(公社)日本柔道整復師会第50回東海学術大会愛知大会 開催
平成27年12月6日(日)、ウインクあいち(愛知県名古屋市)において、公益社団法人日本柔道整復師会第50回東海学術大会愛知大会が開催された。
本大会は(公社)日本柔道整復師会・松岡保副会長の開会の辞により幕を開けた。
学術大会長である(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝最近わが柔道整復業界のみならず、医療業界全体が反社会的組織に侵食されてきているように感じている。日本柔道整復師会はこの業界のルールメーカーとして、そのようなことがないよう厚生労働省や医師会と協力しながら新しい仕組みを作る流れになっている。安心・安全な医療、柔道整復術を提供するためには、しっかりと制度を守りながら日々努力していかなければならない。会員の皆さんや学生の皆さんには、未来の柔道整復師の参考となるような業界づくりをしていただきたい。2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催され、世界のプレイヤーに我々の技術を提供することになる。柔道整復術はWHOにも日本の伝統医療として認識されていて、世界に広める活動がされている。また、これからは介護の抜本的改革の中で在宅医療が始まる。これは地域住民みんなで支え合おうという改革である。日本柔道整復師会は全国11ブロックで学術大会を開催し意見交換をして、「利他の精神」で人の幸せを喜びとする職業として頑張ってまいりたい〟と熱く語った。
主管の(公社)愛知県柔道整復師会・森川伸治会長は〝私たち公益社団法人は、柔道整復師としての研究と臨床の学技の場を提供することにより、柔道整復業界の進歩・発展はもとより、住民の皆様に最新の医療情報と良質な施術を提供し、県民や地域住民の皆様方の健康福祉に寄与することを、今回の学会の主目的としている〟と本学会の趣旨を説明。さらに〝愛知県は健康寿命日本一を目指しており、医療の一翼を担うわが愛知県柔道整復師会も協力させていただいている。そこで特別講演では日本の死因第1位であるがんを取り上げ、愛知県がんセンターの名誉総長である二村雄次先生にご講演いただく。午後からは接骨院・整骨院や病院勤務の柔道整復師による10題の研究発表、8題の学生発表が行われる。さらに「地域連携を考える」をテーマに介護セミナーが行われる。ぜひ最後までご聴講いただきたい。今日一日しっかりと勉強し、明日からの施術に役立ててほしい〟とプログラムを紹介し参加者を激励した。
その後、来賓祝辞および紹介があり、特別講演が開始された。
【特別講演】
『最近のがん医療とがん対策』
愛知県病院事業庁長・愛知県がんセンター名誉総長・
名古屋大学名誉教授・名古屋大学柔道部師範・講道館理事 二村雄次
二村氏は、まず〝日本人の2人に1人ががんにかかり、3分の1ががんで亡くなっている。女優の坂口良子さんが亡くなってから、女性の大腸がんが増えてきたとニュースになっている。最近では大相撲の北の湖理事長が直腸がんによる多臓器不全で亡くなった〟と著名人の訃報を例に、がんによる死亡数が多いことを示した。〝がんは1981年には死因第1位となり、国を挙げて対策も行われているし医学も進歩してきているが、現在も死亡率は下げられていない。戦後のがんの種類としては胃がんが多かったが、日本は早期発見の技術が進んできている。今は1センチ以下の胃がんでも見つけることができ、開腹せず内視鏡で切除できるため減少傾向にある。ところが大腸がんはじわじわ増えてきている。最新のがん統計では、2013年には男性は肺がん・胃がん・大腸がんの順、女性は大腸がん・肺がん・胃がんの順に死亡数が多い。年齢別にみると、男性では全年齢において肺がんが多く60代以降に前立腺がんが増え、女性では40代に乳がんが多く加齢とともに減っていること、また反対に加齢とともに胆のうがんが増えていることが特徴である。長期的な傾向として、過去約40年間のがんの罹患数・死亡数を見ると、肺がん・大腸がん・胃がんにかかる患者数が鰻上りに増えている。罹患数と死亡数に大きな差がみられるのが胃がんであり、罹患数の急増に対し、死亡数は早期治療の成果でほぼ横ばいとなっている〟等、がんに関する最新の統計を紹介。がんの診断方法や、内視鏡や腹腔鏡などによる侵襲の少ない手術法、さらにはがんの増殖のメカニズムまで、写真やイラストを用いてわかりやすく解説した。
また抗がん剤だけではなく、がん細胞の増殖・浸潤・転移などの特徴を裏付ける遺伝子と、そのたんぱく質を標的とした薬物である「分子標的治療薬」を用いた治療などを組み合わせることで、治療成績も向上してきているとした。さらには日本におけるがん対策では受動喫煙防止による対策が進められているとし、〝口腔喫煙をすると呼気に有害物質が含まれて排出されるため、受動喫煙ではがんになる確率が、肺がんや食道がんでは倍、喉頭がんでは32倍にも跳ね上がる。そのため受動喫煙を防止しようということで、平成24年6月には「がん対策推進基本計画」が閣議決定され、全国に都道府県がん診療連携拠点病院が設置された〟と説明した。検診の精度も上がってきており〝がんにならない世界を作って、がんになったとしても治して社会復帰できるように活動している。がんに負けることのない社会にするため、皆さんもぜひ予防対策に取り組んでほしい〟と呼びかけ、講演を終了した。
【日整介護セミナー】(概要)
2015・柔道整復師と介護保険について-柔道整復師として地域連携を考える-
(公社)日本柔道整復師会保険部介護対策課 川口貴弘
