(公社)日本柔道整復師会第38回関東学術大会栃木大会開催!
平成28年3月13日(日)、栃木県総合文化センターにおいて公益社団法人日本柔道整復師会第38回関東学術大会栃木大会が開催された。
会場では開会前からピアノ演奏が行われ、美しく優雅な音色で来場者たちを歓迎した。
大会開始挨拶で登壇した(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は、〝この業界に様々なトラブルが起きていることは皆さんご承知だと思う。この状況を如何に改善していくのかという一点に絞って、日本柔道整復師会が活動しているということをご報告したい。また、これからの療養費は医師と同様に支払基金の中で審査をし、支払っていけるような仕組みを検討している。料金改定については抜本的に料金の仕組みまでゼロベースで考えていこうと協議を進めている。保険者や行政、地区医師会から信頼を取り戻すために、一丸となって諸問題をひとつひとつ解決し、改革を実行に移していく〟と日本柔道整復師会の取り組みについて紹介した。
その後来賓祝辞・来賓紹介が行われ、会員発表および特別講演が開始された。
特別講演
「ロコモティブシンドロームの新展開」
とちぎリハビリテーションセンター所長・病院長 星野雄一氏
星野氏は冒頭、〝ロコモティブシンドロームについて、柔道整復師の皆さんは運動器の健康を扱っている専門家なのでご存知と思うが、一般の方で分かっている人は2割もいない。今回の講演をきっかけにロコモについて知っていただき、日頃施術されている患者さんに「ロコモって知っている?」と声をかけていただければ認知度も格段に上がると思う〟として講演を開始した。
星野氏は、晩年までテレビや舞台で活躍されていた女優の森光子さんを例に挙げ、〝引退直前まで舞台ででんぐり返しを披露していた。ご自分でも「私の人生まあまあだったわ」と仰っていたそうだが、人生の満足感は運動器、足腰の健康に関係するのではないか。足腰の強さの要因の半分は遺伝・体質だが、あと半分は努力・生活習慣・運動習慣だ。森光子さんは60歳からスクワットを毎日300回、85歳からは朝75回、夜75回行っていたという〟と紹介し、運動器の健康の大切さを示した。〝骨・関節・筋肉・腱・神経などを総称して運動器と呼んでいる。この言葉は日本では1970年ごろから医学分野で使用されているが、一般の認知度はまだ低い。
運動器の障害としては、①疾病・外傷、②使い過ぎ、③廃用、④加齢変化がある。気を付けていても避けられないのが加齢変化である。75歳以上の女性に変形性膝関節症は高い割合でみられる。椎間板の老化は15歳から始まる。椎間板に変性が出るとそこから脊柱管狭窄症を発症する。通称「いつの間にか骨折」と言われる骨粗しょう症は女性に多く、50歳を超えたら一度は検査すべき。保存療法では骨折自体は癒合するが、合併症を引き起こす危険性があるため手術しないでは治せない。しかし手術により骨折を治療しても、骨折を契機に動くことに慎重になり、次第に動く頻度が減り引きこもるようになって、認知症が進んで死んでしまうことが多い。
筋量も関節軟骨、椎間板も骨量もすべて50年位で綻びが目立ち始める。平均寿命は50代、60代だった時代にはロコモという概念はなかったが、現在の平均寿命は70~80歳ということは、傷み始めてから30年位は使わないといけない。東京大学の22世紀医療研究所によると、日本ではロコモ予備軍は40歳以上人口の3分の2にあたる4,700万人に及ぶという。そのくらいありふれており、長生きすれば誰でもなり得る病気だと理解してほしい。2000年に介護保険がスタートしてから国民医療費も介護費用も膨張している。75歳以上が2,200万人に達する2025年には、国民医療費は58兆円、介護費用は20兆円に達する見込みであり、これをどう切り抜けるかが重要である〟と要支援・要介護状態とならないためにも、骨折やロコモを予防することが重要だと強調した。
その後、星野氏は「運動器の10年日本協会」が作成したパンフレットを基に解説を行い、またDVDを用いて簡単な足腰の運動を提案し、実際に会場の参加者全員で一斉に実践した。
今後の課題として、〝若い人にもロコモの人はいる。片脚での高さ40cmからの立ち上がりテストでは、不可能率は20代では男性は6%、女性は10%、30代では男女ともに13%ほどいるとのデータがある。ロコモは高齢者だけの問題ではないということだ。また、学童の運動器障害は10%、運動器不全は40%もおり、全く運動しない子供も増えている。学校検診においても平成28年度から運動器健診が導入される〟と説明し、高齢者だけではなく若い世代へのロコモの周知が必要だとした。
基調講演
「業界の未来について」
(公社)日本柔道整復師会会長・工藤鉄男氏
