第7回公開シンポジウム「未来健康共生社会研究会・専門部会」が開催!
2016年9月16日(金)午後1時より東大本郷キャンパス医学図書館333号室において「未来健康共生社会研究会・専門部会」が開演された。 (財)渥美和彦記念財団代表理事・渥美和彦氏より開会の挨拶が行われ、「今後の事業展開」と題して講演を行った。
渥美氏は、〝第7回の研究会ということで、今日は著名な先生方に沢山集まって頂きました。世界には、70億の人たちが生存していますが、その70億の人たち各自が所謂幸福や夢を達成する権利があると同時に世界に貢献する義務があり、その権利と義務をもって存在意義があると考えると、人は健康で長生きする必要があり、医療が必要になり未来健康共生社会を目指すことになります。未来健康共生社会研究会とは、将来、人類が地球と共生共存し得る社会であり、未来の人類の在り方の目標である。これは、多様かつ流動的なもので、多くのものを含んでいる。衣食住の健全化、ヘルシー医療、ヘルシー食料、ヘルシー住宅が大きな流れになり有用になってきます。そして、これからは防災医学が必要になってくるのではないか。最近、地震・台風・火山・洪水等の災害が日本のみならずアジア、アメリカいろんな所で起きています。今まであった医療ではない防災のための防災医学が求められています。予防医学を入れた防災予防センターが必要であり、今東海地域に「防災予防医療センター構想」を地域の方々と連携して進めています。もう1つ、「新健康都市計画」を提案しています。衣、食、住のヘルシーな在り方、さらに、多くの分野を融合しつつ発信し、人類の生存モデルを追及することです。このモデルを、今後、全国に拡大、発展させ、一つの体系を完成させて、それをアセアン諸国、さらに、世界に展開したいと考えています〟等伝えた。
ヘルシー住宅の位置づけ
東京大学名誉教授・工学院大学名誉教授・長澤 泰氏
長澤氏は、〝いま、建築界では建物全般についてCO2削減、地球環境に優しい、省エネが話題になっており、これに対しアクティブな手法とパッシブな手法があると我々は理解しています。パッシブ型は、日照や風向きなど自然の特性を利用して建物を作っていく。アクティブ型は、太陽熱・風力、地熱等いろいろなエネルギーを積極的に導入していく手法です。パッシブ型の省エネで風力や太陽熱、地熱を使ったり、アクティブに環境負荷をより有効に使って、高く評価され今年4月に私が監修した足利国立病院が日本の病院では初めて国際的な賞の金賞を受賞しました。1等になったことで、皆さん見にきたいとなって10月にフランス人35人を案内することになっています。この未来健康共生社会の中でのヘルシー住宅の位置づけは単に居住者がシックハウスシンドロームにならないといった範囲だけでは無いと思っています。ヘルスケアの概念を健康曼荼羅を用いて示したカナダの公衆衛生学者で「健康都市連合」を設立したトレーバー・ハンコックの解説が参考になります。さらに、「健康」とは人体の持つ能力を最大限に発揮できる状態であり、患者の周りには家族、その周りには「まち」、その外側には世界があり、それらに囲まれながら人々は健康を保っているという英国のフローレンス・ナイチンゲールの考え方が存在しています。3.11の東日本大震災でも熊本でも大変なことになっていますが、災害後の対策を考えていかなくてはならない。もう1つ、ユニバーサルデザインを改めて見直さなければならない。高齢者・障害者・学生・子どもといった人間のカテゴリーを超越し、多世代・多分野・多職種が関われる参加型のコミュニティが求められています〟など述べ、〝参加されている専門家の方々を紹介、挨拶を一言頂きたい〟とした。
○本城氏:
地域創生のプロジェクトで、既に福島県の白河市、熊本県の玉名市で植物工場や食品の加工場プロジェクトを立ち上げています。現在は茨城県の利根町で22haの土地を農業として復活するよう高齢者と雇用の関係、具体的なプロジェクトとして進めている。
○飯田氏:
私は建築設計事務所で病院の設計を多く手掛けてきました。地域包括ケアシステムを推進し、予防をしっかりやっていかなければいけない。医療と介護から普通の生活までシームレスに繋げていくような町づくりをしていく必要があります。
