第8回帝京大学・(公社)栃木県柔道整復師会ジョイントシンポジウム開催
平成28年7月31日(日)、帝京大学宇都宮キャンパスにおいて「第9回柔道整復学豊郷台シンポジウム(第8回帝京大学・(公社)栃木県柔道整復師会ジョイントシンポジウム)」が開催された。
開会にあたり、帝京大学医療技術学部柔道整復学科・井原正博学科長より〝地域に根差したシンポジウムということで、本日は教員から1題、大学院生から5題、(公社)栃木県柔道整復師会から2題の発表がある。特別講演は富山大学の西条先生に『筋障害と柔道整復後療法』ということでお話しいただく。また今回は帝京大学創立50周年ということで、冲永学長が『帝京大学50年の歩み 歴史をしのぐ未来へ』をテーマにお話しされる〟と、挨拶とともに当日のプログラムが紹介された。
帝京大学・冲永佳史学長は〝本日は本学の教員、学生、そして(公社)栃木県柔道整復師会の皆様と、また柔道整復に係る医師の方など、たくさんの領域の方々にご参集いただき、様々な角度から柔道整復学についてご講演いただく。改めて感謝申し上げる。また、今年帝京大学は無事創立50周年を迎えることができた。本日は50年を通じて、柔道整復学というものにどのような形で携わってきたのかをお話しさせていただく予定となっている。日本の医療環境が変化する中で、柔道整復師の在り方を改めて考えていかなければならない時期になっている。そのためにも情報をシェアすることで、社会が豊かになる力になれればと思う〟と挨拶した。
特別講演
「筋障害と柔道整復後療法」
富山大学大学院医学薬学研究部(医学) 神経・整復学講座 西条寿夫 氏
西条氏は〝現在、日本は超高齢化社会に突入している。高齢化社会における課題の一つとなるのが、疼痛性疾患のコントロールである。高齢者が訴える身体の不調では、腰痛、手足の関節痛など、筋骨格系の痛みが多いのが特徴であり、疼痛治療はキーポイントとなる。高齢者は疼痛により寝たきりになりやすく、疼痛によるADL(日常生活動作)の不活性化は疼痛、特に腰痛の予後に悪影響を与えることがわかっている。つまり疼痛治療は直接的な鎮痛効果だけではなく、間接的な鎮痛効果ももたらすと言える。また疼痛は脳機能を障害し、認知症を悪化させることが明らかとなっている。疼痛により、記憶形成の中心的な役割を果たす海馬体も委縮してしまう。加齢性の脳萎縮を有する高齢者は疼痛の影響が大きく、疼痛治療は認知症も予防することができる。したがって柔道整復師は疼痛治療により、地域医療に大いに貢献できると考えられる〟と述べ、講演を開始。
〝急性筋外傷には、画像検査で陰性の機能的損傷と陽性の構造的損傷がある。筋痛治療のメカニズム研究では、伸張性収縮による遅発性筋肉痛の動物モデルを用いて、各療法を検証し、特に徒手療法と温罨法が急性筋痛の鎮痛に有効だと判明した。トリガーポイントは、腰痛では重量物の挙上以外に、オフィスワークや裁縫などの長時間頸部及び姿勢筋を使用する低強度持続性・反復性筋収縮により、タイプI型筋線維で形成されやすい。つまりトリガーポイントは反復性、持続性の筋負荷に基づく均等の軟部病変、それに由来する病態は筋痛と定義できる。トリガーポイント圧迫のランダム化比較試験に基づいた臨床治験では、特に急性腰痛において筋硬結部に存在するトリガーポイントに対する徒手圧迫療法が、軽擦法や一般的マッサージ法と比較して有意に改善した。トリガーポイントの圧迫及び電気刺激の中枢性機序として、前頭前野を介した交感神経系が抑制されたことで痛みスコアも低下したものと考えられる〟と、急性筋痛における筋障害発生のメカニズムや柔道整復術における痛みの分類について解説した。最後に〝高齢化社会では、疼痛性疾患の治療において柔道整復師の役割はますます重要となる。ぜひ柔道整復師の方々に頑張っていただきたい〟と激励し、講演を締めくくった。
特別講演