工藤氏は柔道整復の歴史について〝柔道整復は柔道、柔術の歴史とともに発展し、殺法は競技柔道として、活法は柔道整復として受け継がれてきた。柔道整復は消滅したにもかかわらず復活を果たした世界で唯一の保険取扱いができる伝統医療である。そのために先達が計り知れない努力をしたのだと覚えておいてほしい〟と柔道整復は先人たちの弛まぬ努力の上に成り立っているのだと説明した。
しかし現在の柔道整復業界については、〝柔道整復師は元来、それぞれ師匠から施術の方法や患者さんとの接し方を学んできたが、近頃はそういった柔道整復師が非常に少なくなり、養成校卒業と同時に開業する人が増えている。現在の柔道整復師の関心事は、今度の料金改定がどうなるのか、保険者への対応はどうしたらいいのかなどで、未来のことについては関心がない。先人たちが培ってきた土壌の上に努力もせずに先のことを考えずにいる業界でどうするのか〟と柔道整復師の急増に伴う業界の秩序の乱れに警鐘を鳴らした。さらに最近話題となっている医師による診療報酬不正請求問題について触れ、〝診療報酬の場合は支払基金で審査するのは医師である。自分たちの請求を自分たちで審査してまともにできるのかということが問題になっている。自分の身を切ることになるからだ。我々の業界についても同じことが言える。改革に向かっていくには、先達が築いてきた制度にメスを入れる必要がある。この業界はそこまで来ているのだと認識してほしい〟として柔道整復業界の改革について話を進めた。
工藤氏は〝財務省は平成27年4月の財政制度等審議会の中で、柔道整復師に係る給付のあり方の見直しとして、○部位数・施術回数・施術期間について、料金の包括化、長期・頻回に関する給付率引き下げ、○支給対象の見直し、○受領委任払いが実施可能な施術所の限定、○不適切事例への調査・監査の強化、などを挙げている。一方で日本柔道整復師会は、厚生労働省に以下の要望を提出している〟として要望内容を解説した。
平成27年度厚生労働大臣への要望
- 療養費受領委任協定の見直し(再協定)
- 柔道整復師施術管理者の強化について
- 柔道整復師の施術に係る療養費の適正な料金設定をはかられたい
(消費税対応・公的審査会の権限強化) - 柔道整復師卒後臨床研修の制度化をはかられたい
- 地域包括ケアシステムへ柔道整復師が参入できるようにはかられたい
- 生活保護患者の接骨院への通院の円滑化をはかられたい
- 柔道整復師養成施設の急増防止対策をはかられたい
(カリキュラム検討委員会の設置)
上記3については、〝これから我々が独自で作る支払基金に参加しなければ保険の取り扱いができないようにしたいと考えている。支払基金が動いて審査会を強化し、保険者は支払権限を支払基金に移動していく。ただし審査の内容等については日本柔道整復師会が両副会長を中心としたプロジェクトをつくって審査内容を変えていく〟と付け加えた。〝行政は柔道整復療養費の適正な見直しと卒後研修の制度化、そして柔道整復施術に係る算定基準の明確化等に努めるとしている〟と関係各所と協議を重ね、改革に積極的に取り組んでいる姿勢を見せた。またオリンピックイヤーとなる2020年に向け、〝スポーツ、介護、災害、地域包括ケア、在宅医療等の分野への参入方法について考えている。東京オリンピック・パラリンピックでは日本柔道整復師会が顧問を務めている。ラグビー協会とも協定を結んでいて、どのようにトレーナーを派遣していくかをこれから本格的に協議する〟と述べ、着々と準備が進められていることがうかがえた。
最後に工藤氏は、〝日本柔道整復師会の倫理綱領にもあるように、柔道整復術は他者のために人事を尽くし、人類に貢献するものであり、お金儲けのためのものではない。自分の技術と心で人に幸せを与える職業だということをもう一度認識してほしい〟と柔道整復師としての在り方を示した。
特別講演・基調講演のほか、以下の発表が行われた。
国際部活動報告
- 柔道整復の国際化を目指して公益社団法人日本柔道整復師会国際部 田澤裕二
介護保険に関する講習
- 2015・柔道整復師と介護保険について
~柔道整復師として地域連携を考える~公益社団法人日本柔道整復師会保険部介護対策課 藤田正一
研究発表
- 接骨院・整骨院における足病医学の導入
~オーストラリアの足病専門医から学んだ下肢のバイオメカニクス評価診断~神奈川県 渡辺英一 - 肩関節捻挫の治療
~インピンジメント症候群の症例~茨城県 山口光夫 - 足底筋膜テーピング固定法の一考察群馬県 小川武夫
- 柔整師にとって見落としやすい所見
~頸髄硬膜外血腫の1例を経験して~埼玉県 今野泰之 - 回転転位を伴う第5指脱臼骨折の整復の一例千葉県 伊藤康裕
- 運動における足部の傷害山梨県 豊島正示
- die-punch 骨片を有する橈骨遠位端骨折の症例について栃木県 刈屋遵
最後に発表者表彰および記念品贈呈が行われ、本学会は幕を閉じた。
また、本学会と同時に開催された日理工最新医学療法器材展示会には約1,300名が来場し、非常に盛況となった。
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