○町田氏:
2014年まで衆議院議員をしていた時にマイナンバー法案を内閣委員会で担当し、海外視察にいったデンマークでは個人番号が徹底されていました。メディコンバレーについてデンマークの事例をご紹介した次第です。
○水野氏:
きれいな水、空気、そういう自然環境がないとスモッグの中で病気を治しても健康とはいえません。災害・経済に対してのセーフティネットが大事です。被災地の町の再生ということで、三陸で津波で流された町は何もなくなってしまったが産業は再興されています。インフラはあるが働く人がいない。若い人、子育て世代がお互いに助け合って住む、健康に住む町づくりに取り組んでいます。
長澤氏から〝ヘルシー分科会は、分野を超えたアプローチで進めたい。横の広がり、建築だけではなく最先端と昔を繋ぐ、伝統や伝承を結ぶやり方で既存の枠にとらわれないで進めたい。目標は健康な生活モデルの提案で総合的に環境に落としていく、他の分科会の方にもご意見を頂くことを考えています。住宅・環境に目をむけるだけではなく、人々が日常の生活を繰り広げる住宅を含めた建物群を創出し、地域の環境に着目して、そのあり方を考えていくことを目的にしたい〟等、講演。
ヘルシー衣料「未来健康共生社会における衣料の役割を考える」
文化学園大学名誉教授・田村 照子 氏
田村氏は〝バブル以降、衣の分野は衰退の一途を辿っています。いろんな意味で「衣」というのは実際の生活の中でも非常に軽くなり、生産・産業の場でも非常に軽くなっています。長澤先生のお話を伺って、真中に人間がいて、その次に住宅があって、その次に町があってとなっていましたが、実は人間の表面に張り付いているのが衣服です。未来健康共生社会という中で「衣」というものが何をするのか。2030年には65歳以上の高齢者人口が約32%で、60%の人が32%の人たちを支えなければならないことになり、そういう意味ではシニアが健康で若者に負荷をかけないで逝くことが求められています。もう1つはシニアそのものが大きな市場としての意味を持つことも考えられます。シルバーファッションの展開に向けて先ず1つは、高齢者は身体生理機能が低下して、体調や体形、姿勢、ロコモーションも変化します。今のファッション産業はヤングファッションで、高齢者が本当に着たいと思うファッションが必ずしも市場に出ていない。物理的、生理的に変化している体に対してファッションの研究が必要です。もう1つ、高齢者がコミュニケーションできることが重要で高感度ファッション、高齢者が満足するようなファッションの展開も重要です。機能性をどうサポートするかの研究事例で、温度感受性の低下が若い人と如何違うかを私どもが開発した汎用型の測定装置で調べてみたところ、若者は大体0度、マイナス1度で冷たいと感じるが高齢化するにつれ下がる。80歳になると足の膝から下は著しい鈍化がみられ4度位下がらないと冷たいと分らない。中にはマイナス10度位温度が下がらないと冷たいと判断出来ない人がおり、同様に温覚も80代をみると10度位上がらないと温かいと感じない。これらが高齢者の熱中症にも繋がっていると考えられる。要介護者、疾患を有する高齢者も共生できるためには、ウェアラブルコンピュータ利用の健康管理衣料の開発、障害サポートファッション等先進技術の導入も視野に入れる必要がある。高齢社会においてみんなが安全安心で、生き生きとした社会に繋げるための衣服の在り方を考えていきたいと思います〟。
ヘルシー食品
神奈川県立保健福祉大学学長・中村 丁次氏
