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第24回日本柔道整復接骨医学会学術大会が開催!

トピック

平成27年11月7日(土)・8日(日)の両日、「朱鷺メッセ」新潟コンベンションセンターで第24回日本柔道整復接骨医学会学術大会が開催され、日本全国から多くの柔道整復師が一堂に会した。

大会会長講演 『災害医療について』

新潟医療技術専門学校校長・吉川惠次氏

吉川氏

吉川氏は講演で、〝世界に目をむけると各地で頻発する爆弾テロ等、様々な災害が増えています。阪神淡路大震災、地元新潟での新潟中越地震、新潟中越沖地震、更には東日本大震災と矢継ぎ早に大震災が発生し、その度に課題が明らかになり、対策が強化されてきました。災害医療は災害対策全体の中の一部で、行政、自衛隊、警察、消防、保安庁、更にボランティア等々様々な組織の活動と併行して初めて上手くいくとして阪神淡路大震災以降総合的な災害対策がかなりキチンとしてきています。

災害医療の基本的なコンセプトは、限られた医療資源(人的、物的資源)を可能な限り有効に使い、出来るだけ多くの傷病者を救うということです。医療の効率を強く意識する点が、平常時の医療と大きく異なる点です。災害医療の内容は、発災からの時間経過において、外傷治療、避難所で悪化した持病への対応、さらには心のケアまで刻々と変化して幅広い。N(nuclear:核兵器)、B(Biological:生物兵器)、C(Chemical:化学兵器)による、いわゆるNBC災害(NBC terrorism など)においては、通常の災害医療対応のほか、兵器の検知(detection)、同定(identification)、除染(decontamination)およびゾーニング(zoning:地域規制)といった要素が加わりいっそう複雑である。ポイントは、地域の医療能力と治療を要する傷病者の数がアンバランスであることです。圧倒的な医療需要が存在し、しかも限られた時間での医療需要で、地域の供給体制が追いつかない状況下での医療になる。自然災害、人為災害、特殊災害に分けるが、最近では竜巻や土石流、雪崩等が新たに注目されている。

人為災害の中にNBCテロへの懸念が世界に拡がっている。時間が経過してからの問題として、特に阪神淡路大震災で注目された心の問題PTSD(心的外傷後ストレス障害)や圧挫症候群(クラッシュシンドローム)ありました。①トリアージ、選別(triage):triage tag(黒、赤、黄、緑)②トリートメント、応急処置(treatment)または、安定化(stabilization)③トランスポーテーション、搬送(transportation)搬出(evacuation)であり④検死、遺体管理などがある。

トリアージ(フランス語で選り分けるという意味)は、負傷者の分類に用いられ①犠牲者を外傷または疾病の重症度によって分類する。②治療の優先順位を決めるといった2つの重要な要素からなる。軽症・重症・最重症・回復の見込みのないものに選り分けし、トリアージタッグをつけて治療の優先順位をつけ、災害時の医療の効率をあげ、混乱を回避するものである。私は、1981年から1982年まで、タイのカンボジア難民キャンプに派遣され、初めてトリアージという言葉を理解しました。 東南海地震等が想定されている今日、広域搬送拠点を作る試みもなされており、各被災地と連絡を取り合うシステムもかなり改善されていますが、システムを作っても使う人がしっかり使わないと役に立たないという点もしっかり認識する必要があります。

核爆弾、生物化学兵器のほか、最近では自爆テロ(E:explosive、高性能爆弾)、放射性物質を混入したいわゆるダーティ爆弾(R:radiological—NBCとE、Rを併せてCBRNE、シーバーンテロという用語も用いられています)もあり、伊勢志摩サミットが行われるので、テロ対策をやっておりますが、これからはそういったものも含め、総合的な対応が必要になってくるのではないか〟と話した。

