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第7回帝京大学・栃木県柔道整復師会ジョイントシンポジウム開催

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平成27年8月9日(日)、帝京大学宇都宮キャンパスにおいて『第8回柔道整復学豊郷台シンポジウム(第7回帝京大学・栃木県柔道整復師会ジョイントシンポジウム)』が開催された。

第7回帝京大学・栃木県柔道整復師会ジョイントシンポジウム開催
井原正博学科長

今年4月に柔道整復学科長に就任された、帝京大学医療技術学部柔道整復学科・井原正博学科長は〝柔道整復学豊郷台シンポジウムは第8回を数え、公益社団法人栃木県柔道整復師会とのジョイントシンポジウムとしては第7回目となる。小松学科長の後を継ぎ学科長に就任するまで病院に勤務していたが、医科の場合は大学や総合病院の勤務医と開業医にはあまり接点がなくこのような場もなかったため非常に良い企画だと感じている。みなさんの活発な討議を期待している〟と挨拶した。

冲永佳史学長

帝京大学・冲永佳史学長は〝我々が柔道整復師養成課程を設置した当初の目的は、今般の医療環境の中での柔道整復師としての役目が何なのかを明らかにすること、そして他の医療職種と連携して患者を診て健康増進に努める立場として成長することだった。そのためにも柔道整復の技術を身に着けることが最も重要となるが、それと同時に他職種との連携が図れるコミュニケーション力を身に着け、また科学的な観点から柔道整復師の業務を見て技術を高めていくことが大切だ〟と、柔道整復師養成にかける想いを述べた。その一方で〝柔道整復師の施術には科学的立証が難しいものも多い。しかし立証する努力をしていかなければ、他の医療職種とのコミュニケーションも取れず、柔道整復学を確立していくことにも繋がらない。学問的環境は無駄ではなく、皆さんが社会的活動を展開していくうえでも重要だとご認識いただきたい〟と、シンポジウム開催の意義を熱く語った。

【特別講演1】では、柔道整復学科初代学科長でありこのシンポジウムの生みの親でもある塩川光一郎氏(東京大学名誉教授・福岡医療専門学校・今年の8月1日より帝京大学理工学部客員教授)が福岡から駆けつけ、『柔道整復学と細胞分化-細胞の初期化に関する2つのノーベル賞研究の分子細胞生物学的考察-』と題する講演を行った。

塩川氏

はじめに塩川氏は〝骨癒合や周辺軟部組織の修復には大なり小なり組織細胞の「脱分化」と「再分化」が伴うと考えられる。組織の「脱分化」と「再分化」を扱う生物学は発生学であり、つまりは「柔道整復学」から遡ると「発生学」にたどり着く。骨折患者の場合、患部の整復・固定の後に柔道整復師が目指すのは順調な骨癒合であるが、その際には細胞の分化は特に重要な概念となる。よって、そのメカニズムについては日ごろから学んでおくことが望ましい〟として講演をスタートした。

まず塩川氏は、細胞の発生・分化のメカニズムについて〝遺伝子が正しい場所で正しい順序で働くことによって起こるが、これは運動器の治療・回復過程にも関係するため、柔道整復分野にも大きくかかわる。形態形成は遺伝子作用のカスケードで制御されており、連鎖反応の途中のひとつの遺伝子の作用を乱すだけで最後に現れる形態が大きく変化する。卵の発生では遺伝子の働きをコントロールするものは細胞質にある母性成分である。ここで重要となる細胞質の構成要素は、DNAの調節領域に特異的に結合する蛋白質性の転写因子である〟として、永年の研究材料であるアフリカツメガエルの胚を縦や横に切断して培養する実験の結果を基に、細胞質にはその場所に応じて異なる母性因子が準備されていることを示した。

続いて塩川氏は、2009年にラスカー賞、2012年にノーベル医学生理学賞を共同受賞した山中伸弥教授のiPS細胞とジョン・ガードン教授のアフリカツメガエル・クローンの研究に話を進めた。〝ガードン教授はカエルの成体の腸の細胞の核を卵の細胞質に移植し(強制的に引っ越しさせ)、その核を受精卵のそれと“錯覚”させることにより、一匹のカエルを作らせることに成功したが、山中教授はウイルスを用いて、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycの4種類の遺伝子DNAを皮膚の細胞の染色体DNAに無差別に組み込むことにより、細胞の核を移動させることなく「初期化」できることを明らかにした〟として両者の研究を比較し、その違いを解説した。その上で、山中教授の研究では染色体に外から組み込まれた遺伝子が細胞質に4種類の転写因子を作り、それらが核の遺伝子に働きかけて「初期化」を行ったと考えられるのに対し、ガードン博士の研究では卵の細胞質にあらかじめ母性因子として準備されていたそれら4種類の転写因子が移植核の中に入り、その遺伝子の働きを「初期化」した、という自身の仮説を紹介した。

