(公社)日本柔道整復師会第9回大阪学術大会開催
平成27年8月23日(日)、シティプラザ大阪(大阪市中央区)において公益社団法人日本柔道整復師会第9回大阪学術大会が開催された。
本学術大会長として登壇した、(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は、柔道整復業界の教育体制について〝学校教育の中では様々な改革がなされ、専門学校は2年制から3年制に変わり、さらに4年制大学が誕生した。地域医療の中で柔道整復師が国民や社会に必要とされる職種となるために、よりしっかりとした教育体制が必要となる。近い将来、専門学校も4年制となるように日本柔道整復師会が導いていかなければいけない〟と今後の方針を語り、〝今まで柔道整復師はあまり研究をせず経験則で施術を行なってきたと言われてきた。しかし現在富山大学において、痛みには何らかの原因がありそれを突き止めることでエビデンスを得ようと研究を進めており、素晴らしい成果を出してきている。また、厚生労働省とも意見交換を行い、課題を収集し優先順位をつけて問題解決に努めている〟として日本柔道整復師会が行なっている活動について紹介した。
さらに2020年に開催される東京オリンピックについて触れ、〝日本柔道整復師会は東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の顧問の一員となっている。そこで柔道整復師の先達の先生方が築いてきた、自己の利益よりも他者の利益を優先させる「利他の精神」を東京2020大会の「遺産(レガシー)」として未来に受け継いでいこうと提案している〟と報告。〝これからも業界の発展と同時に地域の国民の健康増進、そして日本で生まれWHOでも認められた伝統的医療文化としての柔道整復術の発展のために、日本柔道整復師会は一生懸命頑張らせていただく〟と熱き想いを述べた。
大阪大会会長である(公社)大阪府柔道整復師会・安田剛会長は〝大阪府柔道整復師会は「学ぶ」ということをテーマにしている。柔道整復師が学ぶことに対する時間を費やすということは府民、国民に対して安心かつ効果的な治療を提供できることに直結する。研鑽を積むことによって、より良い医療・介護・福祉を提供できる地域社会が必ず実現すると確信している〟として、「学ぶ」ことが国民にとって有益であり公益社団法人の役目だと力強く主張した。
また安田氏は〝「療養費の適正化」という言葉があるが、少子高齢化していくなかで医療費の適正化は国にとって大きな課題であり、保険者側・国民側・行政側それぞれの主張を理解しようとせず自分たちの言い分だけを主張し続けても理解を得られることはない。そういった考えの下に、日本柔道整復師会は工藤会長を筆頭に大きな変化・進化をしようと試みている。柔道整復は柔道整復師のためではなく府民、国民のためにあるものだということを業界が忘れなければ、本当に素晴らしい職業であり、未来永劫必ず続くものだと考えている。皆様にはそういった想いを理解し一緒にしっかり学んでいただきたい〟と、全柔道整復師が同じ方向を見据え歩んでいくことの大切さを強調した。
特別講演① 「メジャー流コンディショニング」と「年代別トレーニング方法」
コンディショニングコーチ 立花龍司氏
立花氏は〝日本のスポーツ医科学はアメリカやキューバなどと比較しても全く遅れていない。むしろ東洋医学という世界にない武器がある。しかし高いレベルのスポーツ医科学がありながらそれを活かしきれていない。その理由のひとつとして、日本のトレーニング環境において、何故その練習をしなければならないのかを教えることができる指導者が少ないことが挙げられる。スポーツ医科学と現場の間に入る通訳のような存在の人が増えれば、日本のスポーツ医科学はかなりいい方向に向かうだろう〟とし、講演をスタートさせた。
大学3年生まで現役でピッチャーとして活躍していたという立花氏は、大学4年生からコーチとしての活動を始めたという。〝体幹や股関節のトレーニングが重要だと皆認識していて、そのトレーニング方法も知っている。しかし強制するのではなく選手に積極的にトレーニングさせるには、選手になぜそのトレーニングが必要なのかを理解させ納得できるように伝えることが大切〟と語り、理論立ててトレーニングの大切さを説明することで、自ら考えトレーニングを行うことのできる選手を育てることが重要とした。さらに〝コーチングという言葉の語源は「大切な人達を目的地まで安全に確実に送り届けること」だ。スポーツに置き換えれば、チームの選手をその目標や夢に向かって、トラブルや事故・怪我のないように確実に送り届けるということであり、自分の成功経験を伝えるだけでは選手は育たない。半永久的に勉強しなくてはならない。学ぶことを止める時は指導者を辞める時という程重要だ〟とし、治療方法やリハビリ方法は勿論、コーチングについて勉強することも必要であると強調した。
日本のコーチングは〝戦後まもなく「○○しろ!」という命令服従型の軍隊のような方法から始まった。1964年に東京オリンピックが開催され、世界各国のトレーニング・コーチング方法が入ってきたことで、日本のずさんな指導方法が明らかとなった。やがてコーチングは命令服従型から共同作業的な提案型に移行し、その後質問提案型として一方通行ではなく選手の意見も取り入れた方法へと少しずつ変化していった。方程式のように答えがあるものではないので、その選手が育った時代背景によって適した指導方法は変わる〟と述べた。