座長の櫻井康司氏から〝今は想定をこえた災害が世界で起こっており、世界全体がフラッシュバックするようなことも多分起こると思います。患者が大量に発生することになると、柔道整復師のマンパワーを地域の医療資源として、医師と連携して取り組んでいます。今日会場におみえになっている佐賀県の隈本先生は、県とリンクして佐賀県柔道整復師会で取り組まれている活動を報告願いたい〟と述べた。

佐賀県・隈本氏は、〝佐賀大学病院救急救命センターの先生から、災害訓練で柔道整復師として来てくれないかと依頼があり、会員3名が玄関前でのトリアージ等、医師や看護師さん達と一緒に活動させて頂きました。神戸、東日本にも仲間達と行きましたが、柔道整復師は外傷を取り扱う専門職として災害医療において大事な役目をしていると思います。東日本には群馬県から日赤の一員として石巻病院に行くなど、信頼関係を構築しています。信頼を頂くために災害時における活動は勿論、平時における教育制度をプロモートできないかお願いしたい。医療の先生方に柔道整復師を社会の医療資源の一つとして活用頂きますようお願いします〟等、報告。

再び櫻井座長が〝病院或いは地域の信頼関係のもと、全人医学的な部分をもっている柔道整復を吉川先生のフィールドの中で活用頂ける普及・啓発にご尽力頂ければと思います〟と述べ、吉川氏は〝やはり医療従事者同士の顔の見える関係が普段からあると上手くいきますので、そういう関係をしっかり作らないといけないと思っております〟と話された。最も時宜を得た貴重な講演が終了した。

インターナショナルセッション
『モンゴルにおける日本伝統治療(柔道整復術)指導者育成・普及プロジェクトについて(第2報)』

インターナショナルセッションが行われ、現在モンゴル国バガノール病院の准医師・看護師であるオユンバートル・ダリルチュルンさんが『モンゴルにおける日本伝統治療(柔道整復術)指導者育成・普及プロジェクトについて(第2報)』と題し、発表を行った。

モンゴルバガノール健康センターにおける介助・治療の援助・評価をさせて頂きます。モンゴル国の地方では医療のインフラが整っていない。政府は地方での医療サービスの向上を課題としています。私が働くバガノール病院での外傷数と治療情報を報告し、柔道整復術を使った治療の効果と課題を検討することを目的としました。健康センターに来院する患者数は1日に474人、その内、外傷等の患者数は1日平均68人、全体の14%です。中でも多いのは膝や足首等の軟部損傷です。骨折・脱臼では頭部骨折、鎖骨骨折、肩関節脱臼、下腿骨骨折などが多い。健康センターには、3人の整形外科医がいます。徒手整復を行うドクターもいてコーレス骨折、肩関節脱臼などは徒手整復を行っています。また、下腿骨骨折、アキレス腱損傷等整復が困難な怪我についてはオペを行っています。私は主にリハビリテーションを担当しています。温熱療法や牽引の機械もあります。1日平均20人~30人の患者を治療しています。中でも変形治癒、関節拘縮になった患者さんの治療はとても難しいです。保存療法を行った患者さんとオペを行った患者さん、どちらも関節拘縮が改善されていない。これは外傷に対する初期処置とリハビリテーションが確立していないことに問題があります。早く損傷部が改善するために固定中にも出来ること、治療計画を確立する必要があります。柔道整復術は発症から治癒まで診ることが出来る技術ですので、どの期間で何をすれば良いのか、これをしっかり学んでいきたいと思います。今年、JICAプロジェクトの中で作られた柔道整復の技術に関するテキストブックとハンドブックを健康センターの先生方に配布しました。その後オペの数が減り、徒手整復の数が増えています。徒手整復について理解してオペを少なくすることで国の社会保障にも貢献できるので、大事なことと思います。モンゴルの医療の良いところと柔道整復術をうまくミックスさせ変形治癒や関節拘縮等で困らないように努力することが大事です。現在ここに参加している3人を含めて5人の指導者候補生が自分たちの故郷や夫々の地域で活動しています。病院でみる患者さん、治療の方法が難しいとも感じていますが楽しいです。現在の柔道セラピーをFacebookで公開しています。いろいろな怪我の情報や痛みを予防する情報をどんどんアプローチ、柔道整復術の広報を行っていきたいと思います。まだまだやらなければいけないことは、沢山ありますが一つ一つクリアし、モンゴルの医療が良くなるようこれからも努力したいと思います〟と纏め終了した。