平成26年6月18日介護保険法改正法が成立して、平成27年4月から順次施行されている。今回の改正で施設を含めた様々な形態の住まいを整備した上で、在宅医療整備をはじめとする医療の充実、地域に密着した施設の整備、医療・介護の連携による効果的なサービス提供、効果的な介護予防手法の開発、様々なニーズに対応する生活支援サービスを確保した形での新しいまちづくり、すなわち地域包括ケアシステムの構築を行っていくことになる。地域包括ケアは関係機関の連携と介護保険等で不足するサービスを地域に新たに作り出し、それを活用できる仕組みを作ることである。全国的に人口減少下で、少子化・高齢化が一層進む中で、要介護者が増加し認知症高齢者も増加している。これらの高齢者の人たちが人生を終えるまでの期間、QOLを維持し、「生きてきたことを後悔して亡くなる」ことがないよう、医療・介護等の受け皿を柔道整復師も一緒になって地域に整える必要がある。この中で、柔道整復師は何ができて、何に貢献できるのか考えなければならない。
【会員研究発表】(概要)
当院におけるアキレス腱断裂新鮮皮下断裂に対する「早期リハ」保存療法について
鈴木祥代(米田病院)
当院ではアキレス腱新鮮皮下断裂に対して早期リハプロトコールを施行している。今回は保存的に治療を行なったアキレス腱新鮮皮下断裂に対しての早期リハプロトコールの内容と、治療成績について報告する。
初期変形性膝関節症にみられる伸展障害について(第2報)
~膝伸展制限からみた膝関節OA変化の検討~
志水義人(服部整形外科)
膝関節の運動はTF関節とPF関節で連動しあう屈伸・回旋の複合運動である。しかし一旦この運動が破綻すると膝痛が出現し、日常生活に支障をきたす。今回、関節症変化の少ない初期の変形性膝関節症に着目し、それらの膝の伸展制限角度、TF関節・PF関節の関節症変化のgrade別から考察した。
野球肘に対する一考察
片岡大輔(三重県)
高校野球の投手は連投や酷使により肘を故障してしまうことが多い。そのため小・中学生の少年期から投球に関する規定や基準を設けて故障を防止しようという動きがみられる。野球肘の発生要因について、症例を提示するとともに若干の試験を加え報告する。
50代以降女性の第4腰椎変性すべり症におけるX線撮影による腰椎変性変化の分析
~第2報告 腰仙角と椎間板の比較検討~
大橋洋介(服部整形外科)
中年以降の女性に多く見られる第4腰椎変性すべり症は、大きな外傷や格段の労働負荷がなくても経年的に進行する。今回は腰仙角、椎間板高をL4DSとL4DSのない変形性腰痛症のレントゲン所見から比較対照することにより、L4DSの発症誘因を検討した。
バドミントン競技におけるプレ・ローディング技術の有用性について
~フットワークスピードに着目したプレ・ローディング技術の有用性と傷害リスクに関する私見~
増田了平(静岡県)
バドミントンの競技レベルを上げるためには、相手からシャトルを打ちこまれた際の動き始めのスピードアップが必要になる。その際習得する技術に「プレ・ローディング(前負荷)」がある。今回、バドミントンのプレ・ローディング技術によるフットワークスピードの向上について検証しそれに伴う傷害リスクと予防について私見を踏まえて考察する。
肩関節拘縮とその夜間痛
鈴木里奈(服部整形外科)
肩関節の拘縮があり夜間痛を同時に訴える患者がいる。加療により肩関節拘縮の改善とともに夜間痛が軽減・消失する症例を経験する。そこで、初診時に拘縮があるが夜間痛の無い症例の屈曲・外旋・内旋の可動域を基準値とし、拘縮の改善程度と夜間痛の軽減・消失の関連性を検討する。
スキー・スノーボード外傷の傾向と応急処置
下谷和宏(岐阜県)
当院(郡上市高鷲町)周辺には多くのスキー場があり冬季にはスキー・スノーボード外傷で応急処置を求め来院する患者に多く遭遇する。今回、応急処置を求め退院した患者について、統計調査を行い、競技による損傷の特徴と応急処置における注意点について若干の私見を交え報告する。
当院における大相撲名古屋場所救護活動報告(第2報)
稲垣政志(米田病院)
当院では毎年大相撲名古屋場所において、テーピングなどの応急処置や医療機関への搬送支援など救護支援活動を行っている。第47回東海・第94回中部接骨学会において平成17年度から平成23年度までの来室調査を報告したが、今回は平成24年度から平成26年度までの来室調査を追加報告する。
徒手療法が膝伸展筋力に及ぼす要因の一考察
太田昌夫(愛知県)
膝痛の際の可動域訓練で、下腿内旋と股関節内転時に抵抗感を感じることが少なくない。今回、蹲踞、正座、長時間の歩行時に膝痛を認める患者に対し、下腿内旋抵抗と股関節内転抵抗の抵抗方向に手技を施行した。その後、内旋・内転方向にバネばかりによる負荷を掛け移動距離を計測した結果、患肢と健肢で差異を認めたため筋力変化の要因について報告する。
膝窩筋の三次元再構築による構造と機能
大口明良(愛知県)
膝窩筋は完全伸展位にロックされた膝を、屈曲開始期にそのロックを解除する機能があるとされている。つまり荷重時の脛骨が固定されて大腿骨外旋力として作用し、非荷重時は脛骨の内旋力となる。しかしその立体構造については文献にも詳しく紹介されていない。そこで膝窩筋を三次元再構築し、その構造と機能を立体的に把握することを試みる。
全発表終了後、発表を行った会員および学生の表彰が行われ、次年度主管である(公社)岐阜県柔道整復師会・鹿野道郎会長による閉会の辞で本学会は幕を閉じた。第50回という節目の会にふさわしく、会員のみならず一般からも多数が来場し、参加者は総勢900名程となり非常に活況であった。
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