「柔道整復学科における一医師・医学研究者の立ち位置、あるいはspecificity」
帝京大学医療技術学部柔道整復学科 阿部弘之 氏
はじめに阿部氏は〝柔道整復学科に着任してから4年間が経ち、主観的な意見だが、決して平坦な道のりではなかった。常に『一体何をすればいいのか』が判然としない状況だったが、最近になり自分なりにこういうことをやるのが筋だというのが見えてきた。そんな個人的な経験を話すことが何の役に立つのかと思われるかもしれないが、私のような医学研究者が柔道整復学科に立ち位置を見出していく過程を見直すことで、柔道整復学と医学の融和の在り方のひとつが見えてくるのではないか〟と今回の講演の意義を語った。
〝私は近畿大学医学部助手からフランス国立分子遺伝学研究所博士研究員など、10年間の修行ののち教壇に立った。着任以降、内科学、外科学など、様々な科目を担当してきた。当初、多岐にわたる担当科目に暗澹とした気持ちでいたが、そのほとんどが運動器に関連しないものだと気づき、運動器以外の教育を通して、病変だけではなく患者を診ることができる柔道整復師を育てたいと思うようになった。接骨院は病院などと比較して家庭に近い職業であり、未病の段階で介入できるという強みがある。高齢者の場合、認知症になってから、寝たきりになってからでは遅い。そういう意味でも、高齢化社会に柔道整復師が果たす役割は大きくなっていくのではないかと考えている。冲永学長からは、研究者あるいは他の医療従事者との共通言語を確立するよう諭されているが、共通言語とは「分子レベルでの現象記述」と「EBM」ではないかと考えた。分子レベルでの現象記述は、例えばマッサージではオキシトシンが増えるとされているが、そのオキシトシンを共通言語とすれば関連する内分泌学、神経科学などの分野とも会話ができるということになる。EBMは現象の数量化を基礎とする。これを柔道整復術の分野に持ち込みたい。将来、柔道整復師または機能訓練指導員による指導・介入により、予防医学的に発症頻度を下げられるのかという観点で統計的に調べていきたい〟と自身の経歴や経験を交えながら話し、〝整形外科だけでなく、内科(特に老年内科)とも柔道整復師が協働できる可能性があるのではないか?と考える。内科の先生は徒手療法が全くできない。お互いを補い合うような立ち位置がとれるのではないか〟と提案し、終了した。
学生発表
『肩関節屈曲伸展、内転外転運動における大胸筋と三角筋の作用について
~神経生理学的手法を用いた解析~』
帝京大学大学院医療技術学部柔道整復学専攻2年 吉元拓也
ヒト大胸筋は前胸壁にある大きな扇状の筋であり、三角筋は肩から上腕の上部にかけて丸みをつくる筋である。一般的に大胸筋と三角筋は拮抗する筋と考えられているが、運動方向によっては共同して働く筋としても考えられる。そこで、神経生理学的手法を用いて肩関節屈曲伸展、内転外転運動における大胸筋と三角筋の作用について調べた。
『ヒト三角筋各線維間の脊髄内神経結合について
~PSTHを用いた解析~』
帝京大学大学院医療技術学部柔道整復学専攻2年 佐藤史人
ヒト三角筋は広い可動域を持つ肩関節において、その大部分を覆っている筋であるが、三角筋各線維間と他筋間との脊髄内神経結合は上腕三頭筋、上腕二頭筋、橈側手根伸筋から三角筋前部線維に投射する促通性の神経結合の報告はあるものの、中部線維、後部線維に対しての神経結合や三角筋各線維間の神経結合に関する報告はないため、神経生理学的手法の1つであるPSTH法を用いて調べた。
『ラグビーのスクラム動作におけるパフォーマンスを向上させる要因の検討』
帝京大学大学院医療技術学部柔道整復学専攻2年 二連木巧