続いて准医師のアルタン・エルディネ氏は〝5年前に柔道整復師の治療を勉強しました。私はモンゴルの一番遠い所で働いています。モンゴルでは骨折も打撲も脱臼もいっぱいあります。初めは大体手術をしました。今は柔道整復を行い成功しました。田舎で一般の骨折は肘の骨折、原因は馬から落ちて怪我します。医療機器のない病院のため診断はできません。患者さんの写真を撮って日本の先生たちに送ってウランバートルの病院に送りました。私の考えでは、モンゴルで患者さんに直ぐ近い医療であると感じました〟と話した。

次に准医師・ボロール・トゥーヤさんが〝私は2012年、初めて日本の九州に来ました。2008年、学生の時に初めて先生たちと会ってこのプロジェクトに入りました。いろいろな所で研修していろいろな術を勉強して、特徴がいろいろでした。モンゴルの人たちの中には少し痛みある時には病院に来ないです。自分の心で大丈夫って考える時がいっぱいあります。モンゴルと日本の違うところは患者さんのため、患者さんが病院に来る時に話をする、患者さんの心のこととか全部知っている、どうやって知っているかというと治療しながらその人と話して優しく心にも熱く入れて、痛みをとるためにすることは多かった。モンゴルでいろいろ問題があるんですが、この心の問題が多いなと考えることがありました。帰ったらやりたいこともありますし、モンゴルの何所でもこの指導者になりたいことも多いです。5人の仲間で頑張ってモンゴルの医学システムに本当に必要な柔道整復術は入りたいです〟と話した。

インターナショナルセッション
橋本昇氏

座長の橋本昇氏から〝お三方から発表がありました。いま発表された中で、この柔道整復術の最も良い点は、人の心に触れる、よく話しを聞いて、全ての事情を理解して施術を行うと。まさに我々が忘れていた言葉を思い出させてくれました。日本柔道整復師会国際部の人たちは今まで一生懸命努力をされ、漸く終了を迎える5年間の努力が決して無駄ではなく支えて頂いた日整の会員の先生方に深く感謝を申し上げたい。また日本での研修で本日おみえになっている栗原先生を中心とした整形外科の先生方、全国各地の会員の先生方に対し、お力添えを頂いたことを申し添えておきます〟と述べた。

根來氏

この後、フロアの神奈川県・横山氏から感謝と労いの弁があり、日本柔道整復師会国際部・根來氏は、〝まず会場におられる方々、本当にいろんな方々に支えられ、天国にいる先輩も今日見てくれていると思います。このプロジェクトというのは心と心が通い合うもので、日本柔道整復師会そして外務省より国民の税金を使い活動していることに我々誇りを持ってやっております。有難うございました〟。

金井氏

次に国際部・金井氏は、〝このプロジェクトを10年間携わってきまして、正直彼女たちがここまで成長して頂いて本当に嬉しく思っています。故・亀山先生は、「人づくりが一番大事」ということを常々申していました。彼女たちだけではなく、これから先彼女たちの後進が育っていくことを願っています〟。

萩原国際部長

最後に萩原国際部長から、〝5年間のプロジェクトでしたが、その前もあり約8年間活動して参りました。私は4年目ですが、やはり過去のいろんな先生方の活動の成果が表れてきたと思います。来年の9月からモンゴル国立医科大学に伝統医療としての柔道整復を学ぶコースの計画が進められています。この後は大学間同士の協定の中で進んでいくことと思います。日整の立場としても今後携わっていきたいと思います。よろしくお願いします〟等、総括と謝辞を述べた。柔道整復の「技と心」がモンゴルの研修生達に確実に伝承されたと言えよう。