しかし最先端医療技術であるiPS細胞では、初期化に際して細胞の遺伝子DNAが必然的に多くの傷を受け、また欠損してしまう等、実用化に向けた応用研究において困難に直面している事実を挙げ、〝iPS細胞も柔道整復学も「進化」あるいは「大自然の手」にはまだまだ遠く及ばないように思える〟としながらも、〝到達したレベルに満足して留まることなく、積極・果敢に、しかしあくまでも謙虚に、努力を重ねていくことが大切ではないかと思わされる。地に足を付け、絶え間なく努力することが必要だ〟と柔道整復学もiPS細胞と同様に有用であり、だからこそさらなる発展に向け尽力すべきだとした。

最後に栃木県柔道整復師会の特殊性として〝栃木県出身である萩原七郎先生の存在は大きい。この方が柔道整復の存続の為に奔走してくださったからこそ今の柔道整復学・柔道整復業界があるわけである。故に、萩原七郎先生は柔道整復学の父といえる存在である。また、(公社)日本柔道整復師会の萩原正前会長が行なわれた、国際化に向けての活動、研究レポート集「柔道整復学」の編纂、大学院寄付講座の設置などの功績も非常に大きい〟と述べ、〝柔道整復師の皆さん、特に帝京大学の柔道整復学科の学生の皆さんは栃木県にはこのような素晴らしい大先輩の方々がいらっしゃることを忘れずに、日ごろの勉強に邁進していただきたい〟と激励した。

【特別講演2】では『障害者の為の乗馬療法』と題し井原正博学科長による講演が行われた。

井原氏

本来は小児循環器学が専門だという井原氏は〝約13年前から障害者のための乗馬療法を宇都宮市で始めた。経験から得られた知識やノウハウにより治療効果を上げるという点では柔道整復とも共通点がある〟と述べ、本題に入った。 はじめに〝乗馬療法は1940年代にヨーロッパにおいて小児マヒが大流行し、その際に罹患した馬場馬術の選手がリハビリでも良くならなかった症状を乗馬により劇的に改善させ、オリンピックでメダルを獲得したことで注目を浴びた。「アニマルセラピー」という言葉はまだ日本ではあまり一般的ではないが、大きく分けて「動物介在療法」と「動物介在活動」がある。「動物介在活動」は動物と直接的に触れ合うことにより癒しを得る方法だが、「動物介在療法」は治療のゴールを設定して患者ごとにレッスンプランを作成・記録・評価していく方法である〟と乗馬療法の発祥と概要について説明した。

乗馬療法の普及については〝1964年にはイギリスでRDA(Riding For The Disabled Association)という障害者乗馬の慈善団体が結成され、日本国内では19団体が活動している。2003年にRDA宇都宮を設立し現在36人の乗り手が所属しているが、その内肢体不自由児が40%、自閉症児が30%、精神遅滞児が30%だ〟として、行なっている治療方法について写真を用いて具体的に解説した。馬は四足動物の中で唯一人間と同じ骨盤の動きをする動物であり、乗馬中は自分の足で歩行しているような骨盤の動きを再現できるため、ある2分脊椎と脳性麻痺の側弯症の小児は1~3年の乗馬によって座位姿勢に著明な改善がみられ、レントゲン上側弯はほぼ治癒したという。また〝身体面だけではなく行動面、心理面でも大きく改善していくケースが多い〟として、メディアに取り上げられた改善例を動画で多数紹介した。

乗馬療法の認知度が少しずつ上がっていく中で〝障害者自立支援法が改正され、NPO法人も障害者の就労支援ができるようになった。以前は乗馬療法により改善しても就職口がないということも多かったが、現在はNPO法人を設立し、馬の堆肥による無農薬野菜の栽培や、馬の世話、皮細工、社会復帰トレーニングなど、障害者の社会復帰を支援している〟とし、今後は日本における普及率が十分ではない、行政によるバックアップがない、経済的自立が困難である等の課題解決に努めていくとした。

この他、帝京大学医療技術学部柔道整復学科教員による講演1題、帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻大学院生による発表3題、(公社)栃木県柔道整復師会会員による発表2題が行われた。

柔道整復が医療技術としてさらに国民の信頼を得ていくためには、学術的研鑽を積みその効果を論証していく必要があり、そのためにもこのような場において知識を共有し、議論を交わすことは重要だと思われる。一人ひとりが柔道整復の価値を再認識し努力を重ねることで「柔道整復学」としてより発展していくのだと感じられる機会であった。

帝京大学医療技術学部柔道整復学科教員発表

『これまでやってきた研究』

帝京大学医療技術学部柔道整復学科准教授 小林恒之

帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻大学院生発表

『新生仔マウス小脳皮質発達過程における各種栄養物質トランスポーター発現動態の解析~早期・組織の損傷・修復過程の理解を深めるために~』

帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻 青木未来

『組織の再生過程における栄養物質トランスポーター発現動態解析~マウス肝再生モデルを用いて~』

帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻 牛込謙一郎

『剣道選手における腰痛の発生要因と腰腹部筋の関係』

帝京大学大学院医療技術学研究科柔道整復学専攻 鈴木拓哉

(公社)栃木県柔道整復師会会員発表

『県内イベント会場で行なった骨密度測定の報告』

(公社)栃木県柔道整復師会佐野支部・学術部副部長 尾野剛稚

『シンスプリントにおける足底板を用いた2症例』

(公社)栃木県柔道整復師会小山支部・学術部部員 舘佳孝

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