(公社)日本柔道整復師会第45回北海道学術大会札幌大会開催
平成28年7月3日(日)、北海道札幌市の札幌コンベンションセンターにおいて「公益社団法人日本柔道整復師会第45回北海道学術大会札幌大会」が開催された。
北海道大会会長として登壇した(公社)北海道柔道整復師会・萩原正和会長は〝本日は北海道柔道整復師会会員をはじめ、学生や一般の方々など多くの方にご参加いただき、盛大に開催できることを心より嬉しく思う。この大会は常に学術研鑽に努め、住民の方々に頼りにされる柔道整復師として、術を高め、それをもって社会に貢献し、ひいては公益活動を推進することにもつながっている。一般公開としている特別講演では、札幌医科大学医学部フロンティア医学研究所神経再生医療学部問教授・同附属病院神経再生医療科の本望修教授をお迎えしご講演いただく。脳血管障害や社会復帰が困難な脊髄損傷に対する神経再生医療を研究されており、実際に素晴らしい治療効果を得られている。医療従事者にとって興味深い内容となっている。本大会を学術研鑽の場として有意義なものとしていただきたい〟と挨拶。
続いて、学術大会会長である(公社)日本柔道整復師会・工藤鉄男会長は〝(公社)日本柔道整復師会は会員1万7千人以上を有する最大規模の柔道整復師団体であり、業界のリーダーとして未来に柔道整復を残すためにはどうすべきかと、国との折衝を行っている〟として、現在進められている改革の内容について語った。〝医療関係職種の仕組みを鑑みて、3年間で完成型の柔道整復師となることは難しいと考えている。諸先輩方は修行という形で技能・技術をしっかりと身に着けていたのが事実だ。では現在、卒業と同時に完成型の柔道整復師となるためには、果たして現在の授業時間数・単位数でいいのか。8月頃にはカリキュラム改善案の大綱が出る予定となっている。また、地域の人たちが安心して施術を受けられるようにするために、3年程度の実務経験を積んだ者でなければ保険が取り扱えないようにすべきではないかと検討している。日本柔道整復師会は柔道整復を国民に必要とされる職業・医療とするために、しっかりと未来を見据えて頑張ってまいりたい。皆さんの頑張りが地域の発展につながるような業界にしていくことを約束する〟と力強く述べた。
特別講演
「脳梗塞と脊髄損傷の再生医療-医師主導治験による実用化-」
札幌医科大学医学部フロンティア医学研究所神経再生医療学部問教授
同附属病院神経再生医療科教授 本望修 氏
本望氏は〝脳梗塞や脊髄損傷など重症な神経の病気で、今までは治らないと言われていたものに対し、再生医療でどれだけ後遺症を良くできるかということについて話していきたい〟として講演を開始。
札幌医科大学では体の組織や細胞の回復に役立つ再生力を備えた「骨髄幹細胞」を用いた、手足のまひや言語障害などの脳梗塞の後遺症の改善を目指す試みがなされているという。患者本人の腸骨から骨髄液を採取し、ここから骨髄幹細胞を取り出して培養する。培養した骨髄幹細胞を経静脈的に投与することで幹細胞が損傷部位までたどり着き、失われた神経細胞の再生を促すという。患者本人の骨髄幹細胞を使用することで、免疫拒絶反応や副作用が出ない、感染症の恐れがないというメリットがある。実用化に向けて、本望氏は医師主導治験に取り組んでいる。
本望氏は〝現在、この治療が全国どこの病院でも受けられるように、治療薬としての実用化を試みている。脳梗塞についてはフェーズⅢ、脊髄損傷についてはフェーズⅡなのでもう少しで治験が終わる。その後薬事承認が下り、一般的な医療として普及するということになる。この治療は1億個くらいの自分の幹細胞を点滴で1時間くらいかけて投与する、極めて侵襲性の低い再生治療と言える。幹細胞は普段から身体のメンテナンスを行っている細胞なので、自然治癒力を担っている細胞とも言える。通常は細胞数が少ないために治癒が遅いが、それを身体の外で培養し投与することで最大限の効果を発揮できるようになる。また、神経の再生についてはこれまで疑問視されていたが、近年では可能であるということがわかってきた。電気信号は出せなくてもそれ自体は生きているという神経細胞に、幹細胞を打つと再生を促すことができ、翌日、その翌日とどんどん回復する。細胞を静脈内投与すると幹細胞が悪い細胞までたどり着き、数日以内に何らかの後遺症の改善がみられる。1週間程度で血管新生が起こり、血流が戻ってくる。その後数カ月~1年くらいかけて、じっくりと血管の再生が行われる〟とメカニズムを解説した。その後、実際の症例について〝初めて人間で臨床研究を行なった頃は、脳卒中になったら数時間で治療しないと戻るものも戻らないといわれていたが、発症後時間がたっても戻るということが明らかになってきている。脳梗塞により半身麻痺となり肘から先がほとんど動かなかった患者は、1か月半の間一生懸命リハビリを行ったが、これ以上良くならないとされていた。しかし幹細胞を投与した次の日の朝には少しずつ動くようになり、2週間後には屈曲伸展できなかった肘も動くようになって社会復帰ができた〟等、劇的に後遺症が改善した複数の症例を動画用いて示した。