平成27年度日本柔道整復接骨医学会賞の授賞式が行われ、櫻井会長から中澤正孝会員と井上知会員の2名が表彰状を授与された。

授賞式

第24回学術大会特別講演『心因性偽脊椎脊髄障害』亀田第一病院・新潟脊椎外科センター・本間隆夫氏、座長は(一社)日本柔道整復接骨医学会副会長・木山時雨氏が務めた。

シンポジウム

以下、主なシンポジウム・セミナー・分科会フォーラムの演題名・演者・座長名である。

シンポジウム 
柔道整復師の『今出来ること・今すべきこと』医師からの提言

『整形外科医と柔道整復師が補完し合う医療の実践』医療法人堺整形外科医院・堺研二氏、『当院における医師と柔道整復師の連携』医療法人社団宏友会栗原整形外科・栗原友介氏、座長・明治国際医療大学・長尾淳彦氏。

教育研修セミナー
『感染症について その知識と対策』

東京検疫所・東京空港検疫所支所・佐々木滋氏、座長・東京有明医療大学・山口登一郎氏。

実践スポーツ医科学セミナー
『ストーリーとしての肩関節疾患の治療戦略』

医療法人社団KOSMIこん整形外科クリニック・近良明氏、座長・前橋東洋医学専門学校・北澤正人氏。

整復治療手技固定分科会フォーラム 

『テーマ―足部外傷とその対応―』整復治療手技固定分科会・青柳康史氏・加藤義之氏、『足・足関節付近の外傷~日常診療で特によく見られる外傷とその合併症・鑑別診断~』かつしか江戸川病院院長・江戸川病院スポーツ医学・岡田尚之氏、『足根洞症候群について』富山県・高崎接骨院・高崎浩氏、『非外傷性足部疼痛軽減のアプローチ法の一例』共立総合整骨院・岩本大生氏。『足関節捻挫の既往の有無による下肢筋の反応時間の変化』帝京大学医療技術学部柔道整復学科・田口大輔氏、『Lisfranc 関節損傷 ~マクロ解剖からみた治療の考え方~』了徳寺大学健康科学・山本清氏。座長・山本清氏。

等、2つのセミナーと8つのフォーラムが開かれ、中でも「基礎医学研究分科会」が本年新しく発足、期待したい。

基礎医学研究分科会フォーラム

『マクロとミクロの視点から足関節捻挫を眺める~基礎と臨床の架け橋~』

東京有明医療大学・成瀬秀夫氏

【Abstract】

はじめに 基礎医学研究分科会は平成27年度に新しく設立され、第24回学術大会から本格的に活動することとなりました。本分科会の設立にご協力頂いた会員の皆様に心より感謝申し上げます。本学会の長年にわたる学術への取組みに触発された柔道整復師が解剖学、生理学および病理学などの基礎医学分野の研究に従事し、その研究成果が上がりつつあります。また、それらの成果はこれまで本学会の中で報告されてきました。しかしながら、その研究成果が十分に伝え切れていないのではないかとの思いから、基礎医学の研究成果を発表し、臨床を中心に行っている会員の皆様と議論する機会を頂きました。本分科会の目的は2つあります。1つ目は発表を聞いたフロアの皆様からコメントを頂き、その臨床現場の声を研究に還元することです。2つ目は臨床現場に基礎医学的研究成果を応用すること、すなわち、「このような根拠があるからこの治療を行うのだ」と明言できる研究成果を1つでも多く提供することを目指します。このように、本分科会の目的は臨床と基礎研究をリンクさせ、相補関係をしっかり築くことに他なりません。この目的を達成し、会員の皆様が行う臨床研究が盛んになることで柔道整復術発展の道がさらに開かれるものと考えています。さて、今回は足関節捻挫を取り上げます。損傷頻度の高い前距腓靭帯と踵腓靭帯に焦点を当て、それぞれ異なる視点で3人の研究者から発表して頂きます。皆様のご参加、そして活発な議論が交わされることを楽しみにしております。