ラグビーではスクラム時に相手に負けないことで試合を優位に進めることができることから、練習時にスクラムトレーニングが繰り返し行われている。スクラム動作においては筋筋膜性腰痛が多いことが報告されている。本研究ではスクラムを組む際の膝関節の角度に着目し、スクラム動作時に膝関節角度、表面筋電図を計測し、より大きな力で組むことができるスクラム姿勢を検討した。
『温熱療法(ホットパック)による施術効果の認知度が及ぼす身体反応の違いについて
~プラセボ効果の物理療法への適応の可能性~』
帝京大学大学院医療技術学部柔道整復学専攻2年 野田祐輔
柔道整復理論の権能と施術目的の一文に「生体の自然治癒力を促して損傷組織の修復力を高め、経過を再評価・再処方して、早期に社会復帰させることが目的である」と書いてある。自然治癒力を促す方法としてプラセボ効果の利用を思いついた。プラセボ効果の根拠には意味づけ仮説、期待仮説、学習仮説が知られており、いずれも対象者の認知の関与が示唆されている。
『滑膜線維芽細胞を用いたin virto 軟骨分化アッセイ系におけるToll様受容体リガンドと細胞凝集の関係』
帝京大学大学院医療技術学部柔道整復学専攻2年 星川侑樹
関節リウマチ(RA)は滑膜炎により軟骨破壊が生じる炎症性疾患であるが、RAの滑膜線維芽細胞は変形性関節症のそれと比べてより高いin virto 軟骨分化能を有していることを明らかにした。我々は炎症カスケードの出発点かその近傍にFBSの軟骨分化の方向を決める機序があると考え、炎症の初動に関与するToll様受容体に着目した。
会員発表
『県内少年柔道大会における救護活動報告』
(公社)栃木県柔道整復師会塩谷支部学術部員 滝田藤夫
(公社)栃木県柔道整復師会は、県内の少年柔道大会において救護ボランティア活動を行っている。十数年前からこの活動を開始し、依頼を受けたすべての大会に会員を救護員として派遣している。少年柔道の外傷発生に対する抑止力になればと思い、平成24年~26年の3年間の159会場の救護活動における負傷状況を調査・分析したので報告する。
『膝蓋骨不全骨折(横骨折・縦骨折)の施術についての一考察』
(公社)栃木県柔道整復師会足利支部 片柳敏彦
膝蓋骨骨折は自転車やバイクでの転倒や階段からの落下など直達外力での受傷が多く、あらゆる年齢層に発生する。受傷部位が関節であるため、腫脹、運動障害などの症状が長期化する原因となり得る。今回、膝蓋骨不全骨折の横骨折と軟骨骨折を伴う縦骨折を同時期に施術した。患部・近接組織の浮腫軽減と膝関節可動域改善に着目し施術したところ、いい結果が得られたので報告する。
最後に、特別講演②として帝京大学・冲永佳史学長による『帝京大学50年の歩み 歴史をしのぐ未来へ』と題した講演が行われ、〝大学の沿革として、1966年に八王子・多摩市などにおいてキャンパスを開設した。1971年に医学部を設置して医学領域に進出し、2004年には医療技術学部を設置して医療にかかわる様々な技術発展に取り組んだ。柔道整復師養成の歴史としては、1968年に専門学校(夜間部)として開校、1978年に専修学校として認可された。福岡地裁における柔道整復師養成施設不指定処分取り消し請求事件判決後、養成校増加の流れを受けながら短期大学・4年制大学へと遷移し、帝京短期大学ライフケア学科に柔道整復コースを開設、さらに帝京平成大学、帝京大学に柔道整復学科を設置した。そして2012年に帝京大学柔道整復学科に修士課程を設置した〟と柔道整復の歴史とともに、帝京大学の歩みについて語った。そして未来に向けて〝国民の健康維持のために、地域における医療においてどうしていくべきかをきちんと考え、他の医療者と敵対することなくどうすれば国民の健康向上につながるかを検討し、志の高い同業者と切磋琢磨することが必要だ〟と、これからの時代を担う柔道整復師像について話し、学生にエールを送って本シンポジウムは閉会となった。
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