本望氏は〝実用化については、現在ニプロと協定を結んでおり、全国的に普及させることとなっている。この治療は患者自身の細胞で行う「オーダーメイド医療」である。もう夢の医療ではなく、現実に医療としてやっていける見通しが立っている。現在は幹細胞の培養は手作業で行っているが、何とか機械化できるよう研究を進めており、来年の秋~冬頃に一般医療化することを目指している。最近では認知症にも効果がありそうだとわかるなど、今まで治療法がなかったような難治性の病気についても治療ができるかもしれないという段階にきている。その中で、リハビリテーションが今まで以上に大事になってくる。今後は再生医療が進むと、リハビリテーションの内容や期間についても見直す必要が出てくるだろう〟として締めくくった。
この他、(公社)日本柔道整復師会保険部介護対策課による介護保険に関する特別講演、会員発表13題、実技発表7題、学生スライド発表2題、指定業者講演2題が行われた。
指定業者による講演「物理・理学療法の実際と実技」では、ダイヤ工業株式会社・山﨑圭太氏と株式会社エス・エス・ビーの富田孝次氏が講演を行った。
「超音波画像観察について」と題し講演を行った富田氏は〝超音波画像観察装置の販売を始めて23年が経つが、今のデジタル技術と比べると当時はやはり画質が粗くて、見えるとは言ってもこれで鑑別診断ができるのか、現場では使えないという評価もあった。しかしデジタル技術の進歩は当然超音波画像観察装置にもあり、現在では整形外科の分野でも浸透している。昨年、整形外科超音波学会に出席してきたが、その中でMRIやX線ではなく、超音波によってはじめて知り得る情報があると最近分かったとされていた。さらに月刊誌スポーツメディスンが1年にわたり「スポーツに役立てる超音波画像診断」を掲載したことで、超音波に対する評価が激変した〟として、超音波観察装置での症例画像を見せながら、その有用性を解説した。
全発表終了後、発表者に対する表彰が行われ、本大会は盛会のうちに終了した。
特別講演
- 脳梗塞と脊髄損傷の再生医療
-医師主導治験による実用化-札幌医科大学医学部フロンティア医学研究所神経再生医療学部問教授
同附属病院神経再生医療科 教授 本望修 - 2016・柔道整復と介護保険について
-柔道整復師の地域包括ケアシステムへの貢献-公益社団法人日本柔道整復師会 保険部介護対策課員
会員発表
- IP関節捻挫治療において難治リスクとなった3疾患小林智則(名寄ブロック)
- バドミントンによる上腕骨外側上顆炎総指伸筋起始部の考察上出啓輔(十勝ブロック)
- 観血療法を免れた骨損傷3症例明井哲也(札幌ブロック)
- 腰部捻挫(骨盤後傾)に対する治療の一考察久米広紀(小樽ブロック)
- FAI股関節インピンジメント症候群に対する保存療法の有用性鋤澤一将(北見ブロック)
- 歩行アプローチによる外反母趾の改善方法山本大介(旭川ブロック)
- 柔整ポータルサービスの可能性大森勲(札幌ブロック)
- 室蘭市の介護予防事業(二次予防事業)における柔道整復師の実績について弭間年文(日胆ブロック)
- 過疎地域での高齢者外傷の在宅治療小西尊大(旭川ブロック)
- 顎関節脱臼
-地域における顎関節脱臼の現状-寺岡晃子(釧路ブロック) - 試合出場を希望する選手のインフォームドコンセント水野功(函館ブロック)
- 指導ポイントを限定したスクワットトレーニングがもたらす影響
~姿勢とバランスに重点をおいて~村田佳隆(函館ブロック)
実技発表
- 環軸椎回旋位固定の整復油谷秀樹(岩見沢ブロック)
- 顎関節前方脱臼の整復法相沼真也(札幌ブロック)
- 橈骨下端骨折の固定法中山幸正(北見ブロック)
- 急性腰痛に対する対処法井上一幸(日胆ブロック)
- 腸脛靭帯炎(ランナー膝)へのテーピング三宅一平(滝川ブロック)
- 足関節捻挫の後療法
~スポーツ選手の競技復帰を目指して~北島靖弘(十勝ブロック) - トラクションストレッチの実際田口哲也(札幌ブロック)
学生スライド発表
- 運動と集中力の関係について付属北海道柔道整復専門学校 久保田祐也(昼間部3年)
- 色彩と俊敏性の関係について付属北海道柔道整復専門学校 高浜祐貴(夜間部2年)
- テーピングによる筋力の変化について付属北海道柔道整復専門学校 高口翔(昼間部2年)
物理・理学療法の実際と実技
- 超音波画像観察について株式会社エス・エス・ビー 富田孝次
- サポーティングシステムメーカーが提案する新たな形ダイヤ工業株式会社 山﨑圭太
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