『マクロ的視点から足関節周囲の靭帯の構造を眺める―機能解剖学的観点から―』

帝京平成大学ヒューマンケア学部柔道整復学科・信州大学医学部人体構造学・掛川晃氏

【Abstract】

足部の複雑な動きには、距腿関節・距骨下関節・下脛腓関節など複数の関節の連動した運動が必要となる。距腿関節では、背屈時に距骨滑車がankle mortis にはまり込むため動きの自由度が低下するのに対し、底屈時はankle mortisの幅に対し距骨滑車後部の幅が狭いため、距骨の動きの自由度が増加するため、底屈位では靭帯が関節の安定性を担う。そのため、底屈位を伴う内がえし捻挫をした際に足関節外側の靭帯損傷が発生しやすくなる。また、内がえしなどにより距骨の内旋や背屈動作によって、下脛腓関節に離開力が働き前下脛腓靭帯(AITFL)損傷を起こすことがある。距骨下関節を構成する踵骨の後距骨関節面は凸、距骨の後踵骨関節面は凹となる構造をとり、距骨下関節の多方向への運動を可能にする。前距腓靭帯(ATFL)は、足関節の内がえし捻挫の際に最も損傷しやすい靭帯である。ATFLは長さが約20mm、幅は約8-10mm、腓骨下端部前縁から距骨外側結節の前下方に付着する靭帯である。上部線維と下部線維の2つの線維束に分かれることが多く、その間を血管が走行する。ATFLは距骨側付着部の手前で距骨外側結節に接する構造をとる。接触部には力学的な負荷が加わるため靭帯内に線維軟骨層が見られることがある。また、ATFLの腓骨側付着部は距骨側に比べ狭い範囲に付着するため牽引力が集中しやすく、裂離骨折を生じることがある。踵腓靭帯(CFL)は腓骨筋腱の深層に位置する索状の靭帯である。足関節の底屈位では弛緩しているが、背屈するにつれ緊張度を増し、中間位から背屈位の内がえしで損傷されやすい靭帯である。またCFLの前方部はATFLの下部線維と線維性に連絡することが多いため、複合損傷を起こすことがある。AITFLは、下部に分離したBassett 靭帯を有することが多い。この靭帯が広くせり出している場合は、背屈時にインピンジメントを起こすことがある。距骨下関節を補強する靭帯は実に複雑な構造を持ち、外側距踵靭帯、骨間距踵靭帯、距骨頚靭帯、伸筋支帯の線維束、前関節包靭帯、CFL、三角靭帯などの複数の靭帯によって様々な動きに対し安定化を保っている。アトラスや模型では理解し難い靭帯の付着部構造を解剖により正確に把握することは、柔道整復師の圧痛所見の取り方において重要であると考える。本発表では、足関節捻挫による外側側副靭帯損傷にフォーカスを当て、足部の関節構造とそれらの関節を補強する靭帯の構造や機能についてマクロ的視点から眺めた点を述べる。