具体的なコーチングのポイントとして〝人間は自分の内側から外側にアンテナを向け、そこに引っかかった情報を基に行動や判断をする。しかしこれはいわば「指示待ち」の状態であり、そこに質問を投げかけることでアンテナは一気に外側から内側に向き、自分が何をやりたいのか、どう考えているのかを明確にしていくことができる。これが非常に重要だ〟と述べ、最も優れたコーチング方法として「質問・気づき・気づかせ・提案型」を挙げた。これは〝質問して相手が悩んでいることに気づき、その解決策を知っているのであれば教えるのではなくヒントを与えることで選手自身に気づかせ、最終的に選手にこういった練習をすべきだと判断させる〟方法だという。指導する側にも根気が必要であるとし〝人間の唯一のコミュニケーションツールである言葉の重さを駆使することが大切だ。体を動かす前にまず心が動く。心が動くと行動も変わる。重要なのは何故それをしなければならないのかをしっかりと理解して、考え方を変えていくことだ〟と締めくくった。
特別講演② 「栄養学から考えるコンディショニング」
立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科 吉居尚美氏
吉居氏は栄養学の観点から、▼成長期アスリートのコンディショニング、▼筋肉量と筋力の低下とその弊害、▼運動と筋肥大、▼栄養摂取と運動の組み合わせによる相乗効果、の4つの項目に分け講演を行った。
成長期アスリートのコンディショニングについては〝食べたら勝てるという食べ物はない。勝つためにはしっかりとコンディションを維持するしかない。コンディションの変化を一番感じやすいのは体重の増減だと思われるが、消費エネルギー量よりも摂取エネルギー量が多ければ太る、逆であれば痩せる。特に高校生の部活動での運動量はかなり多いため、摂取エネルギーが足らずに痩せてしまい、コンディションが崩れてしまうことがある。そのため通常の食事以外に「補食」を摂ることによってカロリーを補う必要がある。ヒトを車に例えると、体格は車体にあたり変えることは出来ないが、燃料となる食事によってエンジンである筋肉は変えることが出来る。食事の摂取量不足は筋量の減少を招く〟として、競技種目やトレーニング内容を考慮した食生活の必要性を訴えた。
筋肉量と筋力の低下については〝筋肉は歩行動作の運動器と言われているが、安静時代謝量の30%を担い糖・脂質を代謝するなど、代謝を調節する役割がある重要な組織だ。筋肉は加齢に伴い、20歳代をピークに筋量と筋機能の低下が起こるがこれをサルコペニアという。50歳未満の男性において大腿周径と糖尿病リスクの関係性について調べたところ、周径が大きければ大きいほど糖尿病リスクが低いことがわかった。つまり足の筋肉量が多ければ多いほど内臓脂肪は少ない傾向にある。24時間中のたんぱく質の代謝では、成人では3度の食事の後、つまり1日3回筋肉の分解よりも合成が優位になるとされている。しかし高齢者の場合は合成の優位差が成人のそれよりも小さく、それがサルコペニアの一因ともなっていると考えられる〟と解説した。
たんぱく質とアミノ酸の違いとして〝たんぱく質の最小単位がアミノ酸であり、体の構成にかかわるアミノ酸は20種類ある。その内9種類は必須アミノ酸と呼ばれ、その他のアミノ酸との代替が効かず経口摂取しなければならない。アミノ酸を摂取すると高齢者でも若年者でも筋肉の合成速度が上がり分解速度は下がる。「mTOR」と呼ばれる筋肉内のシグナル因子が刺激されることで筋たんぱく質が合成されるが、特にロイシンがその活性に影響している。しかし高齢者は若年者に比較してロイシンの抵抗性が高く、これもサルコペニアを引き起こす要因となっていると思われる〟と高齢者と若年者の筋たんぱく合成速度を比較し、若いうちに意識して対策を行うことが大切であると主張した。そこで高齢者の筋肥大を目的とした運動プログラムを行なっているとして、トレーニング内容とその結果を紹介。長期的なトレーニングは筋肥大を引き起こし、低強度の運動でも筋力・筋量の変化は確認できると示した。
サルコペニア予防には運動介入が最も手軽かつ効果的であるが、同時に栄養摂取も重要だとして、吉居氏は〝プロテインは分割して摂取するよりも、運動後に一度に飲んだ方が血中のロイシン濃度が高くなり筋の合成速度も上がる。運動とたんぱく質摂取の組み合わせが筋肉、筋力の維持向上に重要となる。特にロイシンを含むものがmTORを刺激して筋を合成する。毎食にたんぱく質が含まれるよう意識すると良い〟と日常生活に取り入れることができる対策等を紹介し講演を終了した。
知識アップセミナーでは『萩原七郎・竹岡宇三郎を通して覧る柔道接骨術公認への取り組み』と題し、(一社)日本柔道整復接骨医学会・大河原晃氏により発表が行われた。
大河原氏は〝療養費の減少等の問題が山積している。何より人口減少と少子高齢化により社会保障制度が非常に不安定になり、我々の業界も崖っぷちに立たされている。国民からの信頼を崩壊させない為にも、過去の歴史を振り返りながらこれからの柔道整復師の在り方を再考したい〟として、柔道整復術公認運動への実質的指導者である公認期成会理事長・萩原七郎氏と公認期成会会長・竹岡宇三郎氏を通して、柔道整復の軌跡を辿った。
このほかに一般発表10題、日整発表2題、学生ポスター発表2題、保険セミナー2題が行われ、発表者の表彰の後、本学術大会は盛会のうちに幕を閉じた。
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