての約2,000余症例の共通点と既発表の論文や成書を対比検討した結果を2症例と共に報告する。
- 当接骨院に来院する患者の統計Ⅱ ―五戸町と仙台市との比較―青森県 新井田一吏
平成25年3月まで約15年仙台市内で接骨院を開設していたが、以前は多かった骨折・脱臼の症例、急の処置を要する症例が減ってきていると感じ、来院した患者に対し調査・分析を行い平成24年に宮城県で行なわれた学会で発表した。青森県五戸町に接骨院を移設し2年目を迎えた今、前回の研究と同様に調査し比較考察を行なった。
上記発表の他、東北各県会員より6題の実技発表が行なわれたが、質疑が多く交わされ活発な議論が展開された。
その後研究発表者および実技発表者への表彰が行なわれ、今学術大会は盛会のうちに閉会となった。
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