『組織から足関節捻挫の治療をうかがう
―分子病態学的観点から―』

森ノ宮医療学園専門学校柔道整復学科・
森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科・外林大輔氏

【Abstract】

足関節捻挫は最も発生頻度が高く、柔道整復師も頻繁に遭遇する外傷のひとつである。またその判断・鑑別においては、近年超音波画像診断装置が広く用いられるようになり、治療方針に一定の指針を与えている。しかしその固定除去や後療法の開始などにおいて重要な情報となる「靭帯修復」については深く検討されていないのが現状である。すなわち固定除去や後療法の開始時期などについては、靭帯の修復状況から判断することは少なく、症状で判断されることがほとんどである。したがってその後に何らかの別の症状を訴える場合も多く、足関節捻挫の経験者のうち約70%が継続する疼痛や不安定感を訴えるとの報告もある。これは慢性足関節不安定症(CAI:Chronic Ankle Instability)と呼ばれ、構造的不安定性と機能的不安定性の双方が要因とされている。このうち捻挫における構造的不安定性は靭帯の修復不全によるものであり、これを解決するためには正確な靭帯損傷の修復機序を理解しておく必要がある。足関節外側に存在する前・後距腓靭帯、踵腓靭帯は足関節および距骨下関節の安定性を維持しており、靭帯を組織学的に観察すると、中央部はコラーゲンに富んだ線維性の組織であり、付着部は線維性組織から骨組織へ移行していくenthesis と呼ばれる4層構造をとっているが、足関節の靭帯損傷の多くは、中央部の実質での断裂が生じるとされている。つまり靭帯損傷の治療において、不安定性を遺残しないためにも、いかに断裂部を正確に癒合させることが重要となる。したがって靭帯損傷に対しては一般的に固定が施されるが、近年靭帯を含めた軟部組織の修復過程において、生理的な関節運動がその治癒を促進させるとされている。すなわち損傷した靭帯を正確に癒合させるためには、治癒過程中の適切な時期に、損傷靭帯に適切な力学的負荷を加えることが必要なのであるが、これについてはほとんど検討されていないのが現状である。つまり靭帯損傷の治療はその多くが組織学的な根拠を十分に持たず、未だに経験的な情報をもとに行われているのである。そこで我々は組織や細胞、分子のレベルで靭帯損傷の修復過程を眺め、さらにその修復に影響を与える力学的負荷となる低出力超音波パルス(LIPUS)の影響についても検討したので報告し、靭帯損傷の治療に一定の指針を与える。

『足関節捻挫の損傷組織を嗅ぎ分ける疼痛情報―疼痛学的観点から―』

名古屋大学大学院医学系研究科機能組織学分野・安井正佐也氏

【Abstract】

足関節捻挫は柔道整復師が最も遭遇する外傷の一つです。先ず我々は、目の前の症例が骨折なのか捻挫なのかを画像診断なしに判断する事が必要になります。また、どの組織がどの程度損傷されているのかを的確に判断する損傷の鑑別力(臨床スキル)が要求されます。この臨床スキルは「経験的な判断」が有効な場合もありますが、客観性に欠けるといった反面があります。私は障害部位の組織を同定するためには、様々な科学的根拠が必要であると考えます。解剖学・組織学・生理学・病理学などの基礎医科学を元に組み立てられた医療の現場では医科学検査で客観的に障害部位を同定する事が求められています。しかし、他覚的所見に加え障害組織を同定する最終的な決め手は「痛み」です。痛みの発信源が何処であるか詳細に解析することで、障害(傷害)された組織が骨組織であるのか、靭帯であるのか、あるいは筋組織・軟骨組織・皮下組織であるのか、といった組織別に判断することが可能であると考えます。「痛み」を手がかりに詳細に解析する徒手検査については、卓越した技能を身につける必要がありますが、それには「構造」と「痛みの特性」を知っている必要があると考えます。「痛み」の発生メカニズムを理解し、病理学・組織学や分子生物学などの基礎医科学の情報を熟知すれば、損傷後の時間経過による炎症の広がりや組織治癒過程中の化学的因子(サイトカインや増殖因子など)の作用を考慮して「痛みを多面的に捉える」ことができるようになります。さらに効果的に組織ごとに機械刺激を加えることができれば、痛みの発信源(障害部位)の特定へと核心に迫ることができます。この判断が的確にできれば、その後の固定方法や固定範囲の決定、運動療法の選択や治癒過程が良好であるかの判断においても同様の方法で可能となります。つまり、我々が行うべきこれらの判断基準は「痛みを中心とした基礎医学的根拠」であることが大切であり、この根拠を元に判断することができれば、臨床現場において大きな間違いを起こすことがなくなるはずです。今回は臨床で障害(傷害)される組織を判断するための軸となる「疼痛学」にクローズアップして、足関節捻挫における基礎医学的判断基準について皆様と情報を共有したいと思います。

<口頭発表の中から抽出>

『スポーツトレーナー派遣事業が部活動時の外傷・障害発生件数に及ぼす効果』

橋口浩治氏(はしぐち整骨院)