中村氏は、〝数年前に我が国は〝単に長生きするのではなく健康に長生きしよう〟という方針を出し、今都道府県すべて健康寿命の延伸をスローガンにしています。介護の時間を短縮していくことが健康寿命の延伸になります。介護の原因になっているのは生活習慣病で、脳卒中、心臓、糖尿、心疾患、癌等の後遺症で要介護に入っていくことになります。衰弱、骨折、転倒の原因を調べると殆どが瘠せて栄養状態が悪い高齢者が起こしていて、食生活全般が関係していると思われる。つまり健康寿命の延伸の中に食事と栄養がとても大きな役割を果たしている訳です。一方、高齢になるほど著しく増大する介護の要因が衰弱であることが分ってきました。かつて我々は太り過ぎは良くない、メタボ対策で太るな腹八分目に食べろということをずっと言い続けてきましたが、その方向はちょっと問題があり、高齢者の場合、低栄養に考慮しなければいけない。低栄養が死亡と介護のリスクを高めることが分ってきました。今まであまり我々が経験しない特徴的な低栄養をきたすのが高齢者の低栄養です。つまり健康寿命の延伸で第一に考えなければいけないのは生活習慣病にも介護にもならないこと、過剰栄養にも低栄養にもならない。肥満と貧血と低タンパクの両方を解決する、これをサポートする食品がこれからの課題になってくるだろうと思います。もう1つ大事なことは、QOLの高い生活をしながら寿命を維持したいという第2のテーマです。車椅子や杖をつきたくない、体力を維持してやる気を起こしたい。ぐっすり眠り、寝ざめを良くしたい。ものが良く見えるようになりたい、花粉症を治したい。風邪をひきたくない、美味しく楽しく食べたい、肌をうるおしたい、若く美しく情熱的に生きたい等、今の高齢者や中高年は考える訳です。実は今流行りの健康食品は、こういうニーズに応えてくれる食品が物凄く売れている訳です。国は保健機能性食品を以下の様に位置づけました〟等報告し、以下を提示した。
機能性の表示ができる3種類の特徴
- 栄養機能食品:規格基準型 自己認証加工食品、錠剤カプセル、形状食品
- 特定保健用食品:個別評価型 国が安全性、有効性を確認
加工食品 - 機能性表示食品:届け出制 一定の要件を満たせば事業者責任で表示
生鮮食品、加工食品、錠剤カプセル - 消費者の判断で使用。判断できる消費者にしなければならない。
保健機能食品普及の7つポイント
- 有効性と安全性に対する科学的エビデンスが存在している。
- 機能が限定されているので、対象者が必要とする機能改善に合致した機能食品の選択が必要になる。
- 機能性が発揮できる量と過剰障害が起きない量の範囲内で活用する。
- 機能性が発揮できる調理法や摂取方法の検討。
- 収益を上げるのみならず、倫理感を持って研究、開発、普及に努める。
- 機能性表示食品は、企業責任の基に実施され、消費者自らが判断して使用するので適 正な消費者教育と、専門職の指導・相談が不可欠である。
- 専門職は、この分野の知識や技術を習得し、最新のデーターを活用する必要がある。
予防・健康関連事業の新たな展開と最近の動向
一般社団法人 日本医療経営学会理事長・大道久 氏
(日本大学名誉教授)
大道氏は〝健康関連事業が非常に盛んで、国策の基本路線との関係があると受け止められます。国家予算が100兆円を超え、ここ数年我が国の税収は、55兆円で、その税収の内、医療費が40兆円を超え、医療と介護で50兆円は深刻な事態です。これらの問題に今後どう対応するか。国レベルで内閣府関係筋では、いくつかの会議が精力的に行われており、経済財政諮問会議において多岐にわたる方向性が示され、新しい切り込みがあった。保険者機能の強化は、かねてからの流れの中で特段に強調、骨太方針15、16でも繰り返されているが、インセンティブ改革が強調されている。日本最高戦略会議の改訂2015、また先般2016が出て、健康寿命の延伸適用度が優先順位に高く取り上げられている。その中で、「健康経営」が意味深げに謳われ、その拡がりが早々に起こっている。既に健康経営を行っている10いくつかの事業者が認定されている。この中で医療介護分野におけるICT化の徹底が極めて不十分だということを再三指摘している。マイナンバー制度を実施した以上は、これを受けた形での情報活用が最高戦略で謳われており、去年謳われて急速に増しているのが遠隔医療である。医者が不十分で偏在している中で何故情報技術を使わないのかということです。遠隔医療については今後の医療分野の情報技術の活用の中でかなりの流れに既になっており、今年春の診療報酬の改定で、遠隔医療について、限られてはいるが適応されたことが重要な起因になっている。