【Abstract】

背景

文部科学省による「運動部活動指導の工夫・改善支援事業」等の運動部活動改善事業の趣旨を受け、長崎県教育委員会では平成24年度から「スポーツ医・科学等を活用した高度な運動部活動指導体制の構築」等を目的として、スポーツトレーナー派遣事業(以下、本事業)を行った。そこで本研究においては、本事業が外傷・障害発生件数に及ぼす効果を検証することを目的とし、N高校を対象に本事業介入前後のスポーツ傷害発生件数の推移を調査した。

方法

派遣期間は平成24年10月1日~平成27年2月12日、派遣回数は106回。申し込みがあった運動部に対し、傷害予防のトレーニング法やコンディショニング法の全体指導、およびケガに対する個別指導を行った。部活動時の外傷・障害発生件数は、養護教諭管理の災害発生記録を基に抽出し、X2検定を用いて介入前(平成23、24年度)と介入後(平成25、26年度)の値を比較した。

結果

平成23年度(総部員563名)の発生件数は77件、平成24年度(総部員613名)の発生件数は81件であったが、介入後の平成25年度(総部員599名)は65件、平成26年度(総部員618名)は67件となり、介入後は外傷・障害発生件数が有意に低下した(P<0.05)。

考察とまとめ

2年以上継続的に全体及び個別の細やかな指導を行ったことでN高校における比較においては一定の傷害予防となったことが示唆された。このことはトレーナーの介入が部活動における安全面での効果を発揮する可能性も示唆する。先行研究も少ないため、今後は長期的に介入し、特にどのような指導内容が、どのような外傷・障害に効果が高いかなどを検証したい。また、本事業に対応できるトレーナーの育成も課題となる。

『柔道整復診療ガイドライン』(腰部捻挫の治療)

伊藤篤氏(鶴亀整骨院)

【Abstract】

国民生活センターに寄せられている健康危害相談の中で、最も多い部位は腰部・臀部である。そして関係機関への要望として「一定以上の安全性を担保するためのガイドライン等を作成するよう要望する」とある。昨年の学術大会において、柔道整復診療ガイドライン(腰部捻挫の診断基準解説)を発表したので、今回は治療篇を発表する。7つの分類「急性型腰部捻挫」「神経症状を伴う急性型腰部捻挫」「骨損傷型腰部捻挫」「腰椎分離症型腰部捻挫」「一般的腰痛症型腰部捻挫」「複合型腰部捻挫」「仙腸関節型腰部捻挫」それぞれに対する基本的な処置と注意点を解説する。腰部捻挫治療のガイドラインを作成するにあたり、誰もができる簡単な方法であることに重点をおきまとめてみた。内容はまだ触り程度なため具体的な部分が足りないが、これからさらに研究を続け深めていくようにしたいと思う。また柔整の治療は、患部に直接手をかけることをするため、やり方を間違えると悪くなることがある。そのため安全性を担保するためには、脊椎・骨盤への強いマニピュレーション(回転伸展等の急激な操作)は禁止にする必要があると考える。

『前頭前野の脳活動からみた施術効果の評価』

松田康宏氏(日体柔整専門学校・日本体育大学)

【Abstract】

目的

柔道整復師が行う施術結果の評価は、患者の主観であり、客観的な評価方法は確立されていない。近年、身体に痛みや不快感を生じさせると、脳の種々の部位が賦活化され、情動変化を伴い様々な痛み情報や不快情報は脳の前頭前野へ入力され、痛みや不快感が表出されることが報告されている。そこで我々は脳の前頭前野に注目し接骨院を訪れる患者に対する施術効果の客観的な評価方法を見出すための研究を行った。

方法

本研究では、NIRS装置と電子角度計、VASを用いて、大腿部後方筋群の柔軟性低下を訴える対象者にSLR(膝関節伸展位からの股関節屈曲運動による筋の伸展)を行った。施術前・施術後のSLR実施時の股関節屈曲角度と前頭前野の活動の変化(Ox-Hb濃度の変化)、VASによる心理的評価を併用し計測した。全対象者の施術は柔道整復師の手技療法のうち軽擦法、揉捏法、圧迫法を行い、手技療法の範囲は計測側の殿部から大腿部後方の筋群とした。