一方、医療介護総合確保推進法における介護保険法の改定では、従来の要支援者にたいする個別給付を見直して、民間事業者や関連団体の活動の領域を拡大する地域支援事業に位置付けるなど、市場化の方向が進んだ。また、団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けた改革が急速に進む中で、「地域包括ケア体制」の整備が基本課題とされ、地域ぐるみの健康確保の取組みの動きが活発化している。昨年、官民一体の国民運動を目指して「日本健康会議」が発足して、前述した各課題の実現に向けた動きが急速である。健康の維持増進に向けた事業者・保険者の取組みも特段に推奨され、「データヘルス」分野の事業化も期待されており、このような背景があり、最近の事業者の動向は活発である〟等、報告。「ロボット関連」、「医療・在宅ICT関連」、「AI(人工知能)関連」、「CCRC・住宅関連」、「データヘルス関連」ストレスチエック制度の創設、「データヘルス・予防サービス見本市2015」、介護予防・在宅関連事業として、「武蔵野総合クリニック練馬」や「スマートシテイ稲毛」等、紹介した。
未来医療のロボットとマイクロマシン へそまがり研究のすすめ
東京大学大学院先端科学技術研究センター教授・生田幸士 氏
20世紀にはCT,MRIなど無侵襲の癌検査や、身体を大きく切らない低侵襲手術など、患者の負担を激減する新概念の医療技術が実用化されてきました。21世紀では、個人の遺伝子や体質に適合した薬で効果的な治療ができるテーラーメイド投薬や再生医療など次世代医療技術が研究されています。さらに看護や介護する人を助ける技術である看護理工学もリブートしました。しかし、これら新しい医工学の実現には、従来技術の改良や拡張では限界となっています。新発想と新原理を原動力とする未来型医工学が不可欠となります。この観点に立ち、バイオナノ・マイクロマシン、新原理メカトロニクス、ミニチュア医用ロボットなど独自の医工学研究を展開してきました。細くて柔軟で体内の微小な隙間を縫って深部組織まで挿入し微細手術を行う遠隔マイクロ手術ロボット、血管内で漏電の危険性無しで深部血管系まで挿入可能な水圧駆動能動カテーテル、内視鏡挿入訓練を目的とした力覚付きバーチャル内視鏡。3次元のマイクロマシン作製法、液滴内で細胞作業する世界最小10ミクロンの光駆動ナノロボットハンド、マイクロスケールでの分析と合成を可能とする化学ICチップ。さらに体内で溶けて吸収される生分解性マイクロマシン、再生医療用の人工毛細血管、ips細胞の肺芽実験用のマイクロデバイスなど、すべて新原理、新発想に基づく医工学です。(以上、抄録より)
生田氏は、〝日本は必ずアメリカの後を20年追いかけ、行政に目ききの方がおられないこともあって、「世界で初めてやった」というと経産省の方が「じゃ日本もがんばらなきゃいけませんね」と目の色が変わります。50年前、ロボットの世界というのは夢がありました。僕の恩師の森政弘というロボット工学の草分けと称されている先生が「人間はシンプルだけど知恵で勝負しないとダメだよ」とよく仰っていました〟等述べ、これまでの研究開発の成功事例、World’s first Active Endoscape イーソップ(Conputer Motio社)内視鏡操作用、ダビンチ遠隔内視鏡手術ロボット、ハイパーフィンガー(万博展示要2005年モデル)、マイクロフィンガー(万博展示要2005年モデル)、マスタ・スレーブ駆動、フレキシブルな深部臓器微細手術ロボット、マイクロフィンガーによる多腕内視鏡手術ロボット等を紹介。現在の手術ロボット、研究の大半がヘビ、ミミズ型であると話し、生田教授の新概念マイクロマシンは、二次元構造から三次元構造、素材としてはシリコンからポリマーに、また空間として空中から液中へ、センサーからバイオ医療への応用を行っていく等、未来展望を語った。
○第二部では、参加者達が5つの専門分野に分かれて活発な交流会が行われた。
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