考察

何らかの痛み刺激が生じた際に発生する感覚情報の伝導路は、一次体性感覚野に投影され、二次体性感覚野を経由して前頭前野に入力すると報告されている。今回の研究において前頭前野のOx-Hb濃度の上昇は、前頭前野が興奮したことによると考えられる。

結果

前頭前野のoxy-Hb濃度の変化は全対象者に認められた。全対象者において、施術前に計測した股関節最大屈曲角度で見られたoxy-Hb濃度の上昇とVAS値が、施術後、施術前と同じ股関節最大屈曲角度に於いてoxy-Hb濃度とVAS値が減少した。そして、施術後においては股関節最大屈曲角度が増大した。更にoxy-Hb濃度の変化とVAS値の変化にもパラレルな関係があることが判明した。これらの結果から、柔道整復師の施術によって施術効果を前頭前野の神経活動から客観的に評価できることが示唆されると考えられる。

『医業類似行為の変遷―昭和35年最高裁判決以後―』

酒井正彦氏(酒井整骨院)

【Abstract】

昨年、昭和35年最高裁判決までの医業類似行為について発表したが、その定義は、①無害な無資格医業②按摩、はり、きゅう、柔道整復以外の電気光線器具などによる医業という二つの側面を持っていた。そこで今回は昭和35年以降現在までの間に、何が起こったのかを、厚生労働省通達を中心に調査した。その結果、厚生労働省は昭和35年最高裁判決の結果を受け、昭和35年6月13日(医発第467号)付通達では、判決の示した医業類似行為は、法第12条の行為であって、法第1条「あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう」の無資格行為を含まず、法第1条の無資格行為は禁止行為であり法第1条により第14条第1号で処罰されると明確に示した。しかし昭和41年9月26日(医事第108号)では広義の医業類似行為の概念を示し法第1条の無資格行為と、12条の行為を同一視した通達を出している。そうした内容は前述の通達とは矛盾している。その後、平成3年6月28日(医事第58号)「医業類似行為に対する取扱いについて」とする通達では、法第1条の行為は医業類似行為であり無資格で行えば法第12条により法第13条の5で処罰されるとして適用条文を間違った通達を出している。これらの通達は一貫性がなく、適用条文の間違いも見られることから、厚生労働省では、医業類似行為に対し正しい解釈が出来ていないと思われる。

『保険者への対応―療養費の支給対象―』

牛山正実氏(牛山接骨院)

【Abstract】

保険者は患者調査により「療養費の支給対象となる負傷とは認められないため」とする一文で不支給を通知してくる。今回はこのような保険者からの返戻に対する対応について発表する。保険者の不支給通知の問題点は、不支給理由にある「療養費の支給対象は負傷だけ」なのか、また「負傷とは認められないとした診断基準」はなにか、ということになる。第一点は、療養費の対象疾患は「負傷だけ」とする厚生労働省の文書はなく、保険者の根拠は不明確である。では逆に対象疾患は何であろうか。業界の統一見解が必要である。第二点は、保険者の外傷ではないとした診断基準はどのようなものであろうか。保険者は、「患者調査によって患者等に負傷の事実を確認する」とし、柔道整復師に対して「負傷の事実が明らかとなる患者自身が記載した予診票」あるいは「患者からカルテ等にその内容に相違ない旨の署名を求めるなどでご対応ください」としている。しかし厚労省は診断の内容に関する通知は出しておらず、また臨床上の診断基準とはなり得ない。では柔道整復師はどのように診断したのであろうか。業界では診療の基準いわゆるガイドラインを備え、それによって診断する対応が逆に求められている。学会による統一見解や、診療基準いわゆるガイドラインの作成により業界の能力が高まることが期待される。

以上、口頭発表146題、ポスター発表70題が行われ好